アーランドの冒険者   作:クー.

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レッツ生贄

 

 借金返済から一週間、一か月ぶりにトトリちゃんが帰ってきたのだが……。

 

「相談できそうな人って、先生かアカネさんくらいだよね……。ちょっと言いだしづらいけど、思い切って……」

 

 帰ってくるなり、ぶつぶつと独り言を言いだした。

 俺が若干引いていると、横で俺と同じように釜に向かっていた師匠がトトリちゃんに声をかけた。

 

「どうしたの ?ぶつぶつ独り言なんて、考え事?」

「あ、あの! 二人に相談したい事があるんです!」

「相談? わたしに?」

「俺も?」

 

 俺と師匠両方に相談なんて珍しい、どれどれここは俺の方が頼れるってところを見せてやろう。

 

「はい、二人しか頼れる人がいないんです!」

「や、やだ。そんな頼られちゃうと……うん。なんでも言ってみて! 先生だもん。なんでも答えてあげる!」

 

 顔を赤くして、緩ませて、こんな顔で先生って言われてもなあ……。

 つーか、俺も相談されているんですけど?

 

「うむ、俺も先輩として相談に乗ってやるさ」

 

 ちょっと対抗してみた。

 

「あ、ありがとうございます!実は……」

 

 

…………

……

 

 

「ふむ、なるほど……」

 

 あっちの村にピアニャちゃんの事を話しに行ったら、将来生贄になるんだから一人でも救われた方がいいと言われたそうな。

 

 そんで、村が犠牲になるのにトトリちゃんが納得できずに塔の悪魔を倒すと言い放ったと。

 

 でも塔の悪魔いつ出てくるかもわからず、こっちから出向こうにも塔の扉を開けるには生贄が必要らしい。

 

「ところで、それって女性限定?」

「えっと、たぶんそうだと思います」

 

 よくよく思い出してみると、あの村って女性の方々ばっか、いや女性だけだったな。

 

 俺が村の事をいろいろ考えている横で師匠はと言ったら……。

 

「えーっと、つまり……村の人たちが悪魔で、食べられちゃうから塔に行ってでも生贄で……ううう……」

 

 言葉が混ざりに混ざってよく分からないことになりながら、うなっていた。

 

「あ、あの、もう一回説明した方がいいですか?」

 

 見かねたトトリちゃんが、それとなく尋ねた。

 なんでこの師匠は自信満々に相談を受けたのだろうか。

 

「ううん、平気! ばっちり分かったから!」

「……本当ですか?」

「ああ! トトリちゃんが疑うような目で見てる! 本当だよ! 本当に大丈夫だから!」

 

 トトリちゃんがジトっとした目で師匠を見ていると、慌てながらかなり疑わしく本当を連呼した。

 可愛いから許す。

 

「それじゃ……先生はどうしたらいいと思いますか?」

「ちょ、ちょっと待って。もう少し頭の中整理するから。つまり、えーっと……」

 

 師匠は俯いて、ぶつぶつ言いながら考え始めた。

 許さない方がいい気がしてきた。

 

「相談する人、間違えたかなあ……」

 

 トトリちゃんがかなり小さくだが、そう言ったのが聞こえた。

 

 トトリちゃんにまでこう言われるとは……目頭が熱くなってきたぜ……。

 

「よし、んじゃあ俺は俺で頑張るか」

「アカネさん、何か思いついたんですか?」

 

 ククッ、師匠との格の違いを見せつけてやる

 

 期待を込めた目で見てくるトトリちゃんに俺はこう言った。

 

「ああ、こないだ捕まえた盗賊の中に女がいたはずだから……」

「ダ、ダメですよ!そんなこと!」

 

 早速出かけようとするとトトリちゃんが正面から俺の腕を両手で押さえてきた。

 

「なに、ちょっと強制労働施設にいれるみたいな気分でだな……良いだろう?」

 

 同意を求めて軽くウインクすると、トトリちゃんは余計に俺に突っかかってきた。

 

「何が良いんですか! ダメですからね、怒りますよ!」

「くっ」

 

 心優しいトトリちゃんにはこの選択肢は土台無理な話だったか……。

 

「なんでわたしアカネさんに相談しただろう……」

「――――っ」

 

 師匠と同格っ! いや、それ以下の評価だと! 認めねえ、絶対にだ!

 こうなったら、師匠の解決案が俺の案のさらに下であることを期待するしかないな。

 

「うん、うん……だから……よし!」

 

 師匠は何度か頷いて、納得したような声を出した。

 

「つまり、誰かが生贄になって、塔の中の悪い悪魔をやっつけちゃえばいいんだよね?」

「はい、でも生贄なんて絶対にダメだし。いくら村の人たちを助けるためでも……」

 

 でもなあ、生贄を捧げないと開かないんだから裏技なんてないだろう。

 塔に穴を開けるなんてして、入るのもたぶん無理だろうしな。

 

「それってパメラに頼んじゃなダメかな?」

「パメラさん?」

 

 ああ、そういえば最近会ってないなあ。

 今度こそ一緒にお茶でもしたいよな…………おい。

 

「こんのアホアホ師匠があああぁ! ついに脳細胞全部焼き切れでもしたんかぁ!?」

 

 神話の女神を全員集めてもあれほどの美しさには届かないであろう、至高のヴィーナスを生贄なんて狂ってる!

 悪魔も美しすぎて、思わず萎縮するレベルだっての!

 

「ア、アホアホ師匠……」

「そんな涙目で見てきても許さん! 却下だ却下!」

「そ、そうだよね……ちょっとズルだもんね……」

 

 こ、この期に及んで何をぬかしてるんだこの人は?

 

「ズルとかそういう問題じゃなくて……ひどいです! 先生とパメラさんって友達じゃないんですか!?」

「うん。友達だよ。たぶんパメラなら面白がってやってくれる気がするし……」

 

 こ、この人は……笑顔で友達を生贄にささげる気か?

 あれか、師匠も一応女だし、あの美しさに嫉妬したとかそういうアレか?

 

「ねえ、とりあえず一回試してみようよ。ダメだったら、その時また別の方法考えよう?」

 

 ……悪魔にもクーリングオフとかあるのかな?

 

「ダメだったらって、そんな簡単に言わないでください!」

「大丈夫だと思うけど、一応本人にも聞いてみないとね。そうと決まれば!」

「何っ!?」

 

 師匠は言い終わった途端に、俺の目にすら止まらぬ速さでアトリエを出て行った。

 

「ど、どうしましょう?」

「とりあえず、追うか。ちょっとぷにの事呼んでくるわ。あと万が一を考えて諸々の準備も」

 

 俺は人生最大の訳が分からない出来事に焦りながらも準備を済ませて、トトリちゃんと共にトラベルゲートを使って飛んだ。

 

 

 

 

 一瞬にして村まで着き、急いでパメラ屋に向かって店の前で立ち止まった。

 

「どうしたんですかアカネさん? 早くしないとですよ?」

「ちょっと待ってくれ、心の準備が……」

 

 気の抜けた状態であの人に会ったら、魂を丸々持って行かれちまうからな。

 

「スー、ハー」

「ぷに!」

 

 俺が深呼吸をすると、ぷにはとっととしろみたいな感じで鳴いてきた。

 

「……行くかっ」

「もしかして、アカネさんってパメラさんの事好きなんですか?」

 

 覚悟を決めた俺にトトリちゃんがちょっと顔を赤くしながら尋ねてきた。

 まあ、そういう話にも興味の出てくる年頃ってことか。

 

「好きって言うか、アイドルだな。理想像ともいう」

「ああ、そうなんですか。パメラさんって美人ですもんね」

「うむ……」

 

 あ、なんかまだドキドキがぶり返してきた。

 

「失礼しまーす」

「どうもー」

「ぷにー」

 

 店の中に入っていくと、丁度師匠がパメラさんと話しているところだった。

 

「あら、いらっしゃ~い。ちょうどロロナから話を聞いたところなのよ~」

「ほ、本当に頼んだんだ。まあ、絶対断わられるんだろうけど」

 

 トトリちゃんが、そう呟き。俺は確認を取るようにパメラさんに話しかけた。

 しかし、その綺麗な瞳を見つめて、そらして、手を後ろて組んでいるその姿を見ていると……

 

「あ、あ、あの。生贄なんて無理ですよな」

「ぷに……」

 

 ごめん、緊張しすぎた。

 今気づいたけど、俺手を後ろに組んでいる女の子大好きみたい。

 

「いいわよ~」

 

 パメラさんは、相変わらず間延びしているがいつもよりもはっきりとそう言った。

 

「ヴえぇぇぇぇ!?」

「ええええええ!?」

「ぷにーーー!?」

 

 俺とトトリちゃんついでにぷにも、そろって驚きの声を上げてしまった。

 

「良かった。パメラならOKしてくれるって思ったんだ」

「待った! 待て待て待て! パメラさん! お茶しに行くわけじゃないんですよ!」

「そうですよ! そんな安請け合いちゃダメですよ!」

「ぷにぷに!」

 

俺に続いてトトリちゃんも抗議の声を上げ、ぷにもカウンターの上に飛び乗って考え直すように言った。

 

「あら、どうして?」

「どうしてって、生贄ですよ生贄! し、死ななくちゃいけないんですよ!?」

「特に問題ないわよねえ」

「うん、ないよね」

 

 すごい軽い感じに二人はやり取りしたが、おかしいだろ!

 

「問題しかねえ!」

「ただ、もしうまくいかなくてお責任はとれないわよ」

「うん、ダメだったらまた別の方法を考えてみるよ」

「なんで二人ともそんなお気楽なんですか!」

 

 俺の今一番言いたい事をトトリちゃんが言ってくれた。

 

「さて、そうと決まれば色々準備しないと。うふふ、船旅なんて初めてだから、すっごく楽しみ~!」

 

 ウキウキしているのか顔を赤くして笑顔でところどころ笑いながら、声を弾ませながらパメラさんはそう言っている。

 

 こんなに楽しそうなパメラさん止めらんねえ……。

 まあ、プラスの面だけ考えれば一緒に船旅できるんだよな、塔に着いたらアーランドで準備してきたので何とかしよう。

 

「アカネさん、どうしましょう……?」

「いや、良いんじゃないのかな? うん、楽しそうだ……クックック」

「ああ、もう知りませんからね……」

 

 そう言ってうなだれるトトリちゃん。

 すまないな。今の俺にはパメラさんと出かけられるその事実で胸一杯。勇気一杯なんだ。

 正直、開けるだけって思っていたが、今の俺なら悪魔なんて一撃で倒せる気さえしてくる。

 

「るん、るるん、るる~ん♪」

 

 パメラさんの鼻歌を聴きつつ、俺は船へと向かって行った。

 

 


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