アーランドの冒険者   作:クー.

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でこぼこ討伐隊-後編

「お、いたいた」

 

 俺たちが林に入って数十分歩いた所で大分開けた場所に出た。

 そこには狼、俗に言うウォルフが4匹で行動していた。

 

「他の奴らが来る前に叩くとするか、編成は俺とミミちゃん、ぷにと後輩君で2匹ずつな」

「ぷに」

「了解よ」

「わかった」

 

 俺はメリケンサックを手に装備し、手袋とフラムがポケットに入っていることを確認した。

 

「よし、準備は良いな。……行くぞ」

 

 俺が小声で合図を出して林の中から左右に分かれて駈け出した。

 

「――グォ!?」

 

 奴らは俺たちに気づいたようで、うまいこと2頭だけがこちらに駆けてきた。

 距離は大して開いていない、ならここは……。

 

「俺が止めるから、援護を頼む!」

「わかったわ!」

 

 俺は走りながら指示を出した。

 残りの距離は5,6歩程度、俺はメリケンサックのグリップを握りしめて拳を作った。

 

 既に奴らの攻撃範囲内、俺は攻撃に対して身構えた。

 

「ガゥ!」

「フッ!」

 

 俺に向かって飛んで来た一頭の突撃を左に2度ステップして避ける。

 

「ガアア!」

「甘めぇ!」

 

 時間差で俺の首めがけて噛みついて来た一頭の突撃を先ほどよりも小さく左にステップしてかわす。

 同時に右の拳を固めて、攻撃が空を切った奴のガラ空きの下っ腹にアッパーを振り上げた。

 

「ガッ!?」

 

 きれいに決まったアッパーを受けて、奴は斜め後ろに小さく吹っ飛んだ。

 ここまでは完全にいつもウォルフを倒している時と同じ流れだ。

 

「グゥルルルル」

 

 受け身を取れずに地面に投げ出された奴は、ふらふらと立ち上がりながら近づいてくる俺に向かって唸り声をあげた。

 

「悪いね」

 

 奴が体勢を完全に立て直す前に俺は足を振り上げ、そのまま全体重を掛け真っ直ぐ奴の首に振りおろした。

 

「――グガッ!?」

 

 足には骨を砕く嫌な感触、まあ慣れたけどね。

 トトリちゃんなんて、倒した後普通にモンスターから材料剥ぎ取るんだぜ。

 流石に俺もあの行為をやるのは慣れない。

 

「ミミちゃんの方はどうだ?」

 

 最初に避けた一頭を相手にしているはずのミミちゃんの方を見た。

 

「もう終わったわよ」

「流石だな」

 

 近づいてくるミミちゃんの後方には無残にも両断されたウォルフが転がっていた。

 

「て言うか、あなた自分で常にモンスター全体を見渡せとか言ってなかったかしら?」

「君を信用してのことさ」

 

 基本的に俺は一体しか相手にできないので、必然的に避けたのは後ろに回すことになるのだ。

 だから一応後ろの人は信用しておく、決して自分の言葉を忘れていた訳じゃあない。

 

「あいつらも終ったみたいだな」

 

 俺が左を向くとぷにと後輩君がこちらに歩んで来ていた。

 

「――ッ!?」

 

 途端、二人に影が降りた、上を見るとグリフォンが二頭、いや三頭が上空を旋回していた。

 

「全員! 林に逃げるぞ!」

「クッ、仕方ないわね」

 

 流石のミミちゃんもプライドよりは安全性の方が大切なようだ。

 俺とミミちゃんは林の方に逃げだした。

 

「ッ!? おい、お前らもとっとと逃げろ!」

 

 何故か林の方を向いて立ち往生していた二人に俺は大声で指示を出した。

 

「せ、先輩! まずい!」

「……は?」

 

 じりじりと後ろに下がっていく二人の前には、林から顔を出す数頭のウォルフがいた。

 

「マズイ……」

 

 頭の中が真っ白になる、他の担当区域の奴らは何をしてるんだ、ここにこんな数集まるなんて。

 上空のグリフォンだけでも厄介なのにまさかウォルフまで来るとは。

 

「こ、こっちだ!こっちに走れ!」

 

 俺は武器を外して右手をポケットに突っ込み、フラムを一本取り出した。

 

 後輩君はぷにを抱えて、俺たちに向かって走ってくる。

 それを追ってくる、5頭のウォルフ。高度を下げてきたグリフォンたち。

 

「フラム!」

 

 俺は導火線の先を擦り火を点けて、ウォルフの群れに向かって投げつけた。

 火を点ける手間のかからない不思議な導火線に今初めて感謝した。

 

 

 投げつけたフラムは後輩君の頭を越えて群れの一頭の頭上で爆破した。

 そこまで大きくない爆発は、周囲の一頭も巻き込んだ合計二頭を葬った。

 

「よし!」

 

 キエェェェー!

 

 喜んだのも束の間、グリフォンの一頭が後輩君に向かい上空から真っ直ぐに降下してきた。

 残り数十歩、俺とミミちゃんはなんとか援護しようと駈け出した。

 

「ぷに!」

 

 ぷにが一声鳴くと、後輩君の頭の上から降下してくるグリフォン目がけてぷにダイブを繰り出した。

 

「ぷに!?」

「キエェェェー!?」

 

 上空でぶつかり合う二頭。グリフォンはカウンターをもろに受けて、地面へと落ちていった。

 ほぼ相討ち、流石のぷにも助走なしでの攻撃は無理があったようで大分ダメージを負ってしまったようだ。

 

「二人とも、とりあえずウォルフからだ!」

「わかった!」

「了解したわ!」

 

 地面に伏しているぷにを守るために俺たちは、平行に並んでいるウォルフを迎え撃つ。

 俺は左ポケットから素早く手袋を取り出して、何も付けてない右手に装着した。

 

 当然既に奴らの制する範囲だが、身体能力が一時的に向上している俺なら……。

 

「フンッ!」

 

 俺は前に小さく飛び、着地と同時に身を沈め、腕を地面すれすれまで近づけながら突き出した。

 

「ガッ!?」

 

 左の一頭を後方に弾き飛ばす、他の二頭も俺と同時に駆けだした二人が相手をしてくれているようだ。

 俺は拳を当てた、一頭を追撃するために再び走り出した。

 

「お終いだ!」

 

 加速を生かしたまま、俺は倒れているウォルフに右拳を叩きつけた。

 

「ふう……」

 

 ウォルフを倒したためか、手袋による疲労のためか、俺は一瞬気を抜いてしまった。

 

「あ……」

 

 気づいた時にはもう遅かった。

 前足を突き出して降下してくる一頭のグリフォン。

 

 二人が何かを言っているのが聞こえる、今回は前のメルヴィアのような助けはない。

 瞬きもできず、目の前の光景が近づいてくるのが見えた。

 

「これで終わりか」

 

 俺は静かに目を閉じた。前はここでぷにが助けてくれたが、そんな助けもない。

 

「グッ!」

 

 地面に叩きつけられる衝撃、グリフォンの前足で俺は抑え込まれたようだ。

 ここで、こいつが力を入れれば俺は……。

 

「――カッ――ハッ」

 

 最後に二人に何かを言おうと思ったが声が出なかった。

 俺は覚悟を決めて、目をさらに堅く閉じた。

 

 

 

「ハアッ!」

 

 

 途端に俺に掛る体重が軽くなった。

 驚いて目を開けるとそこにいたのは……。

 

「ステルクさん!?」

「まったく、何をぼうっとしているのだ君は」

 

 黒いコートに鋭い目つき、それが今日ばかりは頼もしく見えた。

 グリフォンはというと今の一撃でやられていた。

 

「流石ですね」

 

 俺は安堵から軽口をたたきつつ立ち上がった。

 強いだろうとは思っていたけど、まさかぷに以上とは……。

 

「あとは任せて、君は休んでいるといい」

「んじゃ、お言葉に甘えて」

 

 俺は座り込むと同時に気を失った。

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「……どこやねん」

 

 俺が目を覚ますと見覚えのない天井が目に入った。

 

「あら、目が覚めたみたいね」

「? クーデリアさんですか?」

「ええ、よく無事だったわね」

「無事なんですかね? これ」

 

 俺は起き上がると体に全身に痛みが走った。

 これは……初めてガチで筋トレしたときの筋肉痛以上だ……。

 

「……くぅーーっ」

「あんまり無理しない方がいいわよ、幸い骨は折れてないみたいだけど」

「そうすか、で? ここどこですか?」

 

 周りを見渡すと、そこそこ広い部屋にベットがいくつも置かれていた。

 

「ここはギルドの医務室よ、あんたは一昨日ここに運び込まれたのよ」

「ああ、なるほど。……情けない」

 

 ここにいないってことは二人は無事なのに俺だけ医務室行きって……。

 

「別にそんなことないわよ」

「でも、原因は俺が気を抜いたことですし……」

 

 俺がそう言うとクーデリアさんが顔を引き締めて俺の方を見てきた。

 

「言っとくけど、今回の件であんたに悪いことなにもないわよ」

「は? それはどういう……」

「他の討伐隊の怠慢、要はさぼりね。少し働いて後は休んでたそうよ」

「…………」

 

 何? つまり俺はそんなことで死にかけたの?

 そんな不幸系主人公みたいなの俺はごめんですよ?

 

「顔が怖い事になってるわよ」

「あははは……」

「今度は目が笑ってないわよ」

「……はあ」

 

 思わずため息をついてしまった。

 今回は楽な仕事のはずだったのに、まさか見知らぬ他人のせいで……。

 

「そいつらの報告をしておくと、免許没収かつギルドへの一年の奉仕活動」

「え?」

 

 この人すごい良い笑顔でものすごく恐ろしい事言わなかったか?

 

「奉仕活動って?」

「そうね、雑務の手伝いとか必要物資をそろえるとかいろいろね」

「一年もですか?」

「ええ」

 

 なんか可哀相になってきた。奉仕活動だよ? お給料でないんだよ。

 いつかパンチしてやろうかと思ったけど、いらないかもしれない。

 

「やりすぎじゃないですか?」

「あら、この国の錬金術師ロロライナ・フリクセルの弟子を殺しかけたんだからこのくらいは当然じゃないの?」

「そ、そうですね」

 

 なんという笑顔か、この人を怒らせてはいけない、俺は改めてそう思った。

 

「しかし、ステルクさんが来なかったらと思うとぞっとしませんね」

「そうね、すぐに送り込んでよかったわ」

「本当に、でもどうして気づいたんですか?」

 

 いくらステルクさんがスーパー騎士様とは言え、いきなりあのタイミングで来るなんてなあ。

 

「鳩よ鳩。あいつたくさん鳩飼ってるから今回の作戦に協力させてたのよ」

「それで、様子がおかしいのに気づいて?」

「そういうことね」

 

 正直ステルクさん鳩飼ってるんだって言う感想しか出てこない。

 今度ちゃんとお礼しないとな。

 

「ステルクさん、まだ街にいますか?」

「いえ、帰って来てすぐに出てったわよ、なんでも弟子にしろってうるさいのがいるとか」

「ああ、たぶん家のジーノ君ですね」

 

 初対面の時に目標とか言ってたからたぶんそうだろう。

 

 

 ガチャ

 

 

 俺とクーデリアさんの会話が途切れた所で、部屋の扉が開いた。

 

「あ、先輩起きてる」

「ちょっと、早く入りなさいよ」

 

 おずおずと後輩君とミミちゃんが入ってきた。

 二人は俺に近づいてきた。

 

「先輩大丈夫か?」

「ん? 結構平気だな」

「だから言ったじゃないの、死んでも死なないような奴だって」

「…………」

 

 酷くないか?

 

「え? ここに運んだ時、心配だって言ってなかったか?」

「ちょ!?」

「ふ~ん」

 

 口元がなんか自然と上に曲がってくるねえ……。

 

「な、なにニヤニヤしてんのよ!」

「別に~」

「く、クーーッ、帰るわ!」

 

 ミミちゃんは顔を真っ赤にして帰って行った。

 ツンデレって面白いっすね。

 

「んじゃ、先輩俺も帰るよ、これから村におっさんを追いかけに行くんだ」

「あんまり困らせるなよ」

「ああ、そんじゃ、早く元気になれよ~!」

 

 後輩君も外へと慌ただしく出ていった。

 

「元気だな~」

「それが良いところだったりするんじゃないの?」

「ま、そうですね」

 

 

 なんだかんだで、俺は結構いろんな人に心配されているようだ。

 考えてみればこっちに来てもう一年以上、人との繋がりも深くなっているってことか。

 

「いい所ですよね、ここ」

「は?この医務室あんまりお金かけてないわよ?」

「ん~、まあ、いい所なんですよ」

「?」

 

 人との関係がほんの数年でなくならない辺り、俺の世界よりもいい所ですよ。

 

 

 

「……あれ? ぷには?」

「あんたのアトリエで寝てるけど?」

 

 

 ぷにとの関係も深く……なってるよな。相棒だもんな?

 


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