アーランドの冒険者   作:クー.

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先輩としての誇り

「残念。俺の冒険はここで終了する」

 

 唐突だが、俺の人生オワタな事態に遭遇している。

 

「キエェェー!」

 

 街道を歩いてたら、俗に言うグリフォンが襲ってきたのだ。

 隣でトトリちゃんが腰を抜かしている。

 後方にはメルヴィアがいるが間に合わないだろう。

 

「所詮俺は、ぷにがいなけりゃ何もできないのさ」

 

 ドヤッ

 

「キエェェー!」

 

 グリフォンの振り上げられた前足が、俺に振りかかろうとしていた。

 

「オワタ」

 

 

 ――ガキンッ!

 

 

「ほわい?」

 

 目の前にはメルヴィアと崩れ落ちたグリフォンがいた……。

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「う~む」

「ぷに?」

 

 現在俺は広場の噴水の脇にあるベンチでうなだれていた。

 

「絶対におかしいだろ」

 

 一撃はないだろ、一撃は……。

 

「そもそも、お前がどっかに行ってたからなぁ……」

「ぷに~」

 

 冒険に行こうと思ったら、ぷにがいなかったので仕方なく置いてったのだ。

 近場だから大丈夫と思った結果があれだよ。

 

「やっぱり、あれか? 必殺技的なものが必要なのか?」

「ぷに!!」

「なんだ? 俺はもう使えるってか?はいはい、ワロスワロス」

 

 ぷにが俺の頭から飛び降りて、俺に向かいあった。

 最近はぷにのおかげで、行間を読む能力が向上した気がする。

 

「ぷに!」

「おっ!? 黒くなった!?」

 

 いつぞやの黒ぷにモードに変化していた。

 

「スタイルチェンジとかもう完全に主人公じゃんか……」

 

 なんか、ぷにのせいで俺の影が薄くなってる気がしないでもない。

 

「ぷに~ん!」

「さらに、シャドーボールって……俺の存在価値をそんなになくしたいのかお前は?」

 

 変な鳴き声を上げたぷには上空に黒い球体を打ち上げた。

 

「つか、今のってゴーストの攻撃に似てね?」

「ぷに」

 

 ぷに再会とは別に、ゴーストの討伐に向かった時のことを思い出した。

 

「カービィか! お前は!?」

 

 何?捕食したら能力を使えるってこと?

 

「まて、そうだとしらお前大分前から使えたんじゃ……」

「ぷに!」

 

 肯定ですか、そうですか。

 今まで俺に見せてきた実力は全力じゃなかったってことなのね。

 

「待て! 相棒のパワーアップはもう一人のパワーアップフラグじゃないか!?」

 

 相棒に対して劣等感を抱く→俺が暴走した行動を取る→ピンチで必殺技

 

「これで、勝つる!」

「ぷに~」

 

 ぷには、やれやれとでも言いたそうな顔をしている。

 

 

「先輩。さっきから何やってんだ?」

「ぬおっ!」

 

 ぷにから目線を上にあげるとジーノがいた。

 

「後輩よ……俺、もうすぐ強くなるから!」

「えっ?なんでだ?」

「必殺技だ……俺はもうすぐ必殺技を手に入れる」

「ま、マジかよっ!?」

「あぁ、フラグは立ったからな」

「? よくわかんねぇけど、必殺技かぁ……」

 

 必殺技に憧れを抱くとは、どうやら後輩君も人並みに男の子らしい。

 

「な~んか、おもしろそうな話してるわね」

 

 全身の毛が逆立つのを感じた。

 

 

「おっ!メル姉! 実は先輩が必殺技を手に入れたらしいんだよ」

「ちょっ!?」

 

 まだ!まだ手に入れてないから!もうすぐって言っただろうが!

 

「必殺技……アカネもやっぱり男の子なのね」

「うぐっ!」

 

 なんか遠まわしに厨二病って言われた気がする。

 

「ぷに!」

「あら、シロちゃんじゃない。ご主人がこんなので大変ね」

「おい待て、ぷにと俺は相棒だ。ご主人だとぷにが上になっちまうだろうが」

 

 メルヴィアが苦笑いを浮かべた。

 

「自覚はあったのね……。というか、なんでぷになのよ?」

 

 そういや、ぷにって言いなれてるせいですっかり忘れてた……。

 

「ぷに、俺からの呼び方はもうこれで良いんじゃか?」

「ぷに!」

 

 いいらしい、流石は相棒ですね。

 

「先輩、結局先輩の必殺技ってどんなのなんだ?」

 

 ちっ!うまく話を逸らそうと思ったのに!

 

「…………」

 

 俺が黙っていると、メルヴィアが俺とジーノを交互に見ていた……なんぞ?

 

「なんで、ジーノ坊やはアカネのことを先輩って呼んでるのよ?」

 

 ナイスだ! うまくこっちの方向に話を持っていけば!

 

「なんでって言われでも、先輩は冒険者の先輩だからな」

「でもジーノ坊やの方が明らかにアカネよりも強いでしょ」

「えっ! マジか!?」

「筋力とかは当然劣ってるけど、私の目から見てジーノ坊やの方が戦いなれてるわよ」

 

 話が逸れて嬉しい反面、複雑な気分だ。

 何というか、先輩としてのアイデンティティが危うくなってる気がする。

 

「待て、俺にはぷにというオプションパーツが……」

「今日は、それがなくて何があったのかしら~?」

「ぐぬぅ……」

 

 こやつ、的確に俺の急所をえぐってきやがるぞ。

 

「でもさぁ、冒険者としては先輩は先輩だから、これからも先輩でいいと思うんだよ」

 

 ! ジーノ後輩……俺は君のことを誤解してたわ。

 なんというか、生意気でイケメンなやつだとか思ってたよ。

 まさか、こんなにいい子だったなんて!

 

「こうは「それに必殺技も持ってるしな!」……イィィィィ」

 

 自分でもどう出したかわからないような、ものすごい低い声が出た。

 いまさら、そこに話を戻すんじゃねえよ!

 

「そういえば、結局どんなんなのよ?」

「えっとー、それはー」

 

 長引かせて、とりあえず適当なのをパパっと言うんだ俺!

 大抵、こういうのは相棒とセットの技になるって相場が決まってるから……。

 

「そういや、俺ちょうど特訓に行こうと思ってたんだよ!先輩も来てくれよ!」

 

 コォォォーハイィィィーー!!

 

「あら、おもしろそうね。折角だから、私も付いていくわよ」

 

 何? 俺フラグの立て方ミスったの?

 いまさら、ありませーんなんて言えないぞこの空気。

 

「一日に二度オワタな体験をすることになるとは……」

「ぷに」

 

 この後何かあったら、だいだい相棒のせいって言おう……。

 

 

------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「よし!やるぞ、先輩!」

「カカッテコーイ」

 

 結局なにも思いつかずに、ここまで来てしまった。

 周りは結構広く逃げ場はない。マズイ。

 流石に刃は潰してあるみたいだけど、マズイ。

 

「このままでは……」

 

 -未来予想図-

 

 バシッ

 

「ぐわっ!」

「先輩、本当に弱いんだな」

「必殺技はどうしたのかしら~、ぷぷっ」

「アカネさん、もうお手伝い来なくていいですよ」

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 いや、後輩はこんなこと言わないから!?

 つか、なんでトトリちゃん出てきたんだよ!?

 

 

「アカネ、そろそろ初めの相図出してもいいかしら?」

 

 メルヴィアが俺のことを呆れたような目で見ている。

 

 このままでは、必殺技どころか後輩に負けるという醜態をさらす羽目になるのでは……。

 

「ちょい待ち」

 

 俺はジャージのポケットから魔のゴースト手袋を取り出した。

 もはや、ゴースト繋がりでこいつに頼むしかない。

 

 俺は両手に手袋をはめた。

 

「それじゃ、始め!」

 

 

「たあっ!」

 

 後輩が剣を構えて前かがみに突撃してきた。

 

「……剣コワ!?」

 

 俺は横に飛んでなんとか袈裟切りを避けた。

 足首とか鍛えといて良かったわ……。

 

「必殺!」

 

 叫んで、右拳を握り力を込める。

 後輩君は警戒してるのか、こちらの様子を見ている。

 

「シャドーボール!」

 

 ストレートを空中に向けて放つと後輩に向かって黒い塊が飛んでいった。

 

「うわっ!」

 

 それをまともに食らった後輩は、崩れ落ちた。

 

「流石、先輩強いぜ!」

「本当、見直したわよ!」

「クックック」

 

 

 

 ……こうなると思ったの?バカなの?

 

 現実は叫びもむなしく、空中に腕を放った隙だらけの格好となってしまった。

 

「えっと……」

 

 絶好のチャンスなのだが、どうしようか戸惑っているようだ。

 

「運が良かったな。今日はMPが足りないみたいだ」

 

 帰れよ、何て言われるはずもなく後輩君は俺に向かって剣を振りおろしてきた。

 

「ひっ!?」

 

 バックステップでかわしつつ距離を取る。

 

(距離とってどうするんだよ! 懐に潜り込まなきゃだめだろうが!)

 

 自分で自分の行動がよく分からない。

 

 

「こうなったら……」

 

 俺はぷにの方に目を向ける。

 ここに来るまでにある打ち合わせをしていたのだ。

 

 

(よろしく!)

(ぷに!)

 

 

「必殺!」

 

 叫んで、先ほどと同じように拳に力を入れる。

 違うこととしては、もう後輩君は警戒なんてしていないってことだ。

 

 

「ぷに!」

「シャドーボール!」

 

 ぷにが俺に向かって放った黒玉を拳で後輩君に向けて打ち返した。

 若干どころか完全に反則ではあるが、これでさっきの妄想は成り立つ!!

 

 

「っ!?」

 

 

 ですよねー。

 

 後輩君は普通に横にステップして攻撃をかわした。

 

「先輩!卑怯だぞ!」

「うっせ!これが必殺技もとい合体攻撃だ!」

 

 これも一つの男のロマン。

 俺のゴースト手袋の効力で威力は上がっている……はず!

 

 

「今のもうなしだからな!」

「ちっ!仕方ないか」

 

 視界の端ではメルヴィアがアップを始めてたので仕方なくあきらめた。

 

 

「後悔するなよ、本気でいくぞ!」

 

 

………………

…………

……

 

 

「ぜぇ、はぁ……ぜぇ、はぁ」

 

 忘れてた……この手袋してると体力の消費すごい激しいんだった。

 後輩君の顔を見るとかなり涼しい顔をしている。

 

「先輩、もうやめといた方が……」

「う、うっさい!まだ、いけるわ!」

 

 対人戦で年下に負けるとか、いくら俺でもプライドぐらいある。

 

 

「……ふぅ」

 

 俺は距離を取りつつ息を整えた。

 

「後輩君……見せてやるぞ。必殺技を」

「いや、もうそれはいいって」

 

 呆れた顔をする後輩君だが、今回ばかりは本気の俺だ。

 真面目にやるのは格好悪いとか言うのは、もはや昔の世界の話だ。

 邪魔な手袋を取ってポケットに収納する。

 

 

 その間に後輩君は今までと同じように剣を構えて突撃してくる。

 

 俺も後輩君に向けて走り出す。

 

「はあっ!」

 

 水平切りを屈んで避け、加速を生かしたまま技を繰り出す。

 

「夏塩蹴り!」

 

 つまるところサマーソルト。

 宙返りをしつつ蹴りを繰り出す。

 

 

 俺のガチの必殺技だ。黒歴史と化していた俺の技だが、どうやら後輩君には効いたようだ。

 

「いってぇ~」

「痛いで済んじゃうのかよ!」

 

 後輩君は顎を押さえて転げまわっていた。

 俺の筋肉と瞬発力をフルに使った技だったんだが……。

 

 

「とりあえず、俺の勝ちな」

「ちぇー、勝てると思ったんだけどな」

「一応、あれが俺の最終兵器だからな」

「すごかったな!あれ!本当に先輩、必殺技持ってたんだな!」

「ま、まぁな」

 

 まさか、こんなに真っ直ぐ褒められと思われず、若干照れる。

 

「でも、あんな技使ってるの見たことないわよ?」

 

 近寄ってきたメルヴィアが話しかけて来た。

 

「いや、だって……」

 

 厨二すぎて使えないだろ……あんなの。

 

「必殺技だからな」

「だったら、あの時使えばよかったじゃない」

「グリフォン相手に効くとは思えないわ」

 

 確かにあれは対空技だけど、あれにダメージを与える自信はない。

 

「とりあえず、帰ろうぜ。俺はもう疲れました」

「俺はもうちょっと特訓してから帰るから、先に帰っててくれよ」

 

 元気だなーこの子は。

 

「私も帰るとするわ、面白いものも見れたし」

「ぷに~」

 

 なんか、俺への好感度が上がっている気がする。

 

「あれか!真面目にやった方がカッコイイということか!」

「いや、そんなの当然じゃない」

 

 前は当然じゃなかったんですよ。

 

 

 

 

 

「イエスッ!到着!帰って休もう!」

「ぷに!」

 

「ちょっと、待ってくれない?」

「んにゃ?」

 

 宿屋へ向かう俺たちをメルヴィアが引きとめた。

 何か用があるのだろうか?

 

「何だいな?」

「大したことじゃないんだけど、これからもあの子の先輩をよろしくね」

「むっ、何か姉っぽいことを言い出した」

「うっさいわね。で、どうなの?」

「冒険者に対して失望させない程度にはがんばる」

「そ、ありがとね」

「あ、ああ」

 

 メルヴィアは強いが女の子な訳だ。

 つまり……なんというか、照れてる俺がいる。

 

「そ、それじゃ、また今度な」

「ん、またね」

「ぷに~」

 

 

 

 

 

 

 宿屋に戻って、寝ながら俺は思った。

 

「今日の俺すごいカッコよかったんじゃあ」

「ぷに~」

 

 

 厨二病が再発している気がした。

 


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