偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第一話「地獄を征く者 2」

 

 会議室に入ると待ちかねていた高官の人々が円卓を囲っていた。サオトメは椅子に座り、「始めよう」と口火を切った。

 

「第十二次プラネットシェル計画概要を伝えたまえ」

 

『そもそもプラネットシェル計画とは』

 

 機械音声で今までの会議を纏めたデータが円卓の中心に出現した。ホログラムで惑星が表示される。青い惑星に銀色の装甲が付与されていく様子が克明に刻まれている。

 

『この惑星そのものを強靭な一つの装甲版で覆って外敵からの侵入を一切許さない一つのシステムとして統合してしまおうという計画です。もちろん、環境保護団体からのバッシングや、惑星保護の観点から好ましくない、という声も見受けられますが既に荒廃の一途を辿る惑星の情勢から鑑みても惑星の人工化はある程度容認されるべき、だというのが十五年前に国連で可決されました。それ以降、惑星全国家、全民族総出でのプラネットシェル計画が推し進められ、現在四割の国家と海がプラネットシェルに賛同しその成果として我々の提供する資材で我々の提言する通りに推進されています』

 

「しかし、この計画。思っていたよりも遅延が見られる」

 

 そう口にしたのは青白い肌の高官であった。痩せぎすであり神経質そうである。

 

「本来ならば一年で一割のペースが望ましいのだがその四分の一にも満たないペース。それに比して資財と時間、それに人だけは消費される。これでは国がいくつ傾いてもおかしくはない」

 

「だがプラネットシェルは必要なのだ。それを及び腰になる事こそ、最もあってはならないのだと私は思うがね」

 

 赤髪の高官の声に今度は甲高い声が同調した。

 

「そもそもプラネットシェルは来る段階の第一段階に過ぎないのだろう? 既に動き出している連中もいるようだが」

 

 暗にサオトメの研究を責めるような言い草だったがサオトメは風と受け流した。

 

「ここにいる人々ならばプラネットシェルがいかに必要なのかをご承知のはずですが」

 

「だがね、誰も彼もが君の言う偽人類の脅威を真に受けているわけではないという事だよ」

 

 そのキーワードを受け、自動診断プログラムが走ってデータベースより情報を引き出した。

 

『偽人類とは、三百年前に第一号が確認されてから何度か人類史で見られる人間の模造体です。俗にレプリカントと呼ばれ、彼らは人間社会に溶け込み、逆襲の機会を窺っていると第六十七回レプリカントレポートにあります』

 

 情報端末の即座の対応にサオトメは満足していた。このプログラムを組んだのもサオトメの功績だ。サオトメ研究所はAI技術を含め、他国を二十年は引き離している。

 

「レプリカントなど……。一部でまことしやかに囁かれている噂、それこそ都市伝説ではないのかね」

 

 豊かな白髪と顎鬚をたくわえた高官が疑問視する。サオトメはつい先ほどもレプリカントの襲撃に遭ったばかりだと言おうとしたが無駄だろうと取り下げた。未だにレプリカントの死体の標本もないのだ。

 

 それは彼らが死すればすぐに溶け出し蒸発するからである。サンプルさえも残さない連中の手腕にここに揃った高官とサオトメは毎度煮え湯を飲まされている。正体さえも掴めない、その存在を疑問視されても仕方がない存在。

 

「レプリカントは存在する。だからこそ、プラネットシェルの正当性が容認されているものだと我が方では感じていましたが」

 

 サオトメの言葉に高官の一人が鼻を鳴らす。

 

「間違えるのではない、サオトメ博士。あなたの功績は確かに素晴らしい。あなたがもたらした人類の叡智も。しかしだからと言ってイコールあなたに全て従属する、というわけではないのだ。プラネットシェルは国家の力添えあっての事だと弁えたまえ」

 

「左様。サオトメ研究所がいかに優れていようとも我々は一島国に全権を任せるほど、寛容ではない。我が国家は既に軍備増強を行っている。これはプラネットシェルの恩恵である〝無限の軍隊〟の理想プランに沿った行動だが、それも君だけの功績ではないよ」

 

 無限の軍隊計画はプラネットシェルが及ぼす恩恵の一つだ。鋼鉄の外殻はあらゆる敵への牽制であると共に対立国家間でのパワーバランスの調整も担っている。全ての国家に等しい軍事力を配給する事により国家間の睨み合いを解消する。冷戦状態に近い結果ではあるがプラネットシェルが国連で可決された計画だからこそ成せる平和の理想像でもある。

 

「私をどう思おうが皆様の勝手です。だがこれだけは忘れないでいただきたい。プラネットシェルは来るべき敵に対してのものだという事を。私が人類の事を第一に考えての行動だという事を」

 

「レプリカントの尖兵、ネフィリムかね。だが今のところ迎撃成功率は九十八パーセント。現行の軍事力だけでも充分ではないのかな?」

 

 キーワードに対応し、アクセスプログラムが起動する。

 

『ネフィリム、とはレプリカントの使用する大型機動兵器です。現在確認されているタイプは二つ。霧型と実体型です。霧型には攻撃すれば霧散する、という特徴がありそれほど脅威ではありません。実体型も我ら国連の有する機動兵器ベータ七式に遠く及びません』

 

 ベータ七式、の簡易図が呼び出される。全体像としては旧世紀のヘリコプターに近いが大きく異なるのはプロペラのない事と下腹部に備え付けられた円形の反重力機構だ。反重力で飛行ではなく浮遊しており、コックピットの下部には携行火器が装備されていた。

 

 国連で推奨された火器は今のところ全てのネフィリムに対して有効であり軍備増強と言っても大国同士が睨み合いのついでにミサイルを建造しているだけである。

 

「ベータか。そういえは島国にもあったな。ベータ部隊が」

 

 サオトメは机の下でベータ部隊について詳細データを受け取る。外でタツヒトがそれを研究所の電算機にかけて処理しているはずだ。

 

「島国のベータ部隊はお強いと聞いた。我が国にも回してもらいたいものだ」

 

 相変わらずの皮肉を受け流しサオトメは本題に入る。

 

「ネフィリムとレプリカント、嘗めていれば人類は必ず手痛いしっぺ返しを食らう」

 

「まだ言うかね。ネフィリムの迎撃率は九割で――」

 

「その確率が、今に反転する事を、私は宣言しよう」

 

 サオトメの強気な発言に高官達が次々と哄笑を上げた。

 

「面白い、実に面白いな、サオトメ博士。だが、間違えないで欲しいのはあなたの有する権限は所詮、対レプリカントではなく、プラネットシェルの管理権限の一部。島国の国会があまりに腑抜けているから、あなたに全権を委譲する事を決めたのだ」

 

「対レプリカントはPMCでも軍隊でも対処が可能。それに国家間の軍事競争をあなたは横目に、つまらない趣味に金と資金をかけている、と小耳に挟んだのだが」

 

誰かがリークしたのだろう。サオトメは、「何の事やら」ととぼけた。

 

「ゲッター、だったかな。そう資料には書かれている」

 

「この場にいる誰とて突かれて痛くない横腹を持っていない人間はいないでしょう」

 

 暗にこれ以上の詮索はお勧めしない、と言ったつもりであったが高官達は誤魔化して微笑む。

 

「ゲッター線、無限エネルギーとそれを自在に操れる機動兵器の実現。いやはや末恐ろしいね。そのような恐ろしい兵器を島国の辺境で何故、あなたは造っている? それがどれほどまでに重要なのか我々にご高説願いたいものだ」

 

 高官達はサオトメの研究を馬鹿にしている。その時不意に今日発せられた女の罵声が蘇った。鬼、悪魔――。

 

「あなた方は人類のために、鬼でも悪魔にでもなる覚悟がおありか?」

 

「何だって?」

 

「少なくとも私は自分の利益だけのために動いているのではない。自分の利益だけで動く人間は真っ先に消滅するだろう」

 

 サオトメは立ち上がる。その背中に追及の声が飛んだ。

 

「待ちたまえ! つまりはゲッターとやらの、君の道楽を認める、という事でいいのかね? それは我々を敵に回すぞ」

 

「敵は、人類の敵はレプリカントのみです。そのためのプラネットシェル」

 

 サオトメの抗弁にも高官達は渋い顔をする。

 

「人類規模の平和を君だけが考えている、というのは驕りだ。ここに揃っている誰もが人類の恒久平和を望んでいる」

 

「なればこそ、私の研究に口は出さないでもらおう」

 

 サオトメは会議室を立ち去った。口汚く罵る声が聞こえてくる。

 

「黄色いサルめ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タツヒトは情報を処理していたらしく端末に視線を落としていた。サオトメが歩み寄るとその気配に気づいて顔を上げる。

 

「博士、会議は」

 

「終わった。研究所に帰るぞ」

 

 あのような会議など所詮は児戯だ。頭の固い役人を納得させるための方便に過ぎない。

 

「博士の送ってくださったベータ部隊のデータですが」

 

 会議中にベータ部隊の編成データをタツヒトに解析するように頼んでおいたのだ。「見込みのある奴はいたか?」と尋ねる。

 

「一人だけ。もしかするとチェンジに耐えられるかもしれない男がいました」

 

 ほう、とサオトメは端末にその男の情報を受け取る。表示されたのは蓬髪で荒々しい顔立ちの男だった。

 

 ベータ部隊の正式ユニフォームに身を包んでいなければチンピラか、あるいは凶悪犯罪者だと言われても納得出来る。凄味のある眼光をシャッターに向けた男のデータに視線をやる。体力、持続力、集中力が数値化され、最後に暗号化された適合値が表示される。

 

「適合率六十パーセント。今までのパイロットは何割越えが平均だった?」

 

「二割ですね」

 

 その三倍近く。それだけでも魅力的だったがタツヒトはさらに納得出来る材料を見つけてくれたらしい。

 

「その男、全ての数値よりも実地試験、つまり実戦において相当な戦果を上げています。噂程度ですがベータ七式の空中変形が可能な唯一のパイロットだという話もあります」

 

 その言葉がこの男を地獄に落とすのに相応しいのだとサオトメに判断させた。サオトメは先刻タツヒトと研究所が弾き出した適合者のデータを全て排除する。

 

「前の三人の可能性は全て棄却せよ。この男こそ、イーグル号のパイロットに仕立て上げるのに相応しい」

 

「了解しました。ではどう致しますか? ベータ部隊に直通で特命でも降ろしますか?」

 

「いや、いつものやり方だ。この男のスペックが知りたい。荒療治の方向で行け」

 

 サオトメは端末に表示された男の名前を読み取る。その名は――。

 

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