出航に向けて爆弾作りを続けている俺であるが、ある事について悩んでいた。
その悩み事について、ぷにと宿屋の自室で考えていた。
「俺も一緒に行くぜ」
「ぷに~」
「か、軽すぎるか……じゃあ次は重い感じで…………君を守りたいんだ!」
右手を前に、必死に語りかけるようにそう叫んだ。
「ぷにににににに」
「笑ってんじゃねえよ!」
トトリちゃんに何て言って付いて行くか、それが問題なのだ。
一回断った手前、なんとなく言いだしづらい。
「ぷに!」
「フラウシュトラウトって奴と戦いてえんだ! 戦いたくないわ!」
バトルジャンキー風はない、完全にボツだ。
「ぷにに~……」
「はあ、どうしたもんかな……」
こんなやりとりを続けてかれこれ数時間、いまだにいい文句を思いつかない。
「ちょっと気分転換に行くか」
「ぷに」
さすがにお題もなくなってきて、ちょうどお昼なのでぷにと一緒に昼を食べに行くことにした。
「はあ、腹がいっぱいになってもなんも思いつかんよなあ……」
「ぷに~」
昼を済ませて、俺は街の広場のベンチに座っていた。
「ぷにに」
「むっ、誰がヘタレだって? 本当のヘタレに失礼だろうが」
特別に誰とは言わないが。
「つーかさ、こっちにもヒーローショーとかあるのな」
「ぷに?」
ちょうど俺の向かい側で、赤い衣装を着たヒーロー的な物とドラゴンっぽい怪物が戦っていた。
ちびっ子たちはそれを見て大喜びなんだが……。
「なんで赤だけなんだよ、残りの四色はどこに消えたんだよ」
「ぷにに?」
「俺の世界では五人編成がレンジャーのお約束だったんだよ」
こっちに来て四年経ってるから、今のテレビでもそれが通用しているかは知らないが。
「つーか、何故にヒーローが一方的にやられてるんだよ。可哀相すぎるだろ」
赤いヒーローは武器も持たず素手でドラゴンに挑んでいる。何その無理ゲー。
「なんかあのヒーローに親近感が湧いてきた」
「ぷに」
しばらく見ていると、ついに彼は倒れこんでしまった。
「負けるなー! 頑張れー!」
「ぷに……」
俺は子供たちに交ざって一緒にヒーローに声援を送っていた。
何人かのちびっ子は何コイツみたいな目で見てきてる。
「あ、マスクドGだ!」
「へ?」
ちびっ子が指差した方向には変なマスクを付けた人がいた。
……何か、元国王ことジオさんに似ている気がする。
「はっ!」
「うわあ……」
マスクの人が剣で斬りつけると、バタリと敵は倒れこんでしまった。
ちびっ子たちが歓声を上げる中、俺は一人ドン引きした声を出していた。
敵を一撃でやっつけちゃうとか、レッド君の立場全然ないやん。ただの噛ませ犬やん。
「だが、これは使えるぜ」
俺の中に静かな電流が走った。
…………
……
「それで? 僕に何の用なんだい?」
「マークさんに作ってもらいたいマシンがあってな」
俺はマークさんを俺の宿に連れてきて、頼みごとを持ちかけた。
「ほほう、それはまた面白そうな話だね。一体どんなものなんだい?」
「ふふん、その名も水上バイク!」
俺はあらかじめ用意しておいた絵を広げた。
「水上バイク? 水の上で使う……これは乗り物かな?」
マークさんは俺の書いた絵を食い入るように見ていた。
ちなみに図面とかじゃなくて、単純に外観だけ書いてある。
「そうそう、こっから高圧力のジェットを噴射させて進むんだよ」
「ふむ、ところで作るとしたら期間はどれくらいだい?」
「あー、ちょい待ち」
トトリちゃんが材料を取ってから村に行くまででたぶん後一週間、部品作って船完成させるのに二週間くらいか。
そっから海に出た後の事も考えると……。
「だいたい三週間くらいだな」
「使用時間は?」
「わからんけど、まあ二十四時間はないな」
「…………」
マークさんは何か考え込むような表情をして言葉を発した。
「まったく、君のいたところでは本当に科学が発達しているようだね。こんな物を作れるなんて」
「うん? まあそうだな」
「三週間となると、試運転も出来ないし頑張って数時間しか稼働できないけどそれでもいいかい?」
「ま、マークさん!」
ま、眩しい! 後光が差してやがるぜ!
ごめん、正直無理だろって思ってた。
「エンジンは一応前に試作した物を少し変えるだけで済むけど、問題はボディだね。これをどうするか……」
「正直俺もよく分かってない」
「まあいいさ。それじゃあ三週間後に僕のラボまで来てくれたまえよ」
「あいあいさー」
マークさんは扉を閉めて部屋から出て行った。
流石は機械神だ。こんな物を作れると言ってしまうとは……。
「ああ、そうだそれから」
「にゃ!?」
突然マークさんが扉を開けて顔を覗かせてきた。
「君が何の目的で使うかは詮索しないけど、一つ頼みごとがあるんだよ」
「頼みごと?」
「君の用事が終わってからで構わないから、今度お嬢さんと一緒に尋ねて来てもらいたいんだよ」
「ふむ。わかったよ、大分先になるかもしれないけど今度トトリちゃんと一緒に会いに行く」
マークさんの頼み事とあれば何でも受けたい。マークさん自身はいい刺激になるとか喜んでるけど、こっちとしては受け取ってばかりな気しかしないからな。
「そうかいそうかい、それじゃあよろしく頼んだよ」
「あいよ」
そう言って今度こそマークさんは出て行った。
「よしよし、まあこれで足も確保できたから俺の計画は成った訳だな」
俺はずっと白けた目を俺に向けているぷにの方を向いてそう言った。
「計画名、アカネ・THE・ヒーロー」
「ぷに~……」
「クックック、もう分かっているだろう。そう、ピンチのトトリちゃん達、突然現れる俺、カッコイイー!」
「…………」
ついにぷにが何にも言わなくなってしまった。
完璧な計画だと思うんだが……。
「まあ、トトリちゃん達がいつ頃襲われるかが分からないのがネックだがだいたいの日取りは分かるからオーケーだ」
俺の脳内では既にトトリちゃんに抱きつかれる所まで進んでいる。
「フフッ、そんなくっ付くなよ。大丈夫だったか?」
「ぷにヴぇぇー」
「吐くなよ……」
そんなに気持ち悪かったのかよ。照れるわ。
「よし、計画はバッチリ。アトリエ行って爆弾作るぞ」
「ぷに……」
無駄に洗練され、無駄に技術を使った無駄な計画がここに始まった。