アーランドの冒険者   作:クー.

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受付嬢は人見知り

 ある程度時間を潰したので、そろそろ良いだろうと思いギルドについたのだが……。

 

「まだ怒ってるよな、たぶん」

 

 暗い気分で俺は扉を開けて中に入った。

 

 

 クーデリアさんはさっきと同じようにカウンターの中にいたのでそこに向かって行った。

 

 入口から向こうまでの距離がやたらと長く感じてしまうぜ。

 近づいていくと、どうやらクーデリアさんは俺に気がついたようで、一言投げかけてきた。

 

「やっと戻ってきたわね。このボンクラ」

 

 ボンクラって……。まぁ、んなこと言われても仕方ないけど。

 

「えっと、さっきはすいませんでした」

 

 こういう時はな、早めに謝るのが吉なのさ。

 

「そのことならもう怒ってないわよ。まぁ、次に同じことしたら……わかってるわよね」

「も、もちろんです!」

 

 顔が笑ってるのに、目が全然笑ってないんだがこの人。

 

「とりあえず、はいこれ」

 

 クーデリアさんは俺に冒険者免許を渡してきた。

 そういやさっきは、結局もってかなかったんだっけか。

 

「あ、どうも」

「ところで、あんた冒険者の仕事について説明はいるかしら」

 

 むっ、これはアレだな。チュートリアルってやつだな。

 

「初回プレイなんで聞いておきます」

「は?」

「ちゃんと聞いておかないと後で困りますからね」

「え、ええ。そうね。」

 

 困ってるクーデリアさんになんかグッとくるわ。

 反省はもちろんしているが、可愛い娘のこういった姿を見たいというのは当然だと思うのです。

 

「冒険者の仕事にはいくつか種類があるのよ。簡単に言うと探索と討伐と依頼ね」

「手っ取り早く金が手に入るものから教えてください!」

 

 今はひたすらに生きるのに必要な金がほしい、出来る限りにまともな食べ物を毎日食べたい。

 

「現金な奴ね……。報酬金があるのは依頼だけよ。他は実績として残るだけね」

「実績?」

「そう、言い忘れてたけどその免許は期限が3年間だけだから」

「まぁ、三年もあれば普通の仕事も探せるだろうから、そこんとこはどうでもいいですよ」

 

 最低限の生命維持費が今の俺には最重要ってだけで、ずっとやる必要はないだろう。

 

「あらそうなの、一応話しておくけど実績を残してランクアップしていけば免許を延長できるのよ」

「んじゃ、今の俺に必要なのは依頼だけってことすか」

「そういうことになるけど、ランクが上がるほど行ける場所も増えてできる依頼も多くなるから一応覚えときなさい」

「オーケー」

 

 とにかく依頼を受けて、ついでにランクも上げれば良いくらいに考えておけばいいだろう。

 

「本題の依頼についてだけどあんたにできるのは討伐と調達依頼ぐらいでしょうね」

「なめるでない」

「他にあるのは調合よ、悪いけどあんたにできるとは思えないわ」

「調合?」

「たとえば薬師なら薬を料理が作れるなら料理を作って納品したり、錬金術士ならなんでもできるわね」

 

 錬金術! 俺の厨二心を刺激する単語だな。後で暇があれば聞いてみるかな。

 

「つまり技能がいる依頼ってことですか?」

「そういうこと。話を戻すけど討伐は名の通りモンスターを討伐する依頼で、調達は外からいろいろと採ってくる依頼ね」

「とりあえず、一番早く安全に終わる依頼はなんでしょうか?」

 

 もし怪我なんてしようものなら、金がない→治せない→感染症→デッドエンド

 となるのは明らかだろう。

 

 

「安全なのは調達依頼ね。とりあえず、実際に依頼を見てみなさいよ」

「んじゃ、そうしますか。どこで見たらいいんですか?」

「どこってすぐ隣のカウンターよ」

 

 クーデリアさんの視線を追って左側に顔を向けてみるが……。

 

「誰もいませんよ??」

「いないわね、まったくまーたあいつは……。コラ! 出てきなさい」

「ひやう!?」

 

 小さな悲鳴がすると隣のカウンターの下から茶髪でショートカットの女の子が震えながら出てきた。

 

「あうう……脅かさないで下さいよ。クーデリア先輩」

「驚かさないでくださいよ、じゃなーい!仕事中にびくびく隠れるなっていつも言ってんでしょうが!」

「だって、知らない人がいっぱい来るから……」

「そういう仕事でしょうが! とにかく、あんたにお客さんよ」

 

 どこか儚げな印象があったからか、俺は少し丁寧めに会釈をして挨拶をした。

 

「どーも、初めまして」

「ヒッ!」

 

 えっ? 悲鳴? 俺なんかしたか? 超紳士的に挨拶をしたと言う自負があったんだけど。

 

「む、無理ですよクーデリア先輩!」

「いいから、ちゃっちゃと仕事しなさい!」

「だ、だって、男じゃないですかこの人!」

 

 声の大きさとは対照的に控えめに俺の事を指差してそう言ってくる女の子。

 

「え?俺そんなに怖いですか?」

「気にしなくていいわよ。見ての通り人見知りなだけだから」

 

 女の子、しかも可愛い子に怖がられるとか複雑な気分だ。

 

「後はこの子の仕事だから私は口出ししないわよ」

「クーデリア先輩ひどいです!私には無理ですよ!」

「…………」

 

 おお、見事に無視の態勢に入ってるな。

 とりあえず、このままじゃ埒が明かなそうだし、俺から声をかけた方が良いよな。

 

「あのー、大丈夫ですか?」

「ひっ!」

 

 ……また悲鳴か、俺そんな女の子に悲鳴を出させるような鬼畜外道系主人公に落ちたつもりはなかったんだが。

 

「…………?」

 

 なんか、すごいじろじろ見られてるんですけど。

 

「なんか、同じ匂いを感じるかも……」

 

 小声でつぶやいとるが丸聞こえだよ。同じ匂いってなにそれこわい。

 本当に大丈夫かこの子?

 

「えっと、あの、私フィリーって言います」

「ん?ああ、俺は明音だ。よろしく」

「はい、大丈夫ですから!アカネさんは何か私と同じ趣味を持てそうなんで、大丈夫ですから!」

「えっ、ああそう」

 

 同じ趣味ってなんだろうか?

 俺の趣味なんて筋トレぐらいなんだが……。

 

「まぁ、とりあえずだ。依頼を見せてくれ」

「あっ、はい」

 

 フィリーちゃんがカウンターの下から書類っぽいのを取り出した。

 

「どうぞ」

「ん、どうも」

 

 若干震えている手から、恐る恐る受け取った。

 

 見てみるといろいろと書いてあった。

 青ぷに討伐、たるリス討伐、赤い実調達、等々あるのだが、一番目を引くのが……。

 

「フィリーちゃん。ここに、うにの調達依頼ってのがあるんだけど……」

「それにするんですか?」

「いや、うにって……。結構遠いんじゃないの?」

 

 まだ地理はよく分かってないが、たとえ近くてもどうやって集めろと言うのか。

 

「いえ、明音さんは身長そこそこ大きいですし二日もあれば着きますよ」

「二日!? ここって、そんなに海近いのか……」

「? えっと、うには海にないと思いますけど」

「は? え、んじゃどこにあるの?」

「東のほうにあるうに林にたくさん落ちてますよ?」

「…………」

 

 本当に何が分かってないのか分かってない顔してるけどさ、フィリーちゃん。

 うにが林に落ちている? それって栗じゃね? それって栗だよね? 栗しかないよね?

 

「そいつは栗じゃー!」

「ひっ!」

「あっ」

 

 俺の叫びに涙目になるフィリーちゃんを見て我に返った。

 

「あー、悪い。とりあえずその依頼は四日で終わるんだよな」

「は、はい。調達依頼だとこれが一番早く終わります」

「それじゃ、それ受けるわ」

「あ、はいそれじゃ手続きするので少し待ってください」

 

 カウンターの向こうから必要な書類を取り出している中、ちょっと気になった事を聞いてみた。

 

「ところで、依頼報告ってここですればいいのか?」

「ここでも出来ますけど、他の依頼を紹介してる場所でも大丈夫ですよ」

「なるほど、なるほど」

 

 しかし、うに……か。今から若干ワクワクしてる俺と食料を不安に思ってる現実的な自分がいる。

 まぁ……なるようになるだろ。


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