アーランドの冒険者   作:クー.

9 / 131
刈られる獲物たち

 

「というわけで村人の情報を頼りに、海岸沿いにやってきたぜ」

 

 村から一日くらい歩いた場所のこの辺に、アードラとやらがいるらしい。

 

「考えてみれば、相棒以外だと初めてのソロ狩りになるな」

 

 やっぱり、トトリちゃんたちを待ってればよかったかもしれん。

 でも、トトリちゃんを邪険に扱っちゃったから頼みづらいし……。

 

 というか、ジーノ含めて二人の俺に対する印象ってどんなんだ?

 行き倒れの冒険者と尊敬できる冒険者のどっちかだとすると……後者か?

 

 

「はあ……名誉挽回したい」

 

 正直このままだとカッコがつかない。

 今回の依頼を成功させて一つ……な。

 

 

「よーし!張り切って討伐と行こうじゃないか!」

 

 俺は、ざくざくと浜辺を歩きだした。

 

 

 

 

 バサッバサッ

 

「ん?」

 

 歩きだして間もなく、どこからか羽音みたいなものが聞こえた。

 

「上か? ……わーお」

 

 前方上空を見上げるとそこには、現代で見たことがないほどのビックサイズな鳥が空を飛んでいた。

 

「もしかしなくても、あれだよな」

 

 この辺で奴ら以外に見かけたものと言えば、青ぷにぐらいなもんだ。

 

「…………」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 よし!

 

 

 

「帰るか!」

 

 俺はそう決めると、そそくさと来た道をUターンした。

 

 

バサッバサッ

 

 

「あるぇ?」

 

 反転するとその前方にも奴がいた。

 

「…………」

 

 バサッバサッ

 

 後ろを振り返っても奴がいる。

 

 バサッバサッ

 

 さらに左右を見ても奴がいる。

 

「分身の術……だと……」

 

 単純に四匹いるだけだが現実逃避せずにはいられない。

 

「逆に考えるんだ、倒せばノルマを達成できる絶好のチャンスだとね」

 

 つーか、こんなこと言ってる間にも近づいてきてるんですけど。

 なに、俺ってもしかして獲物状態ですか?

 

 つか、飛行とか格闘と相性が悪いって!軍手何かあっても意味がないって!

 

「……これは、リアルに死の危険なんじゃないかな?」

 

 逃げよう!全力ダッシュで逃げよう!!

 

 最初の一匹目はまだ降り切ってないし、一気に駆け抜ければ……。

 

「よし、ダッシュ!!」

 

 俺は体を反転させて駈け出した。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「ククッ、勝ったぞ!完全なる勝利!」

 

 今俺は奴らを振り切って、砂浜にたたずんでいる。

 

「しかし、大分疲れたなあ」

 

 砂浜を走るのは苦じゃなかったが、体力不足がたたり現在小休止を取っている。

 

「ププッ。でもあいつら以外と遅いのな、いや俺が速すぎたのかなー!」

 

 もう俺は異世界最速を名乗ってもいいんじゃないかな。

 

「ったく、狩りをするならもっとライオンとかを見習えよ」

 

 肉食獣の方々は巧みに退路を読み切って獲物が疲弊したところをガブリといくのさ。

 

 

「あの程度の相手なら、俺一人で討伐できたかもしれんなぁ!」

 

 

 

 

 バサッバサッ

 

 

 

 

「…………」

 

 さぁっと顔から血の気が引くのが分かった。

 あの方々を雑魚とか誰が言うってんだよ。

 

「……とりあえず、逃げよう!」

 

 どこにいるかわからないが、あの羽音はトラウマだ。

 俺は逃げてきたのと同じ方向に逃げた。

 

 

 バサッバサッ

 

 

「……前かよ!」

 

 俺は、反転して逃げたした。

 

 

 

 

 

 

「……おい」

 

 しばらく走ったところで、またエンカウントした。

 

「調整ミスだろこれ。もっと低確率にしろよ」

 

 左の方に道があったので、そっちに逃げる。

 

 

 

 

 

 

 

「分布広すぎないか、ちょっと」

 

 海岸から少し離れたところにいたので、脱兎。

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 完全に息切れしてるよ、俺。

 

 

『疲弊したところをガブリと』

 

 そんな言葉が俺の脳裏をよぎった。

 

 

「とりあえず、ここの洞窟なら大丈夫なはず」

 

 現在俺は、逃げている途中に見つけた洞窟にこもっている。

 

 

「寒いし、腹減ったし、ああ……高校生やってた頃が懐かしい」

 

 まず、拳だけでモンスターを退治しようってのが間違ってたんだよなぁ……。

 

「相棒がいなかったら、俺死んでたのかもな……」

 

 アーランドに行けないで死亡してたのは火を見るより明らか。

 

「ぷにー、もう任せようなんて思わないから出てきてくれーー」

 

 俺はありえない妄想を言いつつ寝転がった。

 

 

 

 

「ぷに!」

 

 

 

「ッ!?」

 

 今確かに、ぷにの鳴き声が聞こえた!

 

 俺は、跳ね起きて声のする方向に向かった。

 

「ぷに、いるのか!?」

 

「ぷにっ!」

 

「おお……ぷ……に?」

 

「ぷに?」

 

「…………」

 

 今、俺は無性に目の前の奴に殺意がわいている。

 それこそ、疲れが吹き飛ぶほどにだ。

 

「紛らわしいんじゃーー!!」

 

 俺は容赦なく蹴りをお見舞いした。

 

 真っ黒なぷにに向かってだ。

 

「ぷにっ!?」

 

 俺の蹴りを受けて奴は吹っ飛んでった。

 

「……ったく」

 

 余計に疲れちまった。

 でも、あのぷにやたらと馴れ馴れしかったな。

 

「ぷにっ!!」

「ぶほっ!?」

 

 来た道を戻ろうとする俺の背中に衝撃が走った。

 

「このっ!?……って、あれ?」

 

 俺の目の前には真っ白なぷにがいた。

 

「ぷに!」

 

「あー……お前はあれか?俺がほんの数日間白玉って呼んでたぷにか?」

「ぷに!」

 

 ぷには頷くように体を前に傾ける。

 

「おお、でもなんでこんな所に?」

「ぷに~」

 

 困ったような顔をするぷにだった。

 

「もしかして、お前も流されてきたか?」

「ぷに」

 

 お前もかブルータス。

 

 

「まぁでも、相棒のピンチに来るとは、流石だぜ!」

「ぷにに!」

「ところで、さっきの黒いぷにってお前だったり……?」

「ぷににに!!」

 

 目を吊り上げて怒った表情をされた。

 

「いや、悪かったって。ところで、なんで黒かったんだ?」

「ぷに」

 

 一声鳴いて、ぷには洞窟の奥に向かった。

 

「? ……ついていけばいいのか?」

 

 とりあえず、立ちあがってついていこうとする。

 

「ぷにっ!」

「おお!?」

 

 洞窟の暗闇から真っ黒になったぷにが出てきた。

 

「お前……もう、白玉の名前が使えないじゃないか……」

 

 つかどうやって、そんなことになってるんだよ。

 

「ぷぺっ!」

 

 ぷにが口から何かを吐き出すと白に戻った。

 

「? 何だこれ?」

 

 暗くてよく見えないから、かがんで調べてみる。

 

「…………」

 

 本日二度目の血の気が引く体験をした。

 

「ぷに……これ……」

「ぷに?」

 

 そこにあったのは、シルクハットと真っ白な手袋だった。

 

「俺がいないうちにお前は野生に帰っちまったのか!?」

「ぷに?」

 

 これどうみても完全に人の装備品じゃないかよ!

 

「ぷにに」

「ぬおっ!」

 

 ぷにが俺を口で引っ張って、洞窟の奥に連れて行く。

 

「ちょっ、待てって!」

「ぷに」

 

 少しの間引きずられるとぷには止まった。

 

「ぷに」

「何だってんだよ……は?」

 

 体を起して前を見ると、シルクハットと手袋をした黒い顔の付いた球体たちがいた。

 簡単に言うとゴーストやね。

 

「ぷに」

 

 すると、ぷにがパクッとゴーストを食べた。

 

「……うまいか?」

「ぷに!」

 

 おいしいらしい。

 見てみると、またぷにの体の色が黒くなっていた。

 

「帰るか……」

「ぷに」

 

 シルクハットと手袋は戦利品としていただいておいた。

 

 

 

 

 アードラさんたちはぷにがまとめて蹴散らしてくれた。

 今やあいつらが狩りの獲物になっていた。

 俺はサポート要員にすらなれないなと思った。

 

 

 ……俺、何しに来たんだっけか?

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。