本来の予定通りに俺たちは洞窟前までやって来ていた。
余計なのを一人ばかり連れてきているが……。
「…………はあ」
「どうしたんだ? 先輩がテンション低いなんて珍しいな」
お前のせいだよお前の。何だよこの状況……。
例えるなら、プレゼントにケーキをあげたいから贈る相手に作り方教えてもらうみたいな迷走状態だ。
連れてきたのにはもちろん理由があるさ。一言で言えば恐怖だよ恐怖。
後輩君に村の出口で連れてってくれってせがまれて、当然のように俺は断りたかったんだよ。
でも偶然近くをメルヴィアが通って……ね?後は想像に任せるけど……。
「……はあ」
「先行ってるからなー」
何より俺のテンションを一番下げた理由は後輩君と一緒に自転車でドライブしたという点だ。
動力のドナーストーンを確保しようにもトトリちゃんのアトリエには行きづらかったから、結局漕いだから余計に時間かかったし……。
「俺の後ろは女性専用だぜ……やばい、カッコいいな俺」
「ぷに……」
「あれ? 後輩君は?」
「ぷに~」
先に行ってしまったらしい、一言ぐらい声をかけてくれよ。
…………
……
「行けっ!」
「ぷに!」
いつも通りのぷに無双タイム。
黒いトカゲと言った感じのバザルドラゴンを体当たりで一撃必殺、水色のペンギンモンスターもシャドーボールで一発。
俺は後ろでひたすら素材を採取、相棒との冒険の安心感は異常。
「ぷにー」
「ん、そんじゃ先進むか」
ぷにを頭に乗せ、木の板で作られた足場を降りて行く、この足場崖のような場所に作られているので結構怖い。
落下したら間違いなくデッドエンド確定。
「死にたくないからモンスターは頼んだぞ」
「ぷに!」
「よしよし……っとあれは後輩君じゃないか」
「ぷに?」
下を覗き込むと、岩場の所で後輩君がバザルドラゴン、簡単に言えばサラマンダーが黒くなって強くなったものを相手にしていた。
ぷには一撃で倒していたが後輩君はどうだろうか?
「…………え?」
「ぷに~」
素早く近づき流れるような連撃を浴びせて、あっさり倒してしまった。
「もう最速を極めし者の称号上げていいんじゃないかな?」
「ぷに」
たぶん、いや絶対に今の後輩君の方が俺より強い。
最近一緒に冒険してなかったからわからなかったが、彼も成長したもんだ。
「いいもん、俺には錬金術があるもん」
「ぷに~」
「タイマンだったら勝てます~、だから先輩失格とか言わないでください。お願いします、ガチで」
「ぷにに」
先輩としての威厳がもうないだろって言われた。探せば一つや二つくらい……。
「……錬金術」
「ぷに」
ダメらしい。あくまで後輩君相手で勝っている部分ってことか……。
「ランクはたぶん同じ…………あれ?」
「ぷに?」
「き、筋肉だけとか言うなよ! 脳筋だと思われるだろ あ、頭だって俺の方がいいし!」
「ぷに~」
クッ、どれだけ言い繕っても冒険者として最重要パラメーターである戦闘力が劣っていては話にならないということか……。
昔の必殺技に憧れていた頃の後輩君が懐かしい。
「これもステルクさんが師匠になった成果か……」
「ぷに」
「待て待て、なら俺にもそろそろ強化フラグが立ってもいいだろ」
「ぷに?」
「む? そうだな、例えば……」
俺はポーチの中を漁り、俺の最も頼りになるアイテムである手袋を取り出した。
「こいつなんてそろそろランクアップの時期が来てもいいだろ」
「ぷに……」
訳)結局アイテム頼りか……。
「悪かったな! こいつが俺の戦闘力の六割以上なんだから仕方ないだろうが!」
「ぷに~」
「今に見てろ! こいつを強化するオプションパーツがどこかにあるはずなんだ!」
そう言い放ち、俺はさらに歩みを進めて行った。
…………
……
あった。
「こいつは! 黒の魔石!? なんてダークパワーだ……くっ! 右手が疼く……! 静まれ! こんな所で力を解放したら……!」
「ぷに……」
「うわあ……」
外野が何やら五月蠅いな……。
「ふん! 悪霊に憑かれし手、デモンズハンドを持たぬもには、この気持ち……わかるまい」
「先輩……先行ってるから、落ち着いたら来てくれよ」
なんかリアルな憐みの視線を感じる。
だがしかし! この今の俺の気持ちを抑えることはできない!
俺の右手に収まっている黒い鉱石、黒の魔石。この手袋がゴーストからのドロップアイテムだからなのかは知らんが、これを握っていると力が湧いてくる!
その出力は体感的に通常の三倍以上!
「これは……俺の時代が来タッ――ガハッゴホッ!」
「ぷ、ぷに!?」
「ゲホッゲホッ! ウェッッホ!」
「ぷにー!?」
俺は石を放り投げ、手袋を口を使って思いっきり外した。
「はあ、はあ、よく考えなくても……はあ……出力上がるってことは俺の体力が……余計に減るって、ことじゃないか……」
「ぷにー……」
「ま、まあ何かには使えるかもしれんし……はあ、集めて、おくか」
「ぷにに」
息を荒げつつも、俺は落ちている石を片っ端から集めた。
たぶんこれからよっぽどの事がなければ使わないとは思う。
命削って戦うのは世の中の真っ当な主人公におまかせすることにしているのだよ。
「そうだよ、俺が強くなる必要なんてないよな。俺と相棒は二人で一人なんだから!」
「ぷに!」
「おっけーおっけー! 最近ぷに抜きで凶悪モンスターと戦うことあったからだな。変な幻想を抱いちまったのは」
「ぷに」
俺の戦闘の基本は一に相棒二に相棒、たまに俺の爆発物だ。
生身での戦闘なんてリスキーな事するのはバカらしい。
「よし! そうと決まったら後輩君を追うか!」
「ぷに!」
ここの洞窟には凶悪モンスターも居るらしいし、奥まで行くには後輩君一人じゃ不安だ。
…………
……
「……先輩」
「なんだ?言いたい事は分かるが」
俺は手にメリケンサックを嵌め、後輩君は剣を構えて凶悪モンスターに向き合っている。
姿はテイルズにでも出てきそうな精霊の姿をして、背後に宝石のような物が浮かんでいる、見た目だけで言えば強そうだ。
「ぷに!」
ぷにが相手じゃなければ、彼女ももう少し見せ場があっただろうに。
「……オレってまだまだなんだな」
「そうだな、君はまた一つ世界の広さを知ったのさ」
俺の相棒は本当に理不尽な存在だよ。
普通最初に強い奴は成長率が悪いのがお約束なのに、あいつはバリバリ成長していってるからな……。
「ぷにに!」
「あ、倒れた」
「ぷに!」
訳)行くぜ相棒っ!
たぶん総攻撃チャンス的なアレなんだろうけど、モンスターとはいえ仮にも女の子の姿をしているのをボコるのは気が引ける。
後輩君も微妙な表情してるし。
「今のうちに先進むか後輩君」
「そ、そうだな」
「ぷに!?」
さすがに見ていられなくなった俺たちは、ぷにに任せて先へと向かった。
…………
……
「ふむ。どうするかな」
進んでいくと大きな岩があった。こんな洞窟ならよくある事だが、その奥には大量の鉱石が散らばっているのが見える。
「こんなでかいの壊せる訳ないしな……」
大きさは俺の倍よりも少し小さい程度だが、手持ちの武器では壊せないだろう。
「なあ、先輩」
「ん? なんだ?」
「えっと、先輩の爆弾で壊せないのか?」
「…………」
その発想はなかった。
敵への攻撃手段である爆弾を使って岩を破壊するなんて、そんな事考えもしなかったなー。
「…………」
頭脳では俺が勝っている、そんな事を僕は思っていました。
そうだよね。常識的に考えてダイナマイトは発掘用に使う物だもんね。そんな当たり前のことを忘れていたよ。
「爆散っ!」
ポーチからフラムを取り出し全力で投げつけた。
爆発音とともに岩が崩れ落ちる音が響いた。
「よし、んじゃ採取採取っと」
「先輩、何か手伝うことあるか?」
「んー? それじゃあ、今壊した岩の破片で手頃な大きさの石適当に集めといてくれ、使えるかは後で確認するから」
「了解!」
笑顔で応答する後輩君の横を通り抜け、俺は岩の破片を踏み抜けて進んで行った。
「……採取採取っと」
絶好の鉱石スポットなのだが、ここも結構危うい。
前方、左右全て底が見えないほどに深い崖になっている。
よほどのバカをやらない限り落ちる事はないとは思うが……。
「よしっと」
一通り使えそうな分の素材を集め終わった俺は後輩君の方へと戻って行った。
「後輩君、どうだ――――」
「お、先輩!見てくれよこの石、すっげえ軽いんだぜ! こんなので武器作ったらすごいだろうな~」
おい過去の俺ちょっと来い。ボコボコにしてやんよ。
後輩君が持ってるの明らかにグラビ石じゃねえか、気づけよ!実物見たこと無いからってこんだけ散らばってたらわかるだろ!
「ははっ、石で剣は作れないぜ後輩君」
まったくバカなんだから、というニュアンスを込めて必死に嘲笑う感じを醸し出した。
「でも先輩とかトトリの錬金術使えば出来そうじゃないか?」
「れ、れ、錬金術も! そ、そ、そそ、そんなに万能じゃない!」
「そうなのか? それで先輩、一通り集めたけど使えそうか?」
「ウン。ソウダネ。ドレドレ」
機械の駆動音でもしそうなくらい、ぎこちない動作で俺はしゃがみ込んだ。
「…………」
一度仕事に入れば、平常心を取り戻す。それがプロフェッショナル!
そうだ俺はプロ、バレテないバレテない。これで剣を作れないと信じ込ませれたはず……。
「…………」
俺は黙々と無駄に時間をかけて選別を行った。俺の精神が安定するまで待ってほしい。
「ぷにっ!」
「おわっ!?」
「ん?」
背後からぷにの声と後輩君の悲鳴が聞こえてきた。何だいな?
「ぷにー!」
「とおっ!?」
振り向くと、ぷにが例によって俺にタックルをかまして来ようと飛んできた。たぶんさっき置いて行ったのを怒っているのだろう。
俺はしゃがんだまま横に飛んで避けた。
「――――」
しゃがんだ体勢は不安定、左右が崖、俺は横に飛んだ。
まあ、あれだね。ぷにのタックルを食らうのに比べたら崖から落ちるのなんて大したこと無いって俺の本能が判断したんだろうね。
俺の本能使えねえ……。
「ホォォォー!」
俺は後ろから崖の底へと落ちた。
ゲームのキャラ達が崖から落ちた時って、あ、落ちた。HPが減るなーとか思うけどさ、これ洒落にならんよ。