アーランドの冒険者   作:クー.

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ラスト・ザ・ちむ

 

「アカネさん、材料が揃いました」

 

 2週間かけてアーランドまでロボの部品を運んだ翌日、アトリエで本を読んでいるとトトリちゃんが衝撃的な一言を告げた。

 

「そうか、またこの日が来たんだな」

「ぷに」

 

 俺はその言葉を聞き、本を閉じて立ち上がった。

 

「ちむ!」

「ちむ!」

「ちむん!」

「ちむ!」

 

 ちむちゃん、ちむおとこくん、ちむさん、ちみゅちゃん。

 皆が固い顔つきで、その時を待っていた。

 

「ちむちゃんホイホイ、またこいつを使う日が来るとはな」

 

 禁忌の機械が、俺の目の前に悠然とたたずんでいた。

 それはまさしく、人の罪の象徴。

 

 

「それでそれで? 今回は男の子と女の子どっちにするの?」

「…………」

 

 

 ちょっとダークな雰囲気を出そうと思ったけど、師匠がいる時点で無理に決まっていた。

 

「実はまだ決まってないんですよ。ちょうど男の子も女の子も二人いるから悩んじゃって……」

「ここは男だろう、聞いてみたまえ。彼の嘆きを」

「ちむ! ちむむ! ちむーー!」

 

 ちむおとこくんがトトリちゃんに熱烈に何かを訴えていた。

 彼としてはきっと3人目でこの悲しみの連鎖を打ち砕きたいのだろう。

 

 俺的にちむさんは結構気に入っているんだけどな。

 

「うーん、それじゃあ男の子にしよっか」

「ちむ!」

 

 彼の魂の叫びが実を結んだようで、トトリちゃんは男に決定したようだ。

 

「ちむむ!」

 

 トトリちゃんが準備を始めると、ちむおとこくんが俺のジャージの裾を引っ張ってきた。

 

「ふっ、任せな」

「ちむ」

 

 何だかんだで、こいつとも一年以上の付き合い。

 第一印象は可哀相、それ以外に言いようがない。

 

「この数年で俺のネーミングセンスもバリバリに上がっているはず、トトリちゃんには負けないぜ」

「そ、そんなに変わってないような……」

「師匠、お静かに!」

「は、はい……。うう、わたし師匠なのに……」

 

 まったく、俺だって特訓を重ねたのさ。

 ああ、あの山篭りは辛かっタナー。

 

「――! ちむマウンテン!」

「ちむ!」

「ぷに!」

「ガハッ!?」

 

 腹にぷにの体当たり、脛にちむちゃんのとび蹴りが決まった俺に崩れ落ちる以外の選択肢はなかった。

 

「アカネさん、ふざけないでちゃんと考えてくださいよ」

「クーッ!」

 

 この子はどうして、自分の考えた名前の方が気に行ってもらえるみたいな顔をしてるのだろう。

 一体何が彼女にそこまで自信を与えているのだろうか。

 

「ちむー」

「ちむん」

「ちむ!」

「ちむむ!」

 

 崩れ落ちている俺に、四人のちびっ子が集まってきて、俺肩を叩いたり、頭を撫でできてくれた。

 

「そうだよな、俺は一人じゃない。皆の想いを背負ってここにいるんだ!」

 

 俺は腕に力を込めて、上半身を起き上がらせ、次に足に力を入れて完全に体を立ち上がらせた。

 

「俺は負けない! いや、俺とちむ達は負けない! 絶対に勝って幸せな未来を勝ち取るんだ!」

「ちーむ!」

「ちーっむ!」

 

 俺が片腕を上げると、それに呼応してちむ達がかけ声を上げてきた。

 

 こいつらの期待、裏切る訳にはいかないぜ!

 

「俺の想いは、俺一人のものじゃない! そう!」

「アカネさん、準備できましたよ」

「はーい」

 

 たぶん今のテンションをずっと持続できたら、その内ジャンプから主人公になりませんかってスカウトが来るな。

 

「それじゃあ、スイッチオン!」

「相変わらず軽いなあ」

 

 こんなボタン一つで簡単に命を作れるなんて、最近俺の常識が浸食されてきた感じがして怖い。

 

 ガッコンガッコンと揺れ動いて、最後に回転しながら飛んで着地と同時に男のちむがでてきた.

 

「ちむー!」

「わー! 新しいちむちゃん! やっぱりかわいいー!」

 

 出て来るなり、トトリちゃんが真っ先に抱きついて抱き上げた。

 相変わらずちむちゃんの事となると行動が早いな。

 

「それじゃあ、君の名前は今日からちむまるだゆう! 雅な感じがしていいでしょ!」

「ちむ!?」

 

 案の定、男のちむちゃんの時に限ってトトリちゃんの異常なネーミングセンスが発現してしまった。

 

 ちむまるだゆう(仮)は助けを求めるように俺と師匠に視線を送っていた。

 

「待つんだなトトリちゃん、その子がより気に入る名前を俺は持っているんだぜ?」

「アカネさんいっつもそんなこと言って変な名前ばっかりじゃないですか」

 

 クッ、ここまでお前が言うなと言いたくなったのは初めてだぜ……。

 

「ちむ君! 俺の考える名前を聞きたいだろう?」

「ちむ! ちむ!」

 

 ちむ君は必死に生まれたばかりなのに死ぬ気で首をブンブンと縦に振っている。

 年齢数分のこんな子にここまでさせるとは、トトリちゃん……恐ろしい子だぜ。

 

「君の名前は今日から!」

 

 俺の脳内に単語が駆け巡る、ちむデラックス、ちむバルカン、ちむソード。

 フラム、レヘルン、ドナーストーン……はっ!

 頭文字を三つ取れば!

 

「ちむフレド君だ!」

「ちむー!」

 

 俺がその言葉を発した瞬間、ちむフレド君はパアーっと顔を明るくして俺の事を見てくれた。

 多少の妥協は入っているかもしれないが、どうやら気に入ってくれたようだ。

 アルフレッドみたいな発音で語感は良いと思う。

 

「どうやら今回は俺の勝ちのようだな」

「う、うう……ちむまるだゆうの方が良いと思うんだけど……」

 

 トトリちゃん、そろそろ諦めた方が良い。

 

「カッカッカ、これにて一件落着」

 

 願わくば、六人目が現れませんように。

 


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