アーランドの冒険者   作:クー.

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オリジナル爆弾

「あ~、肩痛い……」

「ぷに~」

「労わってるつもりだろうけど、肩で跳ねられると余計に痛いからな?」

「ぷに……」

 

 医務室から出て一週間、ようやっと錬金術を使えるくらいに回復した俺は、師匠のアトリエで一つの試みをしていた。

 

「くく、このアイディアをくれたイクセルさんには感謝だな……」

 

 それは、今日の昼ご飯を食べにサンライズ食堂に行った時の事。

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「イクセルさん、腹減った~」

「今忙しいんだから、少しくらい待ってろ」

 

 俺は食堂のカウンター席で頼んだ料理が来るのを待っているのだが、今日の食堂はなかなか盛況で知り合いである俺は仕方なく後に回されている。

 

 

「うう、こんなパン一つじゃ腹が満たされん……」

 

 サービスでコッペパンっぽい形のパンを一つもらったが、こんな物では十代の腹の足しにもならない。

 

「早く客よ、いなくなれ……」

 

 

 

 待つこと数十分。

 

 

 

「いや~待たせたな。はい、お待ちどう」

「本当に待たされましたよ……」

 

 まさかこんなに待たされるとは、俺はさっそく出されたスープとハンバーグを食しにかかった。

 

「はあ~腹にしみるな~! 待たされただけあって」

「悪かったって、そんなに腹減ったのか?」

「ここ一週間くらい宿に引きこもって療養してたから、まともな食事取ってなかったんですよ」

「療養?」

 

 途端にイクセルさんが怪訝そうな顔をした。

 

「ええ、ちょっと仕事の方でへまをしたというか……」

「ふ~ん、まあ、無事ならよかったじゃないか」

「まあ、そうなんですけどね」

 

 俺はハンバーグを咀嚼しながら、イクセルさんの全身を観察した。

 

「? なんだよ、じろじろ見て」

「あ、いや、その」

 

 俺は口に入っているものを飲み込んで言葉をつづけた。

 

「イクセルさんって、昔よく師匠と一緒に冒険してたんですよね?」

「ん? まあ、冒険って言うより俺は材料を取りに行ってたんだけど、まあだいだい合ってるな」

 

 それがどうしたんだ? とイクセルさんは言葉を続けた。

 

「いや、実はイクセルさんも強かったりするのかなって思いまして」

 

 どうにも剣とか使って戦ってたとは思えない。

 まさかフライパンとかで戦ってたわけじゃないだろうけど。

 

「まあ、ロロナに付いてってたから、弱くはなかったな」

「グリフォンを一人で相手にできたりしましたか?」

「う~ん、今はともかく、昔ならできないことはなかったと思うぞ」

「そうですかー」

 

 若干落ち込む俺、やっぱりそのくらいの強さは必要ということだろうか。

 昔に比べれば、力も強くなったし場数も踏んだとはいえ、俺は奴を一人で相手取ることはできない。

 

「で? なんでそんなこと聞いてきたんだ?」

「いや、いろいろあるんですよ」

 

 決して俺は戦いたいと言う訳ではないが、前みたいな状況になったことを考えるともう少し強くなりたいとか思う訳よ。

 実際、あの時ステルクさん来てくれなかったら俺は確実にダイしていただろう。

 その上、他の二人もどうなっていたかわからない。

 

「どうしたら強くなれますかね?」

「俺は単純に戦ってる間に強くなってたって感じだからなー」

「うー。やっぱり地道に行くしかないのか……」

「でもお前は錬金術使えるだろ?」

「俺は戦闘に使えるの爆弾しか作れないんですよ~」

 

 俺は机に突っ伏した。

 実際これより上はないんじゃないかって言うくらい強力ではあるけど、まだ威力が足りないと言うか。

 

「そう言えば俺昔から疑問だったことがあるんだよ」

「へ? なんすか?」

 

 俺は顔をバッと上げて続きを聞いた。

 

「いやな、ロロナの奴いろいろと爆弾使ってたんだけど、あれって錬金術で混ぜられたりしないのかって」

「え? いや、それは……」

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「という訳で! 今日作るのは俺のオリジナル爆弾! 三色爆弾さ!」

「ぷにに!」

 

 そう、異なる属性の爆弾を3つ合わせたすごい爆弾を作ると言う訳さ。

 属性合わせ技は古今東西威力が高いと決まっている。

 氷と炎を合わせた極大消滅呪文とかそんな感じの。

 

「とりあえず、今作ったので材料はそろった」

 

 俺はたった今作り終えた、わかりやすく雷の形をした、雷の爆弾を釜から取り出した。

 そして、それを他の材料がそろった釜の横に設置したテーブルに置いた。

 

 

「では、始めるとしよう」

「ぷに!」

 

 俺は一つ深呼吸をして、作業に取り掛かった。

 

「アカネの3分クッキング~!」

「ぷに!?」

「テレレッテテテ、テレレッテテテ、テレレッテテテトゥ~ルッテ」

「……ぷに」

 

 ぷにが肩の上から痛い人を見る目で見ているが気にしない、ちょっとくらいはしゃいだっていいじゃないか。

 

「本日用意する材料はこちら、中和剤とフラムにレヘルン、そしてたった今作ったドナーストーンをそれぞれ一つずつ」

「ぷに」

 

 俺は三つの材料を手に取った。

 

「そして、まずこの三つを~」

「それをどうするの?」

「釜の中に! どぼ~……ん?」

 

 俺は材料を入れる手を止めて、斜め後ろを振り返った。

 

「師匠?」

「そうだよ」

 

 あれ? なんか今日の師匠はいつもの笑顔なんだけど、威圧感があるような……。

 

「というかどうしてここに? 確か村の方に行ってたはずじゃ……」

「うん。ステルクさんからアカネ君の事を聞いて急いで帰ってきたんだよ」

「へ、へえ~、そうのか」

 

 どう考えても日数計算が合わないだろ、何か不思議なアイテムでも使ったのか?

 

「あ、あはは……」

 

 今の気分としては親のいない家で好き放題してたら、唐突に親が帰ってきた気分、異常に悪い事をした気になるって言うか。

 

「それで、アカネ君、今何をしようとしたのかな?」

「え、え~、それは~」

 

 二の句を継ぐことができずに、言葉を濁すことしかできなかった。

 

「その爆弾をどうするつもりだったの?」

 

 今日の師匠は妙に迫力がある、一言で言うなら本物の師匠っぽい。

 その威圧感に負けて俺は正直に話してしまった。

 

「か、釜の中に入れようとしてました……」

 

「もう! ダメでしょ! そんな危ないことしたら!」

「ひ、ひい! す、すいません!」

 

 ま、まさか師匠に怒られる日が来るとは思わなかった。

 

「どうしてそんなことしようと思ったの!」

「そ、それは、ちょっと昼にイクセルさんと話してたときに……」

「イクセ君が悪いんだね! ちょっと行ってくる!」

「え!? 違っ! 師匠!?」

 

 師匠は既にアトリエの外へと出ていってしまっていた。

 

「……どうしよう?」

「ぷにぷに」

 

 ぷには俺の手に持ったままの材料を見つめて鳴いた。

 

「……本気か?」

「ぷに!」

「そのチャレンジャー精神! それでこそ俺の相棒だ!」

「ぷにに!」

「よし! 錬金開始!」

 

 俺は爆弾三つを釜に投げ入れた。

 反省は後でもできるが、この行動は今しかできない。そうだろう?

 

「やっぱり人生は所々でロックな精神を入れたほうが楽しいよな!」

「ぷに!」

 

 俺は背徳から来る高揚感から妙にテンションが高くなっている。

 

「えんぐるるる~、ぐるる~!」

「ぷに~、ぷに~」

 

 釜の中を杖でかき混ぜ続ける、あと数十分ほどかき混ぜたら中和剤の出番だ。

 

 

 ……数十分後。

 

 

「試験官に入っておりますは、高品質の中和剤」

「ぷに」

 

 俺が前に品質は高くなるような材料を選りすぐって作った、とっておきのS級中和剤。

 こいつを使えば、きっとうまくいくはずだ。

 

「こいつをこの中に行ってき垂らすと……」

 

「ただいま~」

「え!? し、師匠!?」

 

 突然帰ってきた師匠に驚いて俺は後ろを振り返った。

 

「ぷ、ぷに! ぷに!」

「あ、あーーー!」

 

 ドバドバと試験官にたっぷりと入った中和剤全てが釜の中に注ぎ込まれていた。

 

「続行だ」

「……ぷに」

 

 もはや破れかぶれ、俺はそのままかき混ぜ続けた。

 

「あれ? アカネ君何作ってるの?」

「ふ、フラムだよ、フラム。そ、それよりもさっきクーデリアさんが来て呼んでたぞ」

 

 とりあえず、この場を危険的な意味でも離れてもらうために軽く嘘をついておいた。

 

「え? くーちゃんなら食堂で会ったけど?」

「……て、ティファナさんが呼んでたの間違えだ」

 

俺がそう言うと、背中に刺すような視線を感じた。

 

「アカネ君、もしかして!」

「ち、違う、俺は悪くない、ぜ、全部ぷにがやれって! 俺は悪くねえ!」

「ぷに!?」

「事実だろうが!」

「ぷにに!」

 

 ぷにが抗議するように俺の左肩で飛び跳ねた。

 

「ちょ、肩! まだ回復しきってないって! ああ!?」

 

 俺が痛みから杖を持ちかえ、右手をサイドテーブルにつく。

 すると、ガタが来ていたのか、木製のテーブルは釜の方向に大きく傾きいろんな材料が釜の中に混ざりこんだ。

 

「アカネですが、釜の中がカオスです」

「ちょっと、アカネ君! ど、どうするの!?」

「落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない」

「だ、だって、今いろいろ混ざっちゃったよ!」

 

 まったく、何を慌てているのか、何ら問題はないだって今作ってるこれ……。

 

「実はレシピとか製法全く考えてない、ノリと勢いで作ってるんだからな」

「あ、アカネ君が危ない錬金術師になっちゃった……」

 

 師匠が涙目で愕然と立ち尽くしている。

 まあ、混ざったのなんてこれのために作ったフラムとかレヘルンとかの材料だから問題ないだろう。

 

「クックック」

「ぷに~」

 

 俺は完全にタガが外れて釜を混ぜ続けた。

 すると突然釜が光り始めた。

 

「出でよ!我が爆弾よ!」

 

 このまま釜が爆発するか、それともちゃんと爆弾ができるか。

 確立としては9:1くらいの割合な気がする。

 

「おい、ぷに何ちゃっかり逃げてるんだ」

 

 俺が釜の反応を見続けているのというのに、ぷには外への扉近くに待機していた。

 

「師匠まで……」

「だ、だって、それ絶対に爆発しちゃうと思うし……」

「信頼がなさすぎる……」

 

 しょうがないとか言うなよ?俺は成功することを一応信じてる。

 

「むっ?」

 

 途端に光が収まり始めた。

 

「み、見たか! これが俺のレシピの力よ!」

「れ、レシピないって言ってたような……」

 

 外野がうるさいが、気にせずに反応を見守った。

 

 

 ポンッ!

 

 

「で、できた」

 

 小さな爆発が釜で起きると、光が完全に収まっていた。

 

「これが、幻の三色爆弾プラスアルファ」

 

 いろいろ混ざったせいでアルファの部分は分からないが。

 取り出した、爆弾の見た目はというと……かなり前衛的だった。

 

 基本的な形はフラム、赤い柄に雷のマークがプリントされて、本来導火線があるはずの部分、フラムの先に雪だるまの頭がくっ付いていた。

 

「と、とりあえず。どうだ師匠?」

「知らない !こんな危ない事する子なんて……もう! せっかく心配して来たのに!」

「あ、あう……」

 

 どうやら本当に怒ってしまったようで、師匠はアトリエの外に出ていった。

 

「ぶ、ブレーキ踏み損ねた?」

「ぷに」

「う、師匠が怒るなんて相当だよな」

「ぷ~に」

「師匠の好きなものでもクーデリアさんに聞いてみるか……」

「ぷに」

 

 ちゃんと村の方に行って謝らんとな。

 

 

 

 

 

参考書・アカネのレシピ(三色爆弾)

 

材料

フラム・1個

レヘルン・1個

ドナーストーン・1個

 

その他

フラム、レヘルン、ドナーストーンに使われる材料の何か。

 

候補

フロジストン

樹氷石

震える結晶

火薬系の素材

 


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