アーランドの冒険者   作:クー.

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暗闇での陰湿ないじめ

「…………一回死んだ」

 

 目を覚ますと周りは真っ暗、自分の手さえまともに見えない場所にいた。

 俺は暗闇に手を伸ばし、自分の体の状態を確認した。

 

「打撲だ僕。HAHAHAHA……はあ」

 

 海外のコメディっぽく笑ってみたもののテンションが上がらない、寂しい。

 

 呆然と座り込んでいると、どこからかぷにの声が聞こえてきた。

 

「ぷに~」

「ここだー、早く来ーい! あと殴らせろー!」

 

 ぷにの俺殺人未遂の一つに川に落とすに加え、新たに崖に落とすが加わった、これは怒ってもいいレベルだ。

 

「ぷにー」

「見えないけど横に居るのは分かった。とりあえず制裁はここを出てからだ」

「ぷに……」

 

 致し方がなし、珍しく潔いぷにだった。

 

「いや本気にするなよ……。怒ってはいるけどもう慣れたよ。それに俺の事追ってきたんだろ?」

「ぷに!」

 

 調子がいい事にぷにはいつも通りの状態に戻った。

 とりあえず、相棒がいればどうにでもなる。できれば明りがほしいところだが……。

 

「ぷに! フラッシュだ!」

「ぷに! ぷに~~!」

「え? マジで!?」

 

 俺が思いつきで命令したら、ぷにが力を溜めているように鳴き出した。

 まさかひでん技で一番いらないフラッシュを覚えているというのか!?

 

「ぷに?」

「面白くない! 何ちょっと期待もたせてんだよ!?」

 

 相棒がいればどうにでもなる、そう思っていた時期が僕にもありました。

 

「わかってんのか? 今漫画的に状況説明するとだ。ベタ一色でセリフだけ出てる状態なんだぞ」

「ぷに?」

「そりゃお前はわからんよな……」

 

 早々に何とかしなければ、俺の冒険が漫画化されたときに手抜きだと思われてしまう。

 

「ぷに、お前もう火は吐けないんだよな?」

「ぷにに」

 

 無理らしい。

 

「ぷに?」

「ああ、うん。確かに灯りの一つや二つは用意しとくべきだったな」

 

 松明の事をまつあきとか言ってバカにしてた俺に一言助言してやりたい。

 

「ぷに~」

「上の方は光ってる鉱石とかあって明るかったのになあ……」

 

 これはもう動かないで助けを待った方がいいのではないだろうか?

 よく言うじゃないか、遭難したら動くなって。

 

「待ってられっか!」

「ぷに!?」

 

 このまま動かないでぷにと二人でトークしてろと?

 カットされるわ!漫画化されたらそんな話カットされるわ!

 

「よーし、壁伝いに歩いてがんばろう作戦だ」

「ぷに」

 

 俺は痛む体を起して、壁沿いにずるずると歩き出した。

 

 

…………

……

 

 

「明るいなあ、んでもって熱いなあ」

「ぷに~」

 

 辺りはすっかり明るくなって、自分の体もぷにも後ろのドラゴンもよく見える。

 その真っ赤な体躯、凶悪な爪、口から吐き出されている真紅の炎。

 

「なあ、何で地上最強の生物がこんなところに居るんだ?」

「ぷに~?」

「他のモンスターでも食って生きてんのかねえ?」

「ぷに」

「ガアアアアア!」

 

 大分余裕みたいに見えるけど、今絶賛逃走中。

 手袋つけて全力疾走、たぶんジャージの背中部分はもう溶けてる。

 

「本当にぷにじゃ勝てないのか?」

「ぷに~」

 

 いくら相棒とはいえども分が悪いようだ。

 これはこのまま灯りとしてこいつを利用しつつ逃げのびるとしよう。

 

「って! のおお!?」

「ぷに!?」

 

 炎で照らせれている視界に移るのは、立ちふさがる岩の壁。

 首を上げると、昇れば上がれそうな高さの段差だった。

 

「ひ、飛翔フラムの出番だ!」

 

 なんて汎用性の高い奴なんだ! 爆発の威力が大きすぎるけど背に腹は代えられん!

 俺は走りながら腰のポーチを漁った。

 

「…………くっ!」

 

 俺は心の中でドラえ○んに謝った。映画とか見てすぐに道具取り出せないの見てさ。ちゃんと整理しとけよって思ってたんだ。

 俺絶賛ドラ状態、道具もとい素材を放り投げながらフラムを探している。

 

「熱っ!」

「ぷにに!?」

 

 スピードが落ちたせいで、炎を大分背中にもらってしまった。

 この世界の材料で作られたジャージじゃなかったら今頃背中が真っ黒焦げだな……。

 そうこうしている間に壁は目と鼻の先、フラムは未だに見つからない。

 

「…………仕方ない、ぷに頭に乗ってくれ」

「ぷに?」

 

 疑問の声をあげつつも、ぷには俺の頭にうまく飛び乗ってきた。

 プランB未知の世界へ大ジャンプを実行する!

 

「とうっ!」

 

 俺は腕を高く上げ、壁に向かって跳躍した。

 そして、視界いっぱいに岩が映った。

 

「無理! ――ガッ!」

 

 今の俺がどんな状態かコメディ的に教えると、東京フレンドパークの最初にやる奴、あの壁に張り付くの。

 あれに失敗して、落ちてる状態。うん、わかりづらい。つまり今落下中。

 まあ、あれだよね。これでなんとかなるなら飛翔フラムなんて最初からいらないよね。

 

「オワタ」

「ぷに」

 

 空中で体を反転させてドラゴンの方を見ると、ばっちり照準を合わせて炎を吐いてこようとしていた。

 

「な、何とかして来い!」

「ぷに!?」

 

 今まで一度もした事がないような体勢からのぷに投擲。

 もちろん狙いはドラゴンの頭。ぷには一直線にドラゴンの方に飛んで行く。

 

「ぷに!」

「ガアッ!?」

「っと、よし!」

 

 俺が着地する一歩前にぷにが見事着弾した。

 予想外の反撃だったのだろう、それに加え顔面へのダメージだったのも合わせてか、ドラゴンが若干のけぞっていた。

 

「よっしゃ! やるぞぷに!」

 

 脳内に総攻撃チャンスの選択肢が現れた。もちろんYES!

 

「ぷに!」

 

 俺はさっき放り投げた素材の一つであった黒の魔石を左手で拾い上げ、そのまま体の横に右ストレートを放つ。

 

「おらっ!」

「グガッ!?」

「ぷに!」

「ガアアア!」

 

 俺は体力の限界も忘れその後はひたすらに顔面に拳を入れ続け、ぷには背中に乗ってドラゴンの後頭部にひたすらシャドーボールを入れ続けた。

 

 

 

 

「…………」

「グガ……ァ」

「…………ぷに、ぷに」

「ガア……」

 

 もう何発入れたか分からない、もはやほぼ無言の作業状態。

 俺は魔石も捨ててサンドバックよろしくマウント状態で顔面を殴り続けた。もはや口からもれる火はなく周りは真っ暗だ。

 ぷにもぷにで、飽きが生じてきたのか攻撃の頻度が下がってきた。

 

「あれだな……新手の浦島太郎でも来そうだな」

「ぷに……」

「やっぱドラゴンって固いのな、蹴りに変えてふんづけるか」

「ぷに」

 

 自分の中にこんな残酷な気持ちがあるのだと初めて知りました。

 格上の相手なんだからやるときはシッカリと殺らないとね……。

 

「おらおら、お前を守るゲームシステム何かねえんだよ」

「ぷにににににに」

 

 集団での正義が狂気に移り変わる瞬間を知りました。

 

 

…………

……

 

 

 

「わーい! ドラゴンの鱗を手に入れたぞー!」

「ぷにー!」

 

 手探りでドラゴンから素材を剥ぎ取り、俺たちは一段落ついた。

 あれだね、うまいことやれば結構何とかなるんですね。

 

「…………なあ、これ食べたら火吐けるんじゃね?」

「ぷに!」

 

 ぷには一鳴きすると、途端に咀嚼音が聞こえてきた。

 ぷにがあの巨体をどうやって食べたのか、暗いせいでまたも見逃してしまった。

 

「あれか? やっぱりグリフォンと違って、ドラゴンは生きてると食べられないのか?」

「ぷに!」

 

 どうやらそうらしい、まあドラゴンをパクッと食べられたら向かうところ敵なしすぎるもんな。

 

「ぷにーー!」

「おお! 明るい! けど熱い!」

 

 ぷにの口から出ている炎が辺りを照らした。

 ぷにの姿は真っ赤になって、いかにも炎タイプみたいな見た目だった。

 

「んじゃ、後は崖登って頑張って外に出るとしますかね」

「ぷにーー!」

 

 炎を出すのに忙しくてこっちに返事をする暇はないようだ。

 そんなぷにを頭に乗っけて俺は壁を登り始めた。

 

…………

……

 

 あれから段差を登る事数回。

 

「ふう、やっと普通に明るいところに出たな」

「ぷに~」

 

 ぷにの火力がだんだん下がってきてたので、これは助かった。

 

「やっぱりあれか? 生きてるのじゃないと真の力を発揮できないみたいな?」

「ぷに!」

 

 いつか生きているドラゴンをぷにが丸呑みする日が来るとしたら、それは俺の戦闘の終焉になるのだろうな。

 

「ちょっと疲れたし休むか?」

「ぷに」

 

 ドラゴンに追われている途中に捨てた分を取り戻すために素材を集めながら進んでいたので、結構時間がかかってしまった。

 結果余計に疲れることに繋がった。まあ、錬金術士的に仕方ないね。

 

 俺は壁にもたれかかり、ポーチから採ったばかりの石を取り出し、ぷにに渡してから自分もそれを口にした。

 

「この辺で恵みの石が採れて助かったな」

「ぷに」

 

 冒険者なら皆一度は口にするだろうこの石は、栄養たっぷり味は仕方ない胃に悪いという物だ。

 まあ非常時だから仕方なく口にしている面が大きい。

 

「後何時間かかるかねえ?」

「ぷに~?」

 

 不安をもらしつつも俺とぷには眠りに落ちた。

 

 

 

 

 結局この後俺たちは助かった。

 外に出ると、俺の自転車のカゴに文鎮代わりの石と共にメモが置いてあった。

 

『乗り方分かんなかった! 今度説明してくれよ!』

 

 あやつは崖に落ちた俺の心配もせず、ましてや足さえも奪おうとしたようだ。

 二度と乗せない。

 

「ぷに~」

「……俺が死ぬかも何て心配誰もする訳ないって?」

 

 悲しいかな、言い返せなかった。

 おふざけキャラだって死ぬ時は死ぬんだよ?

 

 


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