アーランドの冒険者   作:クー.

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貴族と天才科学者

「……あれ?」

 

 俺は宿屋の部屋から暗くなっている外を見ていた。

 朝が来ればいずれ夜が来る、これは当然の世界の摂理のはずだ。だがそれならおかしい。

 

「寝て起きたら夜になってたでござる?」

 

 いや待て待て、何してたんだっけか俺?

 確か昨日は、帰りにイクセルさんの所によって、アトリエにベッドがなかったから宿屋探して……。

 夜まで筋トレしてから寝て……昼に起きて、また寝た?

 

「なんだ……二度寝しただけか、通りで腹が減ってるわけだ。仕方ないからもう一回寝るか」

 

 現実逃避って大事だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずトトリちゃんたちがどうしたのか聞くためにクーデリアさんの下へ。

 

 中に入るといつもの場所にいたので話を聞きに行く。

 

「クーデリアさん、夜に起きたら夜になってた」

「帰りなさい」

 

 おそらく、これまでで一番いい笑顔で言われた。

 

「私言ったわよね?親友の弟子を頼むって」

「不可抗力だ。全ての犯人は布団です」

 

 奴が得意の寝技に俺を持ち込んで意識を刈ったんだ。

 必殺全方位固め、恐ろしい技だぜ。

 

「馬車が出る時にトトリ、寂しそうにしてたわよ」

「うぐっ!」

「来なかった理由が寝てただけなんて、本当にバカだったのね」

 

 一遍たりとも言い返せないのが悔しい。確かにバカだけどさ……。

 

「うう……村に行く方法って何かないっすかね?」

「あんたがあっちに行った方法で行けばいいんじゃないの?」

「クーデリアさんがそんなに残酷な人だったなんて知らなかった……」

 

 たぶん2回に1回くらいで死ぬと思う。

 

「人をいきなり貶さないで頂戴。結局どうやったのよ?」

「一昨日教えるって言った手前教えますよ。ええ、教えますとも」

 

 あの異世界ファーストインパクトを……。

 

 

 

…………

……

 

 

 

「はーっはっは! あーっはっはっは! わ、笑わせないで頂戴!」

「…………」

 

 あの体験をしたら笑うことなんてできないんだぞ。手には今でも跡が残ってるんだぞ。

 

「川っ! 川に落っこちて流されるって、そりゃもうできないわよね」

「も、もういいでしょう! で、何か村に行く方法なんですか」

「そ、そうね……ぷっ、ま、まぁ歩いて、くくっ、歩いて行くしかないんじゃないかしら、あっはっは!」

 

 くそ、俺の気持ちを分かってくれるのは同じ思いをしたぷにだけだよ。

 ……ぷに? あれ? また行方不明?

 

「クーデリアさん。ぷに知りませんか?」

「ああ、あの子なら私が預かってるわよ。確かここに……」

 

 クーデリアさんはカウンターの下から布袋を取り出した。

 

「モンスターここに置いといていいんですか?」

「よくないに決まってるでしょう。早く持ち帰って欲しかったわよ」

 

 よく見ると袋はもぞもぞと動いていた。

 

「ぷに!」

「あっ!ちょっと!出てきてんじゃないわよ!」

 

 ぷにが袋を食い破って俺の頭に飛び乗ってきた。

 この頭の重みにもなれたもんだ。

 

「ちなみにこの子の名前シロになったんでよろしくお願いしますね」

「はいはい、分かったから早く帰って頂戴。他の冒険者の迷惑になるでしょ」

「へーい」

「ぷーに」

 

 俺がクーデリアさんに背を向けて帰ろうとすると見た顔があった。

 

「も、モンスター!」

「おお、なんだっけ? シュバルツちゃんだっけか?」

 

 目の前には大分きわどい恰好をしたちびっ子がいた。

 

「違うわよ! シュヴァルツラングよ! ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラング!」

「そうっだったけか? 俺はアカネです。で、何の御用で?」

「そのモンスターよ! なんでここにそんなものがいるのよ!」

 

 俺の頭上にいるぷにを指差して、今にも襲いかからんと言った様子だ。

 

「こいつは俺の相棒、名前はシロ。3ジーノくらいの戦闘力を持っている」

「ぷにぷに!」

「後半意味が分からないわよ……。それにしてもモンスターが相棒……野蛮ね」

「んだと! 俺のぷにはそのへんの奴よりもよっぽど頭が良いんだぞ!」

「ぷに! ぷに!」

「へぇ、例えばなにかしら?」

 

 乗ってきおったな小娘め。

 俺のぷにの優秀さ。とくと味わうがいい!

 

「一つ、前に依頼書を紛失したと思ったら、ぷにがまとめていてくれた」

 

 あの時はぷにの整頓能力の高さに驚いた。

 

「一つ、依頼の報告をしてきてくれた」

 

 あの時はコミュニケーション能力が意外に高い事に驚いた。

 

「一つ、大抵のモンスターは全て一撃で倒してくれる」

 

 これはもはや口にするまでもない。

 

「……どうだ。わかったか?」

「あなたの冒険者としての能力の低さなら分かったわ」

「……あれ?」

 

 言われて気づいたけど、俺いらなくね?

 見てはいけない物を見てしまった気分だ……。

 

「ともかく! ぷにの性能の高さに恐れ入っただろう?」

「それが本当ならその辺のモンスターとは違うみたいね。あなたもその辺の冒険者と違うみたいだけど」

「お、俺だってちゃんと仕事はしてるんだぞ!」

「はいはい。で、もういいかしら?私は今日、冒険者の免許を取りに来たのだけれど」

「いつか、俺の力を見せつけてやる……」

 

 恨み言を言いつつ退散し始める俺であった。

 だってこの娘ちょっと怖いと言うか、苦手な雰囲気を醸し出しているというか。

 

「ちょっと待ちなさい」

「あんだよ~。傷口に塩を塗りこもってか~」

 

 どんだけSなんだよ。将来が心配だよ。

 

「そこまで暇じゃないわよ。あの錬金術師の子がどこにいるか知らないかしら?」

「トトリちゃんか? 今ならたぶん馬車で帰ってるとこだと思うが……」

「どこ行きの馬車なのよ?」

「東にあるムゥだっけかな~」

 

 なんか怪しいので適当なことを吹きこんでおく。

 

「聞いたことないわね……。それじゃ、もういいわよ」

 

 そう言うとカウンターの方に歩いて行った。

 

 

「……彼女がムゥ大陸を発見することを祈るか」

「ぷに?」

 

 彼女が優秀な冒険者になれば見つけられるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、どうにかして村に戻らないとな」

「ぷに」

 

 決して、ムゥ大陸ではないので悪しからず。

 今俺たちは宿屋の方に戻っている所だ。

 

 

「君、ちょっとそこの君」

「あん?」

 

 いきなり後ろから話しかけられたので、とりあえず振り返ってみた。

 

「……怪しい」

 

 そこには白衣でメガネ、いかにも科学者な見た目の男がいた。

 

「確かに怪しいけどね。まぁ、そんなことよりだ。君ずいぶんと面白いものを飼ってるね」

「あん?いや、こいつはシロ。ペットじゃなくて俺の相棒だよ」

「ぷに」

「相棒!ほうほう、モンスターを相棒にするなんて、君はなかなかにユニークな感性を持っているね」

「テンション高いなこの科学者もどき……」

「科学者もどきじゃない! 僕はマーク・マクブライン。人は僕を異能の天才科学者プロフェッサー・マクブラインと呼ぶ!」

「…………」

 

 こいつは……自称臭がぷんぷんするぜ。

 

「えっと。マークさん……で、いいのか?」

 

 こいつには何というか、さん付けはしても敬語は使いたくないな……。

 

「違う! 異能の天才科学者プロフェッサー・マクブラインだ!」

「……オーケー」

 

 俺は大きく息を吸いこむ

 

「異能の天才科学者プロフェッサー・マクブライン! ……だな」

「ああ、そうだね。ところで、君は何て言うんだい?」

「……俺か」

 

 ここは、俺も一発凄いのをかまして、噛ませてやる。

 

「俺はアカネ。人は俺を全能の天才科学者プロフェッサー・アクネインと呼ぶ!」

「思いつかないのなら、無理にする必要はないと思うけどね」

「そうね」

 

 流石にあの一瞬で思いつくなんて無理ですよね~。

 

 

「で?結局何のようなんだ?」

「いや、君が面白い恰好でおもしろいモノを連れていたんで興味がわいたのさ」

「興味ねぇ、つか科学者なんていたんだな」

「嘆かわしいことにほんとんどは自称だけどね」

 

 どこか気まずそうに目を逸らすマークさん、しかし科学者か。

 

「そういや機械ってどうやって作ってるんだ? 結構あっちこちで見るけど」

 

 レジとかも普通に機械だったりするし。

 

「機械は全て掘り起こされたものを使ってるだけだよ。ほとんどの人はその仕組みを知ろうとはしないね」

 

 掘り起こされた……ロストテクノロジーってやつか?

 

「ふぅむ。結構耳に痛いな。俺のいたところも似たようなものだったし」

 

 ロストでないにしても、現行で使ってる機械の説明なんかできないからな……。

 

「おや? 君はアーランド出身じゃないのかい?」

「海の向こうからえんやこら、俺のいたところはここよりも科学は発達してたな」

「ほほう! それはそれは、面白い話を聞けそうだ」

「聞くかい? そうだな……俺の世界にはガンダムという……」

 

 

…………

……

 

 

「というわけで、人類の宇宙の戦争は一旦終わりました。めでたしめでたし」

「……ふむ。実に興味深い!」

「えっ、マジで」

 

 正直いつ嘘だろとか言われるのかと待ってたんだけど。

 

「いや、創作だぜこれ。フィクションだよ」

「そのくらい途中で気付いたさ、でもロボットの可能性の一端を見た気がするよ。感謝しよう」

「う、うむ。どういたしまして?」

「ああ、お礼と行っては何だけど何かできることがあるならしようじゃないか」

「お礼ねぇ……」

 

 からかってやろうとした手前、気が引けるが、断るのは失礼に値するのはよく分かっているつもりだ。

 

「んじゃ、自転車作ってくれよ自転車」

 

 アランヤ村に歩いて行くよりはマシなはずだ。

 

「自転車? なんだい、それは?」

「あー、こんなんだよ。ここに人が乗ってな」

 

 俺は道端に座り込んで、適当な石で絵を描いた。

 

「ほほう、なるほど。うん。理解したよ」

「えっ、これでわかったのか!?」

 

 下手ではないにしてもそこまで分かりやすくないぞ、この絵。

 

「言ったはずだよ。異能の天才科学者の名は伊達じゃないということさ。しかし、面白い乗り物だ。僕のインスピレーションを刺激してくるね」

「頼もしいお言葉で」

「よし、すぐにラボに戻って作成するとしよう。1週間後にギルドで待っているよ」

 

 そう言うと、早足で駈け出して行った

 

 

 

「ああいう人種の人もいるんだな、この世界」

「ぷに」

 

 今回ぷに、空気だったな。

 

「しかし、自転車を本当に作ってくれたら、使える場所は限られるだろうけどいろいろと楽になるな」

「ぷに?」

「見事な完成品をマークさんが作ってくれたら見せてやるさ」

「ぷに!」

 

 一週間後が楽しみだ。


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