あの後村に戻った翌日、俺たちは早速村を去ろうとしていた。
「もう行くのか?」
ピアニャちゃんがおばあちゃんと呼んでいた長老、ピルカさんはわざわざ見送りに来てくれていた。
俺たちは少し離れたところで、二人が話しているのを見守っていた。
「はい、お姉ちゃんとお父さんにも早く教えてあげないとし」
「そうか……辛い役目じゃな」
「いえ、大丈夫です。お母さんの事教えてくれてありがとうございました」
トトリちゃんのお母さんがどうして亡くなったかって言う深い話は聞いてはいないが、トトリちゃんの目元が赤い辺りからまた泣いたのがわかってしまう。
「またいつでも来るといい、何もない村だがお主がくれば村の者も喜ぶ」
「はい、また来ます」
そう言ってトトリちゃんはこっちへと歩いてきた。
「もういいのか?」
「はい、早く帰らないといけませんから」
「そっか」
トトリちゃんは当然の事だが、雰囲気が暗く元気がない。
どうにかして元気を取り戻してもらいたいんだが、家族関係の話で俺みたいな奴が相談に乗れないしな……。
結果的に言うと、ミミちゃんがなんとかしてくれたようです。
何を話していたかは分かるはずがない、女の子の話を盗み聞くのにはもう懲りたからな。
俺は過去の経験から学習する男なのだよ。
そんな俺はあの村で手に入った新鮮な食材を使って作った夕食を外にテーブルごと運び出していた、
「俺の料理でなんとか元気づけようと思ったらなあ、ミミちゃん一体何話したんだ?」
「ぷに~?」
「絶対にあんただけには教えないわよ。あんたに知られたら一生の汚点だわ」
何と言う言い草だ、だが今回の功績にめんじて許してしんぜよう。
「……なんか今イラッときたんだけど、気のせいかしら?」
「よ、よく分かんないな~。二人ともー! 食事の準備ができたぞー!」
俺は逃げるように大声を出して舵の所にいる二人を呼んだ。
「やっと飯か~、遅すぎだって先輩」
「今回は手が込んでんだよ、あんま意味無かったけど」
「そんなことないですよ、ありがとうございます。わたしのためにわざわざ」
トトリちゃん、すっかり元気になっちゃって……。
その労わりの言葉だけで俺もう満足ですから。
「くっ、これもミミちゃんがいたおかげって事かよ」
「なんでちょっと悔しげなのよ」
だってなんか負けた気がするんだもん。
「あはは……、でもさっきも言ったけどミミちゃんが一緒でよかったってそう思うよ」
「トトリ……」
ふ、二人でなんか良い感じの空気を醸し出してらっしゃる。
いいもんいいもん、帰ったらフィリーちゃんとトトリ×ミミちゃんのカップリングで話してやるもん!
「? どうしたんだ先輩?」
「いや、俺もなんかいい具合に毒されてきたなって思って……」
しばらくフィリーちゃんに会うのは避けた方がいいかもしれない。
「ほらほら、いいから冷める前に食べてくれよ」
「おう、いっただっきまーす!」
「それじゃあわたしもいただきますね」
「いただきます」
「ぷにー」
何だかんだでみんなお腹が減っていたのかすぐに食べ始めた。
テーブルにはサラダから肉までいろいろと並べられていた。
「先輩って意外と料理うまいよな」
「イイ男の基本スキルだからな」
「イイ男……ね」
普段は無視するミミちゃんが反応して来たかと思えば、目で見下してから鼻で笑ってきた。
これならまだ無視の方が救いようがある。
「でも、外で食う方がなんかうまい気がするよな」
「あ、わかるわかる。なんだかいつもよりおいしい気がするんだよね」
「まあ、分からなくもないわね」
「…………!」
閃いた!
この話の流れに乗っかれる詩人もビックリなスゴイ言葉を思いついた。
ここでカッコよく決めて、後輩ーズの俺に対する認識を改めさせてやる。
「それはな、星空のスパイスが効いてるからさ」
俺はワイングラスを片手に空を見上げてそう言った。
「…………」
おお、みんなが固まってこっちを見てる。
ふふっ、ちょっとカッコよすぎたかな?
「輝く粒の様な星達の煌めきが、料理に降り注いでくるのさ」
あっ、なんかみんなの顔を俯かせて肩を震わせてる。
ふふっ、感動のあまり言葉も出ないかな。
「そう、まさに自然が生み出した隠し味だな」
俺は流し目でそう決めた。
「ぶっ、ぶふっ! ゲホッ!ゲホッ!」
「うわっ! 汚っ!?」
後輩君が突然食べていた物を吹き出した。
「き、汚いのはそっちでしょうが! ――っ! 人が食べてるときに何言いだすのよ!」
ミミちゃんが顔を真っ赤にして口元を押さえながらそう言ってきた。
「何って、ロマンチックでアダルティックな言葉だろうが」
「ぷににににににに!」
ぷにが横で大笑いしている、蹴り飛ばしておいた。
「と、トトリちゃん……」
俺は一縷の希望を込めてトトリちゃんの方を見てみた。
「あははは! も、もう! アカネさんに似合わないからやめてくださいよ!」
「う、うぐ……」
そんなに笑ってくれて嬉しいは嬉しいんだが、俺の予想結果と大分違うぞ。
「い、良いと思うんだけどな、星空のスパイス……」
俺がそう言うとみんなまた肩を振るわせ始めた。
今度クーデリアさんとかイクセルさん辺りに言ってみよう、彼らならこの大人っぽさを理解してくれるはずだ。
翌日
「ん? ん~? ふむ?」
「ぷに?」
昨日の残り物を朝食に出そうと思ったら消えていたでござる。
「ぷに、お前食ったか?」
「ぷにぷに」
ぷにはぶんぶんと体を横に振って否定した。
「だよなあ、後輩君はすぐ寝てたし、女性陣二人はありえないし」
「ぷに~」
「むう、船内密室殺人事件が起きる前に船の中を調べておくか」
「ぷに!」
とりあえず手始めに横に置いてあったタルを開けてみた。
「すうー、すうー」
「ぷに、この子俺の新しい妹なんだぜ」
「ぷに?」
タルの中で体を丸めて寝ているのはピアニャちゃんだった。
「悲しいが、密航者には死を。これがこの世界の原則だ」
「ぷに……」
俺はパン屑で窒息の刑を実行した。
心苦しいが、彼女も覚悟してのことだろう。
「もしくはケーキとかの横についてる透明なフィルムにくっ付いているクリームを舐めさせると言う屈辱にまみれた刑もあるな」
「ぷに!?」
「クックック、俺を外道と呼ぶか?まあそれもよかろう」
とりあえず見なかった事にしておこう。
何かしら理由はあるんだろう、ならば兄として妹の自由を尊重させなければ。
お兄ちゃんうざいとか言われたら精神崩壊が起きかねないしな。
「先輩、朝飯まだかー?」
「ふん!」
「のわっ!?」
俺は開いたドア目掛けてカチカチに乾燥したパンを投げつけた。
「ふう、危ねえ危ねえ」
「ぷに」
額が赤くなっている後輩君の意識は見事に刈り取られていた。
「とりあえずフタをしめ…………る前にもう一個刑罰を実行しておこう」
「ぷに?」
「なーに、可愛らしい子猫(キティ)ちゃんになってもらうだけさ」
「ぷに……」
俺はコンテナ直通のポーチに手を突っ込んで必要な物を取り出した。
新・アカネ秘蔵アルバムに最初の一枚目が加わった。