「……ん?」
「ぷに?」
ゲラルドさんの店から出ると、どこかへ走って行くツェツィさんの姿があった。
突然のことで追うことも出来ずに俺たちは呆然としていた。
「フラグだな」
「ぷに?」
「今のイベントを見れば、トトリちゃん家でイベントが発生する」
「ぷに?」
ぷにがまったく意味が分からないと言う感じに鳴いていた。
まったく頭の回転が遅い、嘆かわしいことだ。
「フラグに敏感じゃないとCGが全部集まらないんだぞ?」
「ぷに~」
「あん? 誰が酔ってるって?」
いくら話が分からないからって人を酔っ払い扱いするとは……。
ゲラルドさんの店であの後五,六杯飲んだだけだで酔うなんて、そんな軟弱じゃないさ。
「ったく、いいから行くぞ」
「ぷに」
そう言って、俺は歩き出そうと、足を前に出した。
「ぐはっ!?」
「ぷに~……」
気付いたら転んでいた。
受け身も取れずモロに顔面を地面にぶつけてしまった。
「…………」
俺は店の壁を頼りになんとか立ち上がれた。
おーけー何の問題もない。今俺は店から出てきたところだ。
「よし! 行くか!」
「ぷに……」
俺は壁から手を離し、足を前に出した。
「があっ!?」
「…………」
…………
……
「着いたな」
「ぷに」
あれから転び続けること数十回、俺の中では無傷でトトリ家まで辿り着いた。
実際ちょっと視線を下に落とすと全身土まみれな訳ですよ。
「ぷに、背中の土払ってくれ」
「ぷに」
ぷにが背中に飛び跳ねてジャージの土を落としてくれる。その間に俺は手の届く範囲の土を払い落した。
「よし完璧だ。それじゃ、お邪魔しまーす!」
「ぷにー」
扉を開け放ち、俺は家に踏み込んだ。
「お、お姉ちゃ……なんだ、アカネさんか……」
「…………あれ?」
「……ぷに」
俺の精神が傷ついたって言いたいのは山々なんだが、この部屋の空気が重くてとてもそんな事は言えない。
酔った勢いに任せたからこうなるんだ、そんな感じの視線をぷにが送ってきた。
「ええと…………ッ!?」
どうしたもんかと視線を彷徨わせていると、衝撃的な物を見つけてしまった。
トトリちゃんのお父さん、グイードさんがいたのだ!
こんな簡単にこの人が見つかるなんてあり得ない。一体どうしてしまったんだ。
「んで、アカネ。お前何しに来たんだよ?」
「…………? ……ギャ、ギャーー!?」
「ぷ、ぷにー!?」
一瞬呆然としたが、すぐに俺とぷには叫び声をあげてしまった。
口調から声のトーンから俺の呼称から何もかもが違う。
「わ、わかったぞ! グイードさんがこんなんになったショックでツェツィさんは家出したんだよ!」
「ぷ、ぷににー!?」
「おい、お前ら何言って……」
「出でよ破邪の鏡! 奴の真実の姿を映し出せ!」
都合よくポーチに入っていた鏡をグイードさん(偽)に向けた。
ドラクエとかのRPG的にこれで悲鳴を上げながら、モンスターに変わるはず!
「ぷに!ぷに!」
「って破邪の鏡割れてる!? ……ハッ!」
そういや俺すごい転びまくってたやん!
「……どうしよどうしよ!」
「ぷ、ぷにに!」
「ふ、二人とも落ち着いてくださいー!」
…………
……
「だから、こう言うことなんですよ」
「な、なるほど」
「ぷに~」
落ち着きを取り戻した。もとい酔いが冷めた俺にトトリちゃんから大まかな事情が説明された。
「ふむ、ちょっと待って話まとめる」
結構情報量が多かったので俺は一旦頭の中でまとめることにした。
時系列的に考えると、トトリ母がグイードさんの作った船で海に行くっていうのが最初だな。
んで、船の破片が流れついて、トトリちゃんがショックでその話を忘れてた。
一気に飛んで今に至り、トトリちゃんがクーデリアさんからもらった出向届を二人に見せたと。
「…………」
やばい、冷や汗が止まらん。海関係の話は俺のタブーなんだって、こんな話聞かされたら、海渡って来たって言う嘘が心に痛くなってしまう。
さらに、この後にされた話が問題だ。
そこからお母さんを探しに海に行くから船を作ってとグイードさんにお願いして、グイードさん覚醒。
ツェツィさんはトトリちゃんまでいなくなったらって言って、家から出て行ったと……。
「…………やっべ」
「…………ぷに」
誰にも聞こえないように呟いたが、俺の嘘を知っている唯一無二の存在であるぷにには聞こえずともわかってしまったようだ。
もしも俺がフラウシュトラウトだったか?まあ、後付けではあるがそいつと対峙した設定を知られでもしたら……。
戦闘経験があるなんて頼もしい、せひとも付いてきてください→俺死亡。
「……はあ、はあ」
「あのアカネさん?何で震えてるんですか?」
「べ、別に! それじゃあ俺は帰るかな! 家族の事情に立ち入るのもなんだしね! まったくこんな話俺にしなくても良かったんだぜ!」
かつてないほどのテンションで言葉を発しつつ、俺はおもむろに椅子から立ち上がり、外に向かおうとした。
そこでトトリちゃんが魔の一石を投じなければ、平穏無事に帰れただろう。
「あの、アカネさんって海を渡ってきたんですよね。だったらフラウシュトラウトとも戦ってるんですよね?」
「…………」
口の中が干からびていく、ここでノーと言うことは簡単だが後々クーデリアさんに話されでもしたらアウトだ。
いっそ全部嘘でしたって言う?論外すぎる。その選択肢はない。
まあ、そうなると答えは一つなんだが……。
「ええと、船をぶっ壊されてここまで流れ着いたんだよ。戦闘なんてしてないです」
「あ、そうなんですか……」
「うむ、そんじゃあ、そろそろお暇させてもらうよ」
そう言って、俺はぷにを連れて逃げるように家から出て行った。
「……心臓に悪い。あ、胃が痛い……」
「ぷに~」
キリキリと内臓が軋む音が聞こえる気がする。
「しかし思いつくままに言ったにしてはベストな回答だったな。これで海に連れてかれるなんて死亡フラグも消えた」
「ぷに」
「まあ、罪悪感だけは消えないけど……」
「ぷに~」
まさか今更になってこの嘘の話が出てくるとは、俺自身も忘れてた話なのに。
「……とりあえず、罪滅ぼしに船の材料集めの手伝いを頑張るとしますかね」
「ぷに!」
それもツェツィさんが船を造るのを許したらの話だが……。
「ま、家族問題を俺が気にしても始まらんしな。ぷに、この後洞窟に出かけるぞ」
「ぷに」
俺が海に出ることはないだろうが、後輩君は付いて行くかもしれない。
今回の冒険で材料を手に入れて良い剣を作ってやるとしよう。
「俺今すごい裏方っぽい」
「ぷに~」
そうね、別にカッコよくはないよな。