アーランドから出てきてから一週間程度、俺は砂漠をパパっと抜けて森を探索していた。
さすがの俺でも自転車に乗ったまま走行できないので、ぷにを肩に乗せたまま押して歩いている。
「今の俺のランク的に来ちゃいけない場所なんだろうな」
地図を見る限りでは俺の探索領域からかなり逸脱していた。
「ぷに……」
「しかし!そんなこと気にする俺では、ない!」
「ぷに~」
そんな露骨に不安そうな顔するなよ。
「大丈夫だって、別に監視カメラがある訳でもないんだしさ」
「ぷに?」
「俺の世界の便利アイテムだよ」
「ぷに」
「ま、こんな場所に来てるなんて誰も思ないだろうから、目立つことしなきゃバレないさ」
「……ぷに」
多少の葛藤があったようだが、どうやら納得してくれたようだ。
まったく考え方を変えれば良いのさ、最悪死ぬほど怒られれば済む話だとな。
「つか、お前。いっつも無茶振りしてくるくせに、こういうところでは律義なのな」
「ぷに~……ぷーににに」
「ぷーににに……? ああ、クーデリアか」
「ぷに」
ぷにがそんなに恐れるとは、銃で撃たれたのがそんなに怖かったのか。
「いや、怖いに決まってるっつーの」
「ぷに!」
「……帰ろうかな」
「……ぷに」
一抹の不安を抱えつつも、俺たちは森のさらに奥へと進んでいった。
…………
……
「森を抜けて荒れ地に入ったと思ったら、またすぐに森に入ったな」」
「ぷに」
あれから、2日ほど歩ていくと、次第に自然が少なくなっていき、そこには荒野が待っていた。
特に目立つものもなかったので、また2日ほど北に歩いて行くと、またも森が待っていたというわけだ。
「……きれいだけど、変な森だな」
「ぷに~」
それもこれも、そこら中で植物が光っているせいに他ならない。
見た目は鈴蘭と言ったところか、サイズが俺の倍くらいありはするが。
「奥にある、あの機械が関係してんのかね?」
ここからでは良く見えないが、奥で鉄でできた何かがあった。
狭い範囲が隆起している場所同士が橋で繋がっている辺りも見るに、大分人の手が入っているということだろうか。
「ぷにに」
「ん、そうだな。とりあえず探索しなきゃ始まらんな」
ぷにに急かされ、俺は奥へと歩き始めた。
「お、あのぷにってお前の仲間じゃないか?」
「ぷに?」
少し奥へと進むと、そこには3匹の白いうさ耳をつけたぷにがいた。
俺たちは、そいつらを木に隠れて様子を窺っている。
「黄色いのがうさぷにだったから、あれは白うさぷにってとこかね。しかし……どうしたもんか」
奴らが陣取っている場所の先におそらく先に進めると思われる橋が架かっている。
必然的に、大回りしていくか突っ切るかしかない訳だが……。
「ぷに~」
ぷにがイライラしとる、確かに大分キャラ被ってるもんな。
「押さえろ押さえろ、この辺のモンスターがどんくらい強いかもわかんねえし」
「……ぷに」
もしこの場所が今の俺のランクより、2つ以上上だったら太刀打ちできる気がしない。
もちろんぷには別だが、俺は……ね?
「といわけで、回り込んでいくとしよう」
「ぷに~。……ぷに!」
「――ぶっ!?」
納得したと思っていたのは俺だけのようで、ぷには奴らに向かって飛び出していった。
「……危ないようだったら援護して逃走するか」
俺は木陰に隠れたまま腰のポーチからフラムを3本ほど取り出した。
その間にも、ぷにはやつらに向かって跳ねていた。
「頑張れよ、相棒……」
俺としては相棒の強さを信じているが、決してやられた前例がない訳ではない。
だからこそ、俺は今フラム片手に固唾をのんで見守っている。
「…………」
心臓の高鳴りを感じつつも奴らの行動を観察し続ける。
その間にも距離は詰まって行く。
目測5m程度
4m 握ったフラムを堅く握る
3m 木陰から若干身を乗り出す。
2
1
0
…………? ゼロ?
「……うん?」
一切何の荒事もなく、ぷに含めて奴らは距離を完全に詰めていた。
俺は状況を把握できず耳を澄ましていると、ぷにが奴らに何かを話しかけていた
「ぷに、ぷにに、ぷーにに」
それに対して一匹が返答し、俺の相棒のぷにが続けていった。
「ぷに、ぷにに、ぷに~」
すると一匹が相棒にさらに近づき、完全に距離を0にしていた。いわゆる密着状態。
そして頬擦りする相棒と、白うさ一匹。
「…………ちっ! リア充死ね!」
ナンパかよ! 紛らわしいわ!
キャラかぶりに怒ってたんじゃなくて、溢れ出る情熱を押さえられなくなってただけかよ!
「相棒には……女がてきないと思ってたのに……」
どうしよう、ぷにがもしもだ。彼女との時間を大切にしたいから、もうお前とは付き合えないわ、みたいな事言ってきたら。
「悔しくなんかないんだからね!」
俺は本来考えていた遠回りルートを一人で駆けていった。
…………
……
「……痛い! 痛い! すいません! 申し訳ありません!」
適当に奥に進んで、俺は憂さ晴らしに弱そうなリスに喧嘩を吹っ掛けてボコられていた。
その数はだんだん増えて、今や2ケタに届きそうな数に苛められていた。
「やめて、マジ痛い! 箱投げないでください! このフラムは違うんです! そういうアレじゃなくて!」
バシバシと鍋やら箱やらをうつ伏せで頭を抱えながら耐え続ける俺。
こいつら全然本気出してない、弱者をいたぶって遊んでやがる。
「ケッケッケ」
「てめえ !笑ったな! ……い、いや今のは違くて、ですね」
箱、鍋、箱、箱、鍋、箱、鍋。
死んでまう、こんなバカみたいなもので俺死んでまう。
「こ、ここは! この若干調合ミスったフラムを使って! 痛! べ、別に何もしてませんから!」
苦し紛れにフラムを煙幕代わりにしようと、腹の下でなんとか線を外した。
「クックック、所詮は劣等! 知恵の足りぬ獣どもよ! さっさと狩ってしまえばよかったものを……」
俺は不敵な笑みとともに立ち上がった、もちろんその間にもいろいろ投げつけられているので、我慢している。
「さらばだ! ハッハッハ!」
俺は高笑いとともにフラムを下に投げつけた。
……結果から言えば脱出には成功した。
「簡単に言うと、爆破、俺吹っ飛ばされる、隆起した場所にきたから奴らあきらめる。おk?」
「…………」
一難去ってまた一難、俺の目の前には一匹の俺の倍ほどの大きさがある、濃いピンクのリスがいた。
「そして、俺が君にぶつかったのも事故。全ては事故、ほら君と俺って何か似てるしさ許してくれよ」
体から漂う火薬の香りとか、君が上にかかげているフラムとか。
「いやあ、そのフラムすごいでかいよね~、なんか箱に入って束になってるし、そんなんくらったら……」
死。
俺の脳裏にはさっきからその単語がちらついて離れない。
「…………」
「…………」
互いに一言も話さない、ただ相手からは敵意しか感じない。
RPGとかで言うなら、今のこいつの状態は様子を見るを選択した感じ。
「…………」
俺はじりじりと後ろに後退していった。
ただ、その下にはさっきボコッてきたリスどもがいる。
俺はポケットから手袋を取り出し嵌めて、その手を腰に持っていた。
「くそ! これで逃がせよ!」
俺は意を決して、ポーチから取り出した大量の爆弾を奴に投げつけた。
「ケッ」
奴は一つ鳴いて、その手に持つフラムを俺に投げつけてきた。
「やばっ――」
俺の爆弾と奴の爆弾、2つの爆弾の塊がぶつかり合うことで……。
瞬間吹っ飛ばされる俺、下ではリスどもが俺を見て嘲笑ってた気がする。
「バカどもが! これが我が逃走経路だ! ハッハッハ!」
全身に痛みがあるが、どこか心地よかった……Mじゃないからな。
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「……ぷに」
「ん? ああ、ここまで吹っ飛ばされたか」
俺は自転車を止めた入口付近で目が覚めた。
手袋を着けたのが功をそうしたようで、全身が痛むものの折れたりなどはしてないようだ。
「ナンパはどうだったんだよ?」
「ぷに……」
ぷにが横を振り向くと、そこは薄らと赤く染まっていた。
「まあ、人生そんなもんさ」
「ぷに」
「ただな、そこであきらめたら人生お終いだ」
「ぷに?」
俺は己の中で沸々と何かが熱くなっているのを感じた。
「復讐だ。復讐。自分を舐めた奴がどうなるか教えてやるのさ」
「ぷに!」
「そうだ! あんの小リスにでかリス! 俺を舐めやがって、後悔させてやる!」
「ぷに?」
異世界の男たる俺をこけにしたリスども。
俺の専売特許である爆弾をパクッたピンクのリス。
「許さん。この旅の目的が決定したぞ! この森にいるリスどもを爆破してやる」
「ぷに!?」
「安心しろ、別に見境なくやる訳ではない」
「ぷに~」
ぷにが安堵したような声を出した。
「……俺の気が済むまでやるだけだ」
「……ぷにに」
「とにかくだ、前の荒野まで戻るぞ。あそこに俺のアトリエを作る」
「ぷ~に~!」
「黙らっしゃい! 俺の相棒ならついて来い、目にもの見せてやる!」
俺はまだ痛む体を動かし、自転車に跨った。
「次来た時が……貴様らの最後だ」
「ぷに……」
俺は一度後ろを振り返り、荒野に向かって走り出した。