アーランドの冒険者   作:クー.

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酒は飲んでも飲まれるな

 前の三色バカ弾の一件から数日したある日、俺は机に座って参考書を読んでいた。

 

「やっぱり時代は完成された物にこそあるのさ」

「ぷに」

 

 無理にオリジナりティーを出す必要なんてない、昔の俺はそんなことを理解できていなかった。

 所詮は素人の浅知恵でどうこうなる代物じゃないってことだな。

 

「やばい、今の俺超真面目じゃないか」

「ぷに~」

 

 俺に知識まで加わったら、筋肉と合わせて最強になってしまう。

 

「クックック」

「ぷに……」

 

 俺がそんなこんなしていると、後ろから悩んでいるような声がした。

 

 

「うーん、どうやって作るんだろう?」

 

 首を曲げて後ろを向くと、そこではトトリちゃんが立ったまま唸っていた。

 

「何悩んでるんだ?」

 

 その様子が気になったので、俺は椅子から立ち上がってトトリちゃんに近づいた。

 

「あ、アカネさん実はですね……」

「うん?」

「お酒ってどうやって作るのかわからなくって」

 

 思考がフリーズした。

 

「し、ししし、し、ししょ、師匠!」

「わ! な、何!」

 

 俺が突然大声で呼んだので師匠は釜の前から、驚いたような顔をして振り向いていた。

 だが、こっちもテンパってんですよ。

 

「あ、アカネさん?」

「と、とと、トトリちゃん。何でそんなことを?」

「あ、それはですね。ゲラルドさんに――」

「待て! 聞きたくない!」

「ええっ!?」

 

 まさか、またトトリちゃん不良疑惑が浮上するなんて。

 どこで教育を間違ってしまったんだろう。

 

「ど、どうしたの?」

「師匠、トトリちゃんが不良になってもーた」

 

 近づいてきた師匠に俺は事情を説明した。

 

「トトリちゃんがお酒を飲みたいから作り方教えろって……」

「え!? そ、そうなの!?」

「そ、そんなこと言ってません!」

 

 トトリちゃんが何か言ってるが俺たちの耳にその言葉は届かなかった。

 

「なんで? どうして?わたしの育て方が悪かったの? わーん、どうしよどうしよー!?」

「いやきっと、これも俺みたいなのと知り合った悪影響なんですよ」

「ふ、二人ともお願いですから落ち着いてください!」

 

 

…………

……

 

 

「な、なるほど。つまりゲラルドさんから新しいお酒を作ってくれと頼まれたから、作り方を聞こうって?」

「そうですよ」

「なーんだ、それならそうと最初からそう言ってくれよ」

 

 いらない勘違いをしちゃったじゃないか。

 

「最初に言おうとしましたよ」

「はっはっは悪い悪い」

 

 笑って誤魔化すのが一番簡単だよね。

 

「まあ、それなら師匠の方が詳しいじゃないか?一応は二十歳は越えてるんだし」

「い、いちおう……」

 

 そんなに落ち込むなよ、顔的には完全に未成年なんだから。

 

「そうですね、一応大人ですもんね」

「と、トトリちゃんまで……」

 

 ああ、師匠涙目になっちゃってるよ、トトリちゃんって偶に毒舌だから怖い。

 

「うう、それでお酒の作り方だよね?」

「あ、はい、そうです」

「私もあんまり詳しいくないけど……たしか、色んな物を発酵させて作るんじゃなかったかな」

「発酵ですか?」

「うん、お米とか麦とかお芋とか……ぶどうとかもそうだね、で、作った材料でできる物も違うんだって」

「お酒ってそんなにたくさん種類があるんですか?うーん、何で作ればいいんだろう」

 

 ここで俺のアドバイスが冴えわたる!

 

「まずは基本からやった方がいい! 最初からオリジナルなんてやったら、痛い目を見るぞ……」

 

 かなり最近の経験に基づく痛々しいアドバイスだ。

 

「いろいろ試作して材料を加えていくのが一番安全なやり方だ。揚げパイだってそうやって作った」

「そうですね、それじゃあちょっと調べてみますね」

「がんばってねトトリちゃん」

「はい!」

「俺の二の舞にはならないでくれよ……」

「あはは……」

 

 なんかオリジナルがトラウマになってる気がする。

 

 

 

 …………次の日

 

 

 

「ふう、あー疲れた」

「ぷに」

 

 今日も俺は真面目にお勉強ですよ、まあ元の世界ではインドア派だったし苦ではないけど。

 

「ぷに~、飲み物持ってきてくれ」

「ぷに」

 

 俺は机に突っ伏して、ぷにが水を持ってくるのを待った。

 

「ぷにに」

「お、サンキュー」

 

ガラスのグラスに入った黄色い液体を俺は思いっきり飲み干す……。

 

「なんてことあるかー!」

「ぷに!」

 

 俺はグラスを机に叩きつけた。

 

「臭いと色的にどう考えてもビールじゃねーか」

「ぷに」

「そんな漫画じゃないだからある訳ないんだって、水と間違ってお酒を飲むーなんて」

「ぷに~」

 

 ぷにが何かを期待するような目で俺の方を見つめてくる。

 まあ、俺も興味がない訳じゃない。

 

「まあ、ぷにが俺を気遣ってわざわざ! 運んできてくれたわけだしな~」

「ぷに~」

「俺も飲みたい訳じゃあないけど、仕方ないな~」

「ぷににに」

 

 ゴクリと喉を鳴らし、俺はグラスを思いっきり傾けた。

 未だかつて味わったこと無い苦みが俺の口の中を満たした。

 

「ふむ、意外といけるな」

 

 最初はあまり飲めないって聞いたが、結構飲める。

 

「ぷにも飲むか?」

「ぷに!」

 

 俺はぷにの上でグラスを傾けて、残りをぷにの口の中に注いだ。

 

「ぷに~ん」

「むう、ぷに酒弱いんか?」

「ぷにっく」

 

 ぷにが酒を飲み干すと、みるみる真っ赤になっていった。

 

「……倍プッシュだ」

「ぷににににに」

 

 ぷにが笑いながら去って行ったと思ったら、何本かボトルに入った酒を乗せて戻ってきた。

 

「これは~ウィスキーか? あとはワインに焼酎……クックック」

「ぷにににににに!」

「にゃはははははは!」

 

 飲めや、歌えやのドンチャン騒ぎ。

 

「お酒って楽しいなー!」

「ぷにー!」

 

 二人で騒いでいると突如アトリエの扉が開いた。

 

「邪魔するわよって、何?酒臭いわね」

「あ! くーちゃんじゃないれすかー! 脅かさないでくだはいよー!」

 

 もう、ノックもしないでいきなり入るなんてお茶目さんなんだから。

 

「は? あんた今なんて言ったのかしら」

「くーちゃんですよー!」

「ぷにー!」

「……あんたら、さては酒飲んでるわね」

「ぷににににに!」

「ほらー、ぷにが妙なテンションだからばれちゃったじゃないか~」

 

 俺みたいにちゃんと取り繕わないからだよ、まったく。

 

「はあ、ガキが酒飲んでるんじゃないわよ、しかもアトリエで」

「ガキなんて! くーちゃんに言われたくないれすよ!」

 

 その瞬間、殺意の刃が飛んできた。

 

「……それはそういう意味かしら?」

「あ、いや、これは」

 

 途端に頭が冷水をぶっかけられたみたいに冷えた。

 俺一体何言っちゃってんの。

 

「そこに直りなさい!」

「は、はい!」

 

 俺は素早く正座の姿勢を取った。

 

「覚悟することね……」

「オワタ」

「ぷにににににに」

 

 ぷには空気を読むことすらなく笑い続けている。

 

「黙りなさい」

「ぷにににににに」

「…………」

 

 パンとクーデリアさんの手元から乾いた音がした。

 そこに握られているのは拳銃だった。

 

「実弾じゃないから安心していいわよ」

「…………」

 

 俺の横には床に倒れこんだぷにがいた。

 ぷに、無茶しやがって。

 俺は何てバカなことをしてしまったんだ。

 

「それじゃあ、改めて覚悟することね」

 

 ふと、昔見た未成年禁酒ポスターが頭をよぎった。

 軽い気持ちが人生を壊します見たいなフレーズがあった気がする、事実でした。

 

 

…………

……

 

 

「あ! アカネ君、酒飲んだでしょ!」

「師匠……もう、反省したから」

「え、うん、何で泣いてるの?」

「クーデリアさんって本当に怖いな……」

 

 姿勢を少し崩したら、俺の膝元に銃弾が飛んでくるんだぜ。

 マジで怖い。

 

「ぷに」

「そうだな、こう言うのでお決まりの締めをするか」

 

 こういう話をした後には大抵つくアレだ。

 

「この話は未成年への飲酒を助長するものではありません」

「ぷに」

「え?アカネ君何言ってるの?」

「お酒はハタチになってから!」

「ぷに!」

 


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