偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第五話「咎人の声 4」

 月光が降り注ぐ天窓が静かな時を刻んでいる。サオトメ研究所には珍しくこのようなデッドスペースとでも呼ぶべき余計な建築物があるのを初めて知った。ミチルが解説する。

 

『元々、ゲッターで精神を病んだ人間が多かったので、このような教会じみた場所を作りました。言うなれば病棟です』

 

「専門医とかはいたのか?」

 

『いいえ。全て、私が診断しましたが。全員に見られたのは強迫観念と何よりも恐怖です。強い恐怖心が彼らの心を占めて、雁字搦めにしていました』

 

「それほどまでにゲッターは魔物か」

 

 その魔窟から少しでも離れようと試みた結果がこの教会。その奥まった本殿に身を縮こまらせているのは二メートルを越す巨躯だった。

 

 ムサシが拝礼をしている。リョウマは自然と声をかけるのが憚られた。ムサシの拝んでいるのは十字架である。僧兵は見たが、月面の人々はキリスト教徒なのだろうか。ようやく拝礼の手順が終わったと見るや、リョウマは声をかけた。

 

「ムサシ。お前、この教会貸し切っているんだって?」

 

 既に気配で悟っていたのだろう。ムサシはさして驚くでもなく、「よく来たな」と声にした。

 

「ミチルがな、てめぇがここにいるって教えてくれたのさ」

 

 腕時計型の端末を指差すとムサシは感嘆した。

 

「そんな小さなものに機械が入っているのか?」

 

「おいおい、今さらだぜ。ゲッターで重力圏を抜けた事を忘れたのかよ」

 

「そりゃあ、そうなんだが、未だに信じられなくってな。月面の叡智から離れて我が身があるというのが」

 

 やはりムサシは気にしているのだろうか。リョウマはそれとなく尋ねる。

 

「負い目、とか感じているんじゃねぇだろうな」

 

「何に負い目を感じる必要が?」

 

 ムサシは思っていたよりも愚鈍なのかわざわざ聞いてきた。リョウマは椅子の一つに腰かけて、「同朋だよ」と口にする。

 

「てめぇの言う、ルナリアン連中。……月面では悪い事をした。守れなかったな」

 

 ムサシはしかし、沈痛なリョウマに比べれば幾分か晴れ晴れとした顔立ちだった。

 

「ああ。だがそれを悔やんでも仕方あるまい」

 

「んだよ、意外にタフだな」

 

「女々しく泣いていたところで、死者は蘇らんし、俺はどうせ百年近く幽閉されてきた。誰が統治していて、誰があの月面で暮らしていたかなど、まるで分からんのだ」

 

 なるほど、とリョウマは納得する。実際に月面の地を踏んでみた自分とは違い、ムサシは百年の孤独があったのだ。

 

「……だが、それでも割り切れんものがあるのだな。俺は、こうして月光の照らし出す教会に居座っている辺り、存外に繊細なのかもしれん」

 

「繊細な奴はゲッターなんて乗れないぜ」

 

 からかってやるとムサシは口元に笑みを浮かべた。

 

「分かっている。しかし、時折思うのだ。もし、俺がもっと強ければ、あの時、月面の被害を最小限に食い止められたのかもしれんと」

 

「そりゃ、おれ達の責任でもある。事を荒らげたのはおれとハヤトだ」

 

「それでも、さ。やっぱり拭えんものがあるのだな」

 

 ムサシは巨体だから愚鈍に映るが実際には誰よりも孤独に耐え、誰よりもこの境遇が不幸なのかもしれない。ルナリアンは最早ムサシ一人。自分達は言ったところで人類規模だ。偽人類の脅威に脅かされているとはいえ同朋の一切いない土地にいるわけではない。

 

「月は、綺麗に出ているな」

 

 あの場所で虐殺が起きたなど信じられないほどに、月は静かに佇んでいる。ムサシは、「故郷の光だ」とまたしても拝み始めた。リョウマは茶化してやる。

 

「てめぇ、結局何教なんだよ」

 

「何を信奉するでもない。俺は、自分の故郷がよく見えるこの場所が好きなんだ。もし、少しでも機械と天上の見えない部屋に移り住んでしまえば、すぐにでも忘れてしまいそうで、怖いのもある」

 

 顔を伏せたムサシに言いやれる言葉は少ない。あの時、ヨロイのゲッターは何を目的にして月面を蹂躙したのか。自分の過去にも直結する因縁にリョウマは拳を握り締めた。

 

「何者か分からない敵を制さねばならないのはこの地でも同じのようだな。偽人類とか言う」

 

 サオトメから聞いたのだろう。リョウマは、「どう思う?」と素直に感想を仰いだ。

 

「いいや、俺はまぁ、信じられなくもないが……。そもそも経緯とか、どういった存在が偽人類なんだ? 俺にはそれがよく分からん」

 

「どういったって……」

 

 そこではたと気づく。偽人類、すなわちレプリカントを外見だけで判断する手段はないのだと。今までは所詮この国での防衛成績が意味を成していたので実際のレプリカントに行き遭って戦った、という人間は驚くほど少ないのだ。リョウマは腰を据えて考え込む。

 

「……難しいな。ミチル、補足出来るか?」

 

 こういった時にミチルの頭脳は役に立つ。

 

『私もデータ上でしか語れませんが』

 

「構わない。俺は全く知らないも同然なのだ」

 

 ムサシの声にミチルは咳払いを一つした。人間のするような所作にAIなのに、と思わず感じてしまう。

 

『そもそも偽人類が発見されたのが三百年前。その時、ある一人の研究者がこの惑星にはもう一種類、人類と異なる進化系統を辿っていながら人類とほとんど似通っている生命体がいると発言しました。レプリカント、という名前は往年のSF映画における人造人間の意ですがこの時偽物の人類を形容するのにこれ以上の適切な言葉はなかったのです。偽物、と前置きましたが、実際のところレプリカントが通常の活動をする際、明確にそうだとわかるのは攻撃時のみです。平常時では、誰がレプリカントなのかなど分かりません。これはリョウマさん、ジン・ハヤトの侵入時にレプリカントだと思い込んでいた事で分かりますよね?』

 

 ああ、とリョウマは納得する。あの時、レプリカントの襲撃だと判じていたのは自分だけだ。誰にもそれを判断する術はなかったのである。

 

「となると、厄介な事にレプリカントってのが隣人の可能性もあるってわけなんだが」

 

 リョウマの懸念にミチルは応じた。

 

『ええ。その疑心暗鬼から、一時期は魔女狩りめいた事さえも公然と行われましたがある一つの出来事が決定的に変えました』

 

「ある一つの……」

 

「出来事、ってのは?」

 

 促す二人にミチルは言い放つ。

 

「ネフィリムの出現です」

 

 リョウマは自分の持てる知識を総動員してネフィリムの初出現が何年前だったかを思い出そうとする。

 

「二十年前か?」

 

『プラネットシェルが持ち上がった当初ですから、ちょうどそのくらいですね。最初のネフィリムはベータ部隊が相手にしていた霧型と呼ばれる実体を持たないものと実態型と呼ばれる実体を持つものの二つがありました』

 

 その説明にムサシは胡乱そうな目を向ける。

 

「それが、俺達の相手取っているオベリスク型や他のと何が違うんだ?」

 

『ちょっと待ってください。霧型は……』

 

 腕時計型の端末から投射されたのは霧型ネフィリムの形状であった。二つの赤い目を有しておりその眉間の部分にコアがある。霧型の名前の通り、体表にはほとんど実体装甲は存在せず雷雲の形状だった。

 

『これが霧型ネフィリム。リョウマさんはよく相手取ったはずですよね?』

 

「ああ。こいつが八割だ」

 

『通常火器が通じる上にこれそのものの攻撃力は実は驚くほど低いんです。それこそ正規採用されている各国の砲台や戦艦で事足りるほどに』

 

「実際、おれもベータで慣らし運転みたいなもんだったな。新しいベータが来りゃ、実戦でまず試す、ってのが通例だ」

 

「そうなのか?」

 

 馬鹿正直に聞き返したムサシへとミチルは言い含める。

 

『リョウマさんは例外ですよ。普通、霧型とはいえ、ネフィリムとの戦闘に慣らし運転なんてないんですから』

 

 それこそタツマに口が酸っぱくなるほど言われていた事だ。リョウマはけっと毒づく。

 

「大丈夫だっての。これの防衛成績はどの国でも八割越えだろ?」

 

『それは正しい情報ですね。確かに霧型の迎撃は驚くほど容易かった。でもこれが現れた事で、レプリカントの脅威は実態を帯びてきたわけです』

 

 その声音で分かった。ネフィリムという共通の敵が現れなければ、もしかしたら人類は人類同士で殺し合っていたかもしれないと言う事を。

 

「……月は長い事争いとは無関係ではあったが、それでも重力圏から来る脅威に備えて軍事増強を行っていたな」

 

 ムサシの言葉に、『月面でそうなのですから地上ではもっとです』とミチルが答える。

 

『月面は長らく平和で、だからこそ中立地帯を守れていたのだと思います』

 

「中立ね。その割には僧兵共が戦いなれていた感はあったが」

 

「六分の一G殺法は常に研鑽の日々を送っている。だからこそ、月面での訓練は常であったと考えられる」

 

 つまり最初から重力圏より来る敵を想定しての動きであった、というわけか。リョウマは気に食わなかった。六分の一G殺法も充分に脅威ではある。

 

「あの僧兵共、絶対に不意打ち以外じゃ死ななかっただろうな」

 

「実際、どういう歓迎が取られたのかは俺には分からんが、ゲッターと渡り合えるくらいではあったはずだ」

 

 ゲッタービームでようやく吹き飛んだ、と言えばムサシは驚くだろうか。だが今はそのような冗談すらも少しばかり気が引ける。

 

「実際、どうなんだよ? てめぇ、ゲッター3に乗った感想は」

 

 そういえばごたごたで聞きそびれていた。ムサシは、「馴染む、な」と手を開いたり閉じたりする。

 

「馴染む? 機械音痴のルナリアンが?」

 

「そりゃ機械には疎いし文明にも分からん部分が多いが、それでも俺のやり方を、なんていうか吸収してくれる感じではある」

 

 ゲッターがそれだけ柔軟だという証だろうか。リョウマなミチルに尋ねる。

 

「そもそもゲッター3は何を想定して作られたんだ? 空戦のゲッター1だろ? 地上戦のゲッター2だろ?」

 

 指折り数えてみるもゲッター3が特別必要な状況が思い浮かばない。ミチルは、『残りがあるじゃないですか』と口にする。リョウマは、まさか、と言っていた。

 

「海洋戦闘用、じゃないだろうな?」

 

『そのまさかですよ』

 

 リョウマは呆れて物が言えなくなった。その様子をムサシが怪訝そうに眺める。

 

「何でだ? 海ならばあるだろう」

 

「馬鹿野郎。あんなもん、すぐにプラネットシェルで埋め立てられるさ。なくなりそうな海での戦闘を心配して造ったのかよ。そりゃ無駄遣いって奴だぜ」

 

 リョウマの苦言にミチルも、『詳細は省きますが』と言い返せないようだった。

 

『実際、高重力下での戦闘も出来るとの事ですし、何も海洋戦特化、と言わなくてもいいと思いますが』

 

「海での戦闘なんて滅多にない、どころかないだろ、この時代。何で三形態必要なのか、と思えばそんなもんかよ」

 

『いや、きっちり三形態でのメリットはあるんです』

 

 ミチルの声にリョウマは疑わしげな声を漏らす。

 

「本当かよ?」

 

『本当ですよ。研究中に起こった事なんですが、ゲッター線はそもそもゲッターロボ全域に行き渡ることはまずありませんでした』

 

「それは、どうして?」

 

『分かりません。原因不明ですが何度も回路がショートを起こし、ゲッター線が回り切る前に焼き切れていたのです。そんな折、一度だけゲッター線の放出量を少なくして三分の一までカットした時がありました。すると全身にゲッター線が行き渡り、ようやくゲッターロボは完成を見たわけです』

 

 おお、とムサシは感嘆するもリョウマにはさっぱりだった。

 

「つまり?」

 

 肩透かしを食らったようにミチルがうろたえる。

 

『つ、つまり、ゲットマシンを三分割、三機存在させるのはそういう理由もあるわけです。一形態だけではゲッター線は回り切りません。三形態揃って初めて、ゲッターとして存在出来るのです』

 

「なるほどなぁ。三つの姿それぞれに意味があるわけか」

 

 得心するムサシに比してリョウマは冷静だった。

 

「でもよ、今はそうでもないんだろ? だって最初、イーグル号しか出来上がっていなかったじゃねぇか」

 

 最初に研究所を訪れた時、イーグル号のみの上半身しかなかった。その事に言及するとミチルは、『これも難しいのですが』と前置きする。

 

『ゲッターロボは逆算の技術なんです。素体が組み上がっていて、それを分解する形でいかに効率性を持たせ、さらに言えばそれだけでゲッター線兵器となり得るか。それを今度は突き詰めねばなりませんでした。その結果として戦闘機型の三機の合体システムが考案され、実際に分解してみるとこれがまた……。実は部品のほとんどが使い物にならなかったのです』

 

「どうしてだよ?」

 

『ゲッター線の汚染によってです』

 

 汚染。そう聞くとリョウマは赤い鉱石を纏わりつかせたヨロイのゲッターを思い出す。あの機体は汚染されていないのだろうか。見た限りでは分離するように見えないがあれもゲッター線内蔵兵器だという。

 

「どういう事だ?」

 

 興味を示したムサシにミチルは教鞭を振るった。

 

『そもそもの素体が高濃度のゲッター線に何度も冒されていたせいで部品としては使い物にならなくなりました。その時にもう一度分解してやり直そうなんて事が簡単にまかり通るはずもなかった。実際、今のゲッターに辿り着くまでに数十機の廃棄されたゲッターがあります』

 

 廃棄されたゲッターはどこへ行ったのだろうか。聞こうとしたがそれそのものがおぞましい質問だ。汚染されたゲッターをどこへ棄てたのかなど。

 

「技術は失敗が付き物、か」

 

 納得したムサシにミチルは言いやる。

 

『しかし完成品のゲッターロボまで辿り着けたのは僥倖なのです。だからゲッター1にも、2にも3にも意味があるのです』

 

「元々が三分の一のゲッター線しか通さないのが現状の兵器だって事だろ? だったら現行兵器を超える、それこそ新兵器を使おうって気にはならなかったのか?」

 

『何を仰います? ゲッターを構築するイーグル号、ジャガー号、ベアー号、どれを取ってしてみても最新鋭の兵器ですよ?』

 

 確かに現状人類が耐えられるGではない。そういう点では最新鋭だと言うのはあながち嘘でもないのだろう。

 

「なるほどなぁ。ゲッター3にも意味があるってわけか」

 

「おいおい、納得すんのかよ」

 

 ムサシは呑気に聞き入っているがよくよく考えればおかしな話である。数十機は失敗したのにいきなり成功したような言い草だ。

 

「ミチル、今の話、決定的におかしいぜ。だってよ、分解してもう一回イーグル号とかから作り直したってんなら、どうやってゲッターの合体形態をシミュレーション出来た? 完成した見本があったんじゃねぇのか?」

 

 リョウマの声にミチルは明らかに狼狽した。

 

『な、何を言うのですか! ゲッターはたゆまぬ努力の賜物ですよ!』

 

 AIが声を荒らげるなど正気の沙汰ではない。リョウマは改めて口にする。

 

「でもよ、試作品もなしにいきなりおれ達の乗せられたゲッターが本物だってのは嘘くさいぜ?」

 

 ミチルは声を詰まらせた。図星らしい。リョウマは深く聞こうと考えたがムサシが制した。

 

「いいや、リョウマ。もういいだろう」

 

「何でだよ? 自分達の乗っているもんがどうやって造られたのかくらい聞いたってよかろうに」

 

「ミチルさんは言いたがっていないんだ。それでいい」

 

「ミチル、さん?」

 

 ムサシが真面目腐った顔で首肯する。リョウマは笑い声を上げた。思わず、と言った様子で吹き出してしまう。ムサシは頑強な顔立ちで、「何が可笑しい?」と聞いてくるものだから余計に可笑しい。

 

「だって、てめぇ……。AIつかまえてミチルさんはないだろ。さんは」

 

 笑い転げるリョウマを他所にムサシは、「女性にさんをつけるのは当然だ」と言い放つ。

 

「女性って。AIだぞ。月面にもいたろうが」

 

「あんなちゃちなもんじゃないってのは俺でも分かるわ。ミチルさんは、まるで本当の女性のようだ」

 

 頑として譲らないムサシにリョウマは茶化した。

 

「さんだってよ、ミチル」

 

 しかしミチルは応答しなかった。壊れたのか、と思って端末を振る。

 

「おい、どうした、ミチル。聞いていなかったのか?」

 

 ハッとミチルが我に帰ったように声を漏らした。リョウマは怪訝そうにする。

 

「まさか、AIが聞き入っていたのか?」

 

『いえ、そんな……。私は研究所のAIですし』

 

 しかし声は明らかに上ずっている。リョウマは、「おかしなAIだな、おい」と言いやった。

 

「照れてやんの」

 

 指差すとミチルは鼻を鳴らした。

 

『もう! 知りませんから!』

 

「ああ、分かった分かったってミチルさん」

 

 改めて声にしてやると笑いがこみ上げてくる。リョウマのからかいをミチルは、『知りません!』と強情になって跳ね返す。

 

「ミチルさんは尊いと思うがなぁ」

 

 ムサシの言葉も今は羞恥の対象のようだ。ミチルは、『ムサシさんも!』と怒鳴る。ムサシは目に見えてしょげた。

 

「何で俺も……」

 

「同罪だ、同罪。面白い事発見しやがって」

 

 こいつめ、と肘で小突き合う。ミチルは声を改めさせた。

 

『でも、まぁ、ムサシさんが使えるというのならば、いいのでしょう。ゲッター3』

 

 その話に戻ってリョウマは結局、試作型のゲッターに関しては煙に巻かれた気分だった。

 

「応! ゲッター3を男、トモエ・ムサシ! 全力で動かすのみ!」

 

「そういや、六分の一G殺法って誰でも使えんのか? 僧兵共は使っていたが」

 

 誰でも習得出来るのならば自分でも、とリョウマは感じていた。しかしムサシは頭を振る。

 

「いや、あれは月面での厳しい環境下で、自らを鍛える事を始めた先人達の残した大いなる遺産。地上人では無理だな」

 

「1Gに慣れちまっているからな。六分の一の武術が地上でも使えるって事は、地上だと六倍の威力ってわけか」

 

「単純計算だとな」

 

 そう考えるとゲッター3の膂力は凄まじい。伊達に三形態存在するわけではないのかもしれない。

 

「なるほど、技のゲッター1、スピードのゲッター2、力のゲッター3と考えるといいかもしれん」

 

「それならば海洋戦闘用だと馬鹿にもされなさそうだ」

 

 ムサシもこのなりで存外に根深いらしい。ゲッター3を海洋戦闘用だと馬鹿にしたのはしばらく尾を引きそうだ。

 

「で、話は戻るわけだが、リョウマ。結局、レプリカントを見分ける方法は」

 

「ない、というわけだな、ミチル」

 

 確認するとミチルは、『そうですね』と応ずる。

 

『あるとすれば攻撃時、だけです。今のところは。発見して捕獲してもう少し詳細データが得られれば』

 

「おれなんかを捕まえるために二体分のDNAを使う必要なかったんじゃねぇのか?」

 

『リョウマさんは暴れ馬ですから、あれくらいがちょうどいいでしょう』

 

 こっちも尾を引きそうだ。リョウマは肩を竦めた。

 

「実際、レプリカントってどんなのなんだ? 俺のイメージだとネフィリムに乗っているみたいなのなんだが……」

 

 リョウマもネフィリムを動かしているのがレプリカントだと思い込んでいた。しかしミチルは訂正する。

 

『いいえ、ネフィリムそのものには恐らくレプリカントは乗っていないと思われます』

 

 意想外の事実にリョウマでさえも聞き返す。

 

「んだと? じゃあ今までどうやって動かしてきたんだよ?」

 

『遠隔操縦、というのが有力な説ですね』

 

「遠隔……」

 

 あれだけの兵器を遠隔で動かしていたというのか。それそのものが信じ難い。だが宇宙空間までレプリカントが追ってくるという図を想像するよりかはまだマシであった。

 

「じゃあワームホールも?」

 

『座標軸を計算してレプリカントが送り込んできている、と考えるべきでしょう』

 

「だがどこから?」

 

 この惑星上にレプリカントが安息出来る場所など存在しないはずだ。プラネットシェルのシステムが覆い尽し、レプリカントは動きさえも憚っているはずである。だからこそ、隣人に化けられているかもしれない、という可能性があったのだ。

 

『ネフィリムほどの質量を送り込めるのはこの惑星ではないですね。どこか別の時代、別の空間から……。あるいは……』

 

 ミチルが言葉を濁す。リョウマは端末を叩いていた。

 

「おい、寝てんのか?」

 

『寝ていませんよ! ちょっと、妙な可能性を思い浮かべただけです』

 

 おかしな話だ。システムAIが思い浮かべる、など。

 

「だが別の時代から送られてくるのだとすれば打つ手はないぞ」

 

 根源を叩く、というのは難しそうだ。リョウマは、「ワームホールの先には?」と聞いていた。

 

『無論、先遣隊のようなものは派遣しましたが。当然のように返事はありませんでしたね』

 

 つまり目下のところレプリカントの所在地は不明。どこからネフィリムのような巨大な敵を送り込んでいるのかも分からない。

 

「何も分かっていないんだな、おれ達って」

 

 改めて考えてみれば分からない事だらけ。自分達がいかに暗中模索の上に戦っているのかが分かる。

 

『バックアップもなければ本当にレプリカントの存在なんて誰一人として知らなかったかもしれない世の中です。記録が残るからこそ、今はレプリカント及びネフィリムを追えますが……』

 

「追えるったって、ワームホールの中に腕突っ込むなんて度胸はないしするつもりもないぜ」

 

 ワームホールの先は本当の地獄に続いているのかもしれない。リョウマの予感にムサシが肩を震わせた。

 

「そりゃ、怖いな……」

 

 これだけの大男が怖いなどというのはなかなかに珍妙であったがムサシは百年余り牢獄の中での情報誌かないのだ。ほとんど子供と変わるまい。

 

「しかし、ゲッターというのはどこまで可能なんだか。どこから現れるのかも分からんレプリカントとネフィリム相手にこうまで立ち回れる。何かジジィなりに確信があってやっているんだろ? 教えてくれよ」

 

『博士に聞いてくださいよ。私からはあまり言えませんし』

 

「何でだよ」

 

『記録が残るからです』

 

 ミチルはあくまでシステムAI。記録、つまり会話ログは残っているのだ。いくらオフレコと言ったところでミチルに話した事はほとんどサオトメに筒抜けだと思っていたほうがいい。

 

「ジジィもいい趣味してやがるな」

 

『その言葉も、記録に残りますよ』

 

「残しとけ。せいぜい、残り容量が心配にならないようにな」

 

 リョウマが手を振っていなすとムサシは、「だが」と神妙な顔つきになった。

 

「先ほどまでの話が真実となるとレプリカント、よもやこの研究所に既に隠れ潜んでいるのかもしれんな」

 

「あり得ねぇって」

 

「言い切れんだろう」

 

 ムサシは既に気配の察知に神経を研ぎ澄ましているようだった。リョウマは肩を竦める。

 

「ならこの研究所で寝泊りしている間にでも寝首を掻くさ」

 

『リョウマさんの味方をするわけじゃありませんが、あまり気にしても仕方がない事です。ただでさえ、この惑星には人が溢れているのに疑心暗鬼になっても』

 

「研究所内だって馬鹿じゃないだろ。きっちりシステムぐらいは張り巡らされているさ」

 

「だと、いいがな……」

 

 ムサシはそう呟いたっきり、どこか緊張をはらませた面持ちを崩さなかった。

 

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