アーランドの冒険者   作:クー.

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喧嘩注意報発令

「おお、着いた着いた!」

 

 街に入ると数か月ぶりの町並みが目に飛び込んできた。

 

「ふわぁ……ここが、アーランド」

「すげー! やっぱ俺たちの村とは全然違うな」

「見てみて、床が全部石だよ! 歩きやすい!」

「家とかもでっけーな! どうやって作んだあんなの?」

 

 ……この子たちをいつか東京に連れていってやりたいな。

 だいぶおもしろそうだ。

 

「恥ずかしいから、あんまりきょろきょろすんなよ~」

 

 事実微笑ましそうに笑っている人が何人かいる。

 俺がお兄さんポジション的なあれだろうか。

 

「はしゃぐのもいいけど、とっとと用事を済ませてこいよ。明日の夕方には馬車を出すからな」

「ん、馬車の中のぷにをよろしくなー」

 

 俺がそう言うとペーターは街の外に戻って行った。

 

「明日の夕方か……あんまり時間ないな。先輩、免許ってどこでもらえるんだ?」

「ああ、こっちだこっち」

 

 俺は二人と一緒にギルドの方に歩きだした。

 

「ところで、アカネさん。免許ってどうやってもらうんですか?」

「どうやってって?」

「試験とかあったりするんじゃないかなって……」

 

 そう言ってトトリちゃんは不安からか、少し顔を俯かせていた。

 うむ、実にまっとうな不安だ。まあ実際はなあ。

 

「なりたーいって言えばすぐにもらえるぞ」

「えっ!? 本当ですか!?」

「ホント、ホント」

 

 正直あの嘘があったとはいえ、あんなに簡単にもらってよかったのか今でも疑問だ。

 一応期限があったりはするが、その辺の説明はクーデリアさんに任せよう。

 

「っと、着いたぞ」

「うわぁ、大きい~」

「でけぇー」

 

 二人とも大きさにすごく驚いている。

 やっぱりいつか東京タワーとか見してやりたいな。

 

 

「とりあえず、入ってからもう一回驚いとけ」

 

 この中は現代人の俺の感覚でもでかいと感じたくらいだ。

 リアクションに期待しつつ俺たちは中に入った。

 

「中も広~い」

「ああ、いかにもって感じだな。これで俺もいよいよ冒険者に!」

「免許はあそこのカウンターでもら……える?」

 

 なんか、カウンターの前に人だかりができていた。

 

「先輩、あれ何だ?」

「知るか、とりあえず近づいてみるか」

 

 近づいてみるとクーデリアさんと知らないちびっ子が見えた。

 ちびっ子の格好すごいな……赤いマント着てるけど、相当露出高いだろ……。

 

「しっつっこい!やらないったらやらないっつてんでしょ!」

 

 

「「ひぃ!ご、ごめんなさい!」」

「二人とも何驚いてるんだ?」

 

 俺とトトリちゃんの叫び声が見事にハモった。

 この怒鳴り声はなんつーか、怖い。

 

「わっ、なんか、ちっちゃい女の子が喧嘩してる」

「トトリちゃん。金髪の方にそれを言うなよ、絶対に言うなよ」

「えっ、は、はあ」

 

 トトリちゃんに対してこのネタフリは早かったようだ。

 

 

「理由を言いなさい!何故この私が冒険者の資格をもらえないのか!」

「だから、あんたみたいな生意気で礼儀知らずなガキにくれてやるもんはないっつてんのよ!」

「な、な……礼儀知らずはあなたの方でしょう!シュヴァルツラング家の当主である私に対して、よくもそんな口を!」

「あら、シュヴァルツラング家の令嬢でございますの。私、フォイエルバッハ家の令嬢でございますの。同じ貴族仲間ですわね」

「あなたみたいな、金で家名を買った成金貴族と一緒にしないで」

 

 

 …………どうしよう、なんか蚊帳の外な感じがする。いや、事実蚊帳の外だ。

 隣でオロオロしてるトトリちゃんを見てるのも面白いが、ここは一つ俺の喧嘩を止める能力を見せてやるか。

 

 そう決めて俺は二人の前に歩み寄った。

 

「待たれい!!」

「「なによ!」」

「……ごめんなさい」

 

 怖いよ。このちびっ子二人怖いよ。

 

「って、アカネじゃないの。あんたいつの間に戻ってきたのよ」

「ついさっき戻ってきました……ごめんなさい」

「何よあんた! 邪魔しないでくれる!」

 

 最近はヘルモルト家と言うこの世界の優しい部分に浸ってきたせいで、この口撃に堪えられない……。

 

「お、俺は後輩連れてきたんダヨー! ちょっと黙っててくれるアルか!」

 

 思うままに口を開いたら、意味のわからん事を言い出してしまった。

 

「後輩? 今は私が! 免許を貰いに来てるのよ! 後にして頂戴!」

「ふたりとも~早く来て~」

 

 Sだよ。この娘、絶対Sだよ……。

 

「えっと……その……」

「なんだよ、先輩? もういいのか?」

 

 人ごみの後ろから二人が出てきた。

 俺の中の精神ポイントがトトリちゃんを見てめっさ回復したわ。

 

「アカネ……あんたね、もうちょっと状況を見なさいよ」

「うっさい! この子は、あれだぞ……そ、そう! 錬金術士なんだぞ!」

「錬金術士? あれ? その杖ってロロナの……」

 

 クーデリアさんがトトリちゃんの杖を凝視している。

 確かに変わったデザインな気がするけど、そこまで見なくても。

 

「ああ、もしかしてロロナの言ってた弟子ってあんたのこと?」

「え、はい。私の先生はロロナ先生ですけど」

「へぇ~。あんたがロロナの……。免許を貰いに来たのよね。ほら、こっち来なさい冒険者の資格なんていくらでもあげるから」

「え、えっと一つあればいいんですけど」

 

 クーデリアさんの態度が一気にすごい軟化した。何なんだあの不自然に切り替わった笑顔は……。

 まだ見ぬロロナ先生って一体何者だよ。

 

「ちょっと待ちなさいよ !何でそんな田舎くさい子がよくて、貴族である私がもらえないのよ!」

「何よ、あんたまだいたの」

「いたわよ! いたに決まってんでしょ」

 

 まぁ、確かにそうなるわな。赤い子的にはまったく納得いかないだろうし。

 つか、なんでクーデリアさんがこんなに機嫌いいのか俺にもわからん。

 

「いい? この子は錬金術師なの。この国に3人しかいない貴重な貴重な錬金術士。おわかり?」

「嘘だ! トトリちゃんがそんなすごい子なはずがない!」

 

 そんなVIPの様な空気をトトリちゃんからは良い意味でまったく感じない!

 

「何よ! 嘘なんじゃないの!」

「アカネ! あんたちょっと黙ってなさい!」

「……はい」

 

 (´・ω・`)

 

「こほん。あのバカの言うことは放って置きなさい。この子はね、かの有名なロロライナ・フリクセルの弟子なのよ」

「そして、俺の後輩さ! ……ごめんなさい」

 

 すごい目つきで睨まれてしまった。

 

「ったく。つまりは! あの悪名高いアストリッド・ゼクセスの孫弟子な訳、それでも文句ある訳?」

「ぐ、ぐぐぐ……あなた!」

 

 テンプレのような声を出してシュヴァルツなんとかちゃんはトトリちゃんを指差した。

 

「は、はい!」

「名前は? 名前は何と言うの?」

「え、えっと。トトリですけど」

「俺はアカネだ」

「トトリね……。その名前、しかと覚えておくわ!」

 

 そう言うとマント娘は扉の方に歩いて行った。

 

「え、え? なんで、私が恨まれるみたいになってるの?」

「え、え? なんで、俺が空気みたいに無視されたの?」

「それは自分の責任でしょうが……」

 

 訳が分からない。

 

「ま、ああいうのは自分で言っといて肩書に弱いものなのよ。ほら、資格をもらいにきたんでしょ。こっち来なさい」

「おい、トトリ! おまえだけずるいぞ!」

「あ、ごめん。あの、お友達も一緒なんですけど……」

「一緒でいいわよ、ほら早く来なさい」

「は、はい!」

 

 ジーノ君……俺以上に空気だったなぁ。

 しみじみと後輩君を見ていると、クーデリアさんが俺の事を手招きしていた。

 

「アカネ。あんたも来なさい」

「? あ、ああ」

 

 なんぞ? この後イクセルさんの所行こうと思ってたんだけど……。

 よく分からないまま俺もカウンターの方に近づいた。

 

「ほら、あんたの免許よこしなさい」

「? はいな」

 

 言われるがままに免許を渡した。

 

「そう言えば、自己紹介が遅れたわね。私はクーデリア。ここで冒険者関係の手続きをやってるわ」

「はい、よろしくお願いします。あのクーデリアさん……先生とお知合いなんですか?」

「まあね、ロロナとは腐れ縁って言うか、幼馴染って言うか、大親友って言うかまぁそんな感じよ」

「はぁ、よく分かんない……」

 

 ああ、前言ってた親友ってロロナ先生とやらのことだったのか。

 それはいいとして、なんで若干顔赤いんだよクーデリアさん……ツンデレか?

 一瞬、良いなと思ってしまった俺爆散しろ……。

 

「…………!」

 

 ぞくっとした。

 何かフィリーちゃんが前居た場所あたりから、負のオーラが……。

 

 

 

「アカネさん。見てください!」

「ん? ああ、免許貰ったのか、おめでとう」

「はい! 本当にすぐに貰えちゃいました!」

 

 うむ。よきかなよきかな。トトリちゃんとは別に後輩君は後輩君でかなり喜んでいるようだ。

 

「そういえば、クーデリアさん。なんで、あの子にあげなかったんですか?」

「あれは論外。こんなもの、ちょっと頭下げればすぐあげるってのに」

「……俺も大分ふざけたことしたような気がするんですけど?」

「言ったでしょ、頭を下げればって、あんたはちゃんと謝ってきたじゃない」

 

 つまり、あそこで謝ってなければ俺は悲しき犠牲者になってたってことか。

 

「それと、はいこれ」

「あ、どうも」

 

 クーデリアさんから俺の冒険者免許を手渡される。

 

「?なんか端っこのガラスが宝石みたいなのになってますけど?」

 

 前は壊れそうだったのに今はよく分からない紫色の鉱物になっていた。

 

「前に説明したでしょ、ポイントを貯めたらランクアップするって」

「? 俺ポイントを貯めた覚えなんてありませんけど?」

「何言ってんのよ? アランヤ村の方からあんたの依頼報告が大量に届いてたわよ」

「ああ、確かに依頼は山のようにやりましたけど……」

 

 いざ貯めん10万コールと意気込んで、今思うと毎日毎日飽きもせずに良くやったもんだよ。

 

「驚いたわよ。いきなりいなくなったと思ったら港町から報告が来るんですもの。どうやってあそこまで行ったのよ?」

「後で! 後で! お話しますから!」

「え、ええ……」

 

 珍しく俺の気迫が打ち勝ったようで、クーデリアさんは若干たじろいでいた。

 

「しかし、ランクアップか……」

「そうね。でも、まだ2なんだから、これからもしっかりと働きなさいよ」

「へーい」

 

 ふと、トトリちゃんたちの方を見ると二人とも首をかしげていた。

 

「先輩ってランク低くないか?」

「そりゃ、こいつが免許もらったの2ヶ月前だもの。当然じゃない」

「え!? それって、俺たちと会ったのとほとんど同じじゃ……」

 

 ……もしかしなくても、後輩君たちは俺をそこそこの冒険者だと思っていたのか……な?

 

「でも、アカネの冒険者としての力量は高いはずよ。聞いただろうけど、海を渡ってきたらしいもの」

「あ゙っ」

 

 今までの俺の苦労が無に帰された。どこからって聞かれた時はいつも、遠くからってお茶を濁してきたのに!

 こんないつかバレそうな嘘をあんまり大勢に広めたくなかったんだよ!

 

「え!? ほ、ホントですか!?」

「ま、マジかよ! すげぇぜ先輩!」

「……アハハハ」

 

 二人の純粋な尊敬の目線で心の汚い俺はもう消えそうだ……。

 

「何よ、言ってなかったの? というか、その二人とあんたの関係って何よ? 先輩とか言ってたけど」

「俺の恩人で今は先輩と後輩の関係ですよ」

「恩人……ねぇ。ま、先輩ってんならちゃんと模範になりなさいよ」

「善処します」

 

 模範か、今ん所はそこそこやれている自信はある。

 でも、メルヴィアとかの方が後輩君にとっては模範にふさわしそうだ。

 

「それじゃ、新人二人に一から冒険者について説明してあげるわ」

「あ、はいよろしくお願いします」

 

 

…………

……

 

 

「うう、冒険者免許に期限があるなんて……」

「ちゃんと真面目に仕事してれば、そうそうそんな事にはならないから安心しなさい」

「うう、大丈夫かな……私」

 

 期限について聞いてからいきなりトトリちゃんが落ち込み始めた。

 そういう悩みもちゃんとやるからには付きまとうってことなのかね。

 

「それで、あなたたちここにはしばらくいるのかしら?」

「あ、いえ。私たちは明日馬車で帰ることになってます」

「俺は~どうすっかなー」

 

 アーランドに残ってもいいが、トトリちゃんの手伝いをするという約束もあるから戻ることになるだろうか。

 

「随分と慌ただしいわね。それで、今日泊まるところはあるのかしら?」

「あ、そう言えば……どうしよう」

「別に普通に宿屋に泊ればいいだろう?」

「でも、お金もったいないですし……」

 

 まあ確かに宿泊費も安くはないが、一日くらいなら良いと思うんだけどな。

 そんな馬を伝えようとしたら、クーデリアさんが先に口を開いた。

 

「それじゃあ、ロロナのアトリエを使いなさいよ。今はロロナも留守にしてることだし」

「え、先生アーランドにいないんですか?」

「ええ、ここ最近ずっと帰ってきてないわよ。まぁ、それはそれとして、はいこれ」

 

 クーデリアさんがトトリちゃんに鍵を手渡した。

 

「え? なんで、クーデリアさんが先生のアトリエの鍵を?」

「え? ああ、それは、あの子うっかりしてるし……鍵なんて持たせたらすぐに失くしそうで……」

 

 なんて悲しい目をしてるんだ……。

 

「なるほど……って言ったら失礼かな。でも、本当にいいんですか?」

「ええ、私の家でも良いんだけど、さっきのバカ娘のせいで仕事が残ってるのよ」

 

 もしかして、俺が来た日も仕事残ってたりしたのだろうか?

 だとしたら申し訳ないな。

 

「おーい、行くなら早く行こうぜ。明日からまた長い事馬車なんだから、今のうちに休んどかねえと」

「あ、待ってよ。それじゃ、失礼します」

「俺はもうちょっとここにいるから、先に行っててくれ」

 

 ペコリと頭を下げてから、後輩君を追いかけてトトリちゃんもギルドの外に出て行った。

 

 

 

 残ると言ったが、特にやることがない。

 

「……やっと、二人きりになれたね」

 

 ボケてみた。

 

「私仕事があるから、おふざけに付き合ってられないんだけど」

「ぶー」

 

 折角帰ってきたんだから、もうちょっと優しくしてもらいたいです。

 

「というか、何かやることがあったんじゃないの?」

「ないっすけど?」

「なら、何で残ったのよ」

「幼馴染二人で知らない街を回らせてやろうっていう気遣いですよ」

 

 結構この町は広いから、アトリエに付くまでいろいろな場所を探検してることだろう。

 

「ふーん。あんたがそんな気遣いできるなんてねえ」

「意外と紳士なんですよ、俺」

「はいはい。時間潰すにしてもここじゃない場所にしてくれないかしら」

「まぁ、俺も行く場所ありますから、この辺で失礼しますよ」

 

 イクセルさんとの約束があるので、俺は片手を上げて分かれようとしたが。

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 立ち去ろうとするとクーデリアさんに引きとめられた。

 

「なんですか?」

「あんた結局、冒険者を真面目にやる気になったのかしら?」

 

 どこか責めるような、というよりも単純に真意を知りたいと言ったような目で見つめられた。

 となると、俺も真面目に答えないといかんよな。

 

「まぁ、後輩もできましたし、一時的な職業にするつもりはないですよ」

「そう、ならいいわ」

「なんで、んなこと聞くんですか?」

「私の親友の弟子の先輩をやる気のないやつに任せてはおけなかったからよ」

「後輩ができたからやる気が出たところもありますけどね」

 

 事実、アランヤ村に行かなかったら、アーランドで小銭溜めてから普通の職業でも探していただろう。

 

「心配せずとも、この白藤明音にズビっとお任せですよ」

「不安になるようなこと言わないでくれるかしら」

 

 

 

 ……失敬な。

 


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