偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第三話「月世界の咆哮 4」

 発射台は花弁の威容を持つサオトメ研究所の内観を射抜くように備え付けられている。

 

 ちょうど花弁の中央が縦に開き、内部から赤いゲッター1の姿を覗かせた。晴天の日差しが降り注ぎリョウマは視界に僅かなフィルターをかける。ゲッター1の背筋にはロケットが装備されていた。赤い流麗な機体に無骨な灰色のロケットは不釣合いだ。

 

「リョウマさん。こいつは脱出速度に達して大気圏を出たらウイングで切って捨ててください。勝手に燃え尽きますから」

 

 メカニックの説明にリョウマはコックピットから応じる。パイロットスーツの気密を確かめ、何度も手を開いたり閉じたりした。

 

「気密状態は正常のはずです。ヘルメットも特注にしておきました」

 

「このマスク、やっぱり取れねぇよな?」

 

「苦しかったら取ってもいいですよ。リョウマさんほど頑丈なら耐えられるでしょ」

 

 メカニックの冗談めかした声にリョウマは首を掻っ切る真似をする。

 

「冗談キツイぜ。さしものおれでも大気圏突破は初めてだよ」

 

「リョウマさんならベータでも単独飛行しそうですけれどね」

 

 リョウマは微笑みながら中天を仰ぐ。既に先遣隊が月周回軌道に入っているはずだ。その先遣隊はこの国の機動部隊であり、もしかするとタツマのベータ部隊かもしれなかった。

 

「なぁ、先遣隊の情報って」

 

「こっちには入ってきませんよ。なに、相手も見張っているだけですから。こっちも威圧するぐらいの気持ちでいきましょう」

 

 そうか、とリョウマは頷く。タツマであるかもしれない、という不安を拭う事は出来ないが、そうでない事を願うほかない。このような再会など願い下げだった。

 

『リョウマ。何をお喋りしとる』

 

 サオトメの顔が映し出されメカニック達が、「やべっ」と蜘蛛の子を散らしたように逃げ去る。

 

「みんなジジィが怖いんだと」

 

 冗談めかすとサオトメは真剣な声になった。

 

『言っておくが大気圏突破はゲッターとはいえ並大抵ではない。何度も味わって堪るものか。ワシは政治的手段でこのような暴挙を二度とないようにする。ゲッターに傷一つつけるなよ』

 

 老人の忠告にリョウマは、「分かってるっての」と聞き飽きた体で返す。

 

『博士。僅かに、だがジャガー号の挙動にモーメントがかかる。これでは大気圏突破と同時に腕が動かない、という事があり得る』

 

 口を差し挟んだのはハヤトだった。リョウマ含め、メカニックはいい顔をしない。もしかすると意図的にハヤトに嫌がらせをしたのかもしれなかった。

 

『メカニックに伝えよう。ハヤト、ジャガー号はゲッター1の胴体だ。そいつが動かんとなれば作戦に支障を来たす。チェックは念入りにしろ』

 

『了解』とハヤトが通話を切る。リョウマは足を組んでぼやいた。

 

「日ごろの行いだっつうの」

 

『聞こえているぞ、リョウマ』

 

 思わぬところからハヤトの声がしてリョウマは首を引っ込ませた。

 

『常に通信を同期しておくと作戦前に博士が言ったはずだが』

 

 リョウマは舌打ちを漏らして悪びれもしない。

 

「小言も漏らせねぇのかよ」

 

『大気圏突破までは一蓮托生だ。イーグル号にもし、妙な動きがあれば、即座にオープンゲットしてオレだけでも帰還する』

 

 オープンゲット、とは分離変形の略語であった。その声紋がシグナルとして了承されるとボタンやレバー操作よりも優先して分離変形が行われる。

 

「おれだけ大気圏外に飛ばされるってわけか」

 

 笑ってみせるがハヤトの声は真剣味を帯びている。

 

『最終手段としてはある、という事を頭に刻み付けておけ』

 

 リョウマは見えていないのをいい事に舌を出した。ハヤトはジャガー号のチェックに戻る。再びコックピットを覗き込んできたのはメカニックの一人だった。

 

「おい、どうした?」

 

「いや、あのとても個人的な趣味なので余裕がなければいいんですが」

 

 遠慮するメカニックにリョウマは促す。

 

「話せよ。おれでやれるならやってやるから」

 

「これをお願い出来るかな?」

 

 差し出されたのはカメラだった。片手でも充分に使い回しが取れる小型だ。

 

「これが?」

 

「宇宙からこの惑星を撮ってくれないか? 一枚でいいから」

 

 メカニックの興味だろう。取り下げようとしたのをリョウマはカメラを掲げて一枚撮ってやった。

 

「いいぜ。おれで出来るんならやっておく。楽しみにしとけよ」

 

 照れ笑いを浮かべてメカニックが去っていく。『ジャガー号、点検終了』の号令が響いた。次いで『ベアー号、点検終了後、自動操縦に切り替えます』とオペレーターの声が続く。

 

「イーグル号、最終点検を」

 

 リョウマはアームレイカーを掴んでイーグル号の点検を済ませる。計器に狂いがないか、イーグル号はゲッター1の頭部であるためにオペレーションが取れているかなど三十項目を確認する。

 

「えっと……、よし、大体オーケー」

 

『大体では困るのだ。リョウマ』

 

 サオトメの小言が漏れ聞こえリョウマは嘆息を漏らす。

 

「分かってんよ。きっちり三十項目チェックするっての」

 

『リョウマ。もう聞いたかもしれんが月面に降り立った時、まず留意すべきは重力だ』

 

 サオトメの言葉にリョウマはチェック欄から顔を上げる。

 

「六分の一Gか」

 

 月面は惑星表面の重力の六分の一しかない。つまり地上で戦うのとはわけが違うのだという事だ。だがネフィリムが出現した事のない月面での戦闘など想定していなかった。

 

「どうせネフィリムもレプリカント野郎も出ないんだろ?」

 

『念には念を入れろ、と言っておるのだ。六分の一G下ではゲッター線がどのような変化を及ぼすのかまるで想像出来ん』

 

「んだよ、ゲッターEトマホーク一つ振るうのにも齟齬が発生するってのか?」

 

『可能性としてはあり得るのだ。元々は宇宙開発用とはいえ無重力と空間戦闘というのは感覚を麻痺させる』

 

「確かにベータ部隊にいた時もわざわざ宇宙に出向いて戦う事までは訓練されなかったな」

 

 そもそもがあり得ないからだ。プラネットシェル外殻に出現するネフィリムに対して宇宙戦闘の訓練など。

 

『無意味と断じるな。全ての可能性を考慮せよ。でなければ、やられるのはこちらだ』

 

 サオトメの言葉尻には先ほどより妙な感覚を受ける。まるで襲撃を受ける事を予知しているかのごとくだ。

 

「ジジィ、あんた、何か確信でもあるのか?」

 

『いいや。作業に戻れ』

 

 簡素な言葉で返されてリョウマは疑念を深める事となった。サオトメは何かを隠している。それはハヤトにも繋がる秘密かもしれない。

 

「イーグル号、最終確認完了」

 

 リョウマは無線に吹き込んでオペレーターの声を聞く。

 

『ゲッター1。発射、五分前です』

 

『ゲッター1についているロケットそのものはこちらで自動制御しますから、特別な操縦は必要ありません。強いて言えば、耐えてください』

 

 メカニックの説明にリョウマは口元を緩める。つまりこの発射に一番の問題は人体が耐えられるかどうか。

 

「皮肉だな。この間まで一番の問題児だったゲッターよりも、今度はパイロットかい」

 

 カウントダウンが始まる。十秒前、と刻み始めたカウントにミチルの声が混じった。

 

『リョウマさん。私のシステム権限では衛星軌道までしか補助出来ません。なので月面では』

 

「向こうさんのシステムがお相手だろ。ジジィから聞いたよ」

 

『本当に、申し訳ないです……』

 

 人間のように謝ってみせるミチルにリョウマは、「どうって事ねぇって」と軽口を返す。

 

「いつまでもお前の補助輪付きじゃねぇんだから。向こうさんのシステムがお前ほど優秀かどうかは分からんが、まぁ出来るだけ優秀なのを願うまでだ」

 

 カウントがゼロを刻み、ロケットが噴射する。幾重にも衝撃が重なりコックピットに重力が圧し掛かった。臓腑に刻み付けられるのは惑星の重力の網だ。それらを切り裂いてゲッター1の赤い身体をロケットが覆っている。剥離したロケット部品が第一次機動を補助し、続いてアナウンスが響く。

 

『第二次機動、重力圏内を抜けます』

 

 真っ赤な機体がさらに赤く染まる。無骨なロケット部品が何重にも繋がったリンクによって順番に外れてゆき遂にはゲッター1とその背面にある推進剤のみになった。円筒型の推進剤が重力の手から逃れるのを助ける。ミチルの声が響いた。

 

『ゲッター1、重力を抜けました。衛星軌道に入ります』

 

「オーライ。ここまでの水先案内人、ご苦労だったな、ミチル」

 

『いえ。リョウマさんもお気をつけて』

 

 ここから先はミチルのシステム補助がない。ある意味では不安だった。今までゲッターと自分を支えてくれたミチルの助けがないという事はゲッターと自分、それにハヤトの判断が何よりも優先される。

 

 アームレイカーを引きゲッターウイングの稼動を確かめる。ウイングが稼動して皮膜を形成して開き、ロケットとの接合部を解除した。切り離された円筒状のロケットが重力圏に落ちていく。リョウマは股の下が寒々しくなるのを感じた。落下すればすぐさま重力の虜だ。ゲッターは大気圏突入に耐えられるのか。脱出が可能でも再突入が可能なのかは机上の空論でしかない。

 

『ナガレさん、ベータ宇宙機動部隊、援護に参りました』

 

 気が付くとベータの編隊がゲッターを囲んでいる。先んじて宇宙に上がっていたベータ改八式の部隊だ。その中にはリョウマが直接指導した者もおり、お互いに信頼があった。

 

「おう。月まで頼むぜ」

 

『ゲッターが上がって来た時、ひやっとしましたよ。この機体は宇宙でも健在なのだと』

 

 宇宙空間で待っていたベータ編隊からしてみれば涼しい顔で上がって来たゲッターは畏怖の対象だろう。リョウマは一応、無線に吹き込む。

 

「お前らの中に、タツマ、ってのは」

 

『いいえ、いませんが……』

 

「そう、か」

 

 安堵半分、肩透かし半分だった。タツマともし出会ったとして、何を話すべきなのだろう。自分はゲッターを選んだ、と言えばいいのだろうか。

 

『女々しい考えをしているんじゃないぞ、リョウマ』

 

 そんなリョウマの思案を他所にハヤトの声は冷たい。

 

「んだよ、別にいいじゃねぇか。古巣なんだからよ」

 

『そういう感傷は真っ先に捨てるんだな。月面に辿り着く時には一切の情は捨てろ』

 

 やはりハヤトはサオトメと何かしら示し合わせている風である。リョウマは目を細めて、「おい」と声にする。

 

「てめぇとジジィ、何企んでるんだ? 共謀しておれを陥れようってのか?」

 

『陥れる? 馬鹿を言え。ゲッター1の状態でお前を陥れるなどすれば、オレとて危険だ』

 

 暗にゲッター2ならば自分を見捨てられる、とでも言っているようなものだ。リョウマは鼻を鳴らす。

 

「月にはレプリカントもいねぇし、ネフィリムも出ねぇはず。何を恐れてやがる?」

 

『馬鹿には言っても分からんだろう』

 

 その言葉に食いかかろうとすると新たなシステム反応がリンクを求めてきた。了承したのはハヤトだ。

 

『こちらサオトメ研究所より出撃したゲッターロボである。貴君のシステムを許可する』

 

「おい、勝手な真似を――」

 

『認証感謝する。こちらは月面統括軍のシステムAI、ルナである』

 

 ルナと名乗ったシステムAIの振る舞いはミチルのような人間味はなく、ただの機械音声だった。

 

「システムAI、って言ってもピンきりなんだな」

 

 酸素供給マスクをずらして備え付けられている水分補給のカプセルにストローを刺す。ルナは応じるような声も出さない。

 

『月面統括軍は、我々を歓迎してくれている、と見ていいのか?』

 

 ハヤトの質問にルナは、『愚問である』と応じた。

 

『月面は、誰のものでもない、惑星国家にその権限はないのだから』

 

 小難しい理屈はハヤトとAIに任せるとしよう。リョウマはメカニックとの約束通りカメラを構えた。全天候スクリーンをアクティブにして振り返る。惑星は半分が銀色の皮膜に包まれている。プラネットシェルの産物だろう。青い惑星、という昔ながらのイメージはほとんど払拭され、今や無骨な殻に覆われた惑星はどこか他人行儀だ。

 

 写真を撮影していると、『レンダリングビーム照射、来ます』と耳朶を打つ声があった。リョウマが視線を振り向けると人工衛星から赤いレーダーが照射される。『害はありません』とリョウマの思考を読み取ったようにルナが答える。

 

『レンダリングビームによって月面に来るのに相応しいかどうかを判定しているのです』

 

「どういう判定基準だよ」

 

『病原菌を持ち込んでいないか、あるいは危険物ではないか、など全部で三百を超える項目を瞬時に判定します』

 

 危険物、という言葉にリョウマはこのゲッターを月面に持ち込む事は危険視されないのだろうかと感じた。ゲッター線という謎のエネルギーで動く機械である。しかしそのような懸念は全く無視されてレンダリングビームの照射を何度も受けた。

 

「これ、いつ終わるんだ?」

 

『月面に着くまでに三十機の人工衛星がある。そいつらにいちいち検査されるんだ』

 

「尻の穴まで見られている気分だな」

 

 レンダリングビームの幕を受けつつリョウマはその視界に月面の平野が大写しになったのを確認する。

 

「……何だありゃ」

 

 リョウマの予感していた月面とは荒涼とした大地が広がっているイメージであった。だが実際に目にした月面には緑地が広がっており山脈地帯には木々さえも確認出来る。

 

『テラフォーミングされた月面には充分に酸素もある。今では第二の故郷さ』

 

 ハヤトの声にリョウマは感心して眺める。月面はもう前人未踏の場所ではないのだ。

 

「ところどころ禿げている場所もあるっちゃあるが、もうほとんど地上と変わらねぇな」

 

『テラフォーミングが開始されたのが八十年も前だ。それまでも細々と月面開発は行われていた。今となっちゃ住めない場所のほうが少ない』

 

 そのようなものなのか、とリョウマが感じているとベータ部隊の人々の通信が入ってきた。

 

『七十五番管区まで誘導する。こちらの指示に従って欲しい』

 

 ベータが先行しゲッターがそれを追う形となった。空中機動形態を取っているベータにゲッターが大人しく追従しているのは親鳥の飛行を真似る小鳥のようだ。

 

「七十五番ってのは……、あそこか」

 

 リョウマの視界に飛び込んできたのは広大な山脈地帯と同じくらいに広がっている樹海である。どこか地上のサオトメ研究所にも似た地帯にリョウマは質問する。

 

「どこで降りるんだ?」

 

『今、月面当局に問い合わせて……』

 

 そこから先の言葉を遮ったのは悲鳴だった。何が起こったのか、最初リョウマには理解出来なかった。突然、先行していたベータの一機が傾いだのだ。当然、操縦ミスを疑う。

 

「どうした? 慣れないのは分かるが」

 

『違う! 攻撃だ!』

 

 攻撃? その言葉にリョウマが疑問符を浮かべている間にも先ほどのベータが揺らぎ携行火器が火を噴いた。しかしその対象を捉える事が出来ない。ベータの機体が突然に弾け飛んだ。上空からの何かしらの力によって月面へと叩きつけられる。ベータは樹海に墜落して黒煙を上げた。その段になってようやく攻撃というのが真実味を帯びてくる。

 

「どこからだ?」

 

 視線を巡らせている間にももう一機のベータが月面から攻撃を受けたらしい。急に制動をかけたかと思うと一気に後部へと飛び退っていく。

 

「実体弾? ミサイルは見えねぇし……」

 

 ミサイルならば肉眼で捉えられないのはおかしい。ただ火器にしては静かであった。宇宙空間なのだから音がない、と言われてしまえばそこまでだが火線も見えない火器など存在するのだろうか。

 

「おい! システムAI! 攻撃を受けている。そっちで援護出来ないのか?」

 

『無理ですね。なにせ』

 

 警告が鳴り響きリョウマの視界に飛び込んできたのはシステムエラーの文字列だった。ハヤトが声にする。

 

『ハッキングだ。月面連中、どうやら読み通りゲッターをただ眺めるだけってわけじゃない腹積もりらしい』

 

 ハヤトは知っていたのかすぐさま対応する。だがリョウマには分からない事らだらけだ。どうしてハッキングを受けねばならない。ゲッターが降り立てばいいだけではないのか。

 

「おい、ハヤト! どういう事なんだよ!」

 

『最初から月面に降り立て、ってのは罠だったって事だ』

 

「何だと」

 

 その言葉を裏付けるように先ほど急制動をかけたベータが高度を落として墜落する。またしても黒煙が上がりリョウマはうろたえた。

 

「何だってんだ……。まさかレプリカント野郎が……!」

 

『いいえ。レプリカントではありません』

 

 ルナの声にリョウマは戦慄いた。レプリカントではない。ならば誰が、ゲッターを封じ込めようというのか。

 

 その時機体表面に衝撃が見舞った。リョウマは外周カメラでそれを確認する。

 

 瞬間、視界に入ったものに戦慄が走った。そこにいたのは――。

 

「人? 人間だってのか?」

 

 唐笠を被った人間が何の装備もなくゲッターの機体表面に取り付いている。そのような事が出来るはずがないのだが素手でゲッターの接合部を引き剥がそうとしているようだった。

 

「どうすれば……!」

 

『簡単だ』

 

 ハヤトの声が響くと同時にジャガー号へと動きの権限が委譲されゲッター1の腕が人を払い除けた。その動きにリョウマは目を見開く。

 

『こうすれば、人間程度ならば払える』

 

「ハヤト、てめぇ!」

 

 リョウマは怒声を張り上げた。今の動作で人が死んだのではないか。ゲッターで人殺しをするために月面に降り立つわけではない。しかしハヤトは冷静に、『気を抜くな』と返す。

 

『すぐにまた、登ってくる。それに払い落とした、というのは誤りだった。こいつ……』

 

 その声の意味するところをリョウマはすぐさま理解する。払い落としたはずの人影はゲッターの指に食らい付いている。どう考えても常人のそれではない。

 

「レプリカントか!」

 

 ならば話が早い、とリョウマは人影を払い落とそうとするも人影は素早く反対側の腕へと回った。相当な速度が出ているはずだが人影は物ともせずにゲッター1の手首から這い登ってくる。リョウマは気味の悪さを感じた。

 

「何だ……、こいつ」

 

 レプリカントでもこれほどまでに執着性があっただろうか。リョウマは人影を拡大する。唐笠を被った僧兵のような佇まいであった。宇宙で活動するために必要な宇宙服やパイロットスーツでさえも身につけていない。袈裟姿のそれにリョウマはどうなっているのか分からない。

 

「おい、坊主が取り付いている! ハヤト、そっちでどうにか出来ねぇのか!」

 

『普段は嫌っているくせに、いざとなれば人頼みか』

 

 嫌みったらしい声音も今は頓着している場合ではない。

 

「だがよ! こいつはまともな神経の人間じゃねぇぜ!」

 

『そうだな。まともではない。こいつら人類ではないのだから』

 

「……やっぱりレプリカント――」

 

 その声を遮ったのは月面から射出された物体だった。ゲッターの腹部を捉えた一撃は実体弾のそれよりも鋭い。ゲッターがよろめくほどの速度の物量だった。

 

「今の、弾丸か?」

 

 しかし被弾警報も鳴らない。リョウマは今しがた被弾したはずの箇所を見やる。怖気が走った。

 

 そこにいたのは唐笠を被った人間であったからだ。察するに今の攻撃、質量弾頭ではなくこの人物が何らかの射出台からゲッターに体当たりしてきたのだ。ただの人間の体当たりがゲッターにダメージを及ぼせるはずがない。リョウマは最早、それが人ではないのだと断じた。

 

「しつこいぜ! ゲッタービーム!」

 

 ゲッター線貯蔵量を十パーセント使用し緑色のエネルギーが胸部へと収束する。渦巻いたそのエネルギーが鋭く光ったかと思うとピンク色に変化して照射される。

 

 ゲッター線を使用した純粋なる攻撃エネルギーの放射。それこそがゲッタービームだ。ゲッタービームによって人影が塵芥と化す。当然の事ながら腹部周辺に取り付いていた人影は消滅した。だがそれを契機としたようにルナの声が響き渡った。

 

『月面で攻撃を確認。一斉報復を仕掛けます』

 

「何だって?」

 

 確認する前に樹海の中から数十人は下らない同じ袈裟姿の僧兵が射出されミサイルのようにゲッターへと飛びかかる。ミサイルならば蹴散らせたがそれが人間の姿をしている事にリョウマの判断は一瞬遅れた。その遅れを縫うように相手の攻撃は間断なくゲッターの装甲を叩いていく。本来ならば恐れるはずもない人間の膂力でゲッターのそこらかしこに黄色い警告が表示された。

 

「馬鹿な! ゲッターの装甲版を、こいつら素手で引き剥がしているってのか!」

 

『そのようだな。やはり居たか。ルナリアン!』

 

 忌々しげに放たれた言葉にリョウマが意味を問い返す前に人々の一斉に放った蹴りでゲッターの機体が軋みそのまま樹海へと没した。

 

「ルナリアン……、だと」

 

 痺れるアームレイカーを握った手の感触を確かめつつリョウマはゲッターを立ち上がらせようとするが大質量がそれを制した。人間の質量にゲッター1の膂力が負けるはずがないのだが押さえつけられており身動きが取れない。

 

『大人しくしてもらいますよ』

 

 ルナの声にリョウマは睨む。

 

「騙したな……」

 

『人聞きが悪い。我々は最初からゲッターの鹵獲こそが目的であった』

 

 その時、画面に表示されたのは見た事のないシンボルであった。三日月を模した図柄を赤い矢の図柄が貫いている。

 

『我らルナリアンに栄光あれ』

 

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