イーグル号、ジャガー号、ベアー号はそれぞれ並行してカタパルトに格納されており、三機が一度に発進出来るように既にメカニックが取り付いている。整備を終えたメカニックがリョウマへと声を振り向けた。
「リョウマさん。イーグル号のチェック行っておきました。……その方は?」
「線の切れたテロリストだよ」
リョウマの言葉を冗談だと感じたのかメカニックは微笑む。
「ジャガー号にはハヤトに乗ってもらう」
「操縦訓練も受けていない奴を乗せられるのかよ」
「心配あるまい。ハヤト、乗りながら操縦桿を握るくらいは出来るな」
ぎょろりと睨んだサオトメにリョウマはとことん本気なのだと思い知った。サオトメはハヤトを何故だか買っている。ハヤトが素直に頷くとも思えなかったがハヤトはゲットマシンを見つめたまま放心していた。
「……何だこれは。見た事もないマシンだ」
「これこそがゲッターだ」
サオトメの返答にハヤトが唾を飲み下す。ゲッターと呟いた男の眼は期待と不安に渦巻いていた。リョウマは、「おれは御免だぜ!」と口にする。
「こんな奴と二人で地獄に堕ちるなんてな」
「安心せい。ベアー号にはワシが乗る」
思わぬ言葉だった。腕時計型の端末から声が走る。
『博士! ですが博士の身体では』
「この研究所で最もゲッターを理解している人間が乗るのは何の不都合もあるまい。なに、ずっとパイロットに居座ろうというのではない。しかしワシは自らの肉体でもって知りたいのだよ。ゲッターの誕生! その瞬間を!」
どうやら狂った科学者であるのは相変わらずらしい。リョウマは、「途中で死ぬんじゃねぇぞ」と言いやった。
「そうなるとベアー号が空席になるからな」
「ワシが死ねば自動操縦に切り替えさせる。それくらいの準備はしてあるわ」
サオトメはパイロットスーツを着込みヘルメットを被る。リョウマは普段着である事に気づいた。
「おれはどうすりゃいい?」
「時間もない。なに、リョウマ。お前の肉体は飛び抜けている。生身でやっても上手く行くのならばこれから先どのような逆境にも耐え抜くだろう」
要は生身で戦えと。リョウマは口角を吊り上げて身震いした。
「……冗談きついぜ、ジジィ」
「ハヤトはこれを被れ」
サオトメの放ったのはヘルメットだった。バイタルサインなどをモニターするヘルメットでもしもの時にはハヤトを電流で昏倒させる事も出来る。やはり布石を打たないほどこの老人は馬鹿ではない。
「この、ゲッターに乗せられるのか?」
「ゲッターに乗るのは線の切れた人間くらいがちょうどいい」
サオトメの言葉を潮にリョウマはタラップを駆け上がった。イーグル号のコックピットの周囲にいるメカニックが散り散りになる。サムズアップを寄越すメカニック達にリョウマもそれを返した。
「さぁて、どこまでおれの言う事を聞いてくれるか? ゲッターよ」
イーグル号を起動させリョウマは回路を開く。通信システム、及びゲッター1への可変プログラムをイーグル号優先に変更、ネフィリム迎撃システム、ゲッターロボのOSが読み込まれディスプレイに有視界戦闘モードが映し出された。
発進位置に入りリョウマは肩口まで上がっていたアームレイカーに手を入れる。アームレイカーの重みを感じ取りつつリョウマの指紋、静脈を確認したシステムが開きゲッターに張り巡らされた幾重ものパスコードを入力していく。
「発進準備完了、イーグル号、ナガレ・リョウマ」
『ベアー号、サオトメ。こちらも発進準備完了だ。ジャガー号のシステムはアクティブにし、ハヤトはアームレイカーに手を入れておけ。折らぬようにな』
それはアームレイカーが折れないように、ではなくハヤトの腕が折れないように、であった。リョウマはせいぜい意識を飛ばさない事だ、と笑みの形に刻んだ顔を撫でる。ここにはタツヒトを含め数多の犠牲が成り立っている。その犠牲を決して無駄にしない。リョウマは深呼吸を一度してから腹腔に力を入れた。
「行くぜ!」
ゲットマシンが発進する。推進剤が焚かれ一気にGが押し寄せた。だがこのようなものは前座にもならない。ゲッターチェンジが成功するか否かなのだ。
空へと飛び出したイーグル号の有視界戦闘画面に捉えたのはネフィリムの巨躯だった。前回と同じ、人型タイプ。システムが「オベリスク型」の判定をする。その左腕がなかった。まさしく前回のネフィリムが攻撃してきたのだ。リョウマはこうも早く因縁が返せるとは思いもしなかった。
「……見てろよ。タツヒト。借りは返す」
ネフィリムの眼窩が赤く煌く。リョウマは即座にアームレイカーを引き、イーグル号が空中機動をする。ビームが放たれたがサオトメ研究所は先んじて張っていたバリヤーによって無事だった。
「これ以上、好きにはさせねぇ! 各機、ゲッターチェンジだ!」
メインレバーを引き、ゲッターチェンジを声紋認証させる。ジャガー号とベアー号が合体軌道に入った。鼓動が早鐘を打つ。落ち着け、と自分に言い聞かせるも何度も失敗してきた手前、平静でいられるわけがなかった。
「チェンジ、ゲッター」
イーグル号が主翼を畳み合体軌道に入ったジャガー号を包み込むように動く。機首が天上を向き、コックピットが自動的に移動した。ジャガー号からは悲鳴が漏れ聞こえる。
『い、嫌だ! 降ろしてくれぇ!』
「今さら泣き言言ってじゃねぇ!」
こちらとて初めての三人での合体だ。成功する確率は極めて低い。
イーグル号が推進力を落としジャガー号がイーグル号の接合部へと突っ込む。ジャガー号の合体が確認されてからベアー号がジャガー号へと合体軌道でタイミングを合わせた。さすがはサオトメだ。タイミングに関しては申し分ない。だがこれからである。三機が合わさってから、最終安全装置が解除されるまでがゲッターの合体変形の如何であった。
ジャガー号のシステムがイーグル号の主翼から必要なパーツへとアクセスする。主翼から運ばれたのはゲッターそのもののメイン推進力となるウイングであった。ジャガー号から発生した両腕がマイクロマシンの赤い装甲版を形成させ瞬時に展開される。ベアー号も脚部を完成させた。後はイーグル号が最終的に変形すればゲッター1へのチェンジは果たされる事になるのだがここで警報が鳴り響いた。
「何だ?」
『最終安全装置に異常発生! リョウマ、お前のイーグルだ』
サオトメの声にリョウマはイーグル号のアームレイカーへと力を込める。だが赤く染まったイーグル号のブロックは次々とアクセス権を拒否し先ほどまでリンクされていたジャガー号やベアー号にも影響していく。
『やはり正規のパイロットでなければ完全合体は不可能なのか……』
サオトメの呻きにそれだけではない、と感じていた。イーグル号だけが拒絶している。
これは怨念だ。
今までイーグル号で死してきた人々の霊魂がゲッターを完成させまいと取り憑いている。それを振り解くには自分が覚悟するほかなかった。
全てを投げ打ってまでもゲッターに乗るのか、乗らないのか。中途半端は判断を鈍らせる。リョウマは呼吸が荒くなるのを感じた。視界も暗転しかけている。指先の末端神経が痺れこのままでは空中分解もあり得た。耳朶を打ったのは様々な声音だった。
――ゲッターに乗れ。乗って死ね。惨たらしく死ね。醜く死ね。ゲッターチェンジを果たす事なく、この悪魔の腹の中で死ぬがいい。
リョウマはそれらの怨念の言葉を一喝する。怨嗟の響きも、死人の手招きも関係がなかった。
「……喧しいぞ、亡霊共。ゲッターで死ねだと? 生憎、もう棺おけはここだって決めてんだよ。だからよ!」
リョウマはレバーを思い切り引いた。加速度がかかりイーグル号のみならず全機体に過負荷がかかる。リョウマは速度で全ての因縁を飛ばし切るつもりだった。
今までの事もこれからの事も、全て突っ切ってまで戦え。
「亡霊共! おれ達を呪いたかったらこの速度の向こう側までついて来るんだな! チェンジ! ゲッター!」
最終安全装置が解除されレッドゾーンに突入していたシステムがオールグリーンとなる。
ゲッターの頭部を象徴する機首が割れ、一対の角を顕現させた。亀甲型のエネルギーパーティションと顎の部分についた冷却装置が作用してゲッター線の混じった熱風を噴き出す。顔面の完成と共にウイングが両腕の側面に接合された。三機が加速度を伴いながら雲の合間に入っていく。
次の瞬間、空が雷撃で割れた。
円形に空いた空に佇むのは両腕を組んだ赤い羅刹の姿である。ジャガー号から伸びた幽鬼のように白い腕にまるで鉄甲のように赤い鎧がついている。全身これ武器とでも言うような威容に大気が震え次元が恐れ戦いた。
その名前は――。
「チェンジ! ゲッター1!」
リョウマの声が轟き、ゲッター1へのチェンジが果たされた事を宣言する。ゲッター1は黄色い眼窩でネフィリムを睥睨した。ネフィリムオベリスク型に比すれば羽虫に等しい大きさだがそれでも今までのようなただの羽虫でない事は大地のうねりが証明している。ゲッターの生誕を祝するように天地が鳴動した。
『これが、ゲッター……』
『そうだ、これこそが……』
「ゲッターロボだ!」