偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第三話「月世界の咆哮 3」

 

「おい! 待ちやがれ!」

 

 叫びかけたリョウマの声は廊下に響き渡る。ハヤトは自分が呼ばれたと思っていないのか悠々と歩いていた。

 

「待てって言ってんだ! このテロリストが!」

 

 そこまで言ってようやく自分の事だと理解したらしいハヤトはゆっくりと振り返る。

 

「何だ、リョウマ。博士の前で論破されたのがそんなに悔しいのか?」

 

「違う! てめぇ、勝手に出歩ける身分だと思ってんのかよ」

 

 指差すとハヤトは口元を緩めた。

 

「おかしいな、それは。お前が掛け合ってメカニックやら研究員共を納得させたのだろう。オレに首輪をつける、という条件で。知っているぞ、爆弾付きなんだってな。まぁ順当だろう。獣の考えた方策にしては悪くない」

 

 その言葉にリョウマは怒気を露にする。

 

「んだと、てめぇ……」

 

「怒ったか? 自分の手柄を、さもオレのもののように言った事がか? それともオレが博士と何かを企てている事を察知したか?」

 

「物分りがいいじゃねぇか。そうだよ、ジジィとてめぇが何を企てているんだか知らねぇが、月までの片道切符は御免だぜ」

 

 ゲッターに爆弾を積んでいるようなものだ。またしても途中でチェンジされれば今度は命に関わる。だがリョウマの懸念をハヤトは笑い飛ばした。

 

「おいおい、意外に小さいな、ナガレ・リョウマ。もっと破天荒な奴だと思っていたが。ノミの心臓か?」

 

 リョウマの神経を逆撫でするには充分な言葉である。しかしリョウマは必死に拳を握り締めて抑えた。

 

「ゲッターはなァ、てめぇの勝手でどうこうしていいもんじゃねぇ。もうたくさんの人間の魂を吸っちまってんだよ。おれはそれを目の当たりにした。そいつらがおれ達を地獄へと送り込もうとしているのも」

 

「なるほど。ゲッターに怨念か。鬼か悪魔かを想起させる姿には相応しいな」

 

 リョウマは今にも掴みかかりそうだったが必死に堪える。

 

「……余裕ぶっこいてんじゃねぇ。お前がそうしていられるのはたくさんの人間の助力あっての事なんだぞ」

 

「何だ、リョウマ。恩着せがましいな。女々しいぞ。オレに、わざわざ礼を言わせたいのか? お前のお陰でお天道様を歩けている、だからすまないありがとうとでも? 馬鹿馬鹿しいな」

 

 鼻で笑ったハヤトにリョウマの怒りの沸点が超えた。飛びかかったリョウマが拳を振り上げる。しかしハヤトは必要最低限の動きでかわしていく。

 

「なるほど、博士の言う通りだな。お前は本能、オレは理性。そいつはピッタリだ。何せ」

 

 拳をハヤトが受け止める。どうしてだか強い力で握られたわけでもないのに拳がまるで動かなかった。

 

「理性ってのは本能を抑え込むためにある。オレとお前の相性なんざ、最初っから試算するまでもないな」

 

「水と油だ」

 

 言い放ったリョウマの凄味にもハヤトは屈しない。それどころか笑みを浮かべた。

 

「分かってるじゃないか。だが足りないな。ナガレ・リョウマ。もっと強い男だと思い込んでいたぞ。買い被り過ぎたか?」

 

「てめぇ……!」

 

 蹴りを放つがその時にはハヤトは飛び退って離脱していた。もう戦う気はないらしい。戦意が凪いでいる。

 

「やめておけ。これから宇宙に行くんだ。お互いに無用の生傷は命取りになるぞ」

 

 背中を向けた相手に飛び掛るほど無法者ではない。リョウマは内心食いかかりかねない野生を胸の内で堪える。

 

「……一つ、教えろ。てめぇとジジィは、何を考えている?」

 

「それこそ、聞かぬが仏だ。知っているか、ナガレ・リョウマ。悪人が何で死後を恐れずに悪に染まれるか」

 

 肩越しに振り向いた視線にはまだ拭い切れていない狂気があった。ざわりと身体が総毛立つ。

 

「それは地獄に落とされる事を知らないからだ。地獄がどれほど恐ろしいのかもな。悪徳は、さらに深い悪の前ではまるで無為になる」

 

 そう言い置いてハヤトは去っていった。向かう先は自室だろう。ハヤトには既に専用の個室があてがわれている。皮肉なのはそれらを用意するために奔走したのが自分だという事だ。無意味なトラブルを避けるために動いた自分の行いが全て無駄だと言われているようで身体の中を抑えようのない怒りが燻った。

 

「チクショウが!」

 

 拳を壁に放つ。壁に拳がめり込み亀裂が走った。

 

『リョウマさん……』

 

 ミチルの声だ。リョウマを慮っているのだろう。だから今の攻防に口出しをしなかった。ミチルの権限ならば首輪の爆弾を引っ張り出す事も出来たろうに。男同士の会話に入るべきではないと本能的に悟ったのだろう。

 

「分かってんよ、ミチル……。タツヒトや他のパイロットは、こんな事のために死んだんじゃねぇ。だからゲッターに乗れるおれやハヤトがいかに重要なのかって事はな」

 

 必死に自分を繋ぎ止めるようにリョウマは繰り返す。分かっている。タツヒトを含む犠牲は、全てゲッターという存在のためだ。その狂気に呑まれてはならない。

 

「怒りを発散させるのは簡単だ。だが怒りを鎮め、相手を思う気持ちにするってのは難しいな」

 

『リョウマさんは充分にジン・ハヤトの事を考えていますよ。それに研究所のみんなの事まで』

 

「いいや、まだまだだ。考えていたら、あいつに突っかかったりしねぇよ」

 

 リョウマは踵を返した。自室へと戻ろうとする。

 

『でもチェンジ出来るようになったのは大きいですよ。それはリョウマさんが頑張ったから』

 

「おれが、か。でもジジィやハヤトはそう考えちゃいないだろうな」

 

 サオトメは最初からゲッターを合体変形が可能なマシンとして設計し、そのためのパーツだとしか思っていないだろう。自分もハヤトも、運命を狂わされたパーツの一つなのだ。

 

『博士には博士のお考えが』

 

「分かってる。だからもう突っかからねぇ。何よりも、おれ一人の考えで動いちゃ暴走を招くだけだ」

 

 その言葉にはミチルが声を響かせる。

 

『違います! 暴走したのはジン・ハヤトのせいで』

 

「気持ちは嬉しいが初出撃でやっちまったのは消せねぇ。最後まで気を抜いちゃいけねぇっての身に沁みたよ」

 

 ミチルもそれ以上の言葉はないようだった。リョウマは考える。自分は本能だ、とサオトメにもハヤトにも告げられた。本能に「考える」という行為は無駄なのだろうか。ただ闇雲に、獣のように立ち向かうしか出来ないのだろうか。

 

 十時間後の発進までリョウマは安心して眠れる気がしなかった。

 

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