「……とまぁ、ここまでが俺達ルナリアンの成り立ちだ」
ムサシの語ったルナリアンという存在にリョウマは驚嘆する。六分の一Gに耐えるために強化人間を生産し続けている。それはまさしくレプリカント以上の脅威であった。
「マジかよ……。月には大変な奴らが棲んでいるんだな」
サオトメは知っていたのか? その疑問が鎌首をもたげてくる。知っていてゲッターを派遣したのはどう考えも不自然だ。ゲッター鹵獲のチャンスを与えたようなものである。
「そういや、何でてめぇはここにいるんだ? ルナリアンってのは仲良しこよしじゃねぇのかよ」
「俺はタブーを犯してな」
ムサシの言葉にリョウマは眉根を寄せる。
「タブー?」
「青く輝く星に憧れたのさ」
それは自分達の地上の事だろう。リョウマは尋ねていた。
「何でそれがタブーなんだ?」
「地上人は野蛮だと教わってきた。だから地上に憧れる事そのものが罪だと。実際、俺はルナリアンの中でもちょっと異質というのか、力が人一倍あるものだから覇権争いに支障を来たすと考えられたんだろうな。実際、俺には権力なんて興味がなかったわけだが、一度暴れ出すと誰も手に負えないもんだから、閉じ込めておく事になったのさ」
「理不尽じゃねぇか。てめぇ自身が悪いわけじゃない」
罪と言っても地上に憧れた、それだけだ。リョウマは提案した。
「地上に、行かねぇか?」
だがムサシは頭を振る。
「いや、行く方法がないんだ。ルナリアンは身体強化がしてあるから重力には耐えられるだろう。しかし機械文明がな、全く進歩していない。ロケットもないんだ。月だけの自給自足が成り立ってからここ百数年は地上との交信も絶っている。俺個人じゃどうしようもない」
「なに、おれ達だってここまで来たんだ。行く方法はいくらでもある。何ならゲッターを使ってもいい」
「ゲッター?」
ムサシが首を傾げる。ゲッターの説明をするべきか、と悩んでいると激震が監房を揺さぶった。リョウマは浮かび上がる。ムサシが手を出して天井に当たる前に止めてくれた。
「何が起こってるんだ?」
ムサシもこのような状況には慣れていないらしい。リョウマはハヤトか、と察知した。
「どうやらゲッターで暴れ回っているようだぜ」
ルナリアンとの交渉が決裂したか。あるいはゲッターを使わざるを得ない状況に追い込まれたか。僧兵達が戸惑っているのをリョウマは読み取った。
「ムサシ。ここから出ねぇか?」
その言葉にムサシは、だが、と濁す。
「俺は重罪なんだ。地上への憧れを捨てなければ」
「もうそんな事頓着している場合でもなさそうだぜ。この月面基地そのものがなくなれば、タブーもクソもねぇだろ」
リョウマの言葉にムサシは口元を綻ばせた。
「不思議だな。お前の言うゲッターとやらと地上に、またしても興味が出てきた。百年間で断ち切ったと思われた雑念が」
ムサシの顔立ちが変わってきた。これはまだ戦う意気のある男の顔だ。
「面白ぇ。行くぞ、ムサシ!」
リョウマの号令に、応、とムサシが扉に向けて突進する。扉が容易く破砕され周囲を見渡した。僧兵達は今の扉に挟まれて気絶したようだ。
「呆気ねぇな。ムサシ、いつでも脱獄出来たんじゃねぇのか?」
「かもな」とムサシは周囲に視線を配っている。ムサシの巨体では目立つ。リョウマは迅速な判断を仰いだ。
「どこから月面に出られる?」
「こっちだ」
ムサシの向かった先には僧兵達が待ち構えていた。やべぇ、とリョウマが及び腰になるもムサシは既に闘争本能が呼び覚まされた獣であった。雄叫びを上げて僧兵達を薙ぎ倒す。一撃であった。ゲッターを苦戦させた僧兵をムサシは一撃で倒す。
「嘘だろ……」
もしかすると自分はとんでもない化け物を解き放ったのかもしれない。そのような懸念を無視してムサシは月面上を目指す。リョウマもそれに追いすがった。
一面がガラス張りされたチューブ状の通路から望めたのは宇宙空間の常闇であったが、その一部が光ったかと思うと瞬く間に赤い爆発の光が月面基地を飲み込んでいく。減光されない暴風のような光の渦にリョウマもムサシも腕を翳して防御した。
「何てぇ、光だ」
ずっと独房にいたムサシからしてみれば網膜の裏を刺激する光だろう。リョウマはその光の元が何なのかを瞬時に理解した。
「ネフィリム……。何で月面に」
それを裏付けるように天上に出現したのは箱を連ねたような蛇型のネフィリムだった。リョウマは歯噛みする。ゲッターがあれば、今すぐに叩き落してやるのに。
その時、僧兵達が前の通路から出現しリョウマ達を認めた。
「な、何で外に出ている!」
僧兵達が構えを取る前にムサシが構えた。右腕を前に突き出し、左手を二の腕に添える。
「六分の一G殺法……、一の陣!」
ムサシの姿が掻き消えた。あれほどの巨体がどこへ、と首を巡らせる前にムサシは中空に躍り出ていた。跳躍、それも生半可な距離ではない。瞬時に僧兵達の背後へと回ったムサシが連中を薙ぎ払って風圧で吹き飛ばす。
「大雪山、おろし!」
ムサシに投げ飛ばされた僧兵達は次々に気を失っていった。リョウマは口笛を吹く。
「こいつはすげぇ、百人力だぜ」
ムサシはそのまま通路を突き進もうとする。その時リョウマの視界に映ったのは見知った機影だった。
「ゲッター2? 誰が動かしてやがるんだ?」
ゲッター2がネフィリムのビームを回避しつつ攻撃の機会を窺っている。問うまでもなくハヤトの独断だろう。リョウマは拳を握り締めた。理念もなく、ただ闇雲にゲッターを動かしているのが許せない。
「ハヤト! てめぇ、勝手にゲッターを――」
その声が聞こえたのか、はたまた偶然かゲッター2はビームを避け切れずによろめいた。そのまま月面基地へと墜落する。強化ガラスの通路が吹き飛び、真空に晒された空間から空気が抜け出て僧兵達が宇宙に投げ出された。リョウマも飛ばされそうになるがそれを抑えたのはムサシだ。リョウマの手を掴み、何と自分の足で立っている。
「あれが、ゲッターか」
ムサシの声は弾んでいた。リョウマは、「ああ」と口角を吊り上げる。
「どうだ? ムサシ。あれに乗って、地上に行こうぜ」
「あの面構え、俺は気に入ったァ!」
ムサシが身体を丸めて宇宙空間に飛び出す。その行動は予想外であった。リョウマも当然、投げ出される覚悟であったがムサシは六分の一Gを知り尽くし、ちょうどゲッターのいる地点まで跳躍しただけのようだった。リョウマは辛うじてゲッターのコックピットパネルに触れてハッチを開ける。コックピットに収まってからムサシに命じた。
「てめぇはベアー号だ。こっちからハッチは開ける。空気圧は」
「問題ない。俺の身体はどんな逆境でも耐えられる」
その自信は間違いない。リョウマのアクセスでベアー号のハッチが開きムサシが収まったのを確認した。
『……リョウマ。お前、何をした?』
「てめぇこそ、勝手にゲッター乗り回してやられてんじゃ世話ァねぇな。なに、サオトメのジジィが気に入るかどうかは分からねぇけれど、揃えてやったぜ!」
ゲッター2がにわかに起き上がる。ネフィリムの眼窩が煌いた。
「やべぇ! ビームだ」
『ゲッター2なら!』
ゲッター2が弾かれたように動き、ビームを回避する。だが髪の毛一本ほどの回避速度なのはリョウマでも窺い知れた。
「てめぇ一人でゲッター動かして疲れてやんのかよ」
『黙って、いろ……。どれだけ人が苦労したと……』
息の上がっているハヤトに、「そうかい」とリョウマはアームレイカーに手を突っ込んだ。
「だったら代わってやんよ!」
分離プログラムが走り、オープンゲットする。直後、ネフィリムのビームが先ほどまでゲッターのいた場所を貫いた。
『おい! リョウマ! 一人は素人なんだぞ! こんな状態でオープンゲットしたところで』
ベアー号が無茶苦茶な機動をしている。リョウマはベアー号をイーグル号で誘導してやった。
「ムサシ! やたらめったらボタンを触る必要はねぇ! アームレイカーに手だけ突っ込んでろ!」
『こ、こうか?』
ルナリアンは機械に疎い。ムサシの太い腕がアームレイカーを破壊してしまわないだろうかという懸念はあったがリョウマはそれだけを命じて合体軌道に移った。
「行くぜ、チェンジ! ゲッター1!」
レバーを引き、合体する。イーグル号が両翼を畳み、ジャガー号が接合する。ベアー号が遅れて合体し両足を展開させた。両腕が引き出され、最後に亀甲型の顔面が展開される。一対の角が突き出し顎の冷却口からゲッター線の余剰エネルギーと蒸気が噴き出した。
ゲッター1が顕現し、緑色のエネルギーパーティションが今までにない光を帯びる。力の滾りにゲッターそのものが震えているかのようだ。
『ゲッター線貯蔵量が前回の比じゃない……。エネルギー量八十パーセント? こんなの、シミュレーションでもなかったぞ』
「そうさ! こいつが」
リョウマの叫びを邪魔するようにネフィリムがビームを一射する。しかしゲッター1はウイングをトマホークに変えてビームを切り裂いていた。
「ゲッター! ゲッターロボだ!」