アーランドの冒険者   作:クー.

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俺の相棒 後編

「鎖よし、フラムよし、手袋にドーピングお薬っと」

 

 あれから3日、入念に用意を重ね今最終チェックをしている。

 

「いやー、本当に師匠様々だよな」

 

 薬だけでなく鎖まで作ってくれるとは、正直なとこ助かった。

 あとは最近の目撃情報でも聞きに行って、出発するだけなんだが……。

 

「はー、で? 後輩君、そろそろ諦めてくれんか?」

 

 いきなりやって来たかと思えば、俺もついて行くと言って聞かないんですよこの子。

 

「嫌だ。それに先輩一人でどうやって倒すんだよ」

「それは、あれだ。まあいつも通り一発勝負だな」

 

 出会い頭に鎖で拘束して必殺の一撃を叩きつける。

 これが俺の常套手段だ。

 

「あいつ俺と同じで結構打たれ弱いしさ。なんとかなるって」

 

 ぷには攻撃を受ける事自体少ないため俺もあまり気にしていなかったが、あいつは打たれ弱い。

 前に後輩君とミミちゃんでグリフォンとかの討伐に行ったときが特に顕著だった。

 何だかんだで、俺とぷには戦闘のスタイルも結構似ていたってことだな。

 

「でもさ、オレも何かしたいんだよ。あいつ前にオレの事助けてくれただろ。だからさ……」

「ああ、うん。そうだな」

 

 さて、どうしたもんか。

 確かに後輩君が一緒に来てくれれば戦力は増加するが……。

 

「非効率的な考えだけどさ、俺は一人でぷにを止めたい。あくまでもただの意地だ」

 

 十人いたら十人が自分勝手と言うだろうが、それが俺だ。

 

「それじゃあ……そうだ!」

「うにゃ?」

 

 悩みだしたと思ったら、いきなり顔を輝かせた。

 

「前に先輩に教えられなかった必殺技だよ。必殺技!」

「……一応聞いておくか」

 

 この局面でいきなり教えられても使えないだろうが、ぷにの知らない技を隠し持っておくのも良いかもしれない。

 

「それでだな、この技は…………」

「ふむふむ……」

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「~♪~~♪♪~♪」

 

 アーランドから東に向かった林の開けた場所で、俺は鼻歌交じりに地雷フラムを埋めていた。

 

「演出至上主義ってね」

 

 危険物が埋められていっているこの場所は俺とぷにが初めて出会った場所。

 ドローファイトに決着をつけてやろうってことさ。

 

「……よし、と」

 

 フラムを埋め終わった俺は立ち上がり東を見つめた。

 ギルドに届いた最近の目撃情報によれば、ぷにがいるのはさらに東の方向らしい。

 

 だったら何で、ここに罠を仕掛けたかと言われれば、そっちの方が展開的に燃えるからとしか言えないな。

 俺はなんとしてもあいつを止めたいが、それとは別に決着をつけてやりたいって気持ちもある訳だ。

 

 この戦いが相棒の最後になるかもしれない以上、俺は最高の舞台であいつに勝利したいんだ。

 

「来るなら来い、全力でここまで逃げてきてやる」

 

 俺は思い出の場所を振り返り、林の中へと進んで行った。

 

 

 

 

「…………」

 

 林の中を進んでいく、既にゴースト手袋は着用済みだ。メリケンサックは着けるべきか悩んだがアイテムを取り出しづらくなると判断しポーチの中だ。

 一時的に体力を増加させる強壮の丸薬という薬も服用済み。いつでも逃げれる用意は整っている。

 

 襲われたら、一直線に逃げて行き、罠を駆使してぷにを倒す。

 それしか俺には方法はない。

 

 そのまま警戒しつつ歩を進めていくと、視界の端に不自然な発光が見えた。

 

「――――ッ!?」

 

 真横から飛んできたのは火球、俺は内心やっと来たかと思いつつも前に転がり避けた。

 すぐに立ち上がり、周囲に気を配るが物音ひとつしない。

 

「…………へ?」

 

 突然頬に鋭い痛みが走った。右手で触れてみれば手袋には赤い血が染み付いた。

 見えなかった以前にわからなかった。

 ステルクさんの言っていた突然切り裂かれたって言うのはこの事かよ。

 

「クソチートが!」

 

 立ち止るのはまずいと判断し、俺は全速力で来た道を戻って行く。

 

「ふっ!」

 

 特に確信がある訳でもないが、俺は右へと飛んだ。

 予想通り、視界には高速で飛んで行くぷにと思われる姿があった。

 

「どうした! 知能が退化したか!?」

 

 ステルクさんは切り裂かれ、体当たりを食らったと言っていた。

 他の被害を受けた冒険者たちにも同様の傷跡があったことから、あの攻撃がワンセットではないかと予想した訳だ。

 

 さすが俺、今の俺を見たら皆俺の事を見直すに違いない。

 

「まあ、見えない事に変わりはないし……。それに食らった方が良かったかもしれん」

 

 ぷにが俺の退路に飛んで行ってしまったので、俺は横からの迂回して行くしかない。

 いっそのこと、ダメージ覚悟で吹っ飛んで行った方が賢かったかもしれん。

 

「とりあえず、これだ!」

 

 俺はポーチからフラムを取り出し、放り投げた。

 そのフラムが爆発すると、火炎ではなく出てくるのは煙。

 前に調合ミスったフラムを煙幕代わりに使おうとしたが、今回は完全に煙幕様に調合したフラムだ。

 

「あばよ」

 

 俺は煙に紛れて、木々の中へと消えて……いけなかった。

 

「ぷに゙ーーっ!」

 

 いつもよりも濁ったぷにの声が聞こえたと思うと、強風が吹き煙幕が吹き飛ばされた。

 同時に俺の顔から何から全身に痛みが走り、視界に血が飛んでいるのが写った。

 

「……そういうことかよ」

 

 そういえば、アードラ、あの鳥モンスターが真空波なんて技を持ってるって本に書いてたな。

 ただ、オリジナルを食らった事はないが威力がケタ違いなのは、なんとなく分かる。

 さっきの見えない攻撃は極小の出力で放ってたってことか。

 

「くそ! フラム!」

 

 再び飛んできた火球に俺はフラムを投げつけ相殺した。

 

「――――ガッ!?」

 

 また真空波が飛んでくるという予想に反して、飛んできたのはぷに自身だった。

 鳩尾に当たる事こそなかったが、俺はその場に倒れかけた

 目の前には自分が勝利したと誇示するように、ぷにが悠然と構えていた。

 

「に、逃げるんだ……」

 

 あの場所まで、逃げる逃げたい。

 なのに方法がない、鎖は決めの一手、フラムは当たるはずがない。

 

「詰んだ……?」

 

 完全に甘く見ていた。あそこまで逃げる、それが一番難しい事だと、今更になって気づいた。

 

「ぷに゙に゙に゙に゙」

「あん?」

 

 聞こえてきた濁った笑いに、思わず弱気な思考を停止した。

 イラついた。ああ、イラついた。

 

「不愉快なんだよ! てめえ!」

 

 俺はボロボロの腕を前に振り、大砲を召喚した。

 

「黄昏の光(ラグナロク)!」

 

 大砲から発せられる蒼いレーザーはぷにのいた周辺を容赦なく薙ぎ払った。

 

「ふっ!」

 

 俺は結果を見届けずに目的地まで走り出した。

 足からも血が出ているが、そんなことに構っていられない。

 

「はあ! はあ!」

 

 手袋の疲労に流血まで加わり、ドーピング分の体力すらも切れてきた。

 だが、後少しだ。あそこにさえ行ければ……。

 

「――――フフッ」

 

 木々を抜け、開けた場所に出た。

 決戦のバトルステージ、俺の絶対勝利の場所。

 後ろからは葉が擦れ合う音が響いている。

 あと数秒もしない内に来るだろうな。なら、俺がやるべきことは……。

 

「ハア! ハア!」

 

 俺は地雷フラムを埋めた場所へと走って行く。

 

「ハア……ッオラ!」

 

 そして、その場所を思いっきり踏みしめた。

 

 

 

「――――ッ!」

 

 

 口から小さな悲鳴が上がるが、決して痛みによるものだけじゃない。

 一言で言うなら、人は空を飛ぶようにはできていないと言うことだ。

 

「…………」

 

 俺は今、周りのどの木よりも高い位置まで飛んだ。

 あのフラムの本当の役割は俺を飛ばす発射台になる事。

 足がどうなっているか確認する余裕もなく、俺は重力に引かれてスピードを落としていく。

 

「いた」

 

 落下が始まる瞬間に真下で周りの様子を窺っているぷにがいた。

 俺は拳を落下する方向に突き出しながら落ちていく。

 

「魔法の鎖!」

「ぷに゙!?」

 

 惜しかった。あと少し早く俺に気づいていればよかったな。

 俺が左手で鎖を地面に投げつけると、鎖は生きているかのように動き、ぷにを地面に封じ込めた。

 

「彗! 星! 拳!」

「――――ぷに゙」

 

 これぞ後輩君が考えだした必殺技。上空から叩きつける一撃。

 

 ぷにに右拳を当てると同時に俺は両足を着く。

 拳からは嫌な音と感触が伝わってきた。

 

「俺の! 勝ちだ!」

「ぷ……に……」

 

 俺は拳を引くと同時に後ろに倒れこんだ。

 上半身だけを起こしてぷにを見ると、若干潰れてはいるものの生きてはいるようだ。

 

「ぷ、ぷ、ぷ、ぷ」

「……?」

 

 何か青くなって、口をすぼめている。

 まさかとは思うが、新しい形態とかじゃないよな。

 

「ぷ、ぷ、プヴォェェー! ヴォェー!」

「う、うわああーーーー!?」

 

 

 

 しばらくお待ちください。

 

 

 

「君さあ、何? 何なの? 折角人がカッコよく勝利を決めたのさあ」

「ぷに~」

 

 俺とぷには昔と同じように、並んで倒れていた。

 前と違って、鼻にくる刺激臭があるが……。

 

「オチが吐くってなんだよ。あれか? 食べすぎで我を見失ってたのか?」

「ぷに!」

「当たってんのかよ!? 消化に悪いモンスターを食うからそうなるんだよ」

「ぷに~」

「いっそさ。な、内部に取り込んだ魔物たちが! 暴走する! みたいな感じの方が説得力あるわ」

 

 それが食べすぎですよ、被害を被った方々に何てお詫びすればいいんだよ。

 

「……帰ったらクーデリアさんが怖いぜ」

「ぷ、ぷにー」

 

 どんと来いみたいなこと言ってるが、俺としてはDon't来いな訳で。

 

「……はあ。これで一件落着か」

「ぷに」

「それでさ。お前、なんでいきなり出てったんだよ?」

「ぷに~、ぷにに。ぷに」

「新しい必殺技が欲しかったって? もしかして、お前俺と後輩君の話聞いてたのか?」

「ぷに!」

 

 なんか、どんどん動機から何からしょぼくなってくな。

 俺が一人で盛り上がってたみたいじゃないか。

 

「とりあえずさ。お前はなんだかんだで大事な相棒なんだよ。あんま無茶すんなよ」

「ぷに~」

 

 珍しく素直に反省しているようだな。

 

「それに、今じゃお前の方が弱いんだしさ」

「ぷに!? ぷに!」

「ああん? 勝ちは勝ちだ。卑怯なんて言わせんぞ。勝てば官軍負ければ賊軍だ」

「ぷに~!」

「あんだ!? もう一回やろうってか!」

「ぷに!」

 

 バシ! ドコ!

 

 立ち上がった俺にぷにの体当たりが当たり、俺の拳がぷにに突き刺さった。

 

「……うへぇ」

「……ぷに~」

 

 俺とぷには完全に力尽き、互いに気絶した。

 

 ……やっぱり、ぷにがいると面白い。

 意識が沈み込む前に、柄にもなくそんな事を考えた。

 


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