アーランドの冒険者   作:クー.

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海を渡ってきたらしいです

 ぷにの案内から一日程度して、やっと街に辿り着いたわけだが……

 

「なぁ、ぷに。俺の設定どうしようか?」

 

 街を見たところ文明は現代ほど発展してないみたいだから、戸籍とかはないだろうけど。

 

「ぷに。実は俺さ異世界から来たんだ」

「ぷに?」

 

 多分、『ばかじゃねぇの』とか『頭大丈夫?』とかそんなこと言ってんだろうな。

 

「そんな反応が来るからこそ俺は考えていた! 名付けて!」

「ぷに!」

 

 俺は拳を大きく上に突き出して叫んだ。

 

「海を渡ってきました作戦!」

 

 俺は日本出身だしそこまでの嘘でもない。

 つか、正直なことを言うと俺の新世界ライフが間違いなく終了する。

 

 とりあえず、俺はこれでいいとしてだ。

 

「ぷに、お前どうするよ?」

 

 この世界でのモンスターの扱いがいまいち分からないから、街に入れていいのか判断に困る。

 

「ぷにに!」

 

 ぷにが跳ねあがって俺の頭に乗っかってきた。

 

「ふむ、まぁ駄目だったら、それはそれでいいか」

 

 さすがに。問答無用で逮捕されたりはしないだろう。

 

「んじゃ、入ってみるとするか」

「ぷに」

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 街の雰囲気は、結構いい感じだ。なんというか、都会みたいに人混みもないし、やたらと早歩きな人もいない。。

 一言で言うなら、のどかってかんじだ。

 

 ……微妙に俺のジャージが浮いている気がする。

 

 まぁ、とりあえず聞き込みをしてみるか。日本語が通じればいいな……。

 

「あのー、すいません、ちょっと聞きたいんですけど」

「ここは、アーランドの街です」

 

 ! ――俺の聞きたいことを的確に答えてきただと。

 

「あっ、これは親切にどうも、もう一ついいですか?」

「ここはアーランドの街です」

「あ、いやそうじゃなくて」

「ここはアーランドの街です」

「……どうも」

 

 俺は、そそくさと立ち去った。

 

 

 

「……ぷに、彼を怒ってはいけないぞ、彼はあれが仕事なんだ」

「ぷに?」

 

 ファンタジーの世界に彼のような人はよくいるのだろうさ。

 俗に言う村人Aって奴だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ……あの後も、聞き込みを続けた結果、今俺は冒険者ギルドとかいう所に来ている。

 なんでも、冒険者とかいう職業は、誰でもすぐになれるらしい。

 詳しいことは、手続き担当に聞けばいいそうだ。

 

 

「この町の人はみんな親切だな。やたらみんな目そらしたり、上向いてたけど」

「ぷに」

「どうしてだろうな?」

「ぷに~」

 

 ぷにはまったくわからないとでも言うかのように、頭上で一声鳴いた。

 とりあえず、入ってみるかね。

 

 俺は重っくるしい扉を開いて、中に入った。

 

 

 中は……広い。それ以外に感想が出てこない。

 見渡してみると、そこそこの数の冒険者?の方々がいる。

 

 

 あと正面にはおそらく責任者とみられ……責任者だよな?

 やたらちっこい気がするんだが……っていうか、あの人俺のこと睨んでね!?

 

「ちょっと! そこの黒ずくめ! こっち来なさい!」

 

 やばい、なんかすごい怒ってるんだけど彼女。何故に?

 

「えと、なんでしょうか?」

 

 俺は、早足で彼女のもとに向かった。

 

「あんた、冒険者かしら?」

 

 近寄ってみるとこの子やっぱ小さいな、睨みがあんま怖くないわ。

 

「? ちょっと、聞いてんの?」

「あ、ああ聞いてる。俺はここに冒険者資格貰いに来たんだけど」

「そう……。とりあえず、私がなんで怒ってるかはわかってるわよね」

「いや、まったく」

 

 俺はこの街に入って一時間もしない、そんな騒ぎは起こしたりしてないさ。

 

 あっ、こめかみに青筋がたっとる。

 

「あ・ん・た・の! 頭の! 上のやつよ!」

「うぇ」 

「ぷに!」

 

 変な声でちまった。そうか、やっぱりぷにの奴はアウトだったか。

 

「あんたのせいで、さっきからこっちに抗議がきっぱなしよ!

「あー、いや悪かった。モンスターはアウトだったか」

「当り前でしょ! ったく常識でしょうに」

 

 ため息をつきながら言われちまった。

 

「いや、じつはこの国に来るの初めてでさ。よくわかってなかったんだよ」

「いや、普通にわかりなさいよ。 どれだけ辺境から来たのよ!」

 

 ここで機嫌を損ねてはまずい!ここで使うぜ必殺の策を!

 

「ひ、東の方から、そう海を渡ってきたんだから仕方ないだろ!」

 

 必殺と言うにはやたらと尻込みした具合で、目を反らしながらそう言った。

 

「海を……?」

「そうそう、途中で船が壊れてさ、この大陸に流れてきたんだよ」

「何か胡散臭いけど……まぁでもそれならその妙なカッコにも納得がいくわよね」

 

 そういや、私ジャージでしたね。

 とりあえず納得してもらえたようだけど、こんなちびっ子に嘘をつくのは心が痛むな。

 まぁ……気づいたら森にいましたなんて言えるわけないしな。

 

「だからって、モンスターを連れまわしていいわけじゃないわよ」

「はい、もちろんわかってますさ」

「わかってくれたならいいわ、冒険者免許がほしかったのよね」

「? あ、うん、そうだけど」

「それじゃ、はいこれ」

 

 彼女はカウンターの上に四角くて平べったい何かを置いた。

 

「あんたの冒険者免許よ。 ありがたく受け取りなさい」

「えっ! いいんすか」

 

 まだ、面接すら受けてないんだが。

 

「ええ、免許自体は簡単にあげれるものなのよ。

それに、東から来て船が壊れたってことはあのフラウシュトラウトを相手にしたってことでしょ」

 

 ……! やばい、設定にほころびが出た!フラウシュトラウトってなんだよ!なんで、一転して笑顔になってんだよ!

 

「う、あー、えっと……」

「? 違うのかしら?」

 

 マズイ! ここで、ノーなんて言ったら免許渡してもらえないんじゃ……。

 

「いや!はい、あれでしょ!あのでっかいモンスター!」

 

 船を壊せる+長い名前=ボスモンスターの方程式です。

 冷や汗が止まらない……。

 

「多分そうね。考えてみれば名前で言っても分かる訳ないわよね」

 

 その手があったか! そうだよ、俺は遠くの海から来たことにしてんだから、分からなくて当然じゃねえかよ!

 くそ! 目の前の笑顔が憎らしい!

 

「ははははは」

 

 精神的な疲れから、乾いた笑いしか出てこねえよ

 

「やられたみたいだけど、無事な当たり運はいいのかしらね」

「はい、ソーデスネ」

「名前と言ったら、まだ名乗ってなかったわね。私の名前はクーデリア・フォン・フォイエルバッハよ」

 

 その名前の話で痛い目にあったところですよ。

 しかし、貴族っぽい感じの名前だな。確かにお嬢様っぽい感じはするけど……言動を除いてだが。

 

 

「俺は、白藤明音だ。どうぞよろしく」

「シラフジ・アカネ? 変わった名前ね」

「ああ、姓が白藤で名前が明音なんだよ」

「へぇ、名前が後に来てるのね。まぁ、よろしくしておくわ」

「ぷに、ぷに!」

 

 ぷには自分もいるぞという感じで、カウンターに飛び乗って自己主張をした。

 

「ん? あぁ、こいつの名前はぷにだ。 一緒によろしくしておいてくれ」

「……よろしくはしておくけど、街には入らないようにしておきなさいね」

「ぷに」

「うむ。自己紹介も終ったところで、クーちゃんに冒険者の仕事について聞きたいんだが」

 

 つか、ほとんど何するかわかんないのに免許貰っちゃったよ。

 

 あれ? なんかまたこめかみに青筋が……

 

「クー……ちゃん?」

「そうそう、クーデリアだからクーちゃん。いいだろう?」

 

 ここで光る俺のネーミングセンスの良さ、実はこの様子で気に入ってたりとか……しなさそう?

 

「ところで、あんた何歳かしら」

 

 ……なんか、声震えてね? なんか俺、冷汗かいてるんだが。

 

「17ですけど」

「そう……」

「…………」

 

 沈黙が痛すぎる……。

 

「あの……「21」……え?」

「私の年齢よ、21歳よ」

「マジで! こんなちっちゃいのに!」

 

「ぷちっ」

 

 あ……やべ、声に出ちゃった。

 おまけに、今何かが切れるような音がしたような気がするわ。

 

「いいかしら、一度しか言わないからよく聞きなさい」

 

 何か息吸って、溜めてるわ……怖いです。

 

「私はあんたよりも年上で! その呼び方をするのは私の親友だけなのよ!」

「ご、ごめんなさいーー!」

 

 脱兎のごとく、早足に俺は去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

「ぷに、やっぱ人は外見で判断しちゃいけないのかね」

「ぷに」

 

 俺はとぼとぼと来た道を戻っていた。

 

「でもあれを外見で判断するなは無理だと思うんだよ」

「ぷにに」

「つい、逃げちゃったけど。ちゃんと謝らないとまずいよな」

「ぷに!」

 

 どうやらぷにも同意らしい。

 

「とりあえず、時間潰してほとぼりが冷めたとこで戻るか」

「ぷに」

 

 とりあえずは時間をつぶせそうな所でも探すかね。

 

「んじゃ、冒険者としての初仕事はアーランドの街の探索とするか」

「ぷにー!」

 

 ……そういやぷにの事どうしようかな。

 


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