アーランドの冒険者   作:クー.

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インスタントホムンクルス

 現在は9月の中頃なんだが最近師匠の様子がおかしい。

 

 アレはちょうど9月に入ったあたりからだろうか。

 

 俺がアトリエに入ると、作業途中の何かを突然箱の中にしまいこんだり。

 一番怪しい出来事だと、何かやたらでかい物を奥の部屋に持っててたりなど、とにかくおかしい。

 

 師匠が落ち着きないのはいつもの事だが、最近は特に異常だ。

 

 そんなこんながあったので俺はある日意を決して師匠に尋ねてみることにしたのだ。

 

 

 

「師匠、何か隠してないか?」

 

 俺は錬金術を行いながら、同じように釜の中を杖でかき混ぜている師匠に尋ねた。

 

「え!? な、何のことかな?」

「目が泳いでるぞ」

「べ、別に何にも隠したりしてないんだからね!」

「し、師匠!? どこに!?」

 

 俺の言葉に相当動揺したのか杖を持ったままアトリエの外に走り去って行った。

 

「……隣の釜どうしよ?」

「ぷに~」

 

 この後トトリちゃんが帰って来て事なきを得たのだが、あの師匠はやっぱり何か隠してる。

 

 

 

 

「う~ん」

「どうかしましたか?」

 

 そして今俺はトトリちゃんと一緒に、買い出しに出て帰っているところなのだ。

 

「いや、たぶんトトリちゃんにはわからんな」

「……?」

 

 あの師匠、トトリちゃんだけには気づかせないようにしてるのが、立ち悪いな。

 

「ま、師匠のことだし悪い事はしてないと思うけど」

「はあ?」

 

 出来の悪いサプライズパーティーだとでも思うとするか。

 俺はちょうど着いたアトリエの扉を開けて中に入った。

 

「帰ったぞ~」

「ぷに~」

「あ! やっと帰ってきた!」

 

 帰ってきた主人を迎えに来るかのように師匠が俺たちに駆け寄ってきた。

 

「二人とも少し目瞑っててくれる?」

「え? いいですけど」

「ん、わかった」

 

 どうやら師匠の準備が終わったようだ、俺は若干の不安を覚えながらも目を瞑った。

 

「…………?」

 

 何かを引きずるような音が奥の部屋の扉から聞こえてきて、俺たちの前でその音が止まった。

 

「二人とも目開けていいよ!」

「どれどれ――!?」

 

 目の前にガチャガチャがあった、尋常じゃないでかさだけど。

 ちょうど俺よりも少し大きいくらいの赤いガチャガチャ、まさかこの世界で会うことになろうとは。

 

「な、なんですかこれ? いつの間にこんな……」

「ふっふっふ……大変だったんだよ、見つからないようにこっそり作るの」

 

 いや、俺には大分バレバレだったけど、という言葉が喉元まで来たが何とか飲み込んだ。

 

「そこまでして隠さなくても……それで、何なんですか?これ」

「トトリちゃん、これはガチャガチャって言ってだな……」

「違うよ!これはホムンクルス自動精製装置……名付けて! ほむちゃんホイホイ!」

 

 ほむんくるす? ホムン・クルス? ホ・ムンクルス?

 

 

「ほ、むんくるす……? って、その名前だと、まるでホムンクルスを捕まえるみたいな……」

 

 トトリちゃん、ツッコミどころが違う。

 待て待て、何?ここで俺だけがおかしかったりするの?

 ホムンクルスってそんなガチャガチャにコイン入れて出てくるようなもんだっけか?

 そんなんあったら、少子化問題が一瞬にして解決するわ!

 

「トトリちゃん、細かい事は気にしないのとにかく、これがあればいくらでもほむちゃんが作れるの」

「えっと……ホムンクルスとか、ほむちゃんとか、さっきから全然分からないんですけど……」

「大丈夫、簡単だから見てれば分かるよ」

 

 ……師匠が悪の科学者的な存在に見えてきたんだけど。

 簡単って、命の重みとか俺はうるさく言わない人だけどさ、流石におかしいって。

 

「ほら! アカネ君もちゃんと見ててね」

「あ、ああ、うん」

「アカネさん、さっきからぼうっとしてますけど……どうかしたんですか?」

「いや、ちょっと軽くもないジェネレーションギャップに打ちのめされてた」

「良く分かりませんけど、大丈夫ですか?」

「なんとか」

 

 横に居るトトリちゃんを見て汚染された精神を何とか回復することができた。

 しかし今だ狂気の原因である物体が目の前に、そして師匠が何か説明してるけど聞きそびれてしまった。

 

「ぷに、俺がおかしいのかな?」

「ぷに」

 

 ぷには俺の肩の上でお前は正しいと、そう言ってくれた気がする。

 

「……ていうか、何かもう稼働してるんだけど」

「ぷにに」

 

 目の前ではガチャガチャが高い機械音をあげて唸っていた。

 俺はその前に立っている二人を遠巻きに眺めていた。

 

「……何も起こらんな」

「ぷに?」

 

 故障か? と思ったそんな時師匠が暴挙に出た。

 

「おかしいな。なんで……もう!動いて、お願い!」

 

 カンカンとガチャガチャ上部のガラス部分を手の平で叩く師匠。

 

「あれって、ホムンクルス作ってる所だよな、壊れたテレビ直してるんじゃないよな……」

「ぷに?」

 

 俺はその光景に我慢ができず師匠に駆け寄り静止の言葉をかけた。

 

「師匠、そんな無茶しないほうが良いって」

「たって、せっかく作ったのに、お願いだから動いてー!」

 

 またもカンカンと同じように師匠は叩きだした、この人って本当がすごい錬金術師なんて呼ばれてるなんて間違ってる。

 

「わ、動き出した」

 

 トトリちゃんは機械が再び唸りだすとそう言った。

 

「やった!よーし今度こそ」

 

 機械が起動している様子を3人と一匹で見守った。

 

 すると突然機械が縮みこんだ。

 

「んにゃ?」

 

 ドカンと、ガチャガチャは回転しながら上に飛び上がった。

 もうやだ、今日ツッコミどころが多すぎて俺がボケれないじゃん。

 

 機械が着地するとガチャガチャから人型の何かが、出てきた。

 

「……ほむー?」

 

 紫色の髪を持ったメイド服に近い物を着こんだ謎の生物、大きさは俺のひざ下に届くかってくらい。

 ……かわいいじゃねえか。

 

「や、や……やったー! 大成功ー!」

「ホムンクルスって、こんなかわいい子だったのか」

 

 何と言うか……愛でたい。

 

「ぷにー」

「うわあ!か、かわいい。な、なんなんですか?この子?」

「えへへ、かわいいでしょ。この子がほむちゃんだよ」

「ほむー」

「あ、でもちょっと待って、ちっちゃいほむちゃんだから、ちっちゃむ、ちほむ……ちむちゃん!この子はちむちゃんだよ!」

 

 師匠がそう言うとちむちゃん? は声をだしながらぶかぶかの右腕を振り上げた。

 

「ちむー!」

「鳴き声まで変わった!? あ、えっとその……初めまして……」

「ちむ!」

「お返事した!ああ、かわいい……先生、触ってもいいですか? あわよくば、ぎゅーって抱きしめても!」

 

 トトリちゃんテンションが上がりすぎて言葉遣いがおかしくなっとる、あわよくばって……。

 

「どっちかっつーとさ、ちむちゃんに構ってるトトリちゃんの方が可愛いよな」

 

 俺は小声でぷにに同意を求めた。

 

「ぷにぺっ」

 

 唾を吐きかけられた、こんちくしょうめ。

 

「ん?」

 

 突然機械からまた駆動音がし始めた、なんぞ?

 

「あのね、わたしはトトリっていうの、トトリ。分かる?」

「ち・ち・む?」

 

 ああ、確かにトトリちゃんは乳無だわ……俺はセクハラ中年親父かよ。

 

「うわぁ、どうしよう……かわいすぎる」

「ああ、確かにかわいいな」

 

 ちむちゃんを見て興奮するトトリちゃんを見て興奮する俺を冷めた目で見ているぷに。

 何という変態スパイラル。

 俺のテンションが変態すぎるのは仕方ない、今日は俺の脳のスペックを越える出来事が起きすぎたんだ。

 

「あ、トトリちゃんばっかりちむちゃんと遊んでずるい!」

 

 ぎゅおんぎゅおんと機械の駆動音がまた響いた。うっさいな、まったく。

 

「……じゃなくて、あの、あんまりのんびりしてる場合じゃないかも。ちょ、止まって!止まれー!」

 

 慌てた様子で師匠がガチャガチャを叩いていた、なんかあったのか?

 

「先生、ちょっと静かにしてください、今ちむちゃんとおしゃべりしてるんですから」

「まったくだ、少しくらい静かにできないのか、せっかくの癒しの時間が」

「ぷにぷに!」

 

 何だ? ぷにもなんか鳴いてるし……。

 たく、あれでも良い大人なんだから少しくらい落ち着きって言う物を持ってもらいたいな。

 

「いや、うるさいのはわたしじゃなくて、この装置で」

 

 さきほどよりも激しい音で唸りだした機械……もしかしなくてもまずい?

 

「わ、わ、わ! もう、ダメかもー!」

「だから静かにって……え?きゃああああ!」

「爆発?ふっ、そんなものもう慣れたわ」

 

 爆発音とともに視界が白く染まった。

 同時にポンポンと不思議な音が響いた。

 

「あうう、二人とも大丈夫……?」

「はい……なんとか。は! ちむちゃん、ちむちゃんは!?」

「ちむー……」

「よかったー無事だった……」

 

「ちむー」

「ちむ!」

「ちむ?」

 

「え? なんか声がいっぱい?」

「……これは酷い」

 

 視界が晴れるとそこには、部屋を埋め尽くす数のちむちゃんがいた。

 

「た、たた、大変! 早くなんとかしないと! 二人とも手伝って!」

「え? 何を!?」

 

 手伝うって、捕まえろってことか?

 捕まえてどうするの?……まさか。

 

「ちむー」

「ちむ!」

「ちむ?」

 

 俺と師匠が慌てていると、トトリちゃんが徐々にちむちゃんの群れに埋まって行った。

 

「ああ、幸せ。もう、このまま死んでもいいかも……」

「わー! トトリちゃんが埋もれてるー!しっかりしてー!」

 

…………

……

 

「ふう……何とか片付いた」

「疲れたー」

 

 え? 片づけた方法? せっかく俺が気を利かせてカットしたのに知りたいのかい?

 こればっかりは語るのもためらわれる内容だ。

 

「あうう……ちむちゃんがひとりだけになっちゃた」

「ちむー……」

 

 意外にもちむちゃんは感情豊かなようで、涙目になっていた。

 そりゃ泣くわな、兄弟姉妹が、一斉に消されたようなもんだもんな。

 

「気を落とさないで、専用の材料があればまた作れるから」

 

 また作れるからって、なんか今日一日で俺の倫理観が大分おかしなことになった気がする。

 

「それじゃあ、ちむちゃんについて説明するね」

「あー、師匠、俺なんか気分悪いからもう帰るわ」

 

 俺がこれまでの人生で培ってきたモノがこんなところで弊害を与えてくるとは……。

 

「え、大丈夫? でも、説明だけでも聞いといた方が……」

「いや、いいよ、俺の相棒はぷにだけだし」

「ぷに!」

「そう?それじゃあ、気をつけて帰ってね」

「ん、そんじゃまた明日」

 

 俺は二人の別れの言葉を背に浴びながら外に出た。

 9月の少し冷たい空気が俺の頭を冷やしてくれた。

 

「今日は……疲れた」

「ぷにー」

 

 もう何も考えたくない、今日は宿で泥の様に寝よう。

 そして今日の事はなるべく忘れる事にしよう、その方がいいさ俺の精神的に。

 

「……師匠って悪い人じゃないんだけどなー」

「ぷに」

 

 天才と何とかは紙一重ってやつだな、うん。

 


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