偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第三話「月世界の咆哮 6」

 

「どうなってやがる!」

 

 コックピットハッチを開けて怒鳴りつけたリョウマへと組み付いてきたのは数人の僧兵であった。三人がかりでようやくリョウマが拘束される。地上では三人程度で組み付かれる鍛え方をしているつもりはなかった。数十人でも相手取れる自信があったのに相手の膂力は常人のそれではない。

 

「レプリカント野郎か……」

 

 背の高い僧兵二人は真空の只中でありながら言葉を交わした。

 

「おい、こいつ何て言った?」

 

「知らん。俺達はこいつを運べと命じられているだけだ」

 

 七十五番管区は我が国のものだとサオトメが告げていたのを思い出す。確かに言葉は理解出来たがまずどうやって月面で音声による会話を行えているのか。

 

「てめぇら……」

 

 マスクの内側でリョウマは呻る。僧兵はリョウマを後ろ手に拘束して立ち上がらせる。

 

「立て。こちら第七機動隊。未確認の機体からパイロットを拿捕。これからどう致しましょう?」

 

 どこかと通信しているのだ。通信先の声が漏れ聞こえてきた。

 

『その男は特一級対象だ。独房に、いいや、あの男の部屋に連れて行け』

 

「了解」と僧兵が応じリョウマを歩かせる。六分の一の重力のせいで妙に身体が浮かんだが僧兵達は慣れているのかほとんど地面から足を離さない。ジャガー号のコックピットも開きハヤトが出てきたのを肩越しに見やる。ハヤトは何らかの言葉を僧兵と交わしリョウマとは別方向に歩いていった。

 

「……何だってんだ、あいつ」

 

 僧兵による拘束を受けていないところをみると何らかの打ち合わせがあったのか。勘繰っていると急に重力区に連れて行かれた。六倍の重力にリョウマの筋肉と骨が軋む。だが僧兵達はころっとしていた。

 

 重力区で逆に上手く歩けないリョウマを先導する僧兵が徐々に暗い場所へと歩んでいく。カプセルが廊下の両脇に並んでおり内部には全裸の人間が入っていた。

 

「おいおい、怪物の万国博覧会か?」

 

 怪物、という言葉にぎょろりと僧兵が振り返る。リョウマがその眼差しの意味を窺う前に鳩尾へと鋭い一撃が食い込んだ。鍛え上げた自分ですら膝を折るほどの一撃が臓腑に刻み付けられる。

 

「言葉に気をつけろ、野蛮な地上人め。彼らは目覚めの時を待っている同胞だ」

 

「同胞……。てめぇらみたいなのが大勢いるってのか」

 

 僧兵がリョウマの顎を蹴りつける。一度体感シミュレータでベータのメインアームと腕相撲をした事があるがそれ以上の力だ。意識が飛びそうになる。

 

「おい、こいつをあの男の牢獄にやるんだよな」

 

 僧兵の一人の声に前を行く一人が頷く。

 

「嫌なんだよなぁ。あれの近くに行くのは」

 

「仕方なかろう。この地下に封じ込めておくしかなかった化け物だ」

 

 リョウマはほとんど消えそうな意識の中でそれらを聞く。化け物、牢獄、という言葉が意味を成す前にエレベーターに乗り付けられ気が付いた時には牢獄へと入れられていた。立ち上がって抵抗しようとするも身体に力が入らない。どうやら軽い脳震とうを起こしているらしかった。

 

「くっそ……、月面人が……。馬鹿力してやがる」

 

 左手首に巻いた端末に呼びかけるがミチルは応じない。やはり衛星軌道以上ではミチルとの交信も出来ない。この状態でどうしろと言うのか。このままでは死を待つだけである。

 

 その時、暗闇の奥で何かが身じろぎした。リョウマは反射的に構える。

 

「何だ? そういや化け物って……」

 

 呻り声が聞こえてきた。巨体で自分の倍ほどはある。

 

「おいおい、グリズリーでも飼ってんのか? 月で熊を飼うなんざ笑えねぇよ」

 

 熊と戦った事はないが剥き出しの野生に今の状態で勝てるかどうか分からない。しかしリョウマは虚勢を張った。相手が何者であろうと、このままむざむざと死んで堪るか。

 

 すると相手の態度が変わった。呻り声は質問へとなる。

 

「……人か?」

 

 こっちが聞きたかったがリョウマは、「あん?」とガンを飛ばす。

 

「おれは人間だが」

 

「人間、そうか人間がここに放り込まれたのか」

 

 相手の声はまさしく人間のそれである。リョウマが胡乱そうにしているとぬっと暗闇から顔を出してきた。思わず息を呑む。自分の倍はある身長に体格だった。それに比して相手の態度は謙虚そのものであった。

 

「人間じゃないか。それもルナリアンじゃないな。どこで人工培養された?」

 

 人工培養、という言葉にリョウマは眉をひそめる。

 

「おれは正真正銘、地上人だっての」

 

「地上? あの惑星の、地上から来たって言うのか?」

 

 巨体が指差す。目を凝らせばガラス窓がありそこから惑星が覗いていた。

 

「ああ、そう。あっから来たんだが」

 

「すごいな! お前! あんな遠いところから人が来れるんだなぁ!」

 

 素直な関心の声が牢獄を震わせる。リョウマは鼓膜がキーンとなったのを感じた。

 

「でけぇ、でけぇっててめぇの声! なんだ、喋り慣れてねぇのか?」

 

「おお! 悪い悪い! 百年ほど一人だったものだからつい、な」

 

「百年……?」

 

 リョウマは相手の顔を窺う。少し太り気味だが顔立ちには皺も見られないし年老いている風でもない。リョウマの視線に気づいたのか、「ルナリアンは長寿でな」と答えた。

 

「大体二十歳前後の見た目で成長が、いや老化が止まる。そういう風に出来ているんだ」

 

 ルナリアン、という言葉にリョウマはシステムAIの宣言を思い返す。

 

「そういう風な事、言っている奴がいたな。しかし月に人が住んでいるとは……」

 

「何を言っている? 八十年前にはテラフォーミングの最終段階に至っただろう」

 

「ああ、ジジィがそんな事言ってたっけ。でも、それじゃおかしくねぇか? お前、百年って」

 

「俺は最初期に作られたファーストナンバーのルナリアンだからな。ファーストナンバーで処刑されていないのは、俺だけだろう」

 

 大男の声にリョウマは顎に手を添えて思案する。処刑、などという奇怪な言葉が飛び出した。

 

「どういう事なのか、ちょっと説明してもらえると助かる」

 

 リョウマは腰を据えた。相手も座り込んで、「いいぞ」と応ずる。

 

「話すのは大歓迎だ」

 

「てめぇ、名前は?」

 

 相手はにやりと口角を吊り上げて笑った。

 

「トモエ・ムサシ。日系ルナリアンだ」

 

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