ちむちゃん事変から一週間、十月が始まった頃。
俺はアトリエで図鑑を片手に釜をかき混ぜていた。
「よくよく考えてみるとなんだかんだで、俺の誕生日あっという間に過ぎたよな」
「ぷに」
去年はあんなに盛大だったと言うのに、今年はロボットの残骸を運んでいる間に過ぎてしまった。
「まったく、あの時の皆の熱い結束力はどこに行ってしまったのか……」
「ぷに?」
「うん、まあプレゼントの事は言うな」
まともにくれたのが三人と一匹、あの時の衝撃は忘れない。
「はあ、これでマークさんが微妙なロボを作ってきたら恨むぜ」
水上バイクの俺だったとは言え、アレがなければ、アトリエでトトリちゃんと師匠あたりでケーキを食べるくらいはできたかもしれん。
とりあえず、変形もしくは合体の機能完備させなければ俺は認めないぞ。
「よーし、あの鉄巨人みたいなのだったら吹き飛ばしてくれる」
俺はちょうど出来上がったフラムを掬いあげ、持っていた図鑑を捲りながらソファに座った。
「強い爆弾って言うと、やっぱりN/Aだよな」
「ぷに~」
今でもしっかりと目に焼き付いている、フラウシュトラウトを倒したトトリちゃんのN/A。
「ただ……さ、アレってトトリちゃんも作れるんだよな」
「ぷに?」
「このままじゃ、アイデンティ崩壊の危機が……」
これじゃあ、その内トトリちゃんが……。
『アカネさん、まだ錬金術やってたんですか……?』
「いやいや! トトリちゃんはそんなことは言わない言わない」
「ぷに?」
「幻聴か……精神を病んで来たのかもしれない」
「ぷににににに!」
笑うなよ、俺だって人並みにストレスくらい感じるんだぞ。
ああ、いっつも自分らしく生きるのは疲れるなあ。
「よし、話を戻すか……なんだったか、核を作るんだっけか?」
「ぷに!」
当たっているらしい、これじゃあもし元の世界に戻っても非核三原則に引っ掛かってしまうではないか。
「つーか、N/Aのところの記事、最高品質の名称が……」
悪いのから順に、濡れている、しけっている、普通、良品、一級品とココまでは至って問題がないんだが。
「コア爆弾って……」
あれ? コアって日本語訳するとあれだよね?
「俺はこれを作ることがあったとしても、絶対に低品質に押さえることを心に決めましたとさマル」
「ぷに~?」
「聞くな! あんまり詳しくもないし」
今更になって自分がとんでもない爆弾を使っていたと言う実感が湧いてきたよ。
昔、三色爆弾とか作ってた自分をマッハで殴りに行きたいわ。
「よし、更に話を戻そう。俺だけのオリジナル爆弾……」
「ぷに~」
ぷにが飽きもせずにまたやるのか、みたいな事を言っているが俺は昔の俺とは違うんだ。
決して、どぼ~ん! とかバカみたいな事を言って爆弾をそのまま入れて中和剤入れたりはしない。
「ミサイルランチャーとか作ったらマークさんのロボに搭載してくれないかな」
「ぷに?」
「今日はぷにがわからない話ばっかりですまないな」
まあ、かさ張るし無駄に材料も使いそうなので却下だ。
「やっぱり俺らしさを生かさなくちゃだよな。俺らしさ……筋肉か」
必殺のマッスルボム、これを食らった奴は全身の筋肉が消滅する。
「……怖!?」
なんて恐ろしい発明なんだ。暴発でもしたら俺の汗と涙の結晶が消え去ってしまう。
これは俺の暗黒のノートに封印しておくとしよう。
「もっと広いところからいくか…………地球人」
……なんか規模がでかすぎてよく分からなくなってしまった。
「……に、日本人? サムライ?」
必殺の切腹ボム介錯は無用でござるイン江戸。
「またノートのページに一つのダークマターが生まれちまったな」
「ぷに! ぷに!」
ぷにがよく分からないらしいが、とにかく真面目にやれとのご要望だ。
「仕方ない、ここは日本人が愛する一つの文化でやるとするか」
「ぷに?」
「その名も! その名も!そ の名も! その名も! そ~の~名~も~!」
「…………」
「花火! 花火フラムよ!」
アレなら爆弾マイスターの俺にうってつけの代物だ。
色とりどりの爆弾、なんだかとってもイイじゃないか……。
「よーし、とりあえずベースはフラムで染料を色々……」
俺は爆弾用ノートを開き、しっかりと、しっかりと考えながらページを埋めていった。
…………
……
「クーデリアさん、お祭りを開きましょう」
「却下」
「題して、俺の誕生日を一番最初に祝えるのは誰でしょう祭りです」
「おめでとう、そしてさようなら」
クッ、取りつく島もないとはこの事だ。
「ていうか、ココはあくまで冒険者ギルドって言う事を忘れてないかしら?」
「ちっ、これだからお役所仕事ってのは嫌だぜ」
「はいはい、悪うございました。本当にあんたは脈絡なく行動するわよね」
「失敬な、今回はちゃんとした理由があるのですよ」
あれから、とりあえず一個だけ作ってみた花火フラム。俺はそれでイケると確信したのだ。
「祭り向けの爆弾が出来たんですよ。こう、空に飛んでって空中で弾けるんですよ」
「? よく分からないんだけど」
「クックック、こんなこともあろうかと!」
俺は一冊のノートを取り出して、カウンターの前に置いて一ページ目を開いた。
その最下部に一個の丸い玉が描かれていた。
「よーく、見ていてくださいよ」
俺がパラパラとノートを捲ると、玉は上に上がっていき、見事に弾け飛んで典型的な花火の形を描いた。
花火の方は色鉛筆を使って色までついたカラーページというのがポイントです。
「なるほどね」
「分かってもらえましたか」
「あんたが、紙を無駄にしたって事が分かったわ」
この人は和の心と言う物を持っていないのだろうか。
「大体、こんな絵みたいにうまくいく訳ないでしょうが」
「ところがどっこい、俺はさっき街はずれで試作品を使ったのですよ」
「へえ? どうなったのかしら?」
「聞いて驚かないでくださいよ……」
あの結果には俺自身腰を抜かした。震えが止まらなかったね。
「野原が一面焦土と化しました」
「仕事があるから帰ってくれないかしら?」
「いやはや、上がったら爆発しないでそのまま落ちて来るんですよ。急いで逃げて命からがら助かった訳ですよ」
花火が最高点に達するその瞬間まではワクワクしてた。
「そのまま死ねばよかったんじゃないかしら?」
「うわあ……」
この人は滅多に見せない笑顔でなんて事を言い放っているのだろうか。
「と言う訳で、祭りを開きましょう」
「それ以上口を開くと借金の額を倍にするわよ」
「…………」
俺は大人しく、反転して扉に向かって歩き出した。
「ジャパニーズのサムライ魂は不滅ですよ!」
自分でもよく分からない事を言いながら、自分でも気づかない内に駈け出していた。
いつか、どこかはわからないけど、きっとこの花火フラムが必要になる日が来る。
俺はそう信じて、これを完成させるんだ。
「そう、みんなの心に淡い一夏の思い出を残すために」
つーか、なんで俺花火作ろうと思ったんだっけか?
何か心に引っかかるものを感じながら俺はアトリエへと戻った。