偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

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第五話「咎人の声 6」

「イーグル号、前に計測した時よりも速度も反応も抜群だ」

 

 眼鏡の研究員の声に返したのはその部下であった。

 

「イーグル号だけじゃありませんよ。この三機のゲットマシン。明らかに馴染んでいる。それぞれのパイロットの特性へと」

 

 それまでは荒れくれ馬だったこの三機が揃いも揃って三人のパイロットそのもののような特性を出しているのはどうしてなのだろう。眼鏡の研究員はレンズを磨いて、「不思議なもんだな」と呟く。

 

「リョウマさんが来てから、好転した事ばかりだ。もちろん、懸念事項もあるっちゃあるけれど」

 

「ヨロイですか? 考えるだけ無駄ですよ。全く追えないんですから」

 

 部下がコーヒーを差し出す。研究員はそれを手にして口に含んだ。

 

「計測装置、あるいはゲッター線感知をここまで広域に広げても全く気配すら追えないってのは、本当にゲッター線兵器なのか疑わしいな」

 

 とは言ってもミチルの感知範囲は大気圏外までとはいかない。それならば前回月面での横暴を許す事もなかった。ミチルはプラネットシェルによって明らかに範囲は伸ばしつつもやはり空までとは容易くないようだ。

 

「プラネットシェルは所詮、地表を覆うものですか」

 

「かもしれんな。どちらにせよデータ上は喜ばしいんだが。ゲッター1での機動はここまで伸びるなんて思わなかった」

 

 差し出したデータを読み取った部下が瞠目する。

 

「すごいですね……。想定の何倍ですか?」

 

「十倍は行っているよ。ただ博士の命令で、リョウマさんに直接伝えるなとの事だ」

 

「どうしてです?」

 

 研究員は額の汗を拭いながら答える。

 

「どうしてか、ってのは下々には伝えられていない。ただリョウマさんには言うな、の一点張りだ」

 

「無責任じゃないですか。戦っているのはリョウマさんですよ?」

 

 部下が唇を尖らせるも自分にはどうしようもない。研究員は廊下へと歩を進めた。部下がそのままついてくる。

 

「噂レベルだが」

 

 廊下に出たのはこの話をするためでもあった。部下が耳をそばだてる。

 

「ハヤト、さんが絡んでいるって話だ」

 

「ジン・ハヤト、ですか」

 

「馬鹿。この研究所ではもうハヤトさんなんだよ。迂闊に呼び捨てなんてしてみろ。殺されるぞ」

 

「ま、まっさかー。いくら元ゲリラだからって殺しはしないでしょう」

 

 部下の言葉に渋い顔を返す。

 

「ところが、そうでもないらしい。月面での戦闘ログを見たが、途中までハヤトさんの一人での操縦だ。つまりリョウマさんを見捨てるつもりだった事が窺える」

 

 部下は察したのか口元を押さえて聞き返す。

 

「……すると、リョウマさんは何で生きて帰ってこれたんでしょう?」

 

「イレギュラーが発生したのか。分からんが、ハヤトさんは一人で逃げ帰るつもりだったとも言える。そこにヨロイが現れた。当然、リョウマさんは徹底抗戦の構えだろうが、ハヤトさんの考えは違うさ」

 

「ハヤトさんは、ヨロイに因縁ありませんからね」

 

「リョウマさんが一方的に敵視している感もあるが、ヨロイのゲッターはどちらにせよ脅威だよ。お前、地下のプロトゲッター、聞いた事くらいはあるだろ?」

 

 秘中の秘の事柄にお互い声を潜める。

 

「噂の地獄の釜の番人ですか。聞いた事しかないですよ」

 

「プロトゲッターの亡霊だって、知っている奴らの中では有名だよ」

 

「先輩、見たんですか?」

 

「馬鹿! 見れるわけないだろ。プロトゲッターの存在だって眉唾なんだ。だって言うのにそれがどうしてヨロイに繋がるってのか」

 

「じゃあ幽霊の話とかと同じじゃないですか」

 

 おぞましい事だが研究所内では時折幽霊を見る人間がいた。だが別段珍しくない。ゲッター線に当てられた中毒者、と断じれば霊的存在への恐怖よりもゲッター線への恐怖が勝った。それに加え、ゲッター線が変異すればそういう現象も起こり得る事が証明されている。幽霊は最早研究所内ではありふれた噂の一つだった。

 

「ゲッターの亡霊な。死んだパイロットを見たなんてざらさ。一番性質が悪いのはタツヒトさんを見たって奴だよ」

 

 タツヒトはゲッターのために殉じた最後の犠牲だ。それを無下にするなどあってはならないのだが目撃例はあった。

 

「リョウマさんで止まったからよかったものの、おかしな事の連続ですからね。イーグル号の強制安全装置とか、諸々……」

 

「幽霊くらい信じてもバチは当たらなさそうだがな」

 

 ハンカチを取り出して額を拭っていると廊下の奥からぬっと現れてきた人影があった。その姿に部下が声を詰まらせたが研究員はすぐに誰だか判別した。

 

「ムサシさんに、ハヤトさんじゃないですか」

 

 ムサシとハヤトが並んで歩いているのは珍しい。研究員は話の種にしようと考えた。

 

「どうしたんです? ゲッターのシミュレーションでも?」

 

「ゲッター……」

 

 ムサシは何やら虚ろな瞳で自分達を眺めている。その視線を払いのけて研究員はハヤトへと声をかけた。

 

「ハヤトさんは、博士と一緒じゃなかったんで?」

 

「ゲッターは……」

 

 次の瞬間、ハヤトが手を払った。その一動作で後ろの部下から悲鳴が発せられた。部下は腹部を引き裂かれその場に膝をつく。臓腑が漏れ出しており多量に出血していた。

 

「何を――」

 

 理解の追いつかない頭へと追い討ちをかけるようにハヤトの手が伸縮した。刃の鋭さを帯びた手が部下の頭部を輪切りにする。その時になって研究員は目の前のハヤトとムサシが尋常ではない事を悟った。

 

 悲鳴を上げる前にムサシが両腕を振るい、腕を伸ばして網のように研究員を絡め取る。逃げようとした足が空を掻いた。

 

「お前の話にあった、プロトゲッターはどこだ?」

 

 ハヤトの声に研究員は最早死体と化した部下を見やる。当然、死者は何も答えない。

 

「お前に聞いている!」

 

 ハヤトの眼球が急に青白くなり研究員を映し出す鏡面になった。

 

「れ、レプリカント……」

 

「その名で呼ぶな!」

 

 ムサシの放った攻撃で研究員はしこたまその身体を床に打ちつける。それだけで意識が飛びそうだった。

 

「おい、乱暴にするな。こいつから聞き出す」

 

 ハヤトが歩み寄りその指先を舐めた。すると爪が割れて内部からネジ状の針が伸びた。

 

「いや、正確には違うな。こいつの脳に聞く」

 

 直後、ハヤトが針を自分に向けて打ち下ろした。

 

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