「ついにここまで来たねえ。いやあ、冷静さが売りの僕でも興奮が抑えられないよ」
「はあ」
あの後マークさんの下に向かうと、理由を聞く暇もなく数日かけてアーランドの西にある洞窟に連れてこられた。
おかげで、バイク紛失の話も切り出せずにいるので、なんだか一人で気まずくなってたりした。
「話に聞いていても、実物を見るのは初めてだからね!」
「あの、マークさん。何を見に行くのか、そろそろ知りたいなーとか思うんですけど……」
「まったくだよ。何も聞かずによくここまで来たなって我ながらに思うよ」
「ぷにぷに」
道中聞こうと思っても、鼻歌交じりに歩いているマークさんにが声が掛けづらかったりした。
「ん? 三人して忘れてしまったのかい?それとも、ただとぼけているだけかな?」
「忘れてるも何も、わたしはアカネさんに言われたから来ただけなんですけど……」
「俺はよく覚えてないけど、少なくとも何も教えてもらってないのは確かだ」
間違いない、コーラを飲んだらゲップするぐらいに間違いない。
昼ドラで浮気があるくらいに間違いない。
「おや、そうだったかい? すっかり話したつもりになっていたけど……それはとんだ失礼を」
「おっと俺がほしいのはそんあ言葉じゃないぜ……わかってるんだろう?」
俺は片手で顔を押さえ、指の間からマークさんを睨みつけた。
今の俺のポーズはかなりイケてるはず。
「ふふん、知りたいのかい?そんなに!知りたいのかい?どうしようかなあ、教えてあげてもいいんだけどなあ」
「…………」
これはウザい、俺のポーズとかセリフになんか突っ込み入れてくれよ。
帰ってもいいかな?
「うわ、急にもったいつけてきた……もう帰ってもいいですか?わたし……」
さすがは、トトリちゃん口に出して言うとは思わなかったぜ。
だが気持ちは痛いほどわかる。
「おおっと、短気を起こすのはよくないよ。今帰ったら奇跡の瞬間を見逃してしまうかもしれない」
「奇跡~?」
ここまで何も聞かれずに来れたのがそもそも奇跡だろ。
ちょっとやそっとのことじゃ驚かないぜ。
「何せ、僕たちがここに探しに来たのは……古の巨大ロボットなんだからね!」
「巨大……ろぼっと? ……アカネさん? どうしたんですか?」
「……ハッ!?」
しまった、一瞬にして妄想が広がってしまった。
俺がスパ○ボに参戦する所までいって止まったのは僥倖と言うべきか。
「そう、いかもまだ生きて動いているという代物だ」
「なるほど、ゾ○ドか……」
アレがスパロ○に参戦した作品は何十周したか分からんな。
くっ、久々に胸がドキドキしてきたぜ。
「いや、ロボットに対して生きているという表現はふさわしくないか」
そんなことないよ、アニメの世界には金属生命体ってモノがいるからね。
「そんなことはどうでもいいです。あの、動いている巨大ロボって危なくないんですか?」
「そりゃあ危ないさ、僕が目撃情報を聞いた人たちみんはぼこぼこの半殺し状態だったし。きっと遺跡を守るプログラミングが施されているんだろうね」
「はんごろし……? やだ! 行きたくないです! 帰る、帰ります!」
「まあまあ、これも仕事だと思って。ほら、彼を見てごらんよ」
そう言ってマークさんが、俺の方に視線を向けてきたのを感じた。
ダメだ、もう押さえきれない!
「やぁぁぁってやるぜええええ!!」
「ぷに!?」
「何でそんなにやる気なんですか!? いつものアカネさんらしくないですよ!」
「というわけで! 俺は先に行ってくるぜ!」
まだ見ぬ巨大ロボット!男のロマンに向けてさあ行くぜ!
「ちなみに壊してしまっても問題はないんだろうな?」
「もちろんだとも、最悪データさえ残れば問題ないからね。まあ頑張ってくれたまえ」
俺はマークさんの返答を聞いてすぐに駆けだした。
…………
……
「はあはあ……」
「君は実は冒険者に向いてないんじゃないかい?」
「クッ、何故だ!? 愛か! 愛が足りないと言うのか!」
あれから洞窟中を探しまわった結果、ゆっくり探索している二人に合流してしまった。
「うう、怖い……帰りたい……」
「ふう、ありがとうトトリちゃん。回復したぜ」
「へ? ど、どういたしまして?」
怖がっているトトリちゃん、これだけで僕はまだまだ頑張れます。
「しっかし、まだ言っているのかい? 相手の正確な強さも知らない内に、なぜそこまで怖がれるのか逆に不思議だね」
「そんなこと言われても、怖い物は怖いんです、マークさんは怖くないんですか?」
「怖いに決まってるじゃないか、見たまえ、さっきから膝が震えっぱなしだよ」
トトリちゃんにつられて俺も下を見てみると、確かに生まれたての小鹿のようにプルプルと震えていた。
「ダメじゃないですか」
「ダメじゃないさ、人間とは元来臆病な生き物なんだから、こわいのは当然だよ」
「わたしに行ったことと全然違う」
「うん、まあ、それはそれ。ほら、僕は科学者だからね」
この大人大人げない、子供を口でやりこめようとしているぞ。
「未知の恐怖を解明して怖くないものにするのも使命の一つな訳だよ」
一瞬、不覚にもカッコいいこと言ったって思ってしまった。
「怖くないものにするのが、使命……?」
「冒険者と言うのも似たものじゃないか、未知の領域に先陣を切って踏み込み、他の人々が安心していけるようにする。そういう仕事だろう?」
よし、今度からこの言い回しを使うとしよう。たぶん少しだけ頭がよく見えるはず。
「なるほど……つまい、怖くても怖がっちゃいけないって事ですね!」
「あ、いい事を言うね。うん、そういうことだ」
マークさんは笑顔でそう言うと、小声で何やら呟いた。
俺は位置的に聞こえてしまった……しまった。
「……しかし君は、科学者には向いていないだろうね。こうも簡単に口車に乗せられては……」
「え? なんですか?」
トトリちゃん、君は悪くない。悪いのはこの科学者や。
「ハッ! 俺のロボロボットセンサーに反応が! 来るぞ!」
「アカネさん、適当なこと言って驚かそうとしないでくださいよ」
トトリちゃんが、可愛く俺を睨みつけているが本当に来るんだって。
こう、かすかに駆動音とか聞こえるし。
「おや、本当に出てきたね」
「ええぇー!?」
「チッ!」
洞窟の奥からモノアイが光ったと思うと、全身が暗闇から出てきた。
高さはマークさんの2、3倍と言ったところか、ベースが黒で金で縁どりがされている。
右手が鉄球、背後にエンジンと思われるものがある。
ただ、俺はこいつを見た瞬間に舌打ちしてしまったのは……だ。
「これロボットやない、鉄巨人や」
それは俺のロボット美学的にはロボットと呼ばれるのが許されざる存在だった。
何と言うか、高そうな本格寿司屋に入ったら何故か回っていたみたいなガッカリ感だ。
「うわ、大きい!」
「そりゃ巨大ロボットだからね、小さかったら巨大とは呼ばないよ」
「そ、そうですけど、思ってたより全然大きいし……すごい、あんなのが動くなんて……」
「凄くない! あれを!! あれを巨大ロボットなどと呼ぶな!!」
俺にとっては20メートルあって初めて普通。120メートルで巨大ってレベルだ。
「俺に巨大って言わせたかったら城よりでっけえの持って来るんだなあ!」
「いやいや、アカネさん。そんなものどうやったら動くんですか……」
「動くんだよ! 核エネルギーとかじゃなくて、愛とか勇気とか気合で動く方が俺は好きです!」
こんなガソリンとか石炭で動いてそうな奴なんて論外じゃ!
「よし、マークさんドリル持ってたよな。俺の螺旋力で本当の巨大ロボって奴を見せてやりますよ」
「そんなことを言ってる間に、ほら、来るよ」
「チッ、こんな鉄クズ俺がぶっ壊してやんよ!」
向かってきた巨大(笑)ロボを見上げて俺はポーチの中から爆弾を取り出した。
「くらえ! ドナーストーン!」
「ええっ!? アカネさん! 待ってください!」
トトリちゃんが声をかけると同時に、俺は奴に雷の形をした爆弾を投げ放っていた。
それは見事に着弾した。そして奴の全身に電気が走った。
「あるぇ?」
「君はバカなのかい? 電気を与えたら回復するに決まってるじゃないか」
「…………クッ! 俺の今コンテナに入ってる爆弾、ドナーストーンしかねえんだよ……」
フラウシュトラウト戦で爆弾は使いはたして、今は自転車の動力のドナーストーンしかないのです。
「どうしようぷに?」
「ぷにぷに!」
仕方なく下がって、二人が戦っているのを俺とぷには見ていた。
「お前は炎とかあるだろ。ほらほら頑張りなさい」
「ぷに!」
ぷには真っ赤に変色して前線の加勢に向かった。
「何かねえかな……」
機械の駆動音や、爆発の音、打撃音等々を聞きつつ俺はポーチの中を漁った。
「お、お前は!」
奥の奥から取り出したそれは、雪だるまにジェット、これに加えて胴体数本のフラムが巻きつけられた特攻野郎。
以前に悲しい事故から生まれたラケーテレヘルンもといラケーテフラム君だった。
「君はここで使っとかなくちゃ一生使いそうにないからな……うん」
俺はそいつを持って戦場へと向かった。
「うう、全然傷ついてない……」
「大丈夫さ、装甲だって無敵の耐久力を誇っている訳じゃないんだ。いつかはきっと壊れるさ」
「でも、もう爆弾の数も少ないんですよ」
そういや、トトリちゃんも当然爆弾のストックが少ないよな。
帰って来てからトラベルゲートとか作って、爆弾作る時間は無かっただろうし。
「俺に任せろ!」
俺はこっそり敵の後ろに回って、爆弾を設置していた。
きっとこの子ならやってくれる、俺はそう信じているぜ。
鉄巨人がこっちを振り向くと同時に、彼は天高くへと飛び立っていった。
「くらいな! 俺のMAP兵器! ラケーテフラム!」
…………
「あれれ?」
しかし、何も起きなかった。
ガガガッ、ガッ!
いかにも放電攻撃します見たいな具合にガタガタ言いながらバチバチと電気が迸ってるんですけど……。
そんなことを考えていると、頬に何か冷たいものが当たった。
「……?」
拭ってみると、それは水だった。
「――――ぶっ!?」
突然、頭と肩にとてつもなく重い衝撃が走り、俺はその場にひざまずいてしまった。
これはあれだ、バケツの水を思いっきりぶっかけられた時の衝撃に似てる。つまりは凄まじい水圧だ。
「…………はあはあ」
ジャージがピッチリと肌に張り付いて気持ちが悪い。
なるほど……氷の爆弾+炎の爆弾=水の爆弾ってことだな。
「つ、使えねえ……」
前を向くと、鉄巨人が黒い煙を吹き出しながら倒れていた。
前言撤回、ロボには通じる。
ぴちゃぴちゃと水の上を歩く音が聞こえたと思うと、トトリちゃんから声がかかった。
「アカネさん、こんな爆弾があるなら早く使ってくださいよ……」
「いや、俺もまさかこんな効果だったとは思わなくてな」
「しかし、随分と老朽化していたようだね。まさか水程度でショートするとは、でもまあおかげであまり壊さずにすんだよ」
マークさんはそう言うと、鉄巨人の下に向かい分解し始めた。
「うん、思った通り中は無事だね。……これはすごいな。ぱっと見ただけじゃ、ほとんど理解できない。おお、これは……」
「すっかり夢中になってる、お礼くらいしてくれてもいいのに」
「俺としては、あんな物の構造が複雑なのにビックリだ」
俺の中では子供の工作レベルで低いレベルのロボットなんだが。
「うん、ばっちり。いやあ、お見事。さすが! よっ、無敵の錬金術士コンビ!」
「えへへ、それほどでも……って、あれ?」
「うん、大分適当に褒められてるなコレ」
だってそう言いながら、チラチラとロボの方に目線が言ってる。
子供かこの人は……。
「いやいや、心の底から本心の言葉ですよ。さて、その無敵のお二人に折り入ってお頼み申し上げたいことがあるんですが」
「変なしゃべり方しないでくださいよ。……なんですか、お願いって」
トトリちゃんは優しいなあ、ここまでいろいろあったのにお願いを聞いてあげるなんて。
「僕のラボラトリーまで運びたいんだよ、これを」
「は? これって……これを?」
「…………へ?」
いやいや、いくら小さいって言っても……トラック一個分くらいはあるぜ?これ?
「うん、これを」
「む、無茶言わないでください!こんなの運べるわけ無いじゃないですか!」
「そうだよ! 今回は大して疲れずに終わったのにこれはないだろ!」
珍しくゴースト手袋未装着で勝利だぜ!? 奇跡だろ! これが奇跡だろ!
「無茶でも何でもやらなきゃ、でないとこいつと戦った事が全て無駄になってしまう」
「だったら、運ぶ方法とか先に考えておけばいいじゃないですかー!」
「それこそ無茶を言うなだよ。こいつに勝てるなんてそもそも思ってなかったんだから」
「おいおいおい!数秒前に無敵のなんちゃら言ってた人の言葉じゃないだろそれ!」
なんという外道。機械神からマッドサイエンティストに降格だよ!
「無茶でもなんでもやってもらわなくちゃ困るんだよ。ほらお嬢さんはそっちを持って」
「うう、無理ですよお……」
マークさんが左足の付け根、トトリちゃんが右足の付け根を持って持ち上げようとしている。
さすがに無理です。アリは象を持ち上げる事はできません。
「と言う訳で、俺に任せなさい」
手袋をピッチリとはめて、俺はそいつの胴部分を持ちおもむろに持ち上げた。
「ふっ、ぬっぬぬぬぬ!」
「おお、素晴らしい!それではしっかりと頼むよ」
「あ、アカネさん。大丈夫なんですか?」
「洞窟! 出る……とこまで! そっから必要なとこ! だけ!」
俺は切れ切れに必要な言葉だけを伝えた。
いくら俺の筋肉素晴らしくても無理な物は無理です。
「まあ、仕方がないか。必要な部分だけでも持ち出せれば十分さ。それにそのくらいのヒントの方が逆に面白いだろうしね」
「さ、さよか……」
そっから洞窟を出た後、トラック一台分が車一台分くらいになったが当然のように帰りは行きの倍の日数がかかった。