アーランドの冒険者   作:クー.

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今日もやられ役

 

 

「……………………」

 

 今俺は埠頭で悟りを開いていた。

 

「我釣りをする、故に我あり」

「ぷに……」

 

 座り込んで釣りをする俺とその横にはぷにがいる。

 

「……ここまで釣れないと、悟りの一つや二つ開くっつーの」

「ぷに~」

 

 こっちでは錬金術ができずに暇だった俺はグイードさんから釣り具を貸してもらい、朝からここに居るのだが……。

 

「たぶん今頃みんなはお昼だろうなー」

「ぷに」

「昼飯は魚がいいと思ってたんだけどな」

「ぷに……」

 

 ご飯が食べられずにぷにはご立腹のようだが、俺だって必死に頑張ってるんだよ。

 

「……そこのタルに入ってるイワシでも食えばいいんじゃないか?」

 

 顔を後ろに向け、大量のイワシが詰め込まれたタルを見た。

 俗に言う、ご自由にお取りくださいって奴だ。

 

「……ぷに」

「そうだよな~、生はきついよなー」

「ぷに~」

 

 ずっと座ってたせいか、俺もぷにもイマイチ元気がない。

 

「……暇だ」

 

 俺は思わず天を仰ぎ見た。

 聞こえてくるのは小波の音に、鳥の鳴き声、そして剣戟の音。

 

「ぷにぷに」

「……そうだよなあ、釣れないの絶対あいつらのせいだよな」

 

 首を戻して、横を見てみれば、そこには剣の修業をしている後輩君にステルクさん。

 

「あんだけ、ドンドン音立てて踏み込んでれば魚も逃げるっつーの」

「ぷに」

「……どうする?」

「ぷに! ぷに!」

 

 俺訳『先生! お願いします!』

 

「おーけー、俺の昼事情的にもそろそろ止めてもらわんといかんしな」

 

 俺は竿を引き上げ、地面に置きながら立ち上がった。

 そして今だに剣を振り回している野郎ども二人へと歩いて行った。

 

 

「おうおうおう! てめえら誰の許可もらってここで修行してんだ? ああん!」

 

 今の俺は切れたナイフ。街のチンピラAさんだ!

 

「――ハッ!」

「クッ!」

 

 剣を振るステルクさんにそれを受ける後輩君。

 この新宿の帝王AKANEを無視するとはいい度胸してやがる。

 

 俺はポーチの中から光りものを取り出した。

 

「コロコロ、コローっとな」

 

 地面を転がっていくのは、キラキラと光りを反射するビー玉たち。

 

「これで奴らはスッテンコロリン、さあ大変ってわけだ」

「……ぷに」

「クックック、俺は素晴らしいぐらいに外道だなあ」

 

 その間にも転がっていくビー玉たちは彼らの足元まで到達した。

 

 

「ぬっ! おい、待て!」

 

 さすがステルクさん。我が奥義に気づいたようだが、後輩君は止まらない。

 

「タアッ!」

「クッ! ――――!!」

 

 ステルクさんの足元に転がるビー玉+迫る剣戟を受け止めるステルクさん

 

「イコール、ステルクさんの負け。完璧な方程式だ」

「ぷに~」

 

 そこには首元に剣を突き付けている後輩君の姿があった。

 

 これで決着がついた訳だし、帰ってくんねーかな。

 

「や、やった! 師匠に勝った!」

 

 無邪気に喜ぶ後輩君に若干の罪悪感が刺激され……ない。今は危機感の方が上回ってる。

 

「そ、そんなに見つめちゃやーよ」

「ぷ~に」

 

 後輩句が喜んでいる横ではステルクさんが物凄い形相で俺たちの方を見ていた。

 

「ぷ、ぷに隊員! 退路の確保は!?」

「ぷに! ぷににに!」

 

 前方には敵影、残りの三方向は海に囲まれている。

 

「う、海に逃げるか!」

「ぷにに!」

 

 落ち着けと言われた。

 そうだ、クールだ。クールになるんだ。

 

「……正面突破だ」

「ぷに!?」

「俺を信じろ! 何度俺がステルクさん及びその他を怒らせてきたと思っているんだ?」

「……ぷに~」

 

 ぷには若干諦め気味に、前に進む俺に付いてきた。

 

「先輩! 俺師匠に勝ったんだぜ!」

 

 あ、今ステルクさんのコメカミがピクってなった。

 

「そうか、よかったな。それじゃあ、さよならバイバイ。また来週!」

「ぷにに!」

 

 後輩君との自然な会話からのダッシュ! これにはステルクさんもついてこれまい。

 さっそうと二人の横を通り過ぎ、捨て台詞を残す。

 

「さらばですステルクさん! この埋め合わせは今度しますから――――ッア!?」

 

 突然に、俺は自分でもわからないまま尻もちをついていた。

 

「……俺を裏切ったのか友よ!」

 

 そこに転がっているのは俺の戦友、ビー玉君。

 光を反射したその姿はまさしく反逆の使途。

 

「そしてお前もか相棒!」

 

 遠く離れた場所にはぷにの姿があった。

 

「そしてステルクさん! 俺も逃げていいですか!」

「いいと思ってるのかね?」

「と、時と場合によっては――ヒィ!」

 

 ガキンッ!

 

 地面に座り込んだ俺の足元に剣が突き立てられた。

 

「立て」

「い、イエッサー!」

 

 俺は今だかつてないほどの速さで立ち上がった。

 

「何怒ってんだ? 師匠」

 

 空気読んで後輩君!わざわざ怒りに火を注がないで!

 

「お前は注意力が足りなさすぎる、それだから落ち着きもないのだ。よく足元を見てみろ」

 

 言われて周りを見渡す後輩君の視線に写っているのはビー玉諸君だろう。

 

「え? なんだこれ?」

「言うまでもないと思うが、そこのバカがばら撒いたものだ」

「あれ? ってことは……」

 

 それで気づいたのか、後輩君は落胆した様子だ。

 

「なんだよ。折角師匠に勝てたと思ったのに……。先輩、余計なことしないでくれよ」

「まあ、状況がどうであれ、負けは負けだ。そんなに落ち込むことはない。しかし、問題はこの男だ」

「…………」

 

 今の俺はまさに蛇に睨まれた蛙状態。

 

「まったく。君も少しは落ち着きを持ったらどうかね。いつもいつもふざけた事ばかり……」

「すいません。持病のなんちゃって症候群なんです」

 

 真面目なことするのが苦手なんです。

 

「そういうところがふざけていると言うのだ! 少しは自分の師匠や姉弟子を見習ったらどうかね」

「え? あの二人を……?」

 

 一日一回涙目になる師匠、ほんわか癒し空間のトトリちゃん。あの二人を……。

 

「彼女らは君とは比べられないほど真面目に仕事をやっている。そういったところは見習うべきだ」

「む、俺だって仕事はちゃんとしてますよ! 依頼だってコツコツこなしてますし」

 

 まるで人をサボり魔みたいに、仕事面では俺は真面目だっつーの。

 

「ほう。以前会ったのがどこか、忘れた訳ではないだろう? さらに言えば今日もこんな所でフラフラと」

「ま、前は錬金術のレベルが上がりましたし、今日は……錬金術が使えないから、ちょっと休んでるだけで……」

 

 目を逸らして言い訳がましく、と言うよりも完全に言い訳を口にした。

 

「ならば何故その時間を鍛錬に使わない?」

「うぐっ……」

 

 一応毎日筋トレはしてるけど、戦闘的な意味でのトレーニングはやってない……。

 

「それだからいつまで経っても自分の相棒に頼りっぱなしになるのだ。まったく、同じ男として情けない」

「ぷちっ」

 

 いくら俺とはいえ、そこまで言われたら切れちまいますよ?

 誰が相棒に頼りっぱなしだって? しかも情けないと?

 

「す、ステルクさんだって、いつまで経っても元国王一人すら捕まえられないじゃないですか」

「……確かにそうだな。認めよう。だが、今はそのことは関係ない……」

「ぷーっ、自分の目標も達成できない人が他人に説教なんてお笑いですねえ。ゲラゲラゲラ」

 

 全国のお姉さん方の俺に対しての好感度が下がった気がするが、気にしなーい。

 今は目の前にいる自称騎士をギャフンと言わせてやる。

 

「……それは私に対しての挑発と受け取って良いのだろうな?」

「ふん! 俺にだって一欠けらくらいはプライドがあるんですよ! 後輩君!剣貸せ!」

「え? 先輩剣なんて使えるのか?」

 

 戸惑いつつも後輩君は俺に剣を渡してきた。

 その間にステルクさんは散らばっているビー玉を避けていた。

 

「俺だって剣の練習くらいはしたことあるさ」

 

 小学生の頃は傘でアバンストラッシュを。

 中学生の頃は授業で剣道やって擦り足を。

 高校生の頃はWiiリモコンで回転切りを。

 

「それじゃあ、いきますぜステルクさん。怪我しないように気を付けてくださいよ」

 

 俺は片手で刃の潰された剣を握りしめた。

 ちなみにゴースト手袋は装備済みだ。

 

「ふん。素人の剣になど当たる気は毛頭ない。行くぞ!」

 

 俺だって剣を当てる気なんて毛頭もないさ。

 

「剣は道具! 先手必勝! 飛翔剣!」

 

 読んで字の如く、俺は剣をステルクさん目掛けて投げた。そして俺は同時に駆けだした。

 

 もちろん剣を当てるつもりはない。単純に避ける方向を限定し必殺の一撃を当てる。もしくは弾かせて隙を作り出す。

 電撃的に決着をつけるのは俺の十八番ですよ。

 

「夏塩蹴り!」

 

 体の重心を操り、実に約二年ぶりに使う。俺は回避行動を取ったステルクさんの顎へと足を振り上げた。

 

「甘いな」

 

 どのように避けられたかはわからないが、足に獲物を仕留めた感覚はなかった。

 

「……うげっ」

 

 着地した俺の首元に冷たい物を突き付けられた感覚があった。

 逆に電撃的に決着をつけられてしまうとは……。

 

「実力に差がある以上先手で決める。その発想に間違いはないが、技の錬度が足りなかったな」

 

 奇しくも、さきほど指摘された鍛錬不足を露呈させるような結果になってしまったようだ。

 

「クッ! わかりました。ちょっと今から修行してきます」

 

 俺は首元の剣を避けて走り出した。

 つまり技を鍛えれば万が一にも勝てる可能性はあったってことだろ。

 

「いつか負かせてやるんですからー!」

「せんぱーい! そういうの負け犬の遠吠えって言うんだぞー!」

「うわーーん!」

 

 後輩君の天然刃が一番威力があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 村はずれの森にて。

 

「ハッ! 釣竿返すの忘れてた!?」


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