偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第五話「咎人の声 2」

 

 プロトゲッターと名付けられた巨体はしかし、結晶化が進んでおりとてもではないが乗れそうにない。

 

「これが何の関係がある? まさかヨロイの基がこれだとは言わないだろうな」

 

「そのような簡単な話ならば、ワシとて苦労せんわ」

 

 サオトメは鼻を鳴らし、プロトゲッターへと歩み寄る。目を凝らせばプロトゲッターにはところどころ穴が開いており、その部位から機械油が噴出しているのが分かった。この空間を満たす錆び臭さと機械油の水はこれが原因なのだ。

 

「博士……、聞かせてもらおうか。このプロトゲッター。何のためにここに繋がれている? 地獄の戒め、だとかそのような形容はなしで願いたい」

 

 ハヤトの言葉にサオトメは語り始める。

 

「最初にこのゲッターを初期規格として提案したのは今は亡きとある研究者だった。ゲッター線を通し、このプロトゲッターは名実共に真のゲッターになるはずであった。だが研究は途中で失敗、ゲッターは無尽蔵にゲッター線を取り込みながら沈降した。その結果、ここまで堕ちてきたのだ」

 

 その話に驚愕する。ここまでのシースルーエレベーターのメインシャフトはこのゲッターが開けてきたというのか。

 

「何て、無茶苦茶な……」

 

「だがゲッターに乗るお前らはさほど無茶苦茶な話だとも思うまい」 

 

 その通りであった。ゲッターに乗っていればさもありなんだ。

 

「だが、このゲッターが沈降したとして、何故? 理由は?」

 

「過剰ゲッター線による暴走、だとされているが詳しい事は今でも分からん。だからこそ、こいつを地獄の門番さながらに繋いでいるのだよ。これより下はまさしくゲッター線のるつぼだ」

 

 サオトメが足を慣らす。この下がまだあるというのか。

 

「何故、追跡調査をしない?」

 

「誰も、このゲッター線の過密な場所に近づこうとは思わん。それに妙な噂話が先行してな」

 

「噂話?」

 

 サオトメはハヤトへと振り返った。

 

「出るのだという。その研究者の亡霊が」

 

 背筋を震わせたのは何もその話が恐怖を誘発したからではない。あり得る、とどこかで感じている自分自身に恐怖したのだ。

 

「……仮に出るとしても、このゲッターは今どういう状態なんだ? これが出撃してヨロイのゲッターになっているわけではないのだろう?」

 

「無論だ。こいつの制御システムは全てミチルが管理している。それに動かそうと思っても外側からの間接的なものでは不可能。やろうするのならば、コックピットに収まって稼動させるしかないのだが、誰も入りたがらない」

 

 当たり前だ。このような因縁の機体を誰がこぞって動かしたがるだろう。

 

「つまり、完全な沈黙状態か?」

 

「動かせん事はないが、誰も動かしたがらないというだけだ。それにこれが出撃すればワシらとて気付く」

 

「ヨロイのゲッターとの関連性は……」

 

「今のところ皆無、だな」

 

 ならば何故、この地獄の釜の底まで自分を案内したのか。その奇妙さが先に立つ。

 

「では、どうして自分が呼ばれたのか。そう考えるのは妥当だろう。ハヤト、この地獄を知っておけ」

 

 思わぬ言葉にハヤトはうろたえた。

 

「どういう意味だ?」

 

「言葉通りだよ。地獄の門番を買って出ているこのゲッターの存在をお前は感知しておけ。それだけだ」

 

 それだけのはずがあるまい。ハヤトは追及した。

 

「答えになっていないぞ! 博士。このゲッターには秘密があるな?」

 

 無論、サオトメならばそれくらいは秘匿していてもおかしくはない。だが返ってきたのは、「分からない」という意想外の言葉だった。

 

「分からない、って」

 

「分からんのだ。ワシも、ひょっとするとこのゲッターがまさしく亡霊のようにワシらの前に出てきて今のゲッターを阻んでいるのかもしれない、というオカルトめいたものに衝き動かされていた。ワシとて恐怖がある。だからお前を呼んでここまで来させたのかもしれん。それ以上に恐怖なのは、ワシはまだこのゲッターが恨みを伴っているのではないか、と感じているのだ」

 

「恨み、だと……」

 

「ヨロイのゲッターには実体がなく、もしかしたらこのプロトゲッターの恨みそのものなのではないかと」

 

 サオトメの言葉をハヤトは一蹴する。

 

「馬鹿馬鹿しい。それでも研究者か、あんたは。あのゲッターには実体があった。そうでなければオレも、リョウマも敗れん」

 

「その通りだ。亡霊程度ならば、お前らは屈しないだろう。あのヨロイのゲッターには実体がある。それを確かめたくってワシはここまで来たのかもしれん」

 

 案外、間違っていないのかもしれないとハヤトは感じ始めていた。このプロトゲッターの存在を知っていれば、誰もが確かめたくなる。この地獄の門番は今も動いていないのか。だが一人で見に行くには業が深かった。

 

「……案外、地獄への片道切符というのは容易いな」

 

 そのような言葉さえも強がりであった。現にプロトゲッターはあるのだ。この地獄が継続している事はプロトゲッターの存在が何よりも証明していた。

 

「そう、だな。地獄は容易いものだと、いつでも思えればいいのだが」

 

 濁した語尾にはサオトメ自身、このプロトゲッターを恐れる部分があるのかもしれない。今は亡き研究者の妄執。それの取り憑いたゲッターには異様な迫力があった。

 

「あのゲッターでさえも命を取り込んできた。だというのに、このゲッターは沈降したこのゲッター線で満たされた空間で、一人、ずっといたのか……」

 

 まさしく執念の塊。ゲッター線という未知のエネルギーに夢を見出した者達の行き着く先の地獄であった。

 

「ハヤトよ。これの存在だけは知られてはならない。殊にレプリカントには」

 

 言いつけたサオトメの声音にはどこか切迫したものがあった。まさか、とハヤトは口にする。

 

「次に、これが狙われるとでも?」

 

「分からんが、ゲッターという存在に対して、そろそろネフィリムでの力の一辺倒では敵わないと感じ始める頃合だ。レプリカント、あれの厄介なのはお前ならば知っているな?」

 

 問われてハヤトは偽人類の特徴を口にする。

 

「外見的な見分けはつかない……」

 

「知らない人間ならば研究所には通さないシステムにはなっているが」

 

 サオトメは再びプロトゲッターを見据える。研究所は堅牢でつけ入る隙はないはずだ。そう信じたかったが、サオトメの声音にはそれだけで済むものか、という懸念もあった。

 

 果たしてゲッター奪取作戦程度で偽人類との攻防が収束するのか。その不安がハヤトにも伝播して思わずプロトゲッターの顔面を窺っていた。

 

 黒ずんだゲッターは何の感情も浮かべず沈黙していた。

 

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