現在はニューズの森とかいう所に向かってるのだが、大きな問題があった。
「……腹減った」
俺は今すごく腹が減っていた。何日寝てたのかまったくわからんが、とにかく腹が減った。
「お腹すいてるんですか?」
聞かれてた……恥ずい!
「正直、勢いで出てきたからまったく用意がない」
「ご、ごめんなさい。気がつきませんでした」
「い、いやいや!トトリちゃんは何も悪くないって。全体的に俺がバカなせいだ」
「へぇ~、先輩ってバカなんだ」
「うるさいぞ後輩」
後輩にバカと言われるのは、流石に俺のプライドが許さない。
「まぁ、気にしないでくれ。基本的に俺は現地調達で食っていけるから」
「本当に大丈夫なんですか?」
「いけるいける、大丈夫だって」
俺には頼りになる相棒がいるんだからな。
「…………」
あれ?
「…………」
ゴソゴソと、うにが入ったポーチをあさってみる。
「…………」
当然のようにいない。
「…………」
「あの、アカネさん?どうしたんですか?」
トトリちゃんが不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「……忘れ物した」
「え?でもアカネさん、そのポーチ以外に何か持ってましたっけ?」
「いや、持ってはいないが……あそこって何て名前の村だっけ?」
「? アランヤ村ですけど?」
「アーランドからどのくらいかかる?」
「どのくらいかかるんだっけ、ジーノ君?」
「確か何週間か、かかるんじゃなかったけか」
「…………」
そんな長い距離を流されてたのかっていう驚きはあるのだが……とりあえずだ。
「あいぼーーーーーーう!!」
「ひゃっ!」
「な、なんだ!」
叫んでみました。精神の安定に一番効果的だと思う。
「ど、どうしたんですか!?」
「なんでもない気にしないでくれ。俺の年ごろにはよくあることだ」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
まぁ、ぷにのことだし普通に生きてはいると思うが、果たして再会できるかどうか。
というか、俺はなんで今の今まで忘れていたのだろうか。
……しかし、ぷにがいないとなると食料調達を自分でやらなくちゃいけなくなるな。
ぷにが持ってきたものは覚えてるし、なんとかなるかな?
「…………」
唯一不安なこととしては、トトリちゃんが俺のことを可哀そうな人を見る目で俺を見ていることだ。
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あれから、数日たってやっとニューズの森に辿り着いた。
俺の食糧事情は概ねなんとかなっていた。
食える草を食ってから、木の実を食べておいしいものをいっぱい食べた気になるという作戦が意外と使えた。
ただ、トトリちゃんだけならいいんだが、後輩までもが俺のことをいたたまれない目で見ていた。
二人とも俺に自前のパンを勧めてくるのだが、流石に成長期の奴らからもらうことはできないので逐一断っていた。
まぁ、その甲斐あって今の俺のサバイバル能力はコンクリートジャングルに囲まれていた時よりも格段に上がっている。
「クックック」
「なぁトトリ、先輩大丈夫かな?」
「元気そうだし、大丈夫じゃないかな?」
前よりもトトリちゃんの俺に対するスルースキルが上がってる気がする。
「ところで、ここに何しに来たんだっけ?」
バカ丸出しな質問の気がするが気にしない。
「先輩、しっかりしてくれよ。モンスターを倒しに来たんだって」
「そうじゃなくて、錬金術の材料を獲りに来たんだってば!」
要は、材料を採りつつ、モンスターを倒すってことだな?
トトリちゃんはちゃんと用意してそうだし、けがの心配はいらなそうか。
そういや、俺まだ相棒以外と戦闘したことないんが、大丈夫だよな?
「ところで、錬金術ってなんだ?」
「知らないんですか?」
「ああ、俺は大分遠くから来たからよく知らないんだよ」
漫画とかゲームとかでは割とよく出るから何となく予想はつくけど、現実ではどうなのか気になる。
「そうなんですか?えっと……錬金術はっていうのはいろいろなものを混ぜて不思議なものを作ることです?」
「なんで疑問形なんだいな」
「あ、あんまりうまく説明できなくて」
「つまるとこ、トトリハウスにあった釜に材料入れて、何かを作るってことか」
「あ、はい。そうですそうです」
俺がわかったことがうれしいのかトトリちゃんの顔が緩んでいた。
……しかし錬金術か、俺の考えてたのと大分違うな。正直な話、鋼の方しか思い浮かんでいなかった。
まさか、釜を使うとは……。
「それって、俺もできたりするのか?」
「一応、教えてもらえばだれでもできると思いますよ」
「トトリちゃんが俺に教えてくれたりは……」
「む、無理です無理です!私、いっつも失敗ばかりで人に教えるなんてできません!」
トトリちゃんは両手を突き出して、絶対にできませんと大慌てだ。
まあ、爆発してたしなあ。
「そうか、んじゃトトリちゃんはだれに教わったんだ?」
「私は、ロロナ先生に教わったんです。ロロナ先生はすごい人なんですよ!」
「そ、そうか」
ロロナ先生とやらの事を話すトトリちゃんはとても嬉しそうで、思わずたじろいでしまった。
「まぁ、機会があったら紹介してくれないか?」
「いいですけど、アカネさんって錬金術に興味があるんですか?」
「未知の力に興味がわくのは当然だろう」
もし、使えるようになったらいろんな人に自慢できそうだし。
「ところで、後輩はどこ行ったんだ」
「あれ、そういえば……」
右、左と見てみるがどこにもいない、疑問に思ったのも束の間、どこからか後輩君の声が聞こえてきた。
「せんぱーい!トトリー!ちょっと手伝ってくれ!」
「どうした……にゃ!?」
「うわっ!?」
こっちに向かって走ってきたジーノ後輩を追って、大量のタルを持ったリスのようなモンスターが来ていた。
「何してんだよお前は!?」
「二人で話してて暇だったんだよ。ちょっと喧嘩売りすぎちゃって」
テヘみたいな感じで笑う後輩君。
今度校舎裏にでも呼びだしてやろうか……。
「とか、いろいろ考えてる間に来てるし!?」
とりあえず、後輩はどうでもいいからトトリちゃんをしっかり守ろう。
ツェツィさんにも頼まれてるわけだし、怪我させるわけにはいかないぜ!
「ふんっ!」
トトリちゃんを後ろにかばいつつ飛びかかってきた手近なリス野郎に向かって、一発右のストレートを放った。
「えっ!?」
そこまで効くと思ってなかったが意外と効いたようで大きく後ろに吹っ飛んで行った。
やっぱりぷにが強すぎただけなのだろうか?
「おおっ!先輩本当に強かったんだな!」
「いまさら感心しても遅いぜ」
どや? 俺のパンチ強いやろ?
「クックック」
「先輩、危ねぇ!」
「えっ?」
首を前に戻すと前方からタルが迫ってきていた。
「ぐべっ!?」
ガードもできずに顔面に直撃して、文字通り悶絶した。
「っ! ――!!」
「先輩……」
後輩が呆れたような声を出している。
「この……リスどもがーー!!」
俺は奴らに向かって突貫していった。
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「先輩って打たれ弱いな」
「う、うる、ハァ……ハァ……うるさいわ!」
筋トレだけやっても打たれ強くはならないし、体力もそんなにつかないんだよ!
「うう、気持ち悪い」
「アカネさんどうぞ」
トトリちゃんが水を差しだしてくる。
「ああ、ありがとう」
俺は水を一気にあおりながら一つの決心をした。
「……ふぅ」
俺は二度と本気で戦わない!!
所詮俺は元高校生!血生臭い戦いなんて向かないのさ!
そう! 俺は一刻も早く相棒と再会して、俺はあくまでサポートに徹してやる!
駄目人間の決意とか言うなよ、正直ジーノ君とか俺より筋力はないけど、明らかに俺より強いんだもん!
「待ってろよ!相棒!」
「トトリ……先輩やられすぎて頭が……」
「だ、大丈夫だよ!たぶん……」
そろそろ泣いてもいいよね。