アーランドの冒険者   作:クー.

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サプライズソード

 

 記憶回復の翌日の昼、俺たちはギルドに向かっていた。

 

「あー、疲れる」

「ぷに?」

「お前は何にもしてないだろうが、俺は朝から今までずっと神経削ってたんだぞ」

「ぷに~」

 

 主に人間関係の修復作業をしていたのだが、これが本当に疲れる。

 

 ダメな師匠でゴメンねと言う師匠にパイをあげつつ慰めたのが今朝の行事。

 俺に敬語使用の親っさんと会話して関係を回復したのが今までの行事。

 

「こうやって考えると大したことしてないけどさ……」

「ぷに」

「うむ、大抵の人間はこんな体験しないからわからんだろうが、記憶にないことのフォローをするのは疲れるぜ」

 

 この世界に来た当初は、俺の体験した事なんて皆したことあるだろって考えてたけど、絶対に今回のコレだけは俺だけのものだ。

 

「ぷに~」

「まあ、これで俺がわかる限りは全部終わったはずだし、ギルドで依頼受けてから村に行くか」

「ぷに」

 

 俺の四次元なポーチには既に後輩君のための剣が入っている。

 これを受け取れば後輩君もビックリだろう、何せ気持ち悪いくらいに軽い。

 後輩君が俺に感謝する姿が目に浮かぶようだ。

 

「……足りぬ」

「ぷに?」

「後輩君のリアクションだけじゃ足りない! もっといろんな人に驚いてもらいたい!」

「ぷに~」

 

 ぷにが俺の事をジト目で見てきた。そんな事してないでとっとと村に行けと言いたいんだろうが、やりたい事はやらなきゃ損々。

 

「と言う訳で、ギルドに来た知り合いに片っ端から声をかけるとしよう」

「……ぷに~」

 

 

…………

……

 

 

「クーデリアさんの仕事疲れを吹き飛ばすサプライズを持ってきました」

「今あんたが帰るのが一番疲れないで済むわね」

 

 クーデリアさんの所に来ると笑顔であしらわれるのがデフォになってるのは気のせいだろうか。

 

「まあ、そんなことを言えるのもこいつを持ってみるまでですよ……」

「……はあ、いいわよ。付き合ってあげるから、気が済んだらとっとと帰りなさい」

「ぷに、どうしよう。付き合ってあげるって言われちゃった」

「ぷに~」

 

 まさかの逆サプライズ、離婚を前提にお付き合いしてください。

 

「…………」

「そ、そんなに怖い顔しないでくださいよ。小粋なアカネジョークですよ」

「次言ったら、わかるわよね?」

「イエスイエス」

 

 俺はプレッシャーに押されながら腰のポーチを探って、一本の直剣を取り出した。

 

「サプラーイズ」

「……まさかそれで終わりじゃないわよね」

「いや、違いますから。そんな冷めた顔しなくていいですから」

 

 祖国日本でやったら拍手喝采だろうけど、錬金術士がポーチから剣を取り出す程度、こっちでは一銭の価値もないのです。

 

「この剣をよく見ててください」

 

 俺は腕を伸ばし、剣の鞘を地面と平行になる形で持った。

 

「デデデデデデデ」

「ぷにににに~、ぷにに~、ぷに~」

「…………ッ」

 

 舌打ちをされた。

 俺ドラムロールとぷにのBGMがお気に召さなかったようです、怖いです。

 俺は前置きをやめて、クーデリアさんにその剣をを差し出した。

 

「あら、随分と軽い……って軽すぎるんじゃないのこれ?」

「クーデリアさん、あなたにはガッカリだ」

「ぷに」

 

 もっと俺が楽しめるリアクションを期待していた。

 これだから、大人って奴は。

 

「ガッカリだよクーデリア。……って――痛っ!痛い痛い!」

「あら、軽い割に強度はしっかりしてるみたいねっ!」

「ちょ! す、すいません!調子乗りました!」

 

 剣の柄を持って俺の事をバシバシと叩くクーデリアさん。

 鞘に入っているとはいえ、当然のように痛い、現在進行形で痛い。

 

「ったく、返してあげるから早く帰りなさい」

「はい、こんな私のくだらないイベントに付き合ってもらい、誠にありがとうございました」

 

 四五度のお辞儀をして、俺は頭を上げて左にスライドしていった。

 次なるターゲットはフィリーちゃん、君に決めた!

 

「ハロー、かわいい子猫ちゃん」

「……ひっ」

 

 久しぶりにフィリーちゃんの悲鳴を聞いた。

 俺が想像していた以上に今のセリフは気持ち悪かったようです。

 

「……あの、アカネさん……ですよね」

「え、うん。そんな確かめたくなるほどに気持ち悪かったとは……」

 

 何か急に恥ずかしくなってくるじゃないか。

 

「あ、違くて、変なアカネさんじゃないですよね」

「あ、ああうん。俺はいつものアカネさん、言わば普通のアカネ」

「そ、そうですか。いつもみたいに変なアカネさんですね」

「うん……」

 

 いつもみたいに変?いつも通りなのに変、つまり前までは変だけど変な俺?

 ……変という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。

 

「もしかしなくても俺フィリーちゃんに何かしたか?」

「あ、その……トトリちゃんとロロナさんの組み合わせってどう? って聞いたら、怒られたんです……」

 

 何だろう、どんなリアクションをしていいかわからない。

 俺にそんな話題を振るのが日常的になるのにツッコミを入れるべきなのだろうか?

 

「まあ、クーデリアさんから事情は聞いてると思うから特に説明する事はないな。それとその組み合わせについて語るのは長くなりそうだから、また今度の機会にお願いします」

「あ、はいわかりました。それで今日はどんな御用ですか?」

「はいパス!」

 

 俺は手に持つ剣をフィリーちゃんにパスした。

 いつもおとなしいフィリーちゃん、君にリアクションを期待するのは酷かもしれないが、それでも俺はやるぜ!

 

「わ、わわ、わわわ、あ、あれ? 軽い?」

「……九十点!」

 

 慌てながらも剣を取る姿勢をとって、剣の重さに備えて体を強張らせる姿に五十点。

 意外にも剣が軽いことに小首を傾げる姿に四十点。

 マーベラス、すばらしい。これも一つの俺が求めし物の形だ。

 

「んじゃ、依頼受けるから手続きお願いするんだぜ」

「え、あ、はい? あの、どうしてニヤニヤしてるんですか?」

「な、なんのことかな?」

 

 俺は顔を引き締めて、俺は華麗に誤魔化した。

 受付嬢が剣を持っているというギャップ、これが俺のハートに直撃したのは言うまでもない。

 

「……ぷに~」

 

 ぷにが呆れるように肩で溜息を吐いた。

 残念だが、俺に恥ずべき点など一点もない! 

 

…………

……

 

 

「…………」

「……ぷに」

 

 俺は腰に剣を差して、柱に寄り掛かっていた。

 傍から見れば歴連の剣士に見える……はず。

 

「……ふ、今宵も虎鉄が血に飢えておるわ」

「ぷに……」

 

 勝手に命名してしまった、最初にこの剣を振るったのもクーデリアさんだし、後輩君にどんな顔でこの剣を渡せばいいんだろうか。

 

「…………」

「…………」

 

 誰も来ない、ステルクさん、ミミちゃん、マークさん。

 現在アーランドにいる知り合いでギルドに来そうな人たちはこの三人だが、誰も入ってこない。

 

「……あれ? 俺って友達少ない?」

「……ぷに」

「いや、ボッチよりはマシだ。しかも数こそ少ないが面子がすばらしい人ばかりだからな。うん、決して俺の交友が狭い言い訳じゃないぞ」

「ぷに~」

 

 百の友達よりも一の親友をそんな人間に僕はなりたいです。

 

「ミミちゃんもそう思うだろ?」

「は? いきなり何よ?」

 

 ちょうど横を通りかかったミミちゃんに同意を求めたが、ダメだった。

 ミミちゃんと少しは仲良くなったとは思うが以心伝心とまではいかないようだ。

 

「まあいい、さあ、これを持つがいい」

「…………何か仕掛けでもしてあるんじゃないでしょうね」

 

 俺が剣を差し出すと、ミミちゃんは疑うような目で俺の事を見てきた。

 これが日頃の行いって奴だ、一つ勉強になったな。

 

「まあいいからいいから、俺のでっかい――ゲフンゲフン!」

「ど、どうしたのよ?」

「な、何でもない。気にするな」

 

 うっかり下の方のネタを言いそうになった、俺だって自分の命は惜しい。

 たぶんそのまま言ってたら別な意味でR-18になってただろう。主にスプラッタ方面で。

 

「ほらほら、持たないと話が進まないから持ってくれよ」

「……仕方ないわね。ほらよこしなさい」

「グッド!」

 

 俺は差し出された手に剣を手渡した。

 

「あ、あら? ……はあ、くだらない事するわね」

「? あれ?」

 

 なんかミミちゃんはネタを見破ったみたいな顔をして俺の方を見てきた。

 

「まったく、どうせ柄の先はないってオチでしょ。バレバレよ」

「…………」

 

 まだ笑うな、こらえるんだ。

 なるほどそんな解釈をしてきたか、これは俺も予想外。

 俺の笑いのダムが決壊しない内にネタばらしをしなければ。

 

「つ、柄を持って抜いてみな」

「いいけど、何で声震えてるのかしら?」

「べ、別に……」

 

 俺は口元を押さえて口元を隠して、笑ってるのを誤魔化した。

 この後のミミちゃんを想像するだけで……。

 

 ミミちゃんは剣の柄を握って、引き抜いた。

 

「……は? え? ど、どど、どういうことよ?」

「ぷ、ぷーっ! ハッハッハ!」

「ぷにににににに!」

 

 ミミちゃんは剣を持って呆然としていた、これだよこのリアクションがほしかったんだ。

 

「わ、わかったわ! おもちゃ! おもちゃなんでしょ!」

「いえ、それはちゃんと切れる剣です。材料は錬金術で作った物でーす」

 

 俺がそう言うと、ミミちゃんは真っ赤になって俺に剣を投げつけてきた。

 もちろん剥き出しのまま。

 

「危っ!?」

「人の事からかって楽しむなんて趣味悪いわよ!」

「だ、だからって剣投げるなよ」

 

 俺が避けた剣は後ろの方に転がっていた。

 背後に誰もいなくてよかったな。

 

「まあいいわ、許してあげる」

「あ、あれ?」

 

 この後、罵詈雑言を浴びせられるものだと思っていたのにあっさりと引かれた。

 

「だからお詫びに、同じ材質で私の武器を作りなさい」

 

 と思ったらこう言う事ですか、ミミちゃんは鬼の首を獲ったような顔をしていた。

 

「…………おーけー、わかったんだぜ」

「あら? いつになく物分かりがいいわね」

「まあ、断っても無駄だろうし。他にも理由はあるさ」

 

 トトリちゃんと一緒に海に行く可能性は無きにしも非ず、なら作っといても損はないだろう。

 

「それじゃ、頼んだわよ」

「あいよ、そういや今日はギルドに何の用なんだ?」

「あら聞きたいの? ふふん、ランクアップよランクアップ」

「へえー――って、えっ!?」

 

 あれ? ミミちゃんってちょっと前に俺に追い付いたばっかじゃなかったっけ?

 

「ちょっとトトリに遅れたけど、まあ次は私が先に……って、すごい顔してるわよ?」

「いや、何でもないです、俺急いでるんで失礼するっす」

 

 俺は駆け足で、ギルドの外へと飛び出した。

 

 

「……ぷに、俺が忘れてる重大な事ってこれか?」

「ぷに」

 

 どうやらそうらしい。

 また、またか! また俺はトトリちゃんに遅れることになるのか……。

 

「バレテないよな?」

「ぷに!」

 

 大丈夫なようだ、変な俺もそこは空気を読んだらしいな。

 しかし、マズイな……。

 

「剣を届ける、武器を作る、ランクアップ。やることありすぎだろ」

「……ぷに!」

「まあ、船の完成がいつか分からない以上、最悪ランクアップは後にしよう」

「ぷに」

 

 やる事がたくさんあるからって人生充実してるとは言えない事がわかった。

 


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