偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第三話「月世界の咆哮 9」

 ゲッターエナジートマホークがゲッター線を収束させ、刃を出現させる。

 

 三人を乗せたゲッター1はそれこそ神速を超えるやも知れぬ速度で突っ切った。蛇のネフィリムへとトマホークの一撃が食い込む。取った! とリョウマは確信したが蛇のネフィリムの身体の一部が赤く発光した。

 

『いかん!』

 

 ゲッター1が弾かれたように機動する。先ほどまでゲッターのいた場所へと面の一撃が返って来た。箱の一面がそのまま攻撃範囲になっており月面基地が圧搾される。

 

「今のは……」

 

『気をつけろ、リョウマ! こいつは攻撃を反射する』

 

 生半可な攻撃は通用しないというわけか。リョウマは、「ならよ!」とトマホークを仕舞い、エネルギーを充填させる。エネルギーパーティションが胸部へと集中し、緑色のゲッター線が瞬時にピンク色へと移り変わった。

 

「ゲッター、ビーム!」

 

 ゲッタービームの光条がネフィリムを突き破ろうとする。今度こそ破壊した感触があったがネフィリムはゲッタービームを吸収した。

 

「何?」 

 

 即座にゲッター1を跳躍させる。何故ならば瞬間的に相当量のエネルギーが反射され月面を焼け野原にしたからだ。

 

「こいつぁ、まずいぜ……」

 

『迂闊に攻撃は出来ん! ルナリアンとはいえ、一方的に蹂躙する事となる』

 

「だったらどうしろって言うんだ? トマホークも効かねぇ、ゲッタービームも! 打つ手なしかよ……」

 

 アームレイカーの拳を握り締める。今のゲッターの武装では反射攻撃に有効な手段は打てない。せめてミチルのバックアップがあれば、と感じた脳裏に突き刺さったのはムサシの声だった。

 

『なぁ、このゲッター。二形態にしかなれないのか?』

 

『何を呑気な事を』

 

 ムサシの落ち着き払った声にハヤトが苛立ちをぶつける。リョウマはそこで閃いた。

 

「ゲッターは……、もう一形態ある……」

 

 リョウマの考えを読み取ったのかハヤトが、『無茶だ!』と叫ぶ。

 

『ゲッター3は今までオペレーションのした事のない機体。それをどことも知れぬ馬の骨に』

 

『馬の骨で悪かったな!』

 

 二人の言い合いを他所にリョウマは可能性を見ていた。もしかしたら――。そう感じた時にはムサシに尋ねていた。

 

「ルナリアンは機械には疎いんだな?」

 

『あ、ああ。機械ってもんはてんで』

 

「なら、アームレイカーをてめぇがそうするように動かせ。そして声を上げて叫べ。そうすりゃゲッターの声紋認証システムが勝手に適切な動きを選択してくれる」

 

『おい! マジにやるっていうのか!』

 

 ハヤトの悲鳴めいた声に、「うるせぇぞ、ハヤト」と返す。

 

「てめぇだって勝手にゲッター2を動かしてたろうが。ルナリアンのパイロット。面白くねぇか?」

 

『よく分からんが、俺が率先して動かせばいいんだな?』

 

「ああ! その判断で結構だぜ! オープンゲット!」

 

 三機に分離しハヤトが舌打ちを漏らす。

 

『どうなっても知らんぞ』

 

「死なばもろともよ! チェンジ! ゲッター3!」

 

 イーグル号とジャガー号が連結し、キャタピラの下半身を形成する。イーグル号はバックパックへと変形を遂げ、ウイングは二門の砲台となった。その状態の二機へと上空よりベアー号が突っ込んでくる。雄叫びを上げつつムサシの乗るベアー号が二機に合体し月面へと叩きつけられた。

 

 粉塵が舞い散りゲッターを隠す。ネフィリムがゲッターを狙ってビームを放った。だがその攻撃は伸ばされた丸太のような太い腕で弾かれる。ビームそのものを掴んで弾き落としたその姿が粉塵を裂いて出現した。

 

 今までのようなスマートな体躯のゲッターではない。

 

 キャタピラを装備し、動きは他の二機に遠く及ばない印象を受ける。まるで丸まった僧侶だ。両腕にはスリットが入っており、他の二機よりも長く太い。シルエットは寸胴であったが全ての力を物理攻撃に蓄えているのが全身にある冷却装置から噴出する蒸気が物語っていた。

 

『これが、ゲッター3……』

 

 ハヤトの声にリョウマは尋ねる。

 

「行けるか? ムサシ」

 

『こいつを、俺の動き通りにやればいいんだな?』

 

「ああ、てめぇの六分の一G殺法、叩き込んでやれ」

 

 応、とムサシが答え、ゲッター3が砂礫を踏み潰してネフィリムを見据える。饅頭のような頭部は攻撃的とは言い難い。ネフィリムは眼窩を煌かせビームを放出する。ゲッター3は当然のように回避出来なかった。

 

 しかし回避出来ない、のではない。正確に言えば、回避という必要性がなかった。ゲッター3はその有り余る膂力を活かし、ビームを素手で弾き落としたのだ。搭乗しているリョウマでさえも驚愕する。ゲッター3は砂煙を巻き上げてネフィリムの直下に至った。

 

『六分の一G殺法、三の陣……。旋風、針鼠!』

 

 その言葉に呼応し、ゲッター3の機体から飛び出したのは幾百のミサイル弾頭だった。それらが幾何学の軌道を描きネフィリムへと突き刺さる。ネフィリムは全身を攻撃されたものだからどこから反射すればいいのか分からないのかあらぬ方向に反射攻撃を放った。

 

「見えていない?」

 

 その仮説にムサシが、『だったら!』とゲッター3の攻撃を叩き込む。今度は腕を大きく引き込み相手へと突きのポーズを取った。瞬間、ゲッター3の腕が伸長しネフィリムへと拳を見舞う。

 

「六分の一G殺法、六の陣……。月面割り!」

 

 ネフィリムが大きく身体を仰け反らせた。ゲッター3の攻撃力はリョウマ達の想定を大きく超えていた。よろめいたネフィリムへとゲッター3はとどめの一撃を放とうとする。両腕が伸びて網のようにネフィリムを包み込む。ネフィリムは反射攻撃を仕掛けようとするが全身を押し包む圧力に亀裂が走った。

 

「六分の一G殺法、一の陣……。奥義!」

 

 網のようにネフィリムを捕らえていた腕の力が放出されネフィリムが晒されたのはゲッター3の巻き起こす暴風の圏内であった。ネフィリムの身体に幾重もの亀裂が走る。ゲッター3は腕の圧力を解放し、その膂力を投げ飛ばしに全て割いているのだ。

 

「大・雪・山、おろし!」

 

 ネフィリムが物理攻撃の嵐で内部より罅割れる。月面の衛星軌道でネフィリムが甲高い断末魔を上げた。瞬間、放散爆発が発し月面を赤い光が染め上げる。伸縮した腕が元の長さに戻っていく。

 

『これが、三人揃ったゲッターの、力の本懐……』

 

 ハヤトの呟きにリョウマも放心状態だった。まさかここまでとは。技を放ったムサシでさえも狼狽している。

 

『こんな威力だとは……。すごい代物だな』

 

 ゲッター3が放散爆発の痕を眺めている。リョウマは確信する。

 

「勝てるぜ。これならば、ゲッターはネフィリムとレプリカント野郎にな」

 

『やれやれ。いい手土産が出来たというわけか。……あるいはこれも博士の思惑通りか……』

 

 ハヤトの呟きを聞き返す前にムサシが声にする。

 

『おお、青い惑星だ!』

 

 感嘆した声音にリョウマは微笑んだ。

 

「ああ、帰るとするか」

 

『そうはいきません』

 

 遮ったのは月面のAIの声だ。冷徹な声と共に僧兵達がゲッターを取り囲む。どうやら月面から逃がすつもりはないようだ。リョウマは困惑する。

 

「どうするんだよ。こいつら蹴散らして帰るか?」

 

『いいや。あくまで話し合いと行こう。お前ら、これが見えているか?』

 

 ハヤトの声にゲッターの装甲版の隙間から出てきたのは一人のルナリアンである。小さなアームがその男を掴んだ。

 

『よくもまぁ、ゲッターの無茶苦茶な変形合体にも耐えられるもんだ。ボスの命と引き換えにオレ達を見逃す、ってのはどうだい?』

 

 どうやらハヤトは脱出も視野に入れて戦っていたらしい。恐れ入る、とリョウマは感じた。ルナは、『……卑怯な真似を』と返す。

 

『ルナリアン云々に関するスキャンダルは公にしない。あんたらは今まで通り月で平和に過ごせ。オレ達は帰る。それで手を打たないか?』

 

「悪党だぜ」

 

 リョウマの声にハヤトは返す。

 

『いつから正義の味方になったんだ?』

 

 違いない、とリョウマはコックピットでふんぞり返った。

 

「で? どうするよ、月面人さんら」

 

 ルナは判断を渋っている。ネフィリムの思わぬ出現があったもののこれでゲッターの力は示せた。もう月には用済みだ。

 

『ルナリアンは、地上人などに屈しない――』

 

 その宣言が放たれた瞬間であった。衛星軌道上から光条が一射され月面基地を攻撃した。システムAIの中枢であったろう月面基地が次々と爆発の光に晒されていく。当然、ルナリアン達も無事では済むまい。リョウマは今の光の元を探そうとカメラを巡らせる。

 

「誰だ!」

 

『リョウマ! オープンゲットだ!』

 

 ハヤトの声が弾けた途端、三機が強制分離する。直後、先ほどまでゲッター3のいた地表をビームが射抜いた。リョウマはイーグル号に収まったままクレーターの出来た月面を見やる。

 

「何てぇ、威力だ……」

 

 まさかまたしてもネフィリムか。そう感じたリョウマの思考に水を差すように接近警報が鳴り響く。

 

 イーグル号を慌てて機動させリョウマはそれを避けた。その視界に映ったのは長大な槍であった。中心部分が角ばって膨れ上がっているが槍の一撃は月面に突き刺さったかと思うと拡散した光線が基地を薙ぎ払っていく。当然展開していたルナリアンは全滅だった。リョウマはその様子をイーグル号から眺め眼を戦慄かせる。

 

「何を……、何をやってんだ……」

 

『虐殺、それも一方的な……』

 

 ハヤトがリョウマの思考を代弁する。リョウマは奥歯を噛み締めた。いくらルナリアンから仕掛けてきたとはいえ、このような事を望んではいなかった。

 

「……ハヤト、ムサシ。ゲッター1にチェンジだ」

 

『だが、敵の正体も分からずに――』

 

「チェンジしろ!」

 

 遮ってリョウマは言い放つ。その声には怒気が含まれていた。

 

「まともな神経じゃねぇぜ……。こんな野郎を、許して堪るか!」

 

 合体軌道に入る。イーグル号が両翼を畳み、ジャガー号が腕を展開し、脚部がベアー号によって形成される。

 

「チェンジ! ゲッター1!」

 

 ゲッター1にチェンジした瞬間、大出力のビームが発射された。即座に回避させるも月面に多大な被害が出る。通信網を震わせたのはルナの断末魔であった。

 

『こんな……。ルナリアンは滅びないはずなのに……』

 

『こいつはひでぇ……』

 

 ムサシの声音には自分の故郷が焼かれている感情もあったのだろう。リョウマはビームの発射源へとゲッター1を走らせた。ゲッター1の拳が突き出される。先制攻撃だと判じていたリョウマだが上回ったのは相手の反応速度だった。こちらと相対する鏡のように拳が放たれる。ゲッター1のアイカメラにその姿が大写しになった。三人とも息を呑む。

 

『こいつは……』

 

『黒い……鬼……』

 

 そう言うほかない。相手の姿は一対の角を持った漆黒の鬼であった。黄色い眼窩が射る光を灯し力でゲッター1を圧倒する。ゲッター1は翼で制動をかけて月面に着地した。

 

 既に炎がそこらかしこで上がっている月面が相手の姿を照らし出す。常闇に染まるようにして鬼が腕を組んで空中に佇んでいた。

 

 目を凝らせば鬼の体表には無数の赤い鉱石があり、粒子を棚引かせている。発光する赤い石は鎧めいていた。

 

「漆黒の、ゲッター……だと」

 

 ゲッター1がその姿を再認識する。リョウマは記憶の奥底にある黒い鬼の姿がそれと同期するのを感じ取った。似ている、いやそれそのものか。漆黒のゲッターは炎を噴き出す月面とそれに抱かれているゲッター1を睥睨している。

 

 爆発の連鎖が戦いのゴングを鳴らしていた。

 

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