アーランドの冒険者   作:クー.

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料理人への道 上

「イクセルさ~ん、いつものお願いしま~す」

「あいよー」

 

 今日も今日とてサンライズ食堂に昼食を食べに来た俺はカウンター席に座り注文をした。

 客も多く、イクセルさんは忙しそうに動き回っている。

 たぶんこれ、俺が後回しにされるパターンだよな、うん。

 

「空腹はスパイス、空腹はスパイス……」

 

 ぶつぶつと自己暗示をかけつつ、俺は料理が出てくるのを待ち続けた。

 

 …………待つこと数十分

 

「はい、お待ち」

「がるるるっ! がう!」

 

 こんだけ待たされれば、野生化もしますよ。こちとら育ち盛りの二十歳前だもん。

 

「うちの店は動物お断りだ」

「くう~ん」

 

 イクセルさんは皿を下げようとしてきた、なんという非道。

 

「冗談だって、ほらサービスだ」

「…………」

 

 そう言って、イクセルさんはアイスコーヒーを一杯出してきた。

 嬉しいは嬉しいんだけど、股された時間的に考えると微妙な気分だ。

 

「まあ、コーヒー代が浮いたと思えば……」

「へえ、お前もそういうこと気にするようになったのか」

「そうもなりますよ……」

 

 借金とか治療費とかいろいろ出費がかさんだせいで、最近は買い物とかにいろいろ気を使うようになってる。

 

「イクセルさんだから言いますけど、実は借金があるんですよ……」

「借金?」

「はい、しかもその額がですね……」

 

 こっちに顔を寄せるように合図をし、イクセルさんの耳元で額を囁いた。

 

「30万コール!?」

「ちょ! し、しーっ! あまり大きな声で言わないでくださいよ」

「い、いや、お前一体何やらかしたんだよ!?」

「まあ、いろいろですよ、いろいろ」

 

 だいたいはぷにのせいだけどな。

 

「つか、お前そんな借金有るくせにここに飯食いに来てんのかよ……」

「だって自炊できませんし、第一そんなに変わらないんじゃないですか?」

 

 料理作る時間と習得する時間を考えると、差額に釣り合わない気がする。

 そりゃ年計算すれば大分違うんだろうけど、今は目先の借金に集中したいしな。

 

「お前なあ、一応聞いとくけど朝とか夜はどうしてるんだ?」

「最近は朝抜いて、夜は基本的にパンとか食べて済ませてますね」

「…………」

 

 俺がそう言うとイクセルさんは唖然としたような表情になった。

 俺なんか変なこと言った?

 

「信じらんねえ……」

「そ、そこまで言わなくても」

「お前、もうちょっと食事を楽しもうとか思わないのか?」

「可愛い子が作ったのなら楽しめますけど、それ以外は……お腹空いてる時はおいしいねって感じですかね」

 

 こっちに来て一番食事を楽しめたのはトトリ家での食事。

 ツェツィさんの手料理はもう、言葉では言い表せない感動があるね。

 

 んで、なんかイクセルさんの顔が怖いことになってる。知らぬ間に地雷でも踏んだ?

 

「あの? イクセルさん?」

「……お前、今日店終わってからもう一回来い」

「え?」

「俺が料理の楽しさと、大変さを教えてやるからさ」

 

 イクセルさんが大変さの部分にアクセントを付けて言ってきた。

 笑顔にはなってるものの、さっきの顔よりも怖いんですけど……。

 

「で、でもイクセルさんもお忙しいでしょうし……」

「別に俺はいいぜ、後はお前しだいだな」

 

 俺の判断に任せられるらしいけど、断るなオーラが俺を威圧してくる。

 

「よ、よろしくお願いします」

「よし! んじゃ、後で店に来いよ」

「はい……」

 

 第二の師匠が誕生した瞬間であった。

 

 

…………

……

 

 

「…………来てしまった」

 

 空がすっかり暗くなり、月が昇った頃、俺はサンライズ食堂の前まで来ていた。

 中では今頃イクセルさんが待っていることだろう。

 

「ぷにの奴め、最近やたらと仕事を真面目にやってるもんな……」

 

 ぷにがいたらこの恐怖を少しは軽減できただろうに。

 師匠は優しかったが、イクセルさんはなんか教えるのに厳しいイメージがある。

 

「お、お邪魔しまーす」

 

 恐る恐る食堂の扉を開けると、いつも通りカウンターの中にイクセルさんがいた。

 

「おっ、来たか。んじゃ、これ着てくれ」

「あ、はい」

 

 手渡されたのは、白いエプロン。

 ……ジャージエプロン、これは流行るな。

 くだらないことを考えつつ、調理実習とか以来のエプロンなのでもたつきつつも着た。

 

「教えるのは、トトリの奴に教えたのと同じ奴にするかな」

「え? トトリちゃん?」

「なんだ、聞いてないのか?」

「トトリちゃんもイクセルさんに料理教えてもらってるんですか?」

 

 特にそんな素振りはなかったように思うんだが……。

 

「まあ、あいつのはレシピを教えて作って来た料理の完成度を見るってだけだけどな」

「? よく分からないんですけど」

「錬金術だよ、錬金術。同じアトリエにいるのに気付かなかったのか?」

「…………気付きませんでした」

 

 まさか錬金術で料理を作るとは……。

 俺もパイは作れるけど、他の料理まで錬金術で作るって発想はなかったな。

 

「いや! それなら俺も同じ方式でいいんじゃないですか!?」

「それじゃあ、意味がないだろ」

「い、意味?」

「言っただろ? 料理の楽しさと大変さを知ってもらうって」

 

 つまり、釜かき混ぜて作っても意味はないってことですか。

 

「わかりましたよ……。それで、何を教えてもらえるんですか?」

「そんなに焦んなって、今日は初日だから軽いのから教えるぞ」

「ういっす」

 

 返事をし、俺はカウンターの中にあるキッチンに立った。

 

「今回教えるのは香茶とコンソメスープだ。そんなに難しくもないし初心者にはちょうど良いレベルだな」

「なんだ、コンソメスープですか――」

 

 そのくらい簡単って言おうと思ったけど気付いた、この世界に固形コンソメなんて物はないんだと。

 

「レシピは後で渡すから、材料の切り方とか細かいところを重点的に教えるからな」

「……はい」

 

 ここからが地獄の始まりでした。

 

 

 

「お前、野菜の皮もむいたこと無いのかよ……」

「すいません……」

 

 いっつもピーラー使ってたんだもん、包丁で皮むいたことなんて現代っ子はあまり無いと思うですよ。

 

 

 

「おい! 切るときは手を丸めろ! 危ないだろうが!」

「お、おっと、そうだった」

 

 調理実習の経験がまったく生かされてない。

 もう2年以上前だし仕方ないね。

 

 

 

「…………」

 

 卵白だけをうまく取り出すのに必死な男の図。

 

 

 

「こんな感じですか?」

「ああ、次は鍋に移して煮込んでくれ」

「ういっす」

 

 卵白に玉ねぎ、セロリ、にんじん、牛肉のミンチにスパイスを各種。

 これを混ぜて、次は鍋に移して煮込む。

 ……コンソメの素の偉大さが分かってくるな。

 

 

 

「……沸騰させるなって言ったよな」

「い、イクセルさん怖い! 怖いです!」

「ったく、沸騰させると濁るからちゃんと覚えとけよ」

「は、はい!」

 

 お店の新人コックさんってこんな感じだったりするんだろうか。

 

…………

……

 

「で、できた……」

 

 煮込んだものをガーゼで濾して、ようやっとコンソメスープが完成した。

 これで初心者レベルとか、明日からどんだけハードになるんだろ……。

 まあ、師匠の教え方よりはわかりやすいし丁寧だけど、比べるのも失礼なくらいに。

 

「よし、後は香茶だな」

「ですよねー」

 

 

 温度やら入れ方やらを散々注意され、店に入ってから数時間後俺は解放された。

 そして、明日も来るように言われた。

 俺の肩書きの数がまた増えることになりそうだ。

 

 

 

 次の日の昼

 

 

「師匠、パイっていいですね。作るのすごい簡単ですし」

「え、うん。そうだけど、なんでそんなに泣きそうな顔になってるの?」

「錬金術の便利さに感動しちゃって……」

 

 材料を加工する、釜を混ぜるの2アクションで完成するんて、錬金術さんマジパないです。

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