やあ諸君、俺は今日も今日とて改造執事服を着てアトリエのソファに座りながら知的な読書をしているんだ。
別にこの服が気に行った訳じゃないからな? ちょっと諸事情でハゲルさんに預けているんだよ。
修繕よりも、あの人に頼んで一から作ってもらった方が良いんじゃないかってことだな。
まあ、そんなことはともかくとして……だ。
「ちむー!」
「ぷに?」
「ちむちむ」
「ぷにににに」
「…………」
「ちむ」
「ぷに!」
「ちむ?」
「ぷに~」
「――ッ!!」
気になる。
こいつらが話してる内容が気になって読書に集中できない。
「ぷに」
「……ん?」
俺が葛藤の中にいると、ふいにぷにが目線を俺に向けて一鳴きした。
「何だ?」
俺が小さく呟くと、ぷには再びちむちゃんに向き直って会話を再開した。
「ぷににに」
「ちむ~」
「……?」
なんか二人とも笑いだした、だからなんだよ?
「……ぷにっ」
ぷには俺に再び目線を向けたと思うと、人間で言うと鼻で笑うと言う感じに鳴いてきた。
「もしかして、俺を笑いの種にしてないか?」
「ぷに~」
「ちむ~」
両者共とぼけた声を出しているが、それは肯定と同義じゃないか?
「どうせ、こいつはダメな相棒だぷに~、とか言ってたんだろ」
「ぷに!」
ほほう、開き直るとはいい度胸だな、お主。
ちょうど休憩しようと思ってたところだ、ここは一つ遊ぶとしようか。
「ゲッヘッヘ、今すぐ謝らないと、この子がどうなることやら」
俺は悪役よろしく立ち上がってちむちゃんを抱き上げた。
「ぷに!?」
「ちむ~!」
意外とノリがよろしいようで、ちむちゃんは目をバッテンにしてぷにへと助けを求めた。
「この子を返して欲しくば、アカネさん超素敵ー! と言うがいい」
「ぷに!」
「ほほう、俺には屈しないと? ……ならば、こうだ!」
「ぷに!?」
俺はちむちゃんを上空へと放り投げた。
「ちむー!」
そして落ちてきたところを両手でキャッチ。
また放り投げる。
「ちむー♪」
キャッチ。
「クックック、恐ろしかろう」
「ちむ~」
涙目になっているちむちゃん、演技派ですね。
「貴様が刃向かうと言うならばもう一度……」
俺は再び上に放り投げる構えを取った。
「あ、アカネさん! 何してるんですか!」
「え?」
「ぷに?」
「ちむ?」
三人一斉に声の方向を向いた、そこにいたのは我らが癒しのトトリちゃん。
ただ今回ばかりは癒しとはかけ離れた剣幕で俺に詰め寄ってきた。
「やめてください! ちむちゃん泣いてるじゃないですか!」
「え、い、いやこれはだな」
単なるじゃれ合い、そう言おうとしたが途中で遮られた。
「ちむちゃん、大丈夫? 怖くなかった?」
「ち、ちむ」
トトリちゃんに抱かれたちむちゃんは若干戸惑い気味だが頷いていた。
「もう! アカネさん、ちむちゃんに変なことしないでください!」
「は、はい。ごめんなさい」
思わず謝ってしまった、俺何か悪いことした?
「アカネさんは偶におかしくなるけど怖くないからね」
「ちむ」
「――――!?」
絶句、その表現以外浮かばない。
ちむちゃんが普通に裏切ったとかそんなことじゃない。トトリちゃん……ちょっとストレートすぎない?
「それじゃあ、アカネさんが落ち着くまであっちに行こうね」
「ちむー」
「…………」
何これ?
「何これ?」
「ぷに~」
「何これ?」
「ぷにー」
「何これーー!?」
俺は激情に任せ、アトリエの外へと飛び出した。
…………
……
「……というわけれれすねー」
「ああ、はいはい、わかったわかった」
現在はサンライズ食堂、目の前にはお酒。
「わかってないれすよ! イクセルさんはー、わかってない!」
「つーか、お前本当に未成年じゃないんだよな?」
「当り前じゃないですかー、そんな悪いことしませんってー」
「ぷに~」
今日はぷには飲んでないのかー、まあトラウマなんだろうなー。
「なんていうかーお酒に逃げたい……みたいな気分でー」
「つまりさ、あいつはその……ちむちゃん? だったかが絡むと性格が変わるってことじゃないのか?」
「だからってー、俺が異常者扱いなんて、俺はトトリちゃんには優しくしてるって自負があったのにー」
偶におかしくなるって、情緒不安定な人扱いだよ、やってられねえ。
「つーか、ぷにもぷにだよ、何か俺だけが悪いーみたいに、なって」
「ぷに~」
ぷにが俺に話しかけられて露骨に嫌そうな顔をした。
「そもそも、お前があんな話をしてるから~」
「ほっ」
その息遣いをしたイクセルさんに対して俺は鋭い眼光を向けた。
「何をほっとしてるんですかー! そんなに俺がめんどくさいですかー!」
「い、いやそういう訳じゃなくてな、ほら、俺だって仕事があるから、な」
……確かにそろそろ昼だし、ここに居座り続けるのも迷惑かもしれない。
「むー、それじゃ帰ります」
「そ、そうかそうか」
「なーんか喜んでませんか?」
「んなことないって、また来いよ」
俺はお代を払って食堂を後にした。
「うー、どこに行こう?」
「ぷに?」
今からだと、帰るに帰りづらい。
「ちむ?」
「んにゃ?」
足元からついさっき聞いたばかりの声がした。
「んー、何してんだ?」
「ちむー!」
「ああ、おつかいか」
「ちむ」
「…………」
俺はしゃがみこんで、ちむちゃんの頬を掴んで横に引っ張った。
「ちむー!?」
「かわいい顔して、裏切りおってー」
こんなもちもちですべすべの肌でトトリちゃんの事をたぶらかしたのだな。
「ちむー」
「言っとくけどなー、俺は別におかしな人ってわけらないからなー」
「ちむ」
ふむ、なかなかに素直じゃないか。
だがしかし、お前のせいで俺は心にダメージを負った訳だ。
「復讐のゲロガをお見舞いしてやろうか」
「ぷに!?」
「ちむ!?」
「ああー、ちょうどいい具合に気分悪くなってきた」
まあ、もちろんジョークだ。
本当にそんなことしたらトトリちゃんに絶縁状を叩きつけられかねない。
「にゃっはっは、逃がさぬぞ」
「ちむー!」
今の俺って、変な執事服来てちっちゃな子を捕まえてる変態にしか見えないんだろうな。
俺がふと、そんな思考をしたときだった。
「や、やめてください! 家のちむちゃんに何してるんですか!」
「…………」
ふと後ろから声、力を緩めると、ちむちゃんは俺の後ろへと歩み寄った。
……デジャブ?
「もうダメでしょ、ちむちゃん。こんな変な格好してる怪しい人に近寄っちゃ」
グサリグサリと俺の心にクリティカルヒット。
前にお世辞でも似合っていると言ってくれたトトリちゃんはどこにいったんだろう。
「……そうだよな、やっぱり変だよな、自覚はあったよ」
「え!? あ、アカネさん!?」
「グッバイ!」
俺は、立ち上がり片手を上げながら走り去った。
目頭が熱いのは酒で涙腺が緩んでるだけだ、そうなんだよ。
「……ぷに」
とりあえずはそうだな、ハゲルさんから品物を受け取りに行くか。
その後俺はアトリエに書置きを残して、アーランドから出ていった。
旅に出ます探さないでください
アカネ