アーランドの冒険者   作:クー.

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可愛らしい相棒

「…………今日もぷにがいない」

 

 三月も中頃、もう一週間ほどぷにの姿はなかった。

 ぷにの事だからどっか行ってんだろうと軽く見ていたが、さすがに心配になってきた。

 

 ふむ。相棒がいなくなったのは、ちょうど奴がステルクさんから一人で逃亡した日だな。

 

「きっと、一人で逃げたことへの罪悪感から、俺に会えないんだ!」

 

 ないない。

 基本的に俺もぷにも逃げ遅れた奴が悪いみたいな思考持ってるし。

 

「となると……修行?」

 

 と言うよりも、あいつの場合豪華グルメの旅になるな。

 今頃、モンスターを食い散らかしてたりしたり……。

 

「なしなし! ……ないよな?」

 

 どうしよう、モンスターどもからの報復行為とかあったら。

 

「まあ、あいつがどっか行った理由はともかく。あいつがいないと問題がある訳だ」

 

 そう大問題だ。あいつがいないと俺は……。

 

「俺、独り言呟いてるただの痛い人じゃん」

 

 今俺が座っている場所は、噴水の傍にあるベンチ。

 周りからの可哀相な子を見る目が突き刺さっている。

 

「――くっ!」

 

 誰か! 俺に会話相手を与えてくれ。この空気に耐えられない!

 

「……エア友達のカネア君。さいきん調子どうよ?」

「まじ超良い感じっすよ! もうアゲアゲみたいな?」

「…………そうか」

 

 もう一つ問題があった。ツッコミ役がいない。

 

「…………うう」

 

 今ので余計に周りの視線が痛々しい事になった。

 このままじゃ、俺が頭のおかしい人みたいじゃないか……。

 

「誰か、俺にツッコミを与えてくれるような人材は……」

 

 きょろきょろと周りを見渡す。

 おい、お前ら一斉に目を背けるとは何事か。

 

「……ハッ!」

 

 見えた! 俺に一番相性の良い奴が!

 

 俺は立ち上がり近づいて声をかけた。

 

「へい! そこのちむちゃん!」

「ちむ?」

「今から君は俺の相棒代理だ。いいな?」

「ち、ちむ!? ちむ! ちむ!」

 

 ふふん。他の奴は分からないだろうが、ぷにで散々上げた伝達スキルならどんな事を言っているかだいたい分かるぞ。

 ちむちゃんは今、勝手な事を言うなとご立腹なようだ。

 

「その完全に意思疎通ができない辺りが俺の相棒にぴったりだ」

「ちむ~。ちむちむ! ちむー! ちむ!」

「……分からん」

 

 必死に何かを訴えてきているが、まったく理解できん。

 ぷにだったら、一言二言で喋るから分かりやすいんだが……。

 

「何か用事があるとか?」

「ちむ」

 

 どうやら正解だったようで、ちむちゃんはだぶだぶの袖で村の出口を指した。

 

「採取でも頼まれたのか?」

「ちむ~」

 

 笑顔になったあたり正解っぽい。

 ふむ。採取か……。

 

「よし。付いてくか」

「ちむ?」

「修行? まあ、それも大事だがそれ以上にこのミッションは重要なんだ」

「ちむ……?」

「ふっ、分からんか」

 

 つまりだ、俺の未来予想図はこんな感じだ。

 

 外でちむちゃんを守る→ちむちゃんからの好感度アップ→それを聞いたトトリちゃんの好感度アップ

 

「完璧だ……完璧すぎる」

「ちむ? ちむむ」

「そんな難しい顔するな。要は一緒に採取に行きましょうってことだよ」

「ちむ!」

 

 ならば良し! みたいな感じでちむちゃんは歩いて行った。

 俺もそれに続いて歩いて行く。

 

 ……大分歩幅の違いが大きいな。

 ちむちゃんの三、四歩が俺の一歩で追い越されている。

 

「よっと!」

「ちむ!?」

 

 さすがにじれったかったので、俺はちむちゃんを肩に乗っけて座らせた。

 

「乗り心地はいかがですか?」

「ちむ~♪」

 

 どうやら満足してくれたようだ。

 

「んじゃ、行くか」

「ちむ」

 

 

 

 

 

 

 

「三日も歩いてきた訳だが、この辺か?」

「ちむ」

 

 村から北東に歩いて辿り着いたのが、狩人の森と呼ばれている森だ。まあ、ただの森だな。

 ここらにいるモンスターなんて、緑ぷにやタルリスくらいなので俺の望む展開にはなりそうにない。

 

「まあ、いいか。んで?採取するのは何だ?」

「ちむ~。ちむちむ」

「うん。鎖グモの巣か」

「ちむ! ちむ~」

 

 どうやら違うらしい、いくら俺でもそこまで正確に読み取れんよ。

 

「ちむちむ」

「ああ、なんだあれか」

 

 伸ばされた袖の先にあるのはハチの巣だった。

 

「……過保護だな」

「ちむ?」

 

 採取物としては簡単な方だ。採取地もやたら近いのと相まって確信した。

 トトリちゃんはやっぱりちむちゃんが可愛くて仕方ないようだ。

 

「ふ、羨ましいぜ」

「ちむむ」

 

 俺が若干感傷に浸っていると、ちむちゃんは俺の肩から飛び降りて巣のある木の下に向かった。

 

「おい、危な……くはないか」

 

 良く考えなくても、この地方のハチたちは全員で出払っていることが多いから安全だ。

 

「結構高い所にあるし、俺にまかせとけって」

「ちむ~」

 

 子供扱いにむっときたのか、口がへの字に曲がっている。

 最初にも思ったが、かわいいな。過保護に扱うトトリちゃんの気持ちもわからんでもない。

 

「よっと!」

 

 ハチが中にいない事を確認して、俺は巣を木からもぎ取った。文字通り力技だ。

 

「んで、これをどうすればいいんだ?」

「ちむ」

「ん?」

 

 ちむちゃんが袖で目を隠している。

 新手の殺人方法だろうか?主に萌え殺し的な意味で。

 

「……目を瞑ってろと?」

「ちむ!」

 

 よく分からないままに俺はハチの巣をちむちゃんに手渡し、目を瞑った。

 

「…………」

 

 ごそごそと布が擦れ合う音がしている。何してるんだ。

 

「ちむ!」

「……もういいのか? って、あれ?」

 

 ちむちゃんの手からはさっき渡したはずの物がなくなっていた。

 

「消失マジック?」

「ちむー」

「企業秘密?」

「ちむ!」

 

 さすがはホムンクルスと言うべきか、秘密がいっぱいのようだ。

 

「釈然としないが、まあいい。あと何個か採って帰る――――」

 

 ブンブンブンブン。

 

 俺が昔、かなり嫌いだった音が聞こえてきた。

 一回、ハチに襲われて以来ハエの羽音にすらビビるようになったんだよなあ。

 しみじみしてる場合でもないが、現実逃避せずにはいられない。

 

「逃げるぞ!」

「ちむ!」

 

 ちむちゃんを両手で前に抱え、俺は森の中へと逃げ込んだ。

 

 背後からは依然として不快な羽音が鳴り響いている。

 

「くそ! 俺のイメージカラーが仇になった!」

 

 真っ黒ジャージが俺のドレードマークです。

 

「ふ、フラム! フラムを!」

「ちむ!?」

 

 やりすぎかもと思いつつも、俺はちむちゃんを左腕でアメフトのボールのように抱え込み、片手を後ろに回しポーチの中を探った。

 

「……ない!」

 

 そういや、村来てから一回も爆弾作ってなかったな。

 そんなことやっている内に追い付かれそうだ。

 

「とりあえずっ! これ!」

「ちむ?」

 

 俺は手袋を取り出して、木を避けながらも装着した。

 ちむちゃんは良く分かっていないようだが、これで俺の身体能力は結構上がる。

 今更言うまでもないが、体力の消費が半端ない事になるが。

 

「ホントッ! しつこい!」

「ちむ~」

 

 ブンブンブンと何十か何百かは知らんが本当に焦燥感を駆り立てる音だ。

 

「――――ノオッ!?」

「ちむっ!?」

 

 突如、俺は何かに足を引っ掛けて思いっきり地面にダイブした。

 とっさにちむちゃんを両手で抱え込んだのは本能的だろう。

 

「土かぶり先輩! 空気読め!」

 

 いきなり地面からポンと出てきて冒険者を転ばせる。そんなやっかいなキノコなんです。

 そうしている間にも当然、蜂たちは俺たちに近づいてきている。

 

「オワタ」

「ちむ! ちむちむ」

「――なっ!」

 

 ちむちゃんが俺の拘束から出たと思えば、どこからともなくフラムを取り出した。

 本当にどこから出したかわからんほどにだ。

 

「ちむ!」

 

 ちむちゃんが投げたフラムは蜂たちの戦闘で爆破した。

 

「おお~」

 

 煙が晴れるとそこには何も残っていなかった。

 

「……あるなら、早く使ってくれよ」

「ちむ~。ちむ!」

「ああ、抱え込んでたから使えなかったと。……はあ」

 

 一安心して、俺は大きくため息をついた。

 良く考えてみれば、ちむちゃんに何も渡さないで送り出すはずないか。

 

「無駄に疲れた……」

 

 精神疲労に加え、手袋も着用している分もプラスしてかなり体がボロボロだ。

 自然と俺の体は木を背にしょって倒れこんだ。

 

「ちむ~」

「うん? いいのか?」

 

 そこには、またどっから取り出したのか。パイを差し出しているちむちゃんがいた。

 

「ちむ~!」

「んじゃ、お言葉に甘えて」

 

 俺は手袋を取り、パイを半分に千切った。

 

「いただきまーす」

「ちむー♪」

 

 二人並んで座りながらもぐもぐと食べた。

 

「なんだかんだで、ちむちゃん意外と逞しいよな」

「ちむ」

 

 パイくずを口元につけたまま、ちむちゃんは得意げな顔をしている。

 

「愛らしいしな」

「ちむちむ」

 

 頬を赤く染めているあたり満更でもないらしい。

 ホムンクルスとはいえ女の子だもんな。

 

「よし! エネルギーも補充したし! 採取を続けるか!」

「ちむ!」

 

立ち上がって、俺は再びちむちゃんを肩に乗せ歩き出した。

 


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