偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第四話「鎧悪鬼 3」

 

「トモエ・ムサシ。推定一〇四歳。体重一二〇キロ、身長二メートル五十センチ。コックピットに収まったのが奇跡的なほどの巨漢だな」

 

 サオトメの評にムサシは戸惑っていた。リョウマもハヤトも去り、自分だけが取り残されている。サオトメは、と言えば先ほどから送られてくるデータを目にしつつ、「面白い」としきりに口にする。

 

「あの、何が面白いんで?」

 

「ルナリアンが地球にすぐに適応出来た事だ。我々地上人は、ルナリアンの技術がここまで進歩しているとは思わなかった」

 

 サオトメは素直に感心しているのだろうか。ムサシには分からぬ事だらけだ。

 

「ルナリアンの技術は月面でのみ育った技術ですから、その、俺のようなのも特殊ですし」

 

「そのようだ。お前はゲッターに一度乗り込んだだけでそれを直感的に把握した。ある意味で天才的でもある」

 

「いいえ、リョウマがアームレイカーに手を突っ込んでいつものようにやれと教えてくれたので……」

 

「謙虚でもある。いい事だ」

 

 サオトメの言葉には戸惑いっ放しである。ムサシはその巨漢が信じられないほどに縮こまり上がっていた。

 

「その……、ゲッターは、あれは何です? 俺の六分の一G殺法を、まるで当たり前のように受け容れた」

 

 それがまず信じ難い。ルナリアンと機械の相性は最悪だ。ルナリアンが唯一生み出した叡智が月面観察のAI「ルナ」であったがこの研究所の技術力に比すればルナなど児戯に等しい。同じAIであろうミチルの何と人間らしい事か。

 

「それもそのはずだ。ゲッターはあらゆるパイロットを想定してある。当然、ルナリアンの事も調べさせてもらっていた」

 

 サオトメの言葉にムサシはルナリアンでさえもパイロット候補であった事に戦慄した。

 

「どうして。だって、月とこの惑星は交信を絶っていた」

 

「外面的に見れば、な。しかし一方的な観察は可能だったという事だ」

 

 恐れ入る、とムサシは感じる。こちらがレンダリングビームで解析していたと思い込んでいたが逆であった。相手側もこちらの技術を可能な限り使っていたのだ。ルナリアンの身体データが組み込まれたゲッターは、では改めて何なのか。問わずにいられない。

 

「し、しかし機械に疎い俺でも動かせたあのゲッターというのは」

 

「今はまだ、知らないほうがいいかもしれんな」

 

 暗にこれ以上の詮索は命を縮めると言われているようなものだ。ムサシは質問する権利がこの場では奪われている事を思い知る。

 

「で、どうかね? トモエ・ムサシ君。君は、第三者としてゲッターに関わらない道もある。パイロットの適性も正直に言うと他の二人ほど高くはない。ゲッターに乗らない選択肢はあるが……」

 

「乗らない選択肢? 冗談でしょう?」

 

 ムサシは殺気を剥き出しにする。乗らない、乗らせないなどあり得なかった。

 

「俺はゲッターに乗ります。岩にかじりついてでも」

 

「そこまで君を駆り立てる、動機を知りたいな」

 

 ムサシは拳をぎゅっと握り締めた。

 

「俺は、地上に憧れた、咎人です。だから月で幽閉されるのは仕方がないと思っていた。罪を受け容れていたんです。ですがリョウマと出会ってその考えが少しばかり変わった。自分なんかでも戦っていいんだと思えた。でもそれが大きな理由じゃない、一番大きいのは、そうです、俺は同朋であるルナリアンを虐殺した、あのヨロイのゲッターをぶち殺したい」

 

 それだけだった。ヨロイのゲッターへの復讐。それさえ成せればいい。ムサシの返答が意外であったのかサオトメは片方の眉を上げた。

 

「意外だな、君は幽閉されていたと聞くし、その理由がとても理不尽であったともリョウマが言っていた。そうであったのに、同朋意識が?」

 

 その質問は妥当だろう。自分は虐げられていたのだ。だがそれがイコール恨みではない。

 

「俺は、ルナリアンの秩序を愛していましたし、月が地上と同じくらいに美しいのだと信じていました。だからこそ、その月を灼熱地獄にした、あのヨロイのゲッターだけは、俺が……!」

 

 怒りで思考が白熱化する。サオトメは自分の眼光を真正面から受けているはずなのだが、その口元は愉悦に緩んでいた。

 

「では君は、ゲッターに乗る、と?」

 

「いけませんか?」

 

「いいや。適任者は少ない。それにワシとて適合する人間を探すのには骨が折れていたところだ。渡りに船、というべきかな」

 

「……正直、リョウマのようにネフィリムを憎んでいるわけでもなければ、ハヤトのようにゲッターに興味があるわけでもありません」

 

「それでいいのだ。いいや、違うな。それがいいのだ」

 

 サオトメの納得は分からないが立ち上がったかと思うと手を差し出してきた。

 

「トモエ・ムサシ君。いいや、ムサシ。ようこそ、地獄へ」

 

 地獄の番人の声音だった。差し出された手をムサシは握り返す。サオトメは笑みを浮かべる。

 

「コックピットの拡張工事も依頼しておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『博士。どうしてなんです?』

 

 尋ねてきた声にサオトメは廊下を歩きながら返す。

 

「何がだ?」

 

『トモエ・ムサシの適合率。明かしていませんが、彼の適合率は二割を切っています。これではもしもの時に合体に支障を来たす場合が』

 

 ムサシはゲッターに向いていない。だが向いていない事がイコールパイロットに相応しくないわけではない。

 

「ミチル。ワシは以前、言っていたな。リョウマが本能ならば、ハヤトは理性なのだと」

 

『仰っていましたね』

 

「では理性と本能の揃ったゲッターに必要な最後のパーツは、何だと思う?」

 

 その問いにミチルは悩みつつも答えを弾き出した。

 

『バランス、でしょうか?』

 

「その通り。リョウマが本能、ハヤトが理性、これは間違いようのない事実。だが、剥き出しのその二つだけでは相反する存在よ。ゲッターを安定させるにはもう一つの要素が必要になってくる。それこそがバランス。言い換えれば天秤だ」

 

『天秤、ですか……』

 

「ムサシは天秤になり得る。何故ならば、彼は地上人ではない。レプリカントと人類の諍いなどまるで関係がないからだ。ネフィリムの被害を受けていない月面ならばネフィリムの事も知るまい。だというのにどうして対ネフィリム決戦兵器であるゲッターロボに必要だと判じたか? それは奴が究極的に他人であるからだ。他人であるからこそゲッターを操る二人のブレーキ役になる。これで、ワシの目的とするゲッターはほぼ八割方完成を見たと言ってもいい」

 

 覚えず笑みがこぼれる。ゲッターは完成するであろう。問題なのはゲッターの未だ見せていない可能性と、その先の未来。ゲッターの最終目的を、リョウマはもちろんの事、ハヤトですらも知るまい。

 

『……博士。ですが今の状況では懸念事項が二つ』

 

「言ってみろ」

 

『ヨロイのゲッターです。あれは、どうなさいます? 全くのイレギュラーですが……』

 

 サオトメは顎をさすった。ヨロイのゲッター。黒いゲッターロボ。どう考えもこの状況に混迷をもたらすだけだ。しかしある一面では役に立っている。

 

「ムサシの行動原理になっている。泳がせておけ。どうせ研究所を襲われればそれまでなのだ。出力値やゲッター線量は測れているか?」

 

『出力は、単純に機体が読み取っただけならばゲッター1の数倍、いいえ、本来の出力を隠しているとすれば数十倍でしょうか』

 

 信じ難いが、事実として存在する以上、認めるほかない。

 

「ワシの造ったゲッター以外に、あれほどの完成度を誇るゲッターがいるとは」

 

『博士。本当に、ヨロイのゲッターとは無関係なので?』

 

 人工知能ですら自分を疑うか。サオトメは立ち止まり、「お前がよく知っているだろう」と返す。

 

「完成したゲッターロボはあの一機のみ。あれ以外は、皆廃棄した」

 

『しかし、もしもの可能性ですが、廃棄したゲッターを誰かが再利用したのならば、それはあり得るのでは?』

 

「懸念事項、その二に繋がるわけか」

 

 察したサオトメの声にミチルは返す。

 

『……ご存知でしたか』

 

「あれを解き放てばある程度までの真実には辿り着く。それは目に見えていたがもう、そこまで行っている、というわけか。月面から帰ってくるなり、仕事熱心な事だ」

 

 皮肉気味に口にするとミチルは慎重に声を発する。

 

『……笑い事ではありませんよ。対象――ジン・ハヤトは確実に真実に辿り着こうとしています。その時、もしリョウマさんやムサシさんまで敵になれば、滅びるのは博士のほうですよ』

 

「滅びるのは、か。ネフィリム打倒よりも先に己の心配をせねばならんとは」

 

 サオトメは研究所の壁に埋め込まれているパネルを操作した。するとエレベーターが出現し階層表示を点滅させる。

 

「ミチル。今、ハヤトがいるところまで移動出来るな」

 

『出来ますが、鉢合わせですよ? もし、ジン・ハヤトが敵意を持っていれば』

 

「その心配はない。奴は理性。狂犬だが存外に噛みついていい相手を心得ているものよ」

 

 サオトメの声にエレベーターが閉じて動き出す。ミチルが、『どうなっても知りませんよ』と呟いた。

 

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