アーランドの冒険者   作:クー.

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四年目『海を渡った少女と』
†十字架を背負いし者†


 

「結局ミミちゃんに渡さない内にこっちに来ちゃったな」

「ぷに」

 

 現在は年を越して一月初め頃、俺とぷには村の近くまでやって来ていた。

 ミミちゃんは冒険に出ていたようで、会えなかったため先に船の進行度を確認がてら村に来た訳だ。

 

「うん? あれはトトリちゃんと後輩君じゃないか」

「ぷに~」

 

 二人は海岸の方の平原と向かっているようだ。

 

「……けっ」

「ぷに?」

「別に~、はあ~鬱だ……」

 

 トトリちゃんと二人でお出かけ、よく見る光景だけど後輩君の歳を考えると軽くネガティブになる。

 

「俺が17の時なんて……こっちに来るまで女っ気なかった……」

「……ぷに」

 

 ぷにが慰めるような目でこっちを見てきた。

 いいさ、いいさ、俺の人生の本番はこの世界から始まるんだよ。

 

「ふ、今の俺のかわいい女子との知り合い率はやばいぜ、かわいい! ここ重要な!」

「ぷに?」

 

 なんで自分で言って落ち込んでるかって?

 

「…………知り合い、か」

 

 言葉の刃、それは俺のガラスの心をいとも簡単に八つ裂きにしました。

 

「そ、その内逆ナンとかされるし、俺の……こう……クールな魅力で!」

 

 もうフェロモンがむんむんと……。

 

「ぷに~」

「……うん、そうだね。気になるし二人の事追いかけてみようか」

「ぷに」

 

 そろそろ来てほしいな、モテ期。

 

 

…………

……

 

 

 自転車を押しながら二人を尾行中、俺の頭に電流のような閃きが走った。

 

「良い事思いついた、錬金術で惚れ薬作ろうぜ」

「ぷにぺっ!」

 

 俺が思ったことを包み隠さず言うと、ぷにはカゴから俺の顔面に唾を吐いてきた。

 この仕打ちはあんまりだろう。

 

「つか、あの二人何しに来たんだ? こっちの方は良い採取地もとかも特にないし……」

「ぷに~?」

「こ、これは……まさか……」

 

 数々の漫画から知識を得た俺にはピンときてしまった。

 

「ぷに?」

「男女が二人、人気のない海辺……」

 

 まさか、KOKU☆HAKU!?

 

「ゆ、許さんっ! 許さんぞ!」

「ぷ、ぷに!?」

 

 前回作ったメガフラム、増産分を使って一帯を焼け野原にしてくれようか。

 

「ぷ、ぷに! ぷにに!」

「む!? ふ、二人が立ち止って向かいあってるー!?」

 

 草陰の中から俺は身を乗り出しそうになった。

 

「ど、どど、どうしよう!?」

「ぷに~」

「一人で落ち着かないでくれよ! あ、ああ、後輩君が剣を抜いちゃったー!?」

 

 

 

 …………ん?

 

 

 

「ぷに」

「うん、トトリちゃんも杖を構えたな」

 

 あるぇ?

 

「ぷに?」

「…………お前なあ、なんでも恋愛に持ってくとか二人に失礼だろ」

 

 …………しばしの静寂が流れた。

 

「……ごめん」

「ぷに」

 

 ぷにはいいさとでも言うように一声鳴いた。

 たぶん流れ的に、後輩君が暇だからトトリちゃん誘って戦闘訓練みたいな感じだろう。

 

「思考がそっちに行ってたから気付かなかったけど、普通に考えたらこんなもんだよな」

「ぷに」

 

 そしてトトリちゃんは意外に容赦がない、迫ってくる後輩君にフラムを投げて牽制している。

 まあ、何をどう間違っても後輩君が負ける事はあり得ない訳だが。

 

「あれ? でも、以外に押されてる?」

「ぷに~」

 

 フラムでの牽制に加え、トトリちゃんは魔法の鎖まで投げつけた。

 何とか転がって避けたけど、片足に鎖が巻きついていた。

 

「……がんばれ~」

 

 機動力が落ちた後輩君にトトリちゃんは容赦なくフラムを投げつけ、同時に後輩君に向かって駈け出した。

 後輩君は鎖でうまく動けないようで、直撃は免れたもののフラムの爆風を浴びていた。

 

「……ぷに」

「あら~?」

 

 たじろいでいる後輩君にトトリちゃんが杖を思いっきり縦に振り下ろした。

 

「あ、倒れちゃった」

 

 後輩君はなんとか剣で受け止めたものの、体制が不安定だったからか尻もちをついていた。

 

「ふ、フォローに向かわねば!」

「ぷに!」

 

 俺は自転車を押して、急いで後輩君のフォローに向かった。

 何を言えば良いのかわからないが、とにかく何か言ってあげなければ!

 

 

「……え?」

「あ、あれ? 勝っちゃった……。あはは、ウソみたい! やったー! ジーノ君に勝ったー!」

 

 後輩君の呆然とした声とトトリちゃんの喜ぶ声が聞こえてきた。

 トトリちゃん、それ以上はやめてあげて! 意外と男の子って繊細だから!

 

「あ、ごめん。はしゃいじゃって。ジーノ君手加減してくれたんだもんね。だから……」

 

 ……肉体面だけじゃなく精神面でも倒しにかかるなんて、なんて恐ろしく可愛そうなことをっ!

 

「う……ぐう……」

「へ……えええ!? どど、どうして泣いてるの? もしかして痛かった? ごめん、ごめんね!」

 

 そう言ってトトリちゃんは後輩君に手を差し伸べていた。

 そりゃ泣くよ、痛いなんて騒ぎじゃないよ、もっと男にとって大切な物を傷つけられたんだもん。

 

「うるさい! さわんな!」

「じ、ジーノ君?」

 

 後輩君はトトリちゃんの手を振り払い、村の方向へと泣きながら駈け出して行った

 

「ゔぐ、うわあああああああ!!」

 

 俺はトトリちゃんの傍まで来て思わず呟いてしまった。

 

「「く、遅かったか」」

 

 そして何故か横に居たステルクさんとハモった。

 いつの間にわいて出たんだ……。

 

「あ、ステルクさんにアカネさん……」

「村に戻ってすぐ、君達が勝負をすると聞いてな。イヤな予感がして急いできたんだが……」

「俺は二人を尾行……気になったからついて来たら、こんなことに……」

 

 俺が事情を言うと、ステルクさんが横で呟くように言った。

 

「あいつも、俺と同じ十字架を背負ってしまったか……」

「ぶっ!」

 

 スゴイ真顔で凄い事を言い放ったよこの人、場を和ませるためのギャグでもないようだ。

 偶に厨二臭いなとか思うこともあったけど、十字架って……。

 †アーランド騎士†ステルケンブルク・クラナッハ†か、これ以上はやめておこう。

 

「どういうことなんですか? わたし何がなんだか分からなくて……」

「そりゃあトトリちゃんには分からないさ」

 

 十字架とか厨二ワードで話が分かるはずがない。

 つか十字架が罪の象徴的なのってこっちの世界でも共通なのか。

 

「そ、そうだ! ジーノ君を追いかけないと!」

「行くな。君が言っても傷口に塩を塗りこむだけだ」

 

 ステルクさんに言いたいことを言われてしまった。

 俺にも喋らせてください。

 

「でもでも……」

「あいつの事は私が引き受ける、少し時間はかかるかもしれないが……」

 

 そう言ってステルクさんは去って行った。

 ここは師匠のステルクさんに任せた方がいいのだろう、でも先輩的に微妙な心境だ。

 

「あ……うう、なんでこんなことになっちゃたんですか……?」

「まあ、誰が悪い訳でもないというか、俺があんまり話す訳にはいかないし……」

 

 後輩君のプライドとか面子とか、そんな話をしても後輩君が惨めになるだけだしな……。

 

「とりあえず、男の問題は男に任せるべし。俺も後で様子見に行くよ」

「……はい。よろしくお願いします」

「うむ、頼まれた」

 

 そして俺は村の方へと自転車に乗って走って行った。

 

 とは言ったものの、後輩君は大丈夫だろうか?

 俺よりもトトリちゃんを守って戦ってた期間が長い分、俺が想像している以上にショックだろう。

 

「……先輩的に一肌脱ぐか」

「ぷに?」

「かわいい後輩のためならって奴だよ、あいつの事は何だかんだで結構好きだからな」

「ぷに!」

 

 とりあえず対処方法は同じ十字架を背負っているらしいステルクさんに相談するとしよう。

 

「っぷ」

「ぷに?」

「いや、なんでもないなんでもない」

 

 ダメだ。さっきのシーンが脳内で再生されてしまう。

 あの真剣に言い放つ顔がより俺のツボに嵌ってしまう。

 

「やばい、ステルクさんに会うまでに、っぷぷ、お、落ち着かせないとな……ククッ」

「……ぷに~」

 

 シリアスな状況なのに緊迫感がない俺であった。

 


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