偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第三話「月世界の咆哮 5」

 ハヤトを呼び出したのはサオトメであった。恐らくたった数日で正確な研究所の地図を作り出した自分の手腕に恐れを成したか、あるいは追放かのどちらかだと感じていた。だからこそ、放たれた言葉は意外としか言いようのなかった。

 

「ジン・ハヤト。正式に、お前をゲッターのパイロットに迎え入れたい」

 

「その根拠は何だ?」

 

 物怖じせずに言い返すハヤトにサオトメは口角を吊り上げる。

 

「お前ならばワシと同じ目線でゲッターを見つめる事の出来る。言ったろう? お前は理性で戦うタイプだと」

 

「博士、あんたがゲッターに乗ればいい」

 

「出来るのならばそうしとるわ。だがな、この老いぼれの身体は許しちゃくれんのだよ」

 

 執務机に差し出されたのはサオトメの検査結果であった。どうやら読み取るにサオトメはもう二度とゲッターには乗れないようだ。

 

「一度乗っただけでこの有様よ。ゲッターとは、真に相応しい乗り手以外を拒むのだ」

 

「あんたならば自分の身体を改造してでもゲッターに乗りそうなものだが」

 

 ハヤトの皮肉にサオトメはフッと口元を緩めた。

 

「出来るのならばな。だが今の技術でゲッターに精神面でも体力面でも補えるだけの身体を作るのには、人間の素体を捨てねばならん。ワシは、そこまで、肉体的にも人でなしになるつもりはない」

 

 充分に人でなしの眼をしている人間の言葉とも思えない。ハヤトは、「だからオレ、というわけか」と結論付ける。

 

「自分の代わりの人間を見つけて乗せる。サオトメ博士、あんたはオレの調べよりも随分とロマンチストのようだ」

 

「何とでも言うがいい。ワシはゲッター稼動さえ果たせればいいのだ」

 

 どうやらサオトメに挑発の類は無意味らしい。ハヤトは話題を切り替える。

 

「オレが乗るとして、まだ一人分、空席があるが?」

 

「その事と、次の作戦についてお前に妙案を仰ぎたくってな」

 

 どうやらサオトメはもう三人目の適合者について目星をつけているようだった。ハヤトはちらと監視カメラを一瞥する。

 

「安心せい。ミチルのアクセス権限を今だけ封じてある。お前は、ミチルを通じてリョウマにこの事が伝わるのを恐れているのだろう」

 

 さしものハヤトでもこの老人の頭の巡りの早さには舌を巻く。自分の考えの二手三手先を読んでいると言っても差し支えない。

 

「で? オレをパイロットに仕立て上げてどうする? 二人ではゲッターの能力の三分の二。つまり完全稼動には至らない」

 

「完全稼動せずとも出来る任務だ。我が国より要請が下った。前回のゲッターの功績を見られていたらしい。ゲッターを寄越せ、と暗に告げてきた」

 

「だろうな。あれほどに強力な機動兵器を個人研究所にくれてやるのは惜しいだろう」

 

「ワシは拒否した。その代わり、どの国の機関でも第三者を貫かざるを得ない場所ならば、という条件付きにゲッターの明示を提案した」

 

「どの国でも所有していない地区など、この惑星にあったか? プラネットシェル外殻でさえも一応は国有地だ。いちいち領空権が発生するが」

 

「プラネットシェルではないよ。どの国でも絶対に国有地出来ない場所ならば構わないとワシは告げたのだ」

 

 ハヤトはピンと来た。

 

「宇宙、か」

 

 サオトメは指を鳴らしそれが正解である事を告げる。

 

「宇宙空間ならば、どの国も所有出来まい」

 

「だが、宇宙でゲッターの性能を示せ、というのは無理な判断だ。ゲッターの真価は戦闘時に発揮される。ネフィリムの出現を確認出来ていない宇宙空間では逆に反感を買うぞ。それこそ、とんちだとな」

 

 ハヤトの言葉にサオトメは、「厳密には」と立ち上がった。

 

「宇宙空間ではなく、ある場所に降り立たせる事で合意させた」

 

「どこだ? 人工衛星は国の所有物だ」

 

「月面だよ」

 

 一瞬慄いたものの納得出来る答えではあった。

 

「……なるほどな。月面ならば誰のものでもない、か。どこに降り立たせる? 場所によっては月面でも諜報機関が張っている」

 

「七十五番管区だ」

 

 その番号を聞いてハヤトは瞬時にその場所の情報を呼び出す。脳裏に浮かんだのは七十五番管区の悪評であった。

 

「七十五番……。確か月面の研究施設があったな」

 

「理解が早くて助かる。リョウマになど教えれば、一から百まで言わねばならぬのでな」

 

「その研究施設を共謀して、ゲッターを見せた、という証明にするつもりか? 出来レースで納得する国かね、ここが」

 

「七十五番管区の真の噂を、お前とて知らないようだな」 

 

 サオトメの背中にハヤトは真偽の疑わしい噂話を投げかける。

 

「月面に、いいや宇宙に特化した強化人間の開発。そしてその兵器化。一部の噂ではルナリアンだと名乗っているそうだが」

 

 その言葉にサオトメは満足したように呻った。

 

「その通り。ルナリアン、という組織が実在する」

 

 ハヤトでさえもその言葉には驚愕を露にする。噂話だ、と切り捨てられてもおかしくはなかった。

 

「三面ゴシップが好みそうな話だが」

 

「月面を管理しているのはそのルナリアン共だ。月の研究施設の上げる成果をまずはそいつらが享受する。生体組織の改造、及び強化人間の生成」

 

「違法だが」

 

「構いはしないだろう。何せ、どこの国にも属さない場所なのだから」

 

 法律も関係はなし、か。ハヤトは顎に手を添えて考え込む。

 

「そのルナリアンのいる無法地帯に、オレ達を送り込んでどうするって言うんだ? 連中のご機嫌伺いでもするか?」

 

「ルナリアンは一種の反惑星団体とも言えなくない。プラネットシェルに、お前達以上に反感を持っている事だろう」

 

「故郷を穢す不届き者、か」

 

 あるいはそれ以上の感情を持っているのかもしれない。彼らは惑星外からプラネットシェルを観察し続けたのだ。惑星を覆う銀色の皮膜に一番に敏感な種族の恐れがある。

 

「行き過ぎた思想はほとんど暴走と同じだ。彼らはこちらからゲッターを寄越せば、必ず奪還作戦を取ってくるだろう。ゲッターを盾にプラネットシェル中止を訴えるかもしれない」

 

 そうなれば相手の思う壺だ。どうするつもりなのか、ハヤトは尋ねていた。

 

「ならばゲッターを素直に寄越すのは馬鹿馬鹿しいと思うが」

 

「いや、この機を逃せば我が国からの支援も断ち切られ完全にサオトメ研究所は資金提供がなくなる。そうなれば一番に枯渇するのはゲッターの部品もだが、資源がなければ研究は続けられない。なればこそ、ゲッターは派遣すべきなのだ」

 

「矛盾しているように感じる。ゲッターを見世物にしたいのか?」

 

 ゲッターロボの覇権争いが続けばネフィリム討伐にも支障が出る。見世物などサオトメが最も忌避している事だろう。

 

「だがその能力の誇示はせねばならんのだ」

 

 サオトメの口調には苦々しいものがあった。政治の矢面に立たねばならぬ苦労。それまでこの老人はどうやってゲッターの開発と政を分けていたのだろうか。

 

「では。どうする? 手始めに堅牢なプラネットシェル外殻をゲッターの武装で破壊でもしてみるか?」

 

 ハヤトの言葉にサオトメは口角を吊り上げた。冗談だと通じたらしい。

 

「お前は別にプラネットシェル破壊活動にこだわる必要もないのだろう?」

 

 サオトメの言葉にハヤトは、「知らんな」と肯定でも否定でもない立場を貫いたが実際は見透かされているのかもしれない。自分がより強く立ち回れる場所ならばいちいち思想に頓着はしていない事を。プラネットシェルは分かりやすい権力と思想の誇示だった。だからこそ噛み付けば最も輝いていられたのもある。

 

「分かっておろうて。お前は、ゲッターの強さとその危険性を何よりも理解しているはずだ」

 

「買い被るな。オレとて一度乗っただけだ」

 

「一度乗れば、もう二度目はない、と言われればお前は全力で抵抗するだろう。ゲッターの魅力に取り憑かれた人間の眼を、もうしとる」

 

 ハヤトはサオトメを睨みつける。だがサオトメは涼しい様子だ。実際、自分がいくら言葉を弄そうが本音の部分ではゲッターを知りたいという欲求を見透かされているのだろう。

 

「……で? そのルナリアンの待つ月面に降り立って、何がしたい? ゲッターの武装でルナリアンを虐殺でもするか? なるほど、力の誇示にはなる」

 

 サオトメは笑い飛ばした。「それもいいな」とこの老人ならばやりかねない。

 

「だが、もっと相応しいのはゲッターで連中を殺すのではない。地獄に堕とすのだ。我々と同じようにな。月の連中には地獄を見てもらう」

 

 それは単純にゲッター兵器で殺せよりもなお恐ろしい命令であろう。ゲッターの見せる地獄。それは惑星が襲われているネフィリムの危険性とレプリカントの懐疑地獄でもあろう。

 

「月にいる連中は腑抜けている。だからゲッターで一喝してやるとでも?」

 

「ある意味では正しいな」

 

 サオトメは向き直りハヤトに命令する。

 

「よいか? ゲッターで月面に行く。これは決定事項だ。だがそれよりも重要視すべきなのは、ゲッターの力を最大限に利用するための手段が月面にしかない事なのだ」

 

「月面まで、わざわざスカウトしに行くってわけかい」

 

 覚えず口元が緩む。しかしサオトメは一笑すらしない。本気でそれを検討しているのだ。

 

「ルナリアンにもはぐれ者はおろう」

 

「そんな小さい可能性に賭けてどうする? あんたの事だ。既にある程度の当たりはつけているのだろう?」

 

 サオトメはその時になってようやく不敵に笑んだ。何かを約束しているかのように月の三次元図に手を翳す。

 

「お前らはただ月に行け。ただリョウマには教えるなよ。奴の事だ。ワシに否が応でも理由を聞き出しに来る」

 

「そういう性格だからな」

 

「ハヤトよ! 月での交渉はお前に一任する。腐っても反政府組織のリーダーだった男だ。交渉術はお手の物だろう?」

 

 リョウマには強硬手段、自分には交渉を求めているわけか。食えない老人だとハヤトは再認識する。

 

「分かった。今は、あんたの側につく。そのほうが面白い目を見れそうだ」

 

 サオトメは背中を向けて窓の外を見やる。上弦の月が浮かんでいた。これからあの場所に行くのはにわかに想像出来ない。

 

「一つ、あんたに聞きたい」

 

「何だ?」

 

 ハヤトはかねてより持っていた疑問をぶつけた。

 

「ゲッターとは何だ? それにプラネットシェルは、どうしてこうも強行される? まるで焦っているかのように映るぜ」

 

 サオトメは肩越しの視線をハヤトに振り向けた後、「やがて分かる」と語った。

 

「プラネットシェルも、ゲッターも、ある一面では我々の反抗の形であり、同時に諦めの形でもあるのだ」

 

「諦め、だと?」

 

 反抗は分かる。ネフィリムとレプリカントへの反抗。だが諦めとは。サオトメの背中を睨み据えるがそれ以上の情報は得られそうになかった。

 

「今は、それで納得しておこう」

 

 だがあくまで今は、だ。いずれはゲッターの秘密も、プラネットシェルの真意にも触れなければならない。それは自分の役目だとハヤトは感じていた。

 

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