襲撃するされる
ドラゴン狩りツアーin夜の領域
「いやあついに始まりましたねぷにさん!」
「ぷに!」
年も明けて冒険者生活も六年目、ついに自発的にドラゴンを狩るまでレベルアップしてしまったな。
森の中現地まで自転車を押している、そんな俺の後ろのイカれたメンバーを紹介するぜ。
「ドラゴンかー、一回倒したことあっけどもっと強い奴なんだよな?」
疾風迅雷、最速の剣の使い手ジーノ・クナープ。
最近生意気にも身長が急に伸びてきている。
「おそらくな、あいつが我々を連れ出すくらいだ。腕をふるうには申し分ないだろう」
永遠の騎士、強面のステルケンブルク・クラナッハ。
表面上無表情を装ってはいるが、強者の性なのか知らないが楽しみにしてるのがなんとなく分かる。
「ジーノ坊にステルクさんにあたし、これで弱かったら拍子抜けよね」
種族メルヴィアのメルヴィア・ジーベル。
「ふん!」
「にゃ!?」
「なんかイラッときたわ」
一言コメントを考えていたら後頭部に石をぶつけられた。
野生の本能なのか知らんが、やっぱり種族メルヴィアで間違ってないだろ。
「……それにしても」
「……ぷに」
後頭部をさすりながら空を見上げ、後ろにちらりと視線を送る。
主人公気質。
ベテラン騎士。
メルヴィア。
もう一度空に視線を戻し、大きく息を吐いた。
「俺、魔王でも倒しに行くんだっけ?」
小声でそう呟かずにはいられなかった。
「ぷに~」
「ああ、何か言われる前に必要な素材だけ剥いでとんずらしよう」
ひそひそと肩に乗っているぷにと相談する。
なんか彼らの期待ボルテージが勝手に上がってるんだもん、肩透かし確率100%だよ。
「俺が先陣で――」
「いや、ここは俺が――」
「とどめはあたしが――」
やんややんやとした物騒な会話が耳に入ってくる。
まだ到着まで時間があるのに何故あんなに盛り上がれるんだ。
「ごめんよドラゴン」
「ぷに」
逃走道具(自転車)を押しながら俺はまだ見ぬ彼に言い尽くせない感情が込み上げてきた。
そして着いた夜の領域、以前に悪堕ちしたアカネがハッスルしていた場所周辺だ。
相も変わらず真っ暗で、浮かんでいる岩の足場から下を覗けばもれなく星が見える。
「不思議と言う単語で済ませていいのだろうか?」
「ぷに」
いいらしい、まあ相棒自体不思議な存在だからいいか。
問題は後ろのバーサーカー達だ。
血を浴びるまで止まらないんじゃないかって気がしてきた。
「ちょっとアカネ?」
「は、はいいい!?」
肩を叩かれて跳び上がってしまった。
……よし、肩の骨は無事だ。
「……何を確認しているのかしら?」
「え、いや、相変わらず俺って良い体してると思って」
「…………」
真顔で一歩引かれた。
「ま、まああんたがどうなろうとあたしだけは友達でいてあげるわよ」
そして酷く優しい声と顔で言われてしまった。
なんか死にたくなった。
「ギャグをギャグとして受け止めてください」
「はいはい、分かってるわよ。それで、まだ着かないの?」
「いや、事前のリサーチによるとそろそろ……」
岩の足場を一個ずつ上に上がっていき首を右に曲げると、背景に完全に溶け込んでいる黒いドラゴンがいた。
今いる足場よりも大分大きいが、闘うには狭そうな岩場へと細い木で足場が出来ている。
「……あれ? これ渡ってる途中に折れるんじゃね?」
皆の方を向くと、互いに視線でお先にどうぞど言い合っていた。
場が硬直しかけたその時、一番にメルヴィアが動いた。
「ねえ、こないだ誰かさんが先陣は俺って言ってたわよね?」
ただし弟分を売る行為の方向に動いた。
「ちょ、メル姐!?」
「そうだな、不本意だが一番槍はお前に任せよう」
「師匠まで!?」
二人は信じたと言わんばかりに後輩君の方に手を乗せた。
「……ぷに」
「ああ、大人ってきたねえな」
一歩離れて俺たちは行く末を見守っていた。
今回は戦闘メンバーじゃないし、アレに巻き込まれるのも嫌だから放っておこう。
「……よし!」
そう一声上げると、後輩君は剣を構え木の足場を走り抜け、ドラゴンに向かって駆けた。
「あら、大丈夫そうね」
彼女がそう小声で言ったのを俺は聞こえないふりをした。
そして次にステルクさん、メルヴィアとドラゴンに向かって行く。
俺は何秒持つかぷにと相談しながら背後の岩にもたれかかりながら事の行く末を見つめていた。
まず最初に後輩君が素早く前足を斬って機動力を落とし、振り上げられた爪を受け止めたメルヴィアはそのまま斧の柄でドラゴンの顔面を強打した。
よろめくドラゴンにステルクさんが容赦なく切りかかるが、寸前で後ろに飛んで避けてくれた。
「…………」
なんだろう、この一方的な感じ、攻撃しても受け止められて、避けても他の人に斬られて、俺はこれを望んていたのだろうか。
いや、違うよ。タコ殴るとは言ったけどもうちょっと戦いにはなるかなって。
こんなマグロの解体ショーみたいになるなんて想像してなかったんだよ。
「GAAAAA!」
黒いドラゴンの悲痛な叫びに、俺は耳を塞いで目をそむけることしかできなかった。
…………
……
「あいつらに罪悪感はないのか?」
「ぷに~」
夜の領域の入り口近く、岩が途切れ森が顔を見せた所に俺は戻って来た。
「なんでドラゴン倒した後、あんな一仕事終えました見たいな清々しい顔ができるんだ」
「ぷにに」
三人が三人、笑顔で汗をぬぐっていた。
傍から見ていると大分猟奇的な光景だったぜ。
「……ぷに?」
「それは言うなよ」
落とされた首を素早く木の足場を渡って回収し、首を抱えて逃げながら角だけ剥いだ俺も相当にひどい奴かもしれん。
最後に証拠隠滅のためにサッカーボールの様に首を下に蹴り落としたのも今思えば悪い事をした。
「これで終わったら良かったんだろうけどな」
「ぷに」
証拠隠滅後、こっそり戻って見ると、あいつは俺に良い様に使われたことに気付いて恐ろしい言葉を発した。
『クーッ、あいつに踊らされてたなんて! 腹立つわね! はらいせにここのモンスターでもやっちゃいましょう!』
『お、いいな! 誰が一番多く倒せるか勝負しようぜ!』
『ふん、私についてこれるかな?』
ごめんなさい夜の領域の魔物たち、静かに北で暮らしていただけなのに俺が狂戦士を三人も連れてきたばっかりに……。
「ああ、魔物たちの悲鳴が聞こえる気がする」
「ぷに~」
幻聴に罪悪心を刺激されながら、俺は逃げるようにその場を自転車で走り去った。
そのまま真っすぐにアーランドに帰ろうと思ったが、街道を東に進み月光の森までやって来た。
自転車を電力モードから人力に切り替え、木の間を縫いながら採取地まで向かっていると。
天罰が俺の横っ腹を叩いた。
「ぐげっ!?」
「ぷに!?」
自転車から俺が吹っ飛ばされ、倒れた自転車のカゴで寝てたぷにが目を覚ました。
痛みをこらえ、地べたに尻をついたまま上を見上げると。
以前に炭鉱であった凶悪モンスター、一見女の子に見える外見をしている悪魔ジュエルエレメント。
彼女が真っ赤になって、禍々しさが十割増している。そんなモンスターが佇んでいた。
ああ、コレはアレだヤバい奴だ、きっと彼女はモンスター代表で俺に罰を与えに来たんだろう。
そりゃモンスターも怒るよな、うん。
しかし、俺はこんなところでやられていられない!
「うおおおおおお!」
雄叫びと共に俺は両足で大地を踏みしめ、立ち上がった。
「うおおおおおお!」
「ぷに?」
「うおおおおおお!」
「ぷに!?」
叫びながら転がっている自転車のカゴに入っているぷにまで跳び。
思いっきり頭から鷲掴んだ。
「ぷににに!?」
「くらえ友情パワー!」
「ぷにー!?」
浮かんでいる赤いクリスタルの様な物をこちらに向けている奴目がけて、俺はぷにを投げつけた。
意表を突かれたのか顔面にもろにぶち当たった。
「ありあとう。ぷに、お前の勇敢さと情熱、しっかり俺に伝わったぜ」
緑っぽい肌を赤くした奴は、目標を俺からぷにに切り替えたようだ。
ぷには奴の足元で俺に視線を投げかけていた。
訳すると、おいてめえ、この落とし前はきっちり払ってもらうからな。
「てへ☆」
「ぷににーーー!!」
俺はそう言い残し、自転車を起こして電力モードで一気に突っ走った。
そしてぷには林の中へと逃げ込んで行った。
まあサイズSSSの相棒ならうまい事逃げ切れるだろう。
そして少し待ってから襲われた場所、いつもの採取場に来てみると、なにやら見慣れない花が咲いていた。
蓮のような花の形をしたほんのり光った白い花。
「なるほど、あいつはボスでこれはレアアイテムという訳か!」
そうと分かれば、俺は早速二、三だけ残して全てを狩りポーチにしまった。
うへへへ、俺に不意打ちをしたのが運の尽きだったようだな。
そんなに大事なら根こそぎとは言わないが、奪い尽くしてくれるわ!
「るーるるーるー」
鼻歌を歌いながらポーチにしまいこみ、意気揚々と俺は後ろを振り向いた。
「Oh……」
酷く冷たい目をした奴がいた。
早すぎる、ぷにの奴、どんだけ頑張って逃げたんだ……。
「に、ニコ」
奴は笑い返しもせずにスタンプでも押すかのようにクリスタルを俺に飛ばしてきた。
寸でのところで転がってかわしたが、間違いなく心臓を狙っていた。
彼女さん、思ったより人をヤリなれてますね。
「て、撤退! てったいーー!」
煙幕フラムを投げ捨て、自転車にまたがり、俺は逃げ出した。
そして森を出て街道に出るまでの間、止まることの許されない死のデスレースをするはめになった。
良いドラゴンの素材さえあれば後は早く、軽くレシピを作り調合をした。
命名ドラゴンボム、東洋の龍の形をしたバスーカから爆弾が発射されるというモノだ。
つまりはバズーカだ、恐ろしいモノを作ってしまった気がする。
爆弾としての出来も悪くはない、本としての清書も終わった。
「……ブラックドラゴン、夜の領域の魔物たち、ぷに、終わったよ」
ちなみにぷにはこの一ヶ月間、幽霊の様に俺の背後に付きまとい冷たい視線を24時間体制でキープしている。
あと二カ月くらい好きな料理を作り続ければ許してもらえるだろう。
「うむ、ちょっと早いが誕生日プレゼントだ」
「はい、ありがとうございます」
椅子から立ち上がり、後ろでソワソワと俺の作業を見ていたトトリちゃんに黒い表紙の本。
アカネ流錬金術下巻を手渡した。
「えへへ、もう忘れてるのかと思ってましたよ」
「そ、そんな訳ないじゃないか」
本当に思い出せてよかった。
俺が下巻作ってると分かった途端、毎日俺の後ろでチラチラと作業具合見てくるんだもんなあ。
意外に楽しみにしてもらっていたようだ。
「これでわたしも花火が作れますね!」
口元を本で隠して嬉しそうに微笑むトトリちゃん、この笑顔のために俺は頑張ってきたんだな。
「……ぷに」
浮かれるなと言われましても。
「アカネさん、改めてありがとうございます」
「ああ、喜んでもらえたなら嬉しいぜ」
まさしく太陽の様な笑顔だ。
おいおい、ここ最近の行動的に考えて俺みたいなのは浄化されるんじゃないか?
「免許を更新するまでの暇つぶしくらいにはなるだろうさ」
「あ、そう言えばもうすぐでしたね。思い返すと短かったような、長かったような」
「そうだなあ」
頬に手を当ててこれまでの事を思い返しているトトリちゃん。
俺は、もうすぐ一区切り何だという事を実感しながら、窓の外に見える空に想いを馳せいていた。