偽ゲッターロボ レプリカ   作:オンドゥル大使

43 / 66
第六話「異界奇譚 2」

 

 あまりにも静かであった。

 

 放散爆発に巻き込まれたにしては衝撃波もまるで感じない。あるいは死とはこれほどまでの安息を与えるのかもしれない。もう自分は死んでいるのだ、と考えるほうがマシであった。だがそれを阻害したのは通信網だ。

 

『……聞こえているか? リョウマ』

 

 その段になってリョウマは自分がまだゲッターの中にいる事を確認する。アームレイカーを引くと同期したゲッターの一部が動いた。

 

「おい、こりゃあどうなっている?」

 

 視界に入ってきたのは常闇である。まさか爆発に巻き込まれて一気に衛星軌道まで上がってしまったのか? リョウマの思案を他所に先に起きていたのだろうハヤトは、『計測済みだ』と答えた。

 

『どうやら惑星の衛星軌道らしい』

 

「……おい、マジかよ。冗談のつもりで考えていたんだが」

 

 ゲッターの内部はセーフモードに入っておりモニターの類も一種類しか点いていない。リョウマはセーフモードを解除しようとして、『やめておけ』とハヤトにいさめられた。

 

「何でだよ?」

 

『衛星軌道ならばまた帰らなければならない。燃料は温存しておくべきだ』

 

 つまり暗い程度は我慢しろ、という事だ。リョウマは肩を竦める。

 

「また大気圏か」

 

『二度目となるとさすがに参るな。だからと言って月面に助けを請うわけにもいくまい』

 

 月面は全滅したはずだ。リョウマは外周カメラの一つを月面に向ける。するとたちまち怪訝そうな顔になった。

 

「おい、人工衛星の数、少なくねぇか?」

 

 前回のレンダリングビームの照射用の人口衛星だけでも相当数あったが今は目視出来る範囲で二機あるかないか。リョウマの疑念にハヤトは、『もしかしたら』と仮説を唱える。

 

『ヨロイとの戦闘で何個か壊れてしまったのかもしれない』

 

 それならば納得出来る。リョウマは現在のゲッターの形態を確認する。

 

「ゲッター2か。よく持ったな」

 

『ぎりぎりで放散爆発そのものの衝撃波からは抜け出せたらしい。装甲にもダメージは少ないからな。だが、その衝撃で衛星軌道に投げ出されたのは』

 

「完全に想定外、って奴だな」

 

 後を引き継ぐと声が漏れ聞こえてきた。

 

『む……、生きているのか』

 

 ムサシの声にリョウマは、「やったな」と口にする。

 

「幸いにも三人とも生きている」

 

『ああ、ムサシ。聞こえているか?』

 

『お、おお。生きているのか?』

 

『全員な、悪運の強い奴らだ』

 

 二人の通信を聞きながらリョウマは機体制御のバランサーを整える。宇宙空間となれば自然と機体の制御方法が異なっているはずだ。そこで異常に気付く。

 

「うん? 何だこれ。位置情報がデタラメだな」

 

 島国から脱したにしては自分達の位置がおかしい。見えているはずのプラネットシェル外殻が見えないのだ。

 

『反対側まで流されたのかもしれない』

 

「こんな短時間で?」

 

『どうだかな。オレ達の感覚では短時間だがゲッターはそれなりに損耗を受けていて流された可能性はあり得る』

 

 損耗箇所の確認をハヤトは行っているらしい。リョウマは、「とりあえず」とゲッター2の外周カメラを整える。すると惑星が大写しになった。青い惑星が浮かび上がっている。

 

「帰るとするか」

 

『ゲッター1が好ましい。チェンジするぞ』

 

「おう」と応じて分離しゲッター1へとチェンジを果たす。リョウマは自ずと周囲に敵影がないか探していた。

 

「この宇宙空間、仕掛けようと思えば出来そうだが」

 

『余計な事を考えるな。一応は戦闘後なんだ』

 

 ハヤトの言葉にリョウマは肩の力を抜いた。今はとにかく帰還するべきだ。ゲッター1が大気圏突入用の装備を射出する。エアバックに摩擦熱の赤い光が纏いついた。

 

「いい気分じゃねぇな。股の下がひやっとする」

 

『そう何度も大気圏突入なんてして堪るか』

 

 ハヤトの声にムサシが続ける。

 

『……なぁ、おかしくないか?』

 

 その疑問にリョウマは、「何がだよ」と返していた。

 

『この位置関係じゃ、絶対に見えるはずなんだよ。俺は百年以上この惑星を見ているんだから』

 

「だから何がだって言ってんだ」

 

『プラネットシェルだ。どうして全く見えない?』

 

「位置関係がずれたんだろ。知るかよ。帰投コースは?」

 

『無事に機能してくれている。ほら、見えてきたぞ』

 

 島国が確認出来てリョウマはホッと安堵する。実のところ少しばかりムサシの懸念も分かっていたのだ。無事に帰れるのならばそれに越した事はない。

 

「いずれにせよ、もう帰れるってのは――」

 

 そこから先の言葉を遮ったのは接近警報だった。ゲッター1へと襲いかかったのは光線である。赤い光条にリョウマは咄嗟に回避していた。

 

『これは……!』

 

「まさか、ネフィリム? 待ち伏せか?」

 

 拡大されたメインカメラの映像に映り込んだのはしかし、今までのネフィリムの姿ではなかった。

 

「あれは、ステルス機?」

 

 全翼型の機体が編隊を組んでいる。リョウマは思わず、「ベータか?」と呟いていた。だがその期待は淡く拭い去られる。全翼型の機体の上面に備え付けられている半球の赤い球は見覚えがあった。

 

『ネフィリムか……』

 

 苦々しげに放たれたハヤトの声にリョウマはステルス機でも何でもなく相手がネフィリムである事を確認する。だが、と抗弁を発していた。

 

「あんなネフィリム、見た事ねぇぞ」

 

『新型の可能性がある。リョウマ! また来るぞ!』

 

 ハヤトの警句にリョウマはアームレイカーを引いていた。ビームが放たれゲッターを明らかに付け狙っている。ステルス機の形状を真似たネフィリムはそのまま上昇を続けた。どうやらこちらの高度に合わせようとしているらしい。

 

「野郎……。一難去って、って奴かよ」

 

 全翼機の一つが機体を裏返す。すると機体の下腹部に収まっているものが目に入った。リョウマは瞠目する。それは明らかに人型の機体であったからだ。

 

「何だ、あれ……」

 

 うろたえている間にも全翼機が変形し、人型の兵器が顕現する。翼を折り畳み高機動に適した形態へとなった機体が最後の仕上げとでも言うように頭部を割れさせた。その姿は、まるで――。

 

『ゲッター……?』

 

 ムサシの声にリョウマの唖然としていた。相手は形状と色合いこそネフィリムのそれであるが、人型のシルエットはゲッターそのものである。違うのはアイカメラ部分が一つ目である事くらいだ。

 

「一つ目の、ゲッターだと!」

 

 呻く間にも全翼機が上昇してゲッター1を取り囲む。たちまち変形しそれぞれゲッター形態になって攻撃態勢に移る。

 

「どうなってんだ!」

 

 ゲッター1を咄嗟に下降させた。すると先ほどまでゲッターのいた空間を射抜いたビームがあった。攻撃色そのものはネフィリムのそれであるが構え、そして攻撃方法はゲッター1のそれそのものであった。

 

「こいつら、前回の続きで真似して来てんのか?」

 

 レプリカントがプロトゲッターを奪取してきた前回の作戦から学んで今度はゲッターそのものを模倣しようというのか。リョウマの声音にハヤトが応じる。

 

『分からん。だが、相手は素人じゃないぞ』

 

 それを証拠にすかさず変形したステルス型ゲッターは追撃の速度でゲッター1の腹部へと突っ込んできた。リョウマは危うく機体を折り曲げられるかと思われるほどのGを腹腔に感じ取る。

 

「こいつ、道連れに自滅する気かよ!」

 

 リョウマはすかさずゲッター線を充填しピンク色の攻撃色に転じさせて放つ。

 

「ゲッター、ビーム!」

 

 ゲッタービームがステルス型ゲッターを分解し塵芥と化す。それを目にした他の機体が僅かにうろたえた様子であった。リョウマは即座に判断する。

 

「今だ! この機を逃さずサオトメ研究所に戻るぞ! ミチルのバックアップもなしにこれは辛い!」

 

 ハヤトとムサシの両名もそれには賛同らしい。

 

『サオトメ研究所、位置関係は真下だ!』

 

 ハヤトの声にリョウマは目線を据える。だがその瞬間、放たれたのは砲台による攻撃であった。突然の砲撃にゲッター1の右肩が直撃する。

 

「馬鹿な! サオトメ研究所が何で!」

 

『よく見ろ! リョウマ、あれは……』

 

 濁したムサシの声にリョウマは映像を拡大する。その瞬間、砲撃された理由が分かった。

 

「サオトメ研究所が、ない……」

 

 代わりに存在していたのはそれそのものがハリネズミのように武装を施された戦艦であった。陸地を這い進む戦艦の砲塔がゲッターを捉えている。甲板には先ほどのステルス型ゲッターと同じものが数機発進準備しているのが確認出来る。

 

「おい、どうなってるんだ? サオトメ研究所はどこに行った?」

 

 うろたえるリョウマに水を差すように背後から強襲してくる影があった。先ほどのステルス型の編隊の内何機かが追いすがってくる。リョウマは咄嗟に判断する。

 

「オープンゲット!」

 

 分離したゲットマシンの挙動にステルス型ゲッターは翻弄されているかのように一つ目を忙しく動かしている。イーグル号に収まったリョウマは考えを巡らせた。 

 

 どうしてサオトメ研究所がない? 位置関係は合っていると、ハヤトが言っていたはずだ。

 

「おい! 研究所がねぇだろうが!」

 

『そのはずはない。地軸、重力、加えて位置関係、全てを合致させた結果だぞ』

 

 ハヤトとて叫び出したい気分だったに違いない。全てが合致しているはずの場所に何もない。それどころか敵対する存在の拠点がある。

 

「……どうなってやがる」

 

『どちらにせよ、ゲットマシンで逃げ切れる速度じゃないぞ、こいつら』

 

 ムサシは必死に操縦している様子だ。一刻も早く振り切る必要に駆られていた。

 

「ゲッター2だ! ハヤト!」

 

『分かっている。チェンジ、ゲッター!』

 

 ジャガー号を先頭にしてベアー号、イーグル号が合体しゲッター2が顕現する。Eドリルを展開させゲッター2はステルス型ゲッターを振り切った。どうやら速度ではこちらが勝っているらしい。

 

「こいつら……ネフィリムなのか、ゲッターなのか……」

 

 その判別がつかない。姿形は前時代的なステルス機。だが擁しているのはゲッターを模した人型。ただしコアがありその意匠はネフィリムにも通じるものがある。

 

『分からんな。今、解析にかけたがアンノウンとある。所属不明機には違いないが』

 

 濁したハヤトからは焦燥が滲み出ていた。自分達がいるのはどこだ? ここは帰ってきたのではないのか?

 

『どうする? 戦うか?』

 

 ムサシは一刻も早く逃げ出したいようだ。無理もない。月面から降り立ってネフィリムとの戦闘、そしてヨロイとの戦闘で敵を見出したかと思えば今度はわけの分からない戦場に駆り出されている。

 

『戦う事はない。リョウマ。分離変形して成層圏へ出る。一度退却するぞ』

 

 ハヤトの言葉が信じられなかった。リョウマは聞き返す。

 

「退却? 何でおれ達が!」

 

『敵のほうが規模も戦力も上だ。そんな事くらい見れば分かるだろう』

 

 ハヤトとて分からない状況に振り回されているのだ。リョウマは歯噛みして頷いた。

 

「分ぁったよ。オープンゲット!」

 

 分離した三機が再びゲッター1となり一気に上昇していく。雲を割り、成層圏に向かうゲッター1を取り残されたようにステルス型のゲッター達が仰いでいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。