アーランドの冒険者   作:クー.

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家出物語-3 最高火力

 アカネが家出してから3ヶ月、現在は年を越して2月のある日。

 

「ふむ。このあたりか」

 

 彼、ステルケンブルク・クラナッハはちょうど家出野郎が居る森に来ていた。

 

 それというのも、元国王探しがてらに頼まれていた用事を消化するためであった。

 

「まったく、彼女たちは私を便利屋だとでも思っているのか……」

 

 クーデリアからは、ここノイモントの森に生息するテラフラムリスの討伐を。

 何でもここ最近、やたらと活性化しているらしく。並の冒険者では刃が立たないとの事で彼に白羽の矢が立った訳だ。

 

 ロロナからは旅に出たアカネの捜索を。

 これに関しては、ついでのついで。見つけたら連れ戻す程度の頼みごとなので、彼自身アカネがまさかここにいるなど思ってない訳で。

 

 そして本命の国王探しだが、前回の結果は惨敗。

 現在は東に行ったという、彼の鳩の情報を元にここまで来ている。

 

 

「……む?」

 

 森の奥へと踏み込んでいくと、そこには奇妙な看板が刺さっていた。

 

 

『危険! 今日一日入らぬように』

 

 

 妙に達筆な字でそう書かれ、いや彫られていた。

 質の悪い嫌がらせだろうと彼は大して気にも留めない様子で、奥へと進んで行く。

 

 これに大人しく従っておけば、まあ幸せだっただろう。

 

 

 

「……?」

 

 そこからしばらく歩を進めて行き、彼はある違和感に気づいた。

その違和感からか、普段無口な彼からですら、口に出していた。

 

「何故だ……」

 

 見渡す限り、モンスターが居ない。それどころか、そこかしらに地面の焼け焦げた跡が残っていた。

 むしろ地面ごと抉れている場所すらある始末だ。

 

「…………」

 

 彼は無意識に利き手である右手を剣の柄に持っていった。

 ここからは警戒態勢、一切の油断も許さない。

 

 

「――――!?」

 

 

 彼が気を引き締めていた。その時、比喩ではなく地が揺れるほどの爆発音が響いた。

 

 そして、その爆発音が収まったと思えば、音の発信源と思われる場所からバカみたいな高笑いが聞こえてきた。

 

 

「クックック……はーはっはっは!」

 

 

 ステルクは思わず自らのコメカミに指を当てていた。

 聡明な彼には、聞き覚えのありすぎるこの声の主が誰だかわかってしまったのだろう。

 

「……まさか、こんな所にいるとは」

 

 この数ヶ月で彼がどれだけ錬金術士、もとい爆弾魔として成長したかは考えたくもないだろう。

 彼は不本意ながらも、爆弾魔の下へと歩みを進めていった。

 

 

 

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「アトリエと釜が完成したのはいいだけどさ、どうするよ?」

 

 俺は家出から1ヶ月と少し、前回の敗北から数週間の間に必要なものを作っていた。

 

 アトリエは適当に木を爆破して作った木材を並べただけの、雨風を最低限防げる程度の物。

 釜の方は、でかい石を削って作った石作りの物。

 

 錬金術士として生活するには十分な設備だ。

 

 

「爆弾の材料はある、十分すぎるほどに」

 

 フラムを作るのに必要なフロジストンは数日かけて砂漠まで行けば採れる。

 

「火薬は……ククッ」

 

 今俺は傍から見ればかたりヤバい人の顔をしているだろうな。

 だがしかし、それも仕方ないだろう。

 

「タールの実に湖底の溜まり。かなり上質な火薬なんだぜ」

「ぷに~」

「お前にとっちゃどうでもいいかだろうが、俺は結構嬉しい訳よ」

 

 これは言わば、奴らを懲らしめるための重要なキーマンなのだから。

 

「んで、何の爆弾を作るかそれが問題だ」

「ぷに?」

「ただのフラムじゃあダメだ。何かもっとすごい爆弾を……」

 

 俺は考えた、改良を施された様々なフラムを。

 

「地雷フラム、ロケットフラム、時限フラム……」

 

 現代世界的に考えて、今すごい危険なこと考えてるんじゃなかろうか。

 

「他にも大砲とかさ、いろいろ作ってみるか」

「ぷに!」

「待っているがいい、あの日の痛み百倍にして返してやる……」

 

 

 

 

 

…………時は飛んで1ヶ月半。

 

「帰ってきたぞ……そうだ、帰ってきた」

「ぷにに」

 

爆弾を作るシーン?んな物見ても面白くないだろ?

言えることとしては、今日俺は二つの秘密兵器を持ってきたということだけだ。

 

「よし!ぷに、手筈通りに頼むぞ」

「ぷに!」

 

俺とぷには各々散開して、森の中へと潜っていった。

 

 

 

…………

……

 

探すまでもなく、俺は黒いリスに紫のリス、前回俺をボコったのと同種のリスを見つけた。

数は一頭1頭で2頭いる。

 

「……みーつけたー」

 

俺はポーチからフラムを取り出した。

ゲッヘッヘと下種な笑い声を出しながら、俺は奴らの前に躍り出た。

 

「先手必殺!我が実験台となるがいい!」

 

奴らは硬直している今が好機。

 

「ピッチャーアカネ、得意球は魔球フラム。俺こそが甲子園の怪物よ!」

 

ピッチャー、振りかぶって、投げた!

 

フラムが黒いリスに当たると同時に、もう一匹頭も巻き込んでの大爆発。

いままでのフラムの実に倍以上の範囲と威力だ。

 

これこそが、あの荒れ地で採取した新火薬の実力よ。

 

「これはメガフラムではない……フラムだ」

 

思わず某魔王様にならざる得ない。

これは俺最強の時代が来ちゃったんじゃないか?

 

「へいへいバッタービビってる。ヘイヘイヘイ!」

 

爆発音に気づき周りから、数十頭のリスが来たが一様に俺の事を恐れている。

 

「我が爆弾を恐れぬならば追ってくるがいい!」

 

決して勝てないから、逃げたのではない。これも作戦のうちだ。

走っている間にも大量に投げられる箱に鉄鍋。

 

「無駄無駄無駄無駄!」

 

自己暗示って意外と効果あるよね。つまり大分痛いです。

 

そのままやられるのも癪なので、爆弾をばら撒きながら走っている。

 

 

 

…………

……

 

危険地帯を回避して、俺はぷにのいる高い場所まで登った。

 

「痛い、いや、痛くない痛くない」

「ぷに~」

 

俺はぷにに預けていた俺の杖を受け取った。

 

「ぷに、準備は良いな?」

「ぷに!」

「上々、ならば始めようではないか」

 

遠目に見える俺を追う奴らの群れ、あの姿が今から……。

 

「ぷに~」

「ちょっとにやけてただけじゃないか、怨敵許すまじって奴だよ」

 

それに奴らはあくまでモンスター、決してかわいらしいペットなどではない。

人間を絶妙にいたぶるペットがいるなら、ぜひとも拝見したいくらいだ。

 

「未だ、あのピンクリスに接敵してないのは運が良かったな」

「ぷに」

「あいつら小物なら、すぐにでも吹っ飛ばせる」

 

そう言っている間にも、俺が先ほど回避した危険地帯に奴らは足を踏み入れようとしていた。

 

「君らは悪くないが、君らの仲間がいけないのだよ」

 

瞬間、目の前立つ火柱。地を揺るがす轟音。

熱風が俺の肌まで届いてくるほどだ。

 

「クックック……はーはっはっは!」

 

これこそが我が発明品地雷フラム、到底通常戦闘では使えないが今役に立てばよいのだよ。

 

「ハッハハ――ゲフッゲフッ!、ッハッハッハ!」

「ぷに~」

「これで残るはピンクリスただ一匹のみよ」

「ぷにぷに?」

「格闘なんかしないっつの、レベルが違いすぎる」

 

まったく俺に死ねとおっしゃるのか。

 

そんなやり取りをしていると、前に俺を助けてくれたあの人の声がした。

 

「懸命だな。そもそも君は何故こんなところにいるのだね」

「……てへっ」

 

まさか知り合いに会うとは思いませんでした。

 

「入るなって看板立ててたじゃないですか」

「…………」

 

無言で睨まれてる。何故?

 

「もしかして、怒ってたりしますか?」

「当然だ。君は少し自分の立場を考えた方がいい」

「立場?」

 

異世界人で冒険者で爆弾作りの天才?

 

「君はアーランドを代表する錬金術士の弟子であるということを忘れているのかね」

「あ、ああ」

 

素で自分が錬金術士って事忘れてた。

 

「そんな君がだ。違反行為をして、こんな所までくるなど言語道断と言うものだ」

「ま、まあ無事ですしいいじゃないですか……お願いですからクーデリアさんだけには言わないでください」

「ぷに……」

 

現実問題、一番誰が怖いかと聞かれればピンクのリスよりもクーデリアさんな訳ですよ。

 

「それはできないが、早く帰りたまえ彼女たちも心配している」

「ああ、もう3ヶ月ですもんね」

 

さらっと死刑宣告された気がするが、気のせいだろう。

 

「そう言えば、俺が出てきたあの日……ジオさん捕まえれたんですか?」

「……それが叶えばこんな所に来ていないだろう」

 

若干自傷気味にそう言うステルクさん。

あの人強いから、仕方ないっちゃ仕方ない。

 

「それじゃあ、俺はまだやり残したことがあるんで失礼しまーす」

「ぷにー」

「あ、コラ!待ちたまえ!」

 

あの人に俺の最終目的を話したら止められるのは目に見えている。

ここはステルクさんが隙を見せた今にパパっと逃げるのが一番だ。

 

 

…………

……

 

 

 

「ターゲット確認。これより作戦行動に移る」

 

相手は一頭。前と同様橋の上に立っている。

既に相手も俺に気づいているようだが、依然として動かない。

 

「ま、俺がいまからやる戦闘なんて物語にしたら、ほんの数行で終わるものになるだろうけどな」

「ぷに」

 

俺が杖を前に振ると、目の前に黒光りした大砲が召喚された。

 

「その間抜け面に打ち込んでやるぜ」

「ぷにに!」

 

この大砲こそ、俺が数ヶ月かけて材料を厳選に厳選を重ねたスーパー大砲なのだ。

 

「食らえ!破壊の閃光!黄昏の光(ラグナロク)!」

 

その大砲から出るのは、球ではなくレーザー、まさしく破壊光線。

蒼の閃光が何の抵抗もしないピンクリスを飲み込んでいく。

 

「……ラグナロクはないな」

「ぷに~」

 

最高の威力なのにセリフは最高にスカった。

 

「そして後には何も残らない」

 

光が止むとそこには塵一つ残っていなかった。

 

「すぐに方がつくとは言ったけど、まさかここまでアッサリいくとは……」

「ぷに」

「まあ、勝ちは勝ちだ。互いに必殺の一撃を持ってたんだ。先にやったほうが勝ちなのは当然だろう?」

「ぷに!」

 

まあ、もう一回あの大砲を作れと言われたら無理って言うしかないけどな。

 

「目標も達成したし。ステルクさんが来る前に帰るか」

「ぷに」

 

この勝利を胸に、俺は帰るみんなの下へと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……帰ったらラスボスいるの忘れてた」

「……ぷに~」

 

笑って許してくれたりしないかな、クーデリアさん。

 


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