今日は恒例のランクアップをするためにギルドに来ていた。
「討伐してきたんで、いつものお願いします」
「はいはい、それじゃあ免許よこしなさい」
俺はポーチから免許を取り出してクーデリアさんに渡した。
「それにしても、たった一年でよくここまで上げたわね」
「まあ、大方ぷにのおかげですけどね」
「……ランクアップさせてもいいのかしら」
クーデリアさんはぶつぶつ言いながらも手続きを続けている。
俺も俺で仕事はちゃんと頑張ってはいるんだけどなあ……。
「あ、そう言えばロロナさんに会いましたよ」
「ぶっ! な、何ですって!?」
うわばっちい、俺のギルドカードが大変な事になってる。
「いやロロナ先生ですよ」
「ど、どこにいたのかしら?」
「砂漠でぶっ倒れてましたよ」
途端にクーデリアさんは、申し訳なさそうな顔をした。
「親友が迷惑かけたわね……」
「まあ……ええ……」
何ともいたたまれない空気が出来上がってしまった。
親友の責任を自分にも感じる必要はないでしょうに。
「あれ? 親友?」
なんか違和感が……。
「ん? どうかしたのかしら?」
「いや、クーデリアさんとロロナさんって親友なんですよね?」
「ま、まあ、世間的にはそうなるのかしらね」
はいはい、ツンデレツンデレのデレデレ期。
「年大分離れてませんか?」
ロロナさんは俺と同じくらいだろうから、俺が18でクーデリアさんは去年22って言ってたから……5歳差?
「? ああ、そういうこと」
「どういうことですか?」
「あの子も童顔だから年相応に見られないのよね」
したり顔でうんうんと頷くクーデリアさん、自分だけ分かってる風にしないでもらいたい。
「だから、どういうことですか?」
「あの子、私と同い年よ」
「…………」
俺は少々この世界を舐めていたようだ。
つまり、俺5歳上の人にめっちゃタメ口聞いてたってことか?
待て待ておかしいだろ、あの人制服とか着てても違和感ない年齢にしか見えないって。
どう考えてもメルヴィアの方が年上に見えだろ。
今度会った時どんな顔すればいいのかわからない。
「ショックなのはわかるけど、そろそろ戻ってきなさいよ」
「……笑えばいいと思うよ」
「訳わかんない事言わないで頂戴」
「この世界には嘘が満ち溢れているんだ」
「うっとうしいから免許持って帰りなさい」
クーデリアさんはそう言うと俺に免許を投げてきた。
「ところで、まだロロナさん帰ってきてないんですか?」
俺は免許をポーチに入れつつ尋ねた。
「帰ってないけど、何? あの子帰ってくるって言ってたの?」
「そろそろ帰らないとって言ってましたよ」
「あー、うん、そうなの、ふーん」
必死に平静を保っているみたいですが、口元の緩みを押さえられてませんぜ。
「それじゃあ、ロロナさんが帰ってきたら、俺は村に行ってますって伝えといてください」
「それはいいけど、何でまた村に行くのよ?」
「いやー、トトリちゃんの誕生日のお祝いするの忘れてて……」
砂漠の冒険を甘く見ていたせいで、予定よりこっちに戻るのが遅れてしまったのだ。
今は3頭頃、トトリちゃんの誕生日は2月末ごろ。
本来はこっちに戻らずに直で行く予定だったのだが、どうせ間に合わないならと一旦戻ってきたのだ。
「そんじゃ、とっとと行きなさい、あの子にはちゃんと伝えておくから」
「どうもどうも、そんじゃまた今度」
俺はそう言って、ギルドの外に向かった。
「居たあ! ペーター!」
「うお! な、なんだよ!」
足を確保することに成功。
「ペーターはツェツィさんの事がだいす「わ! な、何言ってんだ!」……ククッ」
正に想像通りの反応だ。さて、やるか……。
2週間程度経過。
「よし着いた! ペーターががんばってくれたおかげだぜ☆」
「し、死ぬ……」
ペーターが自発的に寝ないで馬車を動かしてくれた甲斐がったというものだ。
「よっしゃ、早速アトリエに向かうぞ」
「ぷに!」
俺たちは早速アトリエに行こうとすると、ちょうどトトリちゃんが歩いているのが見えた。
どうやら港の方に向かっているようだ。
俺はトトリちゃんの方に向かい、声をかけた。
「どうしたんだ、港の方に向かったりして?」
「わっ! あ、アカネさん来てたんですか!」
声をかけただけで驚かれるのもなんか複雑な気分だな……。
「ちょうど今着いたところだ、港の方になんか用なのか?」
「あ、はい、お昼だからお父さんを呼びに来たんです」
「んじゃ、ついでだし俺もついてくよ」
あわよくば、お昼をご馳走に……意地汚いとか言わんでくれよ。
「あ、それじゃあアカネさんもお父さん探すの手伝ってくれませんか?」
「それって手伝う事あるのか?」
「お父さん、ちゃんと目を凝らさないと見つからないから大変なんですよ」
あれ?お父さんって妖怪かなんかだっけか?
俺は声に出せないような質問を考えつつも一緒に港に向かった。
本当に目を凝らせた瞬間見つかったらどうしよう……。
「んでな、ロロナさんはみず~って言った訳だ」
「あはは、先生相変わらずみたいですね……」
ロロナさんの話をしながら俺たちは歩いていた。
「おっ、着いたな」
できれば一瞬で見つかってほしいな……。
「ふん! ふっ! ふぬぬ!」
港に入るなり、大きな声が聞こえてきた。
「あれ? この声ってトトリちゃんの……」
「お父さん? どうしたんだろ、こんな大声出すなんて」
俺とトトリちゃんとぷには急いで奥の方に向かった。
「ああ、トトリにアカネくん、良いところで来てくれ手伝ってくれないか?」
グイードさんは釣竿を必死に引いていた、どうやらかなりの大物の様だ。
俺とトトリちゃんはグイードさんの後ろにつき、一緒に竿を持った。
「よしそれじゃあ、せーのでいくぞ」
「うん」
「了解しました」
「いくぞ! せーの!」
3人でタイミングを合わせて、竿を引っ張った。
「よいしょー!」
「よし、もう少し、もうひと踏ん張りだ」
「おらああー!」
ザバーン!
「よし! ……って、え?」
「きゅう……」
これは決してアザラシのゴマちゃんが釣れた訳ではなく……。
「へ? え、わ! ろ、ロロナ先生!?」
そこには宙づり状態になったロロナさんが、一体何がどうなってこうなった。
「これはまた、予想外大物だね。こんなの持って帰ったら、ツェツィも驚くだろうなあ」
「それどころじゃないよ! 先生! 生きてますか!? 先生!」
「ぷくぷく……おさかな……わたしは……おさかな……」
「よかった生きてる! ちょっとおかしいけど……って! あ、アカネさん何で泣いてるんですか!?」
「え?」
言われて初めて自分が涙を流していたことに気づいた。
だって、これは酷い……弟子が師匠のピンチに駆けつけるって……普通逆だろ。
それも昨日の今日でこんな事態に……こんな、事に……。
「涙が止まらねえ」
「え、えーと、と、とにかく連れて帰らないと!」
その後ロロナ先生を前と同じように担いで持ち帰った。
濡れているのをエロいと思ったのは、まあ仕方ないよな!
「はあ……助かった。今度ばかりはダメかと思った……」
ロロナ先生が目を覚ましたので現在はトトリ家のリビングにいる。
というか、前のあれは何とかなると思ってたのだろうか?
「よかった……びっくりしましたよ。まさか先生が釣れちゃうなんて」
「でも、どうして海に?しかも服のまんまで」
ツェツィさんが当然の質問をする。
これを一年前にされてたら、俺の場合河から流されてきましただな。
今となってはもう笑い話となったもんだ。クーデリアさん以外に言ってないけど。
「わたしも、よくわかんないんだけど、確かうに林で転んで、河に落っこちちゃって……」
「ぶっ!」
「ぷに!?」
刹那、俺は飲んでいたコーヒーをぷにに噴出した。
「あ、アカネさんどうかしたんですか?」
「大丈夫トトリちゃん気にするな。アハハ、ハッハッハ!」
「笑い引きつっててますけど……」
「い、いやあ! それにしてもロロナさん、大分流されて来たなあー!」
「え、あ、はい。でも、トトリちゃんとアカネさんに会えたから、ラッキーと言えばラッキーかも……」
俺は昔、あれは二回に一回は死ぬと言ったことがあった。
三回に一回に訂正しておこう、これを引き当てたロロナさんは確かにラッキーだ。
「全然ラッキーじゃないですよ、死んじゃったらどうするんですか!?」
「あはは……ごめんなさい」
「……ごめんなさい」
流れに便乗して謝ってみた。
「? どうしてアカネさんも謝ってるんですか?」
「いや、なんとなく……」
「ぷに~」
トトリちゃんは不思議そうな顔をしている。
いまさら言える訳ないわな、うん。ついでにぷにも謝っているようだ。そういや君もでしたね。
「その様子なら、もう平気そうですね。何か軽いもの作ってきます」
そう言って、キッチンの方に向かった。
ツェツィさんは相変わらず気遣いのできる女性ですなあ。
「あの、トトリちゃん……怒ってる?」
ロロナさんがオドオドと聞いてきた。この二人の関係って師弟関係だったよね?
「怒ってますよ、私だってずっと先生に会いたいって思ってましたけど、こんな風に再会するなんて……」
「本当にごめんね……次から気をつけるから」
「……っぷ」
俺は瞬間的に自分の口を手で抑えた。
だって、これ、完全に師弟じゃないじゃないか。笑うのも仕方ないって。
「……く、っくく、っぷ」
「あ、アカネさん酷い! そんなに笑わないでくださいよ!」
ロロナさんが涙目で俺を咎めてきた。
彼女は河の一件で笑ってるのだと思ってるのだろうな……。
「ぷに!」
「ぐはっ!」
ぷにが俺の事を物理的に黙らせてきやがった、ある意味ナイスだ。
「……ふう」
「えっと、大丈夫ですか? それにそのぷにって……」
「ああ、こいつはシロだ。こないだ言った俺の相棒だよ」
「へえ~、シロちゃんですか、かわいいですね」
ロロナさんが手を伸ばしてぷにを軽く撫でた。
「ぷに~」
褒められてぷにも満更じゃないようだ。
「まあ、とりあえず話を戻そうぜ」
「元はと言えばアカネさんが私の事笑ったせいじゃ……」
アーアー聞こえない。
「で、トトリちゃんは先生の事もう怒ってないのか?」
「あ、はい。無事だったからもういいですよ。先生は全然変わってないみたいですし」
俺的には少しは変わった方が良いんじゃないかと思ったりもするんだぜ。
「あはは……本当はもう少しちゃんとしないとダメなんだけど……。トトリちゃんは何か変わったことある?」
「ありますよ。アカネさんから聞いたかもしれないですけど、私、冒険者になったんです!」
「あ、そういえばそうだったね、おめでとう!」
「そういや、そん時に出た質問があるんだが聞いてもいいか?」
今までまったく聞く機会もなかったし、ロロナさんもいる今ならちょうどいいだろう。
「? なんですか?」
「うむ、なんでトトリちゃんは冒険者になったのかって言うことをな……」
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないっす」
「私も気になるなあ」
「えっと、それはですね……」
トトリちゃんの話を一言でまとめると。
トトリちゃんは、昔凄い冒険者だった行方不明のお母さんを探すために冒険者になったそうだ。
まさかこんな重大な事情があったとは……。
「感動した! これからは、いままで以上に手伝いを頑張るぞ!」
現状親不孝状態な俺としてはこういった心意気に感動せざる得ない。
「えっと……ありがとうございます?」
「ぷにもがんばるよな?」
「ぷに!!」
ぷにもかなりやる気満々のようだった。
「あはは、ロロナ先生にも感謝してますよ」
「え? 私にも?」
「はい、私ずっとお母さんを探しに行きたいと思ってたんですけど……体弱いし頭もよくないから無理だって諦めてて……でも、先生に錬金術を教えてもらってこれならもしかしてって」
「…………」
トトリちゃんはそんな思いで錬金術を習って冒険者になったのか、全部興味本位だったりの俺とはまったく違うんだな。
「それで、お母さんに会ったとき、お母さんと同じくらいの冒険者になってたら喜んでもらえるんじゃないかなって思って」
「「ううっ……トトリちゃん……」」
ロロナさんと俺の声が泣き声からハモった。
「わ! ふ、二人ともなんで泣いてるんですか?」
「だ、だってトトリちゃんすごく健気で……」
「俺と違って真面目に家族の事を考えていて……」
家族の喜びまで考えるって、もう俺がタダのクズ野郎にしか思えねえ。
「よし! 決めた! 私もトトリちゃんのお手伝いする!」
「え? 先生が?」
「うん! 一緒にお母さん探そう!」
「本当にいいんですか?」
「うん! そうと決まったら早速、トトリちゃん後でアーランドに来て!」
そう言うとロロナさんは風の様に外へと駈け出して行った。
「え? 先生、アーランドってそんな簡単に行ける距離じゃないですよ!」
トトリちゃんの叫びもむなしく、ロロナさんはもういなかった。
「よ~し、俺も久々に気合入れて修行でもするか、トトリちゃん、用があるときはいつでも言ってくれよ」
俺もさきほどのロロナさんと同じように外に向かった。
「あ、アカネさんもですか!?」
「アディオス!」
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体力づくりで外を入っていたら気づいてしまった。
「……ツェツィさんのお昼ご飯を食べていない!」
「ぷに~」