偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第四話「鎧悪鬼 5」

 

 改八式は珍しいようでタツマはその内部構造を何度か目にしては子供のように目を輝かせていた。リョウマは木陰で呼びかける。

 

「次期隊長機だ。すぐにベータ部隊でも使われるようになる」

 

「そうなのか……。リョウマ、どうしてこの機体を? お前は一体、何をやっているんだ?」

 

 言えない事が多かった。ゲッターの事も、サオトメの事も。自分があの日、託された命も。

 

「……すまねぇ。おれには言えない」

 

「いや、いいんだ。お前が生きていてくれただけでも。正直、前みたいにベータ部隊は活気がなくなってな。霧型ネフィリムの出現例もほとんどなくなった。ネフィリムは冬眠気に入ったのでは、という見方もあるくらいだ」

 

 それはおかしい、とリョウマは立ち上がっていた。ネフィリムは以前にも増してハイペースで出現しているというのに。

 

「揉み消されている……? だが何で……」

 

 この国直属のベータ部隊にさえも明かせないネフィリムの進化。オベリスク型、イシュタル型の脅威。それは今すぐにでもベータ部隊に公表して応援を乞うべきではないのか。それとも、サオトメが意図的に排しているのか。

 

 ――何のために?

 

 ネフィリムにやられれば全てが潰える。だというのに国の機関ですらネフィリムの出現を知らない。リョウマはある推論に行き着いた。

 

「あのジジィ、まさか全てのネフィリムをゲッターで」

 

 その言葉にタツマが首を傾げる。

 

「ゲッター? 何だ、それは」

 

 思わず口走ってしまった名前にリョウマは口元を押さえるがタツマは歩み寄ってきた。

 

「それが、お前が今の所属を明かせない理由か?」

 

 沈黙を是とするほかない。タツマは胸倉を掴んできた。親友の拳の一つくらい、もらっても仕方がないと感じている。自分は彼を騙し、欺いたのだから。だがタツマは殴りかかろうともしなかった。固めた拳を振るう先が分からない様子だ。

 

「……分かっているさ。お前を殴ったところで、お前がベータ部隊に帰ってきてくれるわけじゃないって事くらい」

 

「……すまねぇ」

 

「謝るなよ。お前は、今のほうがベータで燻っていた頃よりも生きている感じがする。どこか詳しい事は聞けないだろうが、今を輝いている」

 

 そうなのだろうか。リョウマは自問する。ゲッターに乗り始めてから確かに必死だ。死が常に傍らにある。いつ命を落としてもおかしくはないが、それは命の輝きに繋がっているのだろうか。黙りこくっているとタツマが尋ねた。

 

「きっと、僕は燻っているのさ。お前とは違う。どこで、だろうな。空中変形が駄目だとか言っている辺り、まだまだなのかもな」

 

「それは違う。お前も、生きている。生きているんだ」

 

 自分は地獄へと落とされた身。ゲッターと共に無間地獄を生き抜くしか今は方法がない。

 

「お前にしては殊勝な言葉だ」

 

 タツマは手を差し出す。その意味をはかりかねてリョウマは困惑した。

 

「場所は違えど、お前も、多分人類のためを思って戦っているのだと思う。詮索はしないし誰にも言わない。ただ敬意を表させてくれ。ナガレ・リョウマという人間に」

 

 それほど立派なものではない。隠し通さなければならない自分達は所詮穴倉の人間だ。

 

「おれは……」

 

 その言葉を遮るように腕時計型端末から声が響き渡る。

 

『リョウマさん! ネフィリムが出現しました!』

 

「何だって」

 

 リョウマは即座にミチルに問いかける。

 

「どこに?」

 

『研究所です。またしても研究所狙いで』

 

 舌打ち混じりにリョウマは駆け出す。その背中に声がかかった。

 

「リョウマ! ネフィリムって、僕のほうには全く……」

 

 この状況そのものが不自然だろう。だがリョウマは旧友の疑問に答えを返さなかった。

 

「タツマ。お前は地獄じゃない場所で生きろ。おれは、もう地獄行きだ。片道切符なんだよ。だから、おれは、ナガレ・リョウマはもう、死んだと思ってくれ」

 

 踵を返してベータに乗り込む。不安げな眼差しを送ってくる旧友を振り切るようにベータの推進剤が焚かれ、リョウマは飛び出していた。

 

『リョウマさん……。あの人、確かベータ部隊の……』

 

「何も言うな」

 

 何も言わないでくれ。もう、振り切ると決めたのだから。ミチルはその沈黙を悟ったのかそれ以上詮索しなかった。

 

「ミチル、ネフィリムのタイプは?」

 

『オベリスク型です。でもどうして研究所ばかり……』

 

 それはリョウマからしてみても疑問だ。何故、プラネットシェルの他の地域を狙わないのか。今までは上空に出現する事の多かったネフィリムが形状を伴って研究所を狙う理由とは。

 

「どちらにせよ、おれは戦うしかねぇ。研究所と繋げるか?」

 

『もう繋いでいます』

 

 ミチルの声に次いで弾けたのはメカニックの声だった。

 

『リョウマさん! まだゲッターは万全とは言い難いですよ! ゲッター1での戦いは少し無茶です!』

 

「無茶でも道理を蹴っ飛ばすしかねぇだろ。発進準備は?」

 

『待っていたらネフィリムに狙い撃ちされるって、サオトメ博士はスクランブル要請をしています。ですが、こちらはリョウマさんがいないと、と踏ん張っているところですが』

 

 敵は待ってくれないだろう。リョウマは決断した。

 

「イーグル号を自動操縦で出してくれ。ミチル、ランデブーポイントを計算。ベータの推進剤ギリギリまで速度を上げて何分で着く?」

 

『それでも三十分はかかります。安全装置が作動すればもっとかも』

 

「遅いな。十分で着く」

 

 リョウマはベータのエンジンを絞る。稼動域を超えたエンジンが過負荷を訴えアラートが鳴り響いた。

 

『空中分解しますよ! リョウマさん!』

 

「それでいいんだよ」

 

 言い放ったリョウマの声にメカニックもミチルも理解出来ないようだった。唇を舐めて一気に大写しになったネフィリムの背中を見据える。

 

「来い、来い、来やがれ」

 

 オベリスク型ネフィリムがリョウマのベータに気付いて腕を振るう。思い切ってリョウマは舵を切った。寸前のところで発振させられたビームがベータの反重力装置を掠める。「飛行継続不可能」の赤い警告をリョウマは無視して樹海の上を突っ切った。

 

『リョウマさん! イーグル号が出ています!』

 

 ミチルの声にリョウマはイーグル号を仰いだ。赤い機影がジャガー号、ベアー号と共に空を舞っている。

 

「ランデブーポイントを指示! イーグル号の自動操縦をおれのタイミングに合わせろ」

 

『本気ですか?』

 

 ミチルの悲鳴のような声にリョウマは言い放つ。

 

「……本気じゃなきゃ、いつこんな事言うんだよ」

 

 ランデブーまでの時間が新たにヘッドアップディスプレイに表示される。リョウマは緊急脱出装置のレバーを引いた。改八式のコックピットハッチが射出され、剥き出しになったコックピットを空気圧がなぶる。リョウマはコックピットが飛び出す前に空中へと自分の身体を投げ出した。

 

「頼むぜ、イーグル号」

 

 そのような声音ですらすぐに掻き消えていく。計算が正しければ訪れるはずだ。リョウマは落ち着いた心でそれを待った。墜落する、と思われた瞬間、目の前を横切ろうとしたのは赤い機体だ。コックピットハッチが開放されリョウマはそこへと収まった。

 

 コンマ一秒でもずれればリョウマの肉体は磨り潰されていただろう。リョウマはコックピットに収まるや否やアームレイカーに手を突っ込んで制御を手動にする。

 

「待たせたな」

 

 リョウマの声にハヤトが応じる。

 

『どこで道草食っていたんだ?』

 

「ちょっと現世に戻っていたんだよ。ムサシ! もう操縦は慣れたか?」

 

『ま、まだきついな。重力って奴は。だが、ある程度は安定させられる』

 

 ベアー号が風に煽られる木の葉のように挙動が怪しい。ハヤトが息をつく。

 

『月の人間など、これだから連れてくるべきではなかった』

 

『何だと!』

 

 食ってかかったムサシの声を聞き、リョウマは口角を吊り上げる。

 

「食いかかるだけの余裕がありゃ上等! 行くぜ! チェンジ!」

 

 合体軌道に入る。イーグル号がまず前に出て両翼を仕舞い込んだ。畳まれた両翼はそのままジャガー号へと接続され、ウイングを形成する。ジャガー号との接合に問題はない。後はムサシだ。ベアー号が少し遅れてジャガー号に合体しようとする。リョウマは言ってやった。

 

「気にする事ねぇぜ、ムサシ。むしろ、ケツの穴を掘ってやるつもりで突っ込んでやれ!」

 

 ベアー号がジャガー号へと合体し、マイクロマシンで装甲が展開される。赤い腕とベアー号から両足が引き出され、最後にイーグル号の機首が二つに割れて一対の角を出現させた。亀甲型の頭部に火が灯り、黄色い眼窩がネフィリムを睨む。緑色のエネルギーパーティションから光が生じ、顎の冷却装置から余剰ゲッター線と蒸気が棚引く。ゲッター1の姿が顕現した。

 

「ゲッター1!」

 

 ゲッター1が両腕を振り翳す。しかし挙動が少し鈍かった。

 

『不完全なんですよ、修復が』

 

 メカニックの声にリョウマは唇を舐める。

 

「どこまでやれるか、確かめるまでよ!」

 

 ウイングを拡張させたゲッター1がネフィリムへと突っ込む。ネフィリムは狗のような頭部の眼窩を煌かせてビームを放射した。ゲッター1は回避しようとするがやはりリョウマの想定速度よりも遅い。ビームが赤い装甲を叩いてゲッターの速度に迷いが生ずる。

 

「チクショウ……、ゲッター1じゃきついか」

 

 その時ネフィリムの頭部が変形した。狗の形状であった頭部の口腔部が開いたかと思うとこれまでとは比べ物にならない赤いビームの光条が襲いかかる。リョウマは反応が遅れた。ゲッター1も動きが鈍い。赤い光が視界を埋め尽くした。

 

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