アーランドの冒険者   作:クー.

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錬金パイ作り

「今日の課題はパイだ!」

「ぷに」

 

 

 師匠に逃げられた次の日、クーデリアさんに事情を話し、機嫌をどうやったら直してくれるか聞くと

 

『おいしいパイでもあげたら喜ぶんじゃないかしら』

 

 とため息をつかれつつ言われたので、さっそく机に座って作業に取り掛かっている。

 

 

「ちなみに今回もオリジナルな」

「ぷに!?」

「仕方ないだろ、師匠ってパイ作るのすごいうまいらしいからさ。普通の物じゃあ喜んでくれなさそうだろ?」

「ぷに~」

「安心しろ。今回は前回の反省を生かしてある」

 

 人は過去の失敗から学ぶ生き物だ。

 俺の目の前にあるのは、羽ペンに白紙の紙ついでにぷに。

 

「今回は最初にレシピを考える!」

「ぷに……」

「そんな当然だろみたいな目で見るなよ」

「ぷにい~」

 

 ため息つきやがったよこいつ、確かに冷静になって考えると当然のことだけど。

 

「とりあえず、どんなパイ作るか決めるか」

「ぷに」

 

 俺はペンをインクを入れた小瓶から取り出して、思いつくものを書き連ねていった。

 

 

 アップルパイ、レモンパイ、チェリーパイ、マロンパイ、ブルーベリー、バナナetc...

 

 

「……材料が揃いそうなものは、全部師匠作ってそうだな」

 

 別においしければ良いんじゃないかって思うけど、どうせなら食べたことのない物を作りたい。

 

「…………」

 

 俺はとりあえず、今書いたものに必要な物を名前の横に書いておいた。

 

 アップルパイ・小麦粉 水 塩 リンゴ

 レモンパイ・小麦粉 水 塩 レモン

 

 

「……俺って今錬金術のレシピ書いてるんだよな?」

 

 だんだん自分のしてることに自信が持てなくなってきた。

 

「と、とりあえず続けるか」

 

 

…………

……

 

 

「そして一週間が経った」

「ぷに!?」

「いや、なんか興が乗って来てついついやりすぎたんだよ」

 

 調合の仕事をしつつレシピを書き続けているうちに……ね。

 

「目的を忘れるほど熱中できる、いいね!」

「ぷに!」

「ぐふっ!?」

 

 このタックルの意味は、ふざけるなとそう言うことですね。

 

「ま、まあでも良い感じのが何個かできたし、良いじゃないか」

「……ぷに」

 

 ぷにが見せてみろって感じでレシピの束に目線を向けた。

 たぶん三十枚くらいはあるはずだ。

 

「え~と、どれだったか……」

 

 俺は紙の束を手に取り、一枚一枚見ていった。

 

「……なんだこれ」

 

 

 びっくりアップルパイ・小麦粉 水 リンゴ 火薬

 

 備考)中に焼きリンゴ丸ごとぶちこむ

 

 

「眠かったんだろうな俺」

 

 とりあえずビリビリに引き裂いておいた。

 

 

「ぷに」

「確かに先行きが不安になってきた」

 

 手に持っている物が急に魔の物質に見えてきた。

 

「よし、続けるぞ」

「ぷに」

 

 アップルパイ

 

「セーフ!」

 

 蜂蜜パイ

 

「これってハニーパイじゃん」

 

 薬草パイ

 

「許容範囲だ。べジパイなんて物もある」

 

 ゼッテルパイ

 

「……ちゃんと作れるようになって嬉しかったんだろうな」

 

 ゴミ箱に捨てといた。

 

「……ぷに」

「いや、きっと何か良いのあるって」

 

 ぷにがジト目で俺の事を見てきたので弁解した。

 確かに言い逃れできないのが一つあったけど。

 

 

「お、これとかいいんじゃないか?」

「ぷに?」

 

 揚げパイ・小麦粉 水 油

 

「……パイって揚げれるのか?」

「ぷに~」

 

 とりあえず保留にしといて他のを見てみるか。

 

 

…………

……

 

 

「こんなもんか」

 

 ぷに先生の審査をクリアしたのはさっきのを合わせて三つしかなかった。

 

「ココアミルクパイにぷにパイだけか……」

「ぷに」

「つか、このぷにパイは完全にエコ贔屓しただろ」

「ぷに~」

 

 しらを切っているが言い逃れはできない、このパイは単純に手作りパイをぷにの形にしてあるだけのものだ。

 

「何が驚いたって、横線引いてある材料にシロって書かれてた事だよな」

「ぷに」

 

 あの時初めてぷにの青ざめた表情を見た。

 

「まあ、レシピはそろった訳だし」

「ぷに」

「レッツ!クッキン……錬金術!」

 

 

 

三日後

 

 

 

「唯一の成功がぷにパイってどういうことだよ」

「ぷに」

 

 あれから、時間をかけて何度か試作を行ったが結果は酷かった。

 

「揚げパイは油でギトギト、ココアミルクパイは黒い塊になった」

「……ぷに」

 

 一番悲惨なのは、後処理をしたぷにだろうな、若干目が死んでたし。

 

「いろいろ考えた結果、揚げパイには卵を加える、ココアの方は俺のレベルが足りないってことだと思う」

 

 パイを作るのにレベル不足って言うのは若干納得がいかないけど、感覚的にまだ無理だってわかってしまう。

 

「適当なもの作ってもあれだし、ゆっくりと研究してくか」

「ぷに」

 

 俺の初のちゃんとしたレシピがパイなのは微妙な気分だけどな。

 

 

 

三日後

 

 

 

「ふむ、できたか?」

「ぷに」

 

 あれからさらに薄力粉も加えるなどして改良を加えていった結果。

 俺の手には衣に覆われたパイがあった。

 

「試食なされ」

「ぷに~」

 

 ぷには恐る恐るといった具合にパイを丸呑みした。

 

「ぷに!」

「おお! 丸呑みのせいで全然伝わってこないけどうまいか!」

「ぷに」

「よ~し、そんじゃもう一回作って他の人の意見も聞いて回るか!」

 

 ぷにの意見だけじゃあれなので、本職のイクセルさんとか師匠のパイを食べ慣れてそうなクーデリアさんとかにも試食してもらおう。

 

「えっと、小麦粉に卵に塩と水、油に薄力粉っと」

 

 くどいようだが、俺がやっていることは錬金術なのでそこんとこよろしく。

 

「んじゃ、始めるか」

「ぷに」

 

 俺は材料を釜の横にある机に置き、杖を手に取った。

 もちろん机はちゃんと買い換えてある。

 

「最初に入れるのは小麦粉に水に塩っと」

 

 まずはオーソドックスなパイの材料を入れる。

 

「このまま数十分かき混ぜて」

 

 パイを作る速度は爆弾に比べて大分遅くなってしまう。

 ちなみに師匠はパイを作るのがやたら早かったりする。

 

「前戦闘中にパイ作り始めたのにはビビったよな」

「ぷに」

 

 どこからともなく釜を取り出して、パイを作って回復した時には開いた口が塞がらなかった。

 

「俺のこと怒ったけど、あの人も結構アレだよな」

「ぷに~」

 

 まあ、俺の場合作ってたのが爆弾って言うのもあるけど。

 

 

…………

……

 

 

 コンコン

 

「ん?どーぞー」

 

 もうすぐ完成というところで、扉がノックされた。

 

「こんにちはー」

「おお、トトリちゃんじゃないか」

 

 玄関にはトトリちゃんが立っていた。

 

「でも、こないだ村に戻ったばっかじゃなかったか?」

 

 たしか、まだ二ヶ月ちょっとしか経ってないはずだ。

 

「えっと、アカネさんが怪我したって聞いて心配で……」

 

 どうやらこの世界には天使がいるみたいだな。

 主に俺の目の前に。

 

「心配しなくても、俺はもうピンピンしてるさ」

「はい、元気そうで安心しました」

「うむ、とりあえず早く入ってきなよ」

 

 玄関に立ちっぱなしのトトリちゃんをアトリエに入るよう促した。

 

「あ、はい。先生、隠れてないで出てきてくださよ」

「え?」

 

 トトリちゃんが声をかけると、扉の横から師匠が顔を半分覗かせてきた。

 そういやトトリちゃんが帰って来たってことは、師匠も帰って来たってことだったな。

 

「えーと、師匠?」

「むー、アカネ君なんてもう弟子じゃないもん」

 

 どうやら俺はいつの間にか破門されていたようだ。

 

「先生、まだそんなこと言ってるんですか……」

「だ、だって! アカネ君があんな事するから!」

「でも、言いすぎたかもって言ってたじゃないですか」

「そ、それは、そうだけど……」

 

 でもでもと口を尖らせる師匠、俺の師匠は今日も可愛いな。

 

「とりあえず、二人とも中に入って来たらどうだ?」

 

 玄関先で喧嘩になるのも世間体的にまずいしな。

 

「そ、そうですね」

「むー、私のアトリエなのに……」

 

 師匠の怒りはどうやらまだまだ収まらないらしい。

 

「師匠、これあげるから機嫌直してくれないか?」

 

 俺は釜の中に手を突っ込んだ。

 

「物で釣ろうなんて、わたしそんなに甘くないんだから!」

「パイなんだけど……」

 

 俺は両手で持って、師匠の前に差し出した。

 瞬間、師匠の目の色が変わったのがわかった。

 

「師匠に機嫌直してもらいたくて作ったんだけど……」

「そ、そんなに言うなら、い、一応食べてあげる」

 

 師匠は俺の手からパイを受け取り、口に運んだ。

 本当にパイが好きなんだな、師匠って

 

「お、おいしいよ!これ!」

 

 俺はあの後反省した、だからパイを研究した、そう反省したのだけど……

 ちょろい、俺はそう思わずにはいられなかった。

 

「サクサクした衣と中のパイの生地が合わさって、良い感じに溶け込んで……」

 

 なんか料理番組が始まってる。

 謝るなら今しかないか。

 

「師匠、こないだの事は悪かったよ」

「こ、このパイは関係ないけど、許してあげるね」

「あ、はい」

 

パイを頬張りながら言われても説得力がないぜ。

 

「でも、こないだみたいなこともうしちゃダメだよ」

「絶対?」

「絶対! やりたいなら、ちゃんとわたしに相談してから!」

「オーケー、わかった」

 

 なんかあっさりと解決しちゃったな、まあ師匠がそんな永遠と怒ってるのもイメージに合わないけど。

 

「ところで、先生には聞いたんですけどアカネさんの作った爆弾ってどんなのなんですか?」

「ん?ああ、それならここに……」

 

 俺は部屋の隅に設置された俺のコンテナの中から三色爆弾を取り出した。

 

「この爆弾はきっとかなりの威力があるはずだ」

 

 俺はそれをトトリちゃんに手渡した。

 

「ちょっとかわいい見た目ですね……あれ?」

「ん?どした?」

 

 トトリちゃんが唐突に疑問符を浮かべた。

 

「この折れ目なんですか?」

 

 今まで気づかなかったが、爆弾には二カ所折れ目のようなものが付いていた。

 

「あれ? 本当だ、なんだこれ?」

「何? 見せて見せて」

 

 師匠も興味があるのか近づいてきた。

 

「ふむ、とう! たあ!」

「ええ!?」

「あ、アカネ君!?」

 

 俺は折れ目に沿って爆弾を2度折った。こういう時は思い切りが重要です。

 

「折れた部分は……」

 

 雷マークのある下段、真っ赤な無地の中断、雪だるまのついた上段に分かれた。

 

「……まさか」

「こ、これって……」

「三つの爆弾がくっ付いただけ……とか?」

「ぷに~」

 

「…………」

 

 居たたまれない沈黙状態になってしまった。

 誰か一人でいいから笑ってくれよ。

 危険も顧みず勢いで作った結果がこれだよ。

 

「師匠」

「な、何?」

「レシピって重要ですよね」

「そ、そうだね」

 

 

 やっぱり俺は間違っていたようです。

 結局俺は一度に三つ投げられる爆弾を作っただけってことかよ……。

 


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