偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第二話「出撃指令! ゲッターロボ 5」

 爆撃機は一昨日死んだ成金から買い上げたものだ。

 

 ベータとは違い全翼型の三角形の爆撃機はどこの国のものなのかは分からないようになっている。ちょうど国家を示す場所がマスキングされているのだ。もちろん出所を明かさないためだろうがハヤトからしてみればそれもどうでもいい事柄の一つだった。

 

「ハヤトさん。その、バリヤーを無効化するために張った連中とは」

 

「連絡はまだ取れている。どうやらサオトメ研究所は関係者の線も消せていないらしいな。手ぬるい。どこまでも手ぬるい」

 

 ハヤトはアサルトライフルを小脇にして侵入口を目指した。この研究所で唯一常に開いているのは戦闘機のカタパルトハッチだけだ。

 

「でもあんな場所……。もし戦闘機でも出てくれば俺ら木っ端微塵ですぜ」

 

 部下の声にハヤトは、「その時はその時だ」と応じてワイヤーの強度を確かめた。ワイヤーで屋上から降下しカタパルトハッチより侵入する。

 

 第一班がまずは潜入し、その次に第二班である自分達が入る手はずだった。もちろん第一班を用意したのは先に部下が提言した戦闘機の飛び出す可能性を考慮に入れての事だ。ハヤトの言う通りに動く第一班はPMC崩れの傭兵達だった。全員成金の金で買ったのだ。あのカードは時限爆弾であったが、それまでにカードのIDを別口座に移ししっかりと金はいただいていた。

 

「傭兵ってのはオレはお天道様の次に信用出来る。絶対に命令した仕事はこなすからだ」

 

 第一班が手馴れた様子でカタパルトハッチに取り付き銃を突き出してから仲間に潜入のサインを送った。ハヤトはまずは高みの見物だ、とその様子を見守る。カタパルトの向こうで銃声が響いた。何人か死んだか、あるいは殺されたか。

 

 銃声が止む前にハヤトは動き出した。それを部下が制する。

 

「ハヤトさん! まだ銃声が!」

 

「馬鹿野郎。だからこそなんだよ。混戦になれば、オレ達が本命だと連中には分からんだろうが」

 

 ハヤトはそれも狙いのうちだった。傭兵との混戦で何人死んだだろう。それを考えるだけで恍惚状態になる。血と硝煙の匂い。堪らなく自分を狂わせてくれる。

 

 ハヤト達第二班はカタパルトハッチよりサオトメ研究所に入る。予想していたのは傭兵達の圧勝か、それとも渾然一体となった戦場の地獄絵図のどちらかであったが、ハヤトの目に映ったのは一機のベータがメカニックや研究員達を守り圧勝している様子であった。

 

 ベータは携行火器を用いて傭兵達を蹴散らしていく。もちろんベータかあるいは戦闘機による迎撃行為は想定していた。そこまで考えなしのハヤトではない。しかし傭兵達が圧倒されるなど誰が予想出来ようか。ハヤトは素早く隔壁の傍の壁に隠れた。ベータの機銃掃射が遅れて入ってきた部下達を抹殺していく。ハヤトはベータに乗り込んでいるパイロットがただの素人ではない事を見抜いた。

 

「戦い慣れてやがる……!」

 

 侵入口はここからしかない。バリヤーの生成が部下によって止められており爆撃が依然として続いているが内部に入れないのでは研究施設を攻撃する事もましてや調べる事も出来ない。

 

『おあつらえ向きに出てきやがったな』

 

 パイロットの肉声だろうか。ハヤトは高圧的な男の声に舌打ちをする。こうもしてやられて何も感じないハヤトではない。プライドの証のようにコートの襟を握り締めた。

 

 何もかも自分のものだ。部下の命でさえも。自分だけが勝手をする事が出来る。自分だけが唯一無二なのだ。自分だけの――。

 

 その尊厳は傷つけられ骸となって転がっている。今にも飛び出しかねなかったがぐっと理性で抑えた。今飛び出してもただの的だ。

 

『ボスはそうやって高みの見物かよ。言っておくが、お仲間の命はてめぇのもんじゃねぇぞ』

 

 その言葉はハヤトの矜持に傷をつけるには充分だった。誰も、神でさえもハヤトにその言葉は吐けるものはいなかったというのに。

 

 次の瞬間、ハヤトはアサルトライフルを手に駆け出していた。無論、ベータの照準がこちらを向く。だがハヤトは寸分の狂いもなく銃口をベータの銃口に合わせた。掃射するがそれはほとんど精密射撃に近い。ハヤトの目論見通り、一拍速かったこちらの銃弾がベータの保持する携行火器を内部から破裂させた。

 

 パイロットはそれに気づいていないらしい。突然目詰まりしたとでも思っているのか何度も銃を振っている。それこそが最大の好機だった。ハヤトは素早くベータの懐へと潜り込む。データ通りならばベータには近接戦闘火器はない。直接ハヤトを殺すにはナイフを反対側の手首から取り出すほかないのだが、その場合、随分とロスが発生する。

 

 パイロットがハヤトの動きに気づいて近接戦闘に持ち替える前に、ハヤトはベータの下腹に向かって掃射を行った。無論、何も考えずに撃ったのではなく全てベータの弱点とされる精密機器の接合部だった。ショートの火花が散りベータが瞬く間に無力化される。

 

『どうなってんだ!』

 

 パイロットの悲鳴にハヤトは最後の仕上げだとコックピットへと手をついた。ベータのコックピットブロックは有視界戦闘においても死角。この状況でメインカメラを切る馬鹿でもあるまい。

 

 ハヤトは腰に提げたナイフを手にして刃を舐める。これで目標を取り逃がしたと思っているパイロットに一杯食わせてやる。コックピットハッチを開くためにハヤトはパネルへと手を伸ばした。その時である。コックピットハッチが蒸気を噴出して射出された。恐らく最悪の事態を想定したのだろう。ハヤトは吹き飛ばされる形になったがそれでも当初の目的は果たした。

 

「何だってんだ、一体」

 

 ベータのコックピットから出てきたのは凶悪な顔をした男だった。これがベータのパイロット? とハヤトは疑問視する。そこいらの囚人か何かだと言われても納得が行く。

 

「何だ、てめぇ」

 

 ガンを飛ばす相手はまさしくチンピラのそれであったがその物腰から素人でないのは察しがついた。ハヤトはナイフを手に唇を舐める。

 

「このサオトメ研究所の秘密、もらい受けに来た」

 

「そいつは難儀なこったな。レプリカント野郎……!」

 

 怒りを滲ませた相手の声にハヤトは、「偽人類」とせせら笑う。

 

「オレは偽人類ではない。反政府組織、ハンプティダンプティのリーダーだ」

 

「ハーブティだか何だかは知らねぇが、どこの頭だって言っても、腕が立たなきゃお終いよ」

 

 どうやら相手は直感的に戦闘に慣れているだけの馬鹿だと判じる。直感で戦っている間なら自分は負ける気がしない。

 

 ハヤトは一気に肉迫した。相手も生身、ならば動きの素早いほうの勝ちだ。上段から打ち下ろしたナイフの一撃を相手は腕を盾にして止める。まさか腕一本犠牲にするつもりか。自分ならば腕を切り落とす事など動作もない。だが相手は距離を詰めたかと思うとハヤトの横っ腹に蹴りを放った。臓腑がダメージを訴える。だがこれしき、意識も飛ばない。クスリよりも軽い。

 

「効かねぇな……。下手なモルヒネよりもよっぽどマッサージだぜ」

 

「怪物野郎が!」

 

 放たれた声にハヤトはナイフに力を込める。だが相手の蹴りはただ闇雲にハヤトへとダメージを与えるものではなかった。

 

 接近戦がまずいと知ったのかハヤトを引き剥がすように今度は蹴りが放たれた。だがそれを察知出来ぬ自分ではない。すぐさまナイフを手離し、相手の蹴りに使った足を逆に蹴ってやって距離を取った。再び中距離線になったが今度はハヤトの判断のほうが速い。即座に拳銃を所持し相手の額へと照準する。

 

 勝った、と感じたがその直後に相手は飛び退いていた。確実に撃ち抜いたと感じたのに相手はまるで予知でもしたかのように跳躍していた。その動きは本能に刻まれたものらしい。動いてから、「撃ちやがった!」と喚いた。これでは猿を相手にしているようなものだ。

 

「やれやれ。これでは獣だな」

 

「上等。獣同士の食い合いと行こうぜ」

 

 相手が構えを取る。訓練されたものだと感じつつハヤトはナイフを上段に蛇のように腕をくねらせた。これは我流だ。だがこの構えで負けた事はない。突きを放つ。無論、相手の反応速度ならばかわしてくるだろう。それこそが狙いだ。ハヤトは影を思わせる無音の動きを見せた。相手には視認すら出来まい。その証拠に、「消えた?」と相手は首を巡らせている。今こそ相手の真裏にいるというのに。その隙だらけの首に、取った、と確信する。

 

 その瞬間、ハヤトの神経を震わせたのは経験による第六感であった。慌てて飛び退く。ハヤトと相手の合間を縫うように銃弾が放たれた。待機中のベータの携行火器が火を噴いて自分を狙ったのだ。あまりにも殺気に乏しい攻撃に素人か、と感じたが声の主に目を瞠る。

 

『リョウマさん! 大丈夫ですか!』

 

「女の、声……」

 

「ミチル!」

 

 リョウマ、と呼ばれた男は今しがたハヤトの接近に気づいたらしい。やはりこいつは本能的だと思いつつハヤトはこの状況では動きようのない事に気づく。リョウマに見張られ、ベータの銃口が自分を見据えている。どうすれば、と視線を走らせていると声が響き渡った。

 

「そこまでだ、馬鹿共め」

 

 その声の主に二人して振り返った。白衣を纏った矮躯の老人が威風堂々とハヤトを睨み据えている。作戦前の示し合わせのデータの中にその顔は見た事があった。

 

「サオトメ博士……」

 

 だがまさか、対象が自分から現れるとは思ってもみない。ハヤトの驚きを他所にサオトメは確信めいた口調でハヤトへと声をかける。

 

「その動き、リョウマと同等かそれ以上だろう。お前は理性で戦いをやるタイプだ。リョウマとはある意味では正反対だな」

 

 自分の戦闘スタンスを見抜かれハヤトはぴくりと眉を上げる。どうやらこのサオトメという研究者、ただの隠居者ではないらしい。

 

「……オレの事を調べたな?」

 

「お互い様だろうて。お前もワシの事を調べたな? 襲撃先に見合う相手かどうか。バリヤーの位置に人間を配置し、爆撃でベータや戦闘機の動きを制する。これらは全て理性で建てられた計画だ。決してその場凌ぎではない」

 

「ジジィ! こいつ、バリヤーの位置に人なんざ!」

 

 糾弾するリョウマにサオトメは、「だろうな」と冷静だった。

 

「バリヤーを制するには最も相応しい対処法だ。だがな、ジン・ハヤト。こうは考えなかったか?」

 

 サオトメの取り出したのはリモコンである。まさか、と背筋が凍りついた。それを悟ったようにサオトメが笑みを刻む。

 

「相手が自分を上回る、人でなしであるという事は」

 

 ボタンが押されると爆撃の揺れが収まった。リョウマが首を巡らせて声を張る。

 

「何だ? 爆撃機がどっか行っちまったのか?」

 

「そうではない。リョウマ。確かにバリヤーの前に人が立てばセーフティがかかる。だがそれを無視すれば何て事はない」

 

 サオトメの非人道的なやり口にようやくリョウマは気づいたらしい。先ほどまで自分と戦っていたのもなんのその、今度はサオトメへと飛びかかった。

 

「てめぇ! やっぱりおれは、てめぇを最初に殺すべきだったぜ!」

 

 リョウマの手刀がサオトメを射抜こうとする。サオトメも口角を吊り上げた。

 

「今さらに気づいたか。馬鹿者め」

 

 その言葉を制するように木霊したのは警鐘だった。全員が赤いランプの灯った格納庫の天井を見やる。

 

「またテロリストか?」

 

 しかし発せられたアナウンスは全くの予想外だった。

 

『ワームホール発生! ネフィリム、来ます!』

 

「ネフィリムだと?」

 

 ハヤトからすればどうしてという一事だ。ネフィリムはプラネットシェルの外殻に現れるはず。どうしてサオトメ研究所を襲う?

 

「こんな時に!」

 

 舌打ちを漏らしたリョウマがサオトメを睨み据える。

 

「てめぇを許したわけじゃねぇ」

 

「許しなど」

 

 鼻を鳴らしたサオトメはリョウマから視線を外しハヤトへと声を振り向けた。

 

「どうする? お前達の革命は潰え、ここで死ぬか?」

 

 挑発的な物言いの老人にハヤトはまさかと思いつつもネフィリムという脅威に対しては全くの素人の自分を自覚した。どうしてだか知らないがこの老人はネフィリムの発生まで視野に入れてここに佇んでいる気がしたのだ。

 

「恐らくは数が揃った事を悟られたな。リョウマ! 奴が来るぞ」

 

「そのためのゲッターだろうが」

 

「……ゲッター?」

 

 聞いた事もない単語にハヤトは面食らう。サオトメはハヤトを見据え言い放った。

 

「革命や反政府にうつつを抜かすのは勝手だが、どうせならもっと面白いショウに参加してみないか? ジン・ハヤト。国民や個人の命など小さい小さい、それこそ人類規模の盤面に挑戦しないかと、ワシは提案しとるのだ」

 

 ハヤトにはわけが分からない。だがリョウマは言わん事を察した様子だ。

 

「ジジィ! まさかてめぇ、このイカれたテロリストをゲッターに乗せるってのか!」

 

「何か不都合かね?」

 

「不都合も何も!」

 

 リョウマはハヤトを指差す。その眼には敵意が滲んでいる。

 

「こいつは研究所に潜入してきたテロリストだ! そんな奴をゲッターみたいなもんに乗せて大丈夫なのかよ」

 

「心配あるまい。既に鼓動が高鳴っておるだろう? ジン・ハヤトよ」

 

 サオトメの見透かしたような声に息を詰まらせる。その通りだった。何が起こるのかはまるで分からないというのに脈動がある。リョウマほどの怪人物が恐れているのも原因の一つだった。一体、野獣が忌避するものとは何なのか。ハヤトの中の知的好奇心がゲッターを求めている。

 

「ついて来い。なに、また一人、地獄への咎人が増えただけだ」

 

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