偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第四話「鎧悪鬼 7」

 

 コックピットに収まるリョウマは早々にゲッター1単騎での戦闘継続は不可能だと判じていた。そのためゲッター2でのオペレーションに切り替えたのだ。それを誰かが言い出したわけでもない。成り行きのままにゲッター2へとチェンジした。それこそが最善だと言うように。

 

「ハヤト。無茶してブルってんじゃねぇのか?」

 

 軽口を叩くとハヤトは言い返した。

 

『そっちこそ。ゲッター1では心許ない』

 

『お前ら、どっちの味方なんだ?』

 

 戸惑うムサシの声ですら今は生きている証明だ。リョウマは喉の奥から声を発する。

 

「行くぜ! ハヤト! ムサシ!」

 

『ああ!』

 

『お、応!』

 

 二人の声にリョウマはネフィリムを見やる。ネフィリムはドリルの攻撃によって複合装甲を剥がされているがまだ不完全だ。圧倒的な一撃が欲しい。リョウマはハヤトへと命じる。

 

「ハヤト! 上に躍り上がる事は出来るか?」

 

『誰にものを言っている』

 

 ゲッター2がネフィリムのビームを回避してドリルを突き出す。上空から覆い被さるように差し出された掌はまるで釈迦の手だ。その手をドリルが突き破り、ゲッターは不遜の輩のように巨人の上を取った。

 

「オープンゲット! 頼むぜ、ムサシ!」

 

『チェンジ、ゲッター3!』

 

 ベアー号が機首を突き上げジャガー号、イーグル号の順番に接合していく。イーグル号が折れ曲がって背面スラスターへと変化しジャガー号は胴体部を形作った。空中で合体変形したゲッター3がそのまま速度を借りて両腕を引き伸ばす。網のように張られた両腕が瞬く間にネフィリムの頭部を絡め取った。落下の勢いを力にしてゲッター3の両腕が暴風を巻き起こす。

 

「六分の一G殺法、一の陣、奥義……。大雪山、おろし!」

 

 月面で披露したのと同じ奥義をゲッター3が編み出す。ゲッター3のパワーは他の二機よりも遥かに上だ。たちまちネフィリムは頭部を引っぺがされてよろめく。大質量が樹海を踏み潰す。

 

 ゲッター3が推進剤を焚きつつ軟着陸し全身からミサイル弾頭を出現させた。

 

「六分の一G殺法、三の陣、旋風、針鼠!」

 

 一挙に弾き出されたミサイル群がネフィリムの身体へと突き刺さる。最早ほとんどの装甲が剥がれ落ちており胸部のコアが視界に入った。

 

「よし! これで奴は丸裸も同然だ! 最後はおれがやるぜ!」

 

 分離した三機へとほとんど滅茶苦茶な軌道を描いてビームが放たれる。ネフィリムはもう目が見えていないのかデタラメに攻撃を放っていた。

 

「こりゃサオトメ研究所も危ねぇな。さっさとケリをつける! チェンジ、ゲッター1!」

 

 即座にゲッター1へと合体変形を果たした三機がゲッター線を胸部に溜め込む。緑色からさらに高出力のピンク色に変異したゲッター線が一挙に放たれた。

 

「ゲッター、ビーム!」

 

 一条の光線がネフィリムの胴体部を貫く。コアさえも破砕してネフィリムが収縮すると、放散爆発が巻き起こった。

 

 緑色の檻が爆発の規模を最小限に留める。リョウマはゲッターからそれを眺めていた。

 

「ざまぁ、みやがれ」

 

『これが、ゲッターロボの』

 

『真の力、って奴か』

 

 二人とも放心しているようである。しかしこれだけの能力があれば百人力であった。

 

「勝てる。確信があるぜ。ネフィリム野郎に、おれ達は」

 

 勝てる、ともう一度呟こうとしたその時である。接近警報が鳴り響き、リョウマは咄嗟にゲッター1を後退させた。

 

 先ほどまでゲッター1がいた空間を射抜いたのは一本の斧である。遥か上空から打ち下ろされたのであろう斧は波状の赤い光線を放ち樹海を次々と焼いていく。ゲッター1のアイカメラが上空を仰ぐ。その視界の先には両腕を組んだ黒い機体の姿があった。赤い鉱石が身体中に纏わりつき、光を棚引かせている。

 

「ヨロイのゲッター……」

 

 リョウマは因縁の名を紡ぐ。煮え湯を飲まされた忌々しい敵。ヨロイのゲッターは片手を開く。すると樹海に突き刺さったトマホークがヨロイのゲッターの手へと吸い込まれていった。

 

『何てこった……。手離してもすぐに呼び寄せられるとは』

 

 ハヤトの声に恐れが宿る。リョウマとてつい先刻やられたばかりだ。指先が無意識に震えていた。

 

「おれが、恐れている?」

 

 もう片方の腕で震えを止めようとする。ヨロイのゲッターはトマホークの刃に赤い粒子を発振させる。その構えは戦闘のものであった。

 

「……上等」

 

『リョウマ。待て。先走るな』

 

 ハヤトの声にリョウマは言いつける。

 

「構うもんか。リターンマッチと行こうぜ」

 

『待てと言うんだ! 前回はシステムAIのサポートもなかったし、オレ達はほとんど孤軍奮闘の状態だった。だが今は違う。いいか? 出来るだけ奴のデータを取るんだ』

 

「サオトメのジジィみたいな言い草だな」

 

 反吐が出る、とリョウマは言い捨てる。それでもハヤトは譲らない。

 

『これは好機なんだ。オレ達は奴とやり合って勝てる算段はないが、負けない算段はある。今の状態のゲッター1ではどうせまともに打ち合えまい』

 

 事実だ。リョウマは苦渋に歯噛みする。ゲッター1の両腕は即席の状態で保たれているだけでトマホークを振るう事も出来ない。

 

「それでも! 負けっ放しは性に合わねぇ!」

 

『いいから聞け! 奴は恐らく何らかの行動に出るはずだ。その時を見間違うな。オレ達は、奴を出来るだけこの空間から逃さないようにすればいい』

 

「それってつまり、ミチルや研究所の連中が勝てる状況を作り出してくれるって言いたいのか?」

 

 ハヤトは息をつく。

 

『どうやらそれも分からぬほどに、頭に血が上っているわけじゃないらしいな』

 

 大気圏で戦った時よりは幾分か冷静なつもりであった。あの時はミチルのサポートもなかったが今ならばミチルが相手のデータを取れる。リョウマは呼吸を整えて次の一撃に備えた。

 

「来い、来い、来やがれ。てめぇが動くほどにおれ達に優位になる」

 

 しかしリョウマの意図とは正反対にヨロイのゲッターはこちらを睥睨したまま動こうとしない。こちらの出方を窺っているのか。あるいはミチルの解析を恐れて下手な行動には出ないのか。

 

 リョウマは待っているだけは性に合わなかった。

 

「……やっぱり、何もせずに構えているだけなんざ」

 

 ゲッター1が機動する。当然、ハヤトとムサシは困惑した。

 

『リョウマ! 動かないほうが有利だと分からないのか!』

 

「喧嘩ってのはな、動かないって言うのは間抜けか的だって言っているんだよ!」

 

 ゲッタービームを照射する。それに対して相手は黒い身体を回転させ竜巻じみたゲッター線の嵐を作り出して弾いた。

 

「それくらい! 前回の戦いで割れてんだよ!」

 

 ゲッター1はその隙に肉迫していた。拳を突き出しヨロイのゲッターへと叩き込もうとする。しかしそれを読んでいたかのように受け止められた。リョウマは目を見開く。ヨロイのゲッターの顔面がすぐ傍にあった。目を凝らせば造りはゲッター1に似ているようで随分と違う。冷却装置もなければエネルギーパーティションも亀甲型というよりもまるで歌舞伎俳優の化粧だ。赤いエネルギーの滾りが凄味を引き立たせている。

 

「こっちだって、負けてられっか!」

 

 エネルギーパーティションに火が灯りゲッター線が光を増幅していく。ハヤトがすぐさま気付いて声にした。

 

『リョウマ! 何をやっている?』

 

「相手のほうがエネルギーでも何でも上。だって言うんなら、飛び越えるまでよ!」

 

 増幅されていくゲッター線の閾値にムサシでさえもうろたえた。

 

『リョウマ! すごい勢いでゲッター線量が跳ね上がっていくが……、これは危ないんじゃないか?』

 

『ムサシの言うまでもない。これ以上は、ゲッター1そのものが持たんぞ!』

 

 二人の警句をまるで無視してリョウマはゲッターに命じる。

 

 ――血を滾らせろ。その命を燃やせ。

 

「今が、その時だ!」

 

 ゲッターのエネルギーパーティションが緑色の光を明滅させる。それと同期したようにヨロイのゲッターのエネルギーパーティションも明滅を始めた。そこで初めて相手がうろたえたのが分かる。リョウマはその隙を逃さない。

 

「隙ありィ!」

 

 ゲッター1の放った拳がヨロイのゲッターの顔面にめり込む。やった! と感じたリョウマの意識に水を差すようにヨロイのゲッターから無線が響いた。

 

『よもや、ここまでとは……』

 

 一気に身体の熱が奪われたような感覚だ。リョウマはその声の主に瞬時に恐れを抱いた。

 

 どうしてなのだか分からない。リョウマの中の何かが急激にしぼんでいく。指先の震えが止まらなかった。

 

「てめぇは……」

 

 そこから先の言葉を発する前にヨロイのゲッターが反撃のトマホークを薙ぎ払った。ゲッター1の胸部に鋭い傷口が刻まれ機械油が舞い散る。蹴りつけられたゲッター1が樹海へと墜落した。背骨を折るような一撃。鈍く響いた衝撃波に三人ともが呻く。

 

『……きついな』

 

『ああ、こりゃ目が回りそうだ』

 

 リョウマはその中で上空に佇むヨロイのゲッターを見据える。絶対者のように自分達を見下ろす視線。その中に僅かながら何者かの思惟を感じ取った。あのゲッターは中に誰かがいる。当たり前の事だがこの時、リョウマはようやく関知した。

 

「何者なんだ」

 

 リョウマの声に応じたのはトマホークの一撃であった。ゲッター1が瞬時に分離しその攻撃を回避する。完全にハヤト主導の分離変形であった。

 

『リョウマ! ぼさっとしている場合か!』

 

 怒りの声にリョウマはイーグル号のコックピットに収まったまま考えを巡らせる。どうして自分はここまで縮み上がっている? 何が自分をそうさせた?

 

『聞いているのか!』

 

 ハヤトの声にハッと我に帰る。リョウマはすぐさま返す刀でトマホークが振るわれたのを目にした。発振された赤い刃が拡張し上空のゲットマシン三機を煽る。三人はそれぞれ暴風域へと突っ込んだかのような衝撃を受けた。

 

「こいつは……」

 

『恐れ入ったぜ。奴さん、ゲッター線兵器ならば攻撃範囲を伸ばせるのか』

 

『感心している場合か! 空中分解するぞ!』

 

 このままではゲットマシン程度の耐久は持たない。すぐさま合体しなければならなかった。ハヤトが主導してゲッター2への合体軌道に入る。ジャガー号へとベアー号が接続し最後にイーグル号が脚部を形成すればいいのだがこの時、ヨロイのゲッターが狙ったのは誰よりも先にイーグル号であった。掻き消える速度でヨロイのゲッターが跳躍したかと思うとイーグル号の合体を阻止するように眼前に現れた。当然、リョウマはうろたえて叫ぶ他ない。この時、搭載されている武器を使おうという意識はまるでなかった。

 

「衝突する!」

 

 ヨロイのゲッターが腕を突き出す。その時、横合いからビーム攻撃が見舞われた。ヨロイのゲッターが後退する。視線を投じるとベータ改八式部隊が攻撃を仕掛けていた。それだけではない。サオトメ研究所の砲台がヨロイのゲッターへと間断のない攻撃を仕掛けている。

 

『リョウマ! ハヤト、ムサシ! 全員、生きているか?』

 

 サオトメの声にリョウマはようやく返事が出来た。

 

「お、おお……」

 

 生きている、と返せたのは二人だけでリョウマはなかなか生存報告が出来ない。やきもきしたのかサオトメが声を張り上げる。

 

『リョウマ!』

 

「……分かってんよ。生きてる、今のところは」

 

 首も繋がっている。首筋をさすりながらそう感じた。

 

『博士! このままではゲッターは不利だ』

 

 ハヤトの悲鳴にサオトメは落ち着いて応ずる。

 

『今はもういい。充分にデータは取れた。解析に回そう。全機、帰還せよ』

 

『聞いていたな、リョウマ。帰還軌道に入るぞ』

 

「だが、奴さんは……」

 

 視線を振り向けると一瞬だけその黄色い眼窩がこちらを睨んだような気がしたが、迅速であった。ヨロイのゲッターはすぐさま上空へと帰っていく。

 

『何だったんだ……』

 

 ムサシがようやくと言った様子で息をつく。リョウマも今さらに生きている感慨にふけった。

 

「一歩間違えれば、食われていたのはおれ達だ……」

 

 その言葉を発すると震えが止まらない。あのゲッターは何なのだ。リョウマの正体不明の恐れを知ってか知らずかハヤトが声にする。

 

『どちらにせよ、幸運にも生き永らえたのはオレ達のほうだな』

 

 正面を切った戦いならば負けていた、とでも言いたげだ。しかし実際にそうであった。あのヨロイのゲッターに勝つにはまだ決定的に足りないものがある。それこそゲッターにも自分にも。

 

 リョウマはアームレイカーを握り締め口中に呟く。

 

「まだ、おれは弱いってのか……」

 

 三機のゲットマシンが研究所へと帰還する。それをただ喜ぶだけの研究所の人々ではなかった。ネフィリム迎撃成功。それだけならばまだよかった。新たな脅威として出現したヨロイのゲッターの恐ろしさに誰もが言葉少なであった。

 

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