偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第五話「咎人の声 3」

 

 イーグル号が先行する。

 

 赤い翼を展開させて風を切る赤い機影が空を引き裂いた。

 

 最初は計器も見えず合体のタイミングも関知出来なかったが今ならば目を瞑っていても分かる。リョウマは正確無比にチェンジを遂行する。イーグル号が制動をかけてジャガー号との接合を果たし、最後にベアー号が合体して脚部を展開、腕をマイクロマシンの装甲が補助、引き伸ばされた身体に畳まれた両翼からウイングが引き移されゲッター1への変形合体を果たした。リョウマはミチルへと問いかける。

 

「ミチル。今のは?」

 

『合体完了まで三十秒とちょっと』

 

 リョウマは舌打ちをした。

 

「まだ遅いな」

 

『充分早くなりましたよ。最初のほうは一分を越えていた』

 

「でも、ヨロイの奴を倒すには、この程度じゃ足りねぇ」

 

 リョウマはそのままゲッター1での最高速度を試そうとする。ゲッター1がウイングを展開して飛行形態になりシミュレートされた樹海を抜けていく。ブロックノイズが浮くほどの速度だったがそれでもヨロイのゲッターのやってのけた瞬間移動のような真似は出来ない。

 

 リョウマは歯噛みする。腹の底に圧し掛かる重力だけのせいではない。これは苦渋だ。一度ならず二度も敗北した。それはリョウマに思っていたよりも重く圧し掛かっていた。タツヒトの託したゲッターロボ。その真価をまるで発揮出来ていない。リョウマは急制動をかける。すると各部に支障が発生した。

 

『リョウマさん! さすがにこの速度では、本物のゲッターでは空中分解しますよ!』

 

 メカニックの声にリョウマは、「本物なら、な」と言い含める。

 

 リョウマの用いているの仮想シミュレータであり、イーグル号の合体シミュレートに使ったものをそのまま転用しているのである。

 

「だが実際のゲッターじゃ、この機動も儘ならんわけだ」

 

 幾何学機動をかける。至るところから火が噴き出した、という警告の旨が発せられる。

 

『リョウマさん。何を焦っているのです?』

 

 ミチルの声にリョウマは、「焦りもする」と応ずる。シミュレーションの空はどこまでも青く、雲海が広がっていた。上空でゲッターを泳がせる。しかしリョウマの目には今にも落ちてくるであろうトマホークの幻影が見えていた。ヨロイのゲッターの威容も網膜の裏にちらついて離れない。

 

「一体、あいつは何なんだ……」

 

 一瞬だけ通信が繋がった時に感じた悪寒。その正体が知りたかったのもある。ミチルへと解析を頼んでおいたがその時の通信はレコーダーに記録されていなかった。

 

「ジジィが意図的に消した可能性は?」

 

『ゼロではありませんが、博士とてヨロイのゲッターの正体は知りたいはず。ログもないのは不自然です』

 

 ミチルの言う通り、ログもなしに通話記録全てを消すのは納得いかない。リョウマはゲッターの手を宙に漂わせる。即座に反転させて上段に蹴りを放った。さらに返す刀でゲッターEトマホークを発振させ振るい上げる。薙ぎ払い、打ち下ろす。それでも気は紛れなかった。

 

 何が、自分とヨロイのゲッターでは違う? 

 

 その隔絶を埋める術をリョウマは知らなかった。戦えば分かるのか、と感じていたがまだデータ不足でヨロイのゲッターのシミュレーションを展開出来ない。代わりに呼び出したのはネフィリムの戦闘データだった。オベリスク型が出現し、両腕と両脚の付け根にある円形の部位を弾き出す。

 

 幾何学に動き出した自動砲台がゲッターを狙い澄ます。リョウマは紙一重で回避させて一個、また一個と自動砲台を撃破していく。神業だと研究員やメカニックは持て囃したがまだまだだ。まだ自分の理想通りにゲッターは動いてくれない。

 

 手足のように、とはいかないのだ。自動砲台を潰すと今度はネフィリムが両腕を突き出す。大出力の砲門をゲッター1のまま回避行動に移った。当然の事ながら避け切れない飛散粒子がゲッターの装甲を叩きつける。

 

『装甲が持ちませんよ!』

 

 ミチルの警告をリョウマは雄叫びで掻き消した。Eトマホークを突き出しネフィリムの頭部にあるコアを叩き割る。ネフィリムが放散爆発しシミュレーションの終了を示した。

 

「何で終わった?」

 

「持たないからですよ。ゲッター1が」

 

 メカニックの声にリョウマは腕を組んでふんぞり返る。

 

「そんなもんかね。やわだな、ゲッターは」

 

「精密機械の塊ですから。一応は。これでも大分安定はしたんですがね」

 

 シミュレーション結果が長細い紙の束となって出てくる。そこに暗号化されたゲッターの精密データがあるらしいがリョウマにはちんぷんかんぷんだった。

 

「それを読んでも分からねぇよ」

 

「そりゃメカニック以外には明かせない情報ですから。これが漏れるだけでも国家機密ですよ」

 

 そんなもんかね、とリョウマはコックピットに体重を預けた。

 

「じゃあどうやって処理してんだ?」

 

「そりゃシュレッダーにかけて、紙の一片すら残さないようにしています」

 

 万全の態勢だったがリョウマには不服であった。

 

「勿体なくねぇか?」

 

「いいえ、データでは残りますし。この紙媒体は言うなれば二次記録でして。データに書き込まれた事項を人の目で一度見なければなりませんから」

 

 人の目を通してこその信頼か。リョウマはこのゲッターという未知の箱ですら、一応はこの国独自の目線が盛り込まれている事に感服する。

 

「律儀な事だな、おい」

 

「我々の仕事も決して無駄じゃないのは、リョウマさんが毎回スコアを更新してくださいますから」

 

 笑顔になったメカニックにリョウマは、「スコアか……」と呟く。確かにシミュレーション上のネフィリムならば手早く倒せるようになった。オベリスク型が来てもイシュタル型が来ても負ける気がしない。しかし、それはいつでも勝てるという自負ではないのだ。

 

「シミュレーション上の話さ。おれが強くなったわけじゃねぇ」

 

「リョウマさんは充分ですよ。それに引きかえ、ハヤト……いいえ、ハヤトさんは」

 

 どうやらメカニックや研究者の間ではまだハヤトを煙たく思っているらしく注意深く動向を見つめているようだった。リョウマは手を払う。

 

「やめにしねぇか? おればっかり見てもらっても悪いぜ」

 

「でも……元々は敵だったんですよ?」

 

 言われてしまえばその通りだ。信頼を一から築くのは不可能かもしれない。それでもリョウマはハヤトを悪くは言えないのだ。

 

「……月面でも交渉の矢面に立ったのはハヤトだ。おれじゃ、まだ帰ってこれていないかもしれねぇしムサシみたいな逸材も手に入らなかったかもしれねぇ」

 

「ムサシさん、ですか。あの人もまた……」

 

 濁したのはムサシの個人データを閲覧しての事だろう。ムサシはゲッター3での戦果はめざましいのだがそれは実戦での話。シミュレーションではからっきしなのである。しかもそれがチェンジしてからではなく、まさかのチェンジすらも出来ないという様ならばメカニックのため息も分かる。

 

「ムサシ本人だろうよ、一番にショックなのは」

 

 ムサシとて自分に適性があればと思っているに違いないのだ。機械に疎いのはルナリアンの血の証。だがルナリアンは最早ムサシ一人になってしまった。絶対の孤独、というのには相手はいささか愚鈍が過ぎるが。

 

「ゲッター3、おれでも試せるのか?」

 

 だからか、そのような事を聞いてしまった。メカニックは憚るように小声になる。

 

「出来ますけれど……」

 

「んだよ、何か言いたげだな」

 

「実はハヤト、さんも似たような事を仰っていたみたいで」

 

「ハヤトが?」

 

 それには瞠目せざるを得ない。ハヤトが他のゲッターでのオペレーションを考えるような輩には見えないのもある。

 

「ムサシが、心配とかでか?」

 

 ハヤトは未だにムサシの事を月面人と揶揄している。それでは確かに三位一体のオペレーションを懸念するのも理解出来た。だが放たれたのは意想外の言葉だった。

 

「いいえ、ハヤトさんが主導権を握りたいと仰っていたのは、ゲッター1のオペレーションです」

 

「ゲッター1だと」

 

 思わず声を荒らげる。メカニックが、「大声出さないでくださいよ」とよろめいた。

 

「我々だって何の事だかさっぱりなんですから。第一、ゲッター1はリョウマさんのでしょう、と言ったら、それは分かっているがと食い下がるんですもん。どうにも無下に出来ないと思って博士のほうを紹介したんです」

 

「ジジィとハヤトの野郎が、手を組んでいるってのか……」

 

「言い方は悪いですが、そう取られてもおかしくはないですね」

 

 リョウマは顔を拭う。額に汗の玉が浮いていた。

 

「……悪い。一旦シミュレーションを終える。後の処理は」

 

「任せておいてください」とメカニックが胸元を叩いた。リョウマは安心してイーグル号から降りる。しかし胸中は穏やかではない。ハヤトがゲッター3ではなくゲッター1の主導権を握ろうとしている。その事がリョウマに沈痛な気持ちを芽生えさせた。

 

 ハヤトは自分を信用していない。

 

 否、元よりハヤトは敵なのだ。敵であった相手がここまで歩み寄れた事でさえも奇跡に近い。だというのに、これ以上を望むのは高望みになるのだろうか。リョウマは腕時計型の端末へと声を吹き込んだ。

 

「お前は、知っていたのか……」

 

 ミチルはばつが悪そうな沈黙を挟んでから、『悪気はないんです』と答えた。自分以外は知っていたというのが余計に堪える。

 

「悪気はない、か。でもよ、おれからゲッター1取ったらどうなるって言うんだよ。サオトメのジジィもおれが本能だって言い放っているんだろ? だったら、おれには理屈じみた難しさのあるゲッター2は向かないのは分かるし、ゲッター3だって適性はいまいちだ。どうするんだ? おれをゲッターチームから外すか?」

 

『そんな馬鹿な事!』

 

 ミチルが声を大にする。リョウマは、「しーっ」と唇の前に指を持ってきた。

 

「当の本人達に聞かれるわけにはいかないだろうが」

 

 ミチルは少しばかり自重してから、『ですが』と声にする。

 

『リョウマさんがいなければ、ジン・ハヤトも、ムサシさんもゲッターチームには加わらなかったでしょう。全ての始まりは、あなたなんです』

 

「そのそもそもはサオトメのジジィの思惑だ。どこまでおれ達を弄んでいるのかは分からないがな」

 

 サオトメはどういった基準でこの三人に決めたのか。そもそもムサシにおいては自分が身勝手に連れ出した部分もある。

 

「三人揃わなきゃ、ゲッターのパワーは全く出ないのは実感しているぜ。でもよ、だからと言ってその辺の三人を頭数揃えればいいってもんでもないんだろ?」

 

『そもそもゲッターはベクトルの違う三機への変形合体を可能にした機体。それぞれに乗るパイロットの気質が違うくらいは既に想定済みでしょう』

 

「でも、ジジィがどこまで操っているのかは」

 

『そこまでは私でも……』

 

 濁したミチルにリョウマは、「悪いな」と言いやった。

 

「面倒事や愚痴ばっかり聞かせて」

 

『いえ。パイロットのメンタルケアも私の仕事のうちですから』

 

「ついでにもう一つ、面倒を買って出てくれるか?」

 

 ミチルは疑問符を浮かべるように一瞬だけ沈黙してから、『どうぞ』と声にする。

 

「ムサシ、あいつ、今どこにいるんだ?」

 

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