二日目はゲッターのコックピット内で二十四時間を計測し、定刻を見つけてハヤトは書き始めた。衛星軌道上からは変化は望めない。やはり一度地上に降りるべきなのだろうか。
『ハヤト。どうにかして地上の様子を観察出来ないもんか?』
「チャンネルを合わせて通信を拾っているが……」
一つの通信チャンネルが声を響かせる。どうやら何かしらの宣言を行っているようだった。
「翻訳するか?」
『やってみるっきゃないだろ』
リョウマの声に翻訳機が作動しその張りのあるバリトンを自分達の分かる言語へと変換する。
『我々は、何十年何百年と待った! 訪れるはずだ、福音の時が! 祝福されし使者が来る時、我らはゲッター線の導きによって――』
そこまで聞いてからリョウマが口を開く。
『今、こいつゲッター線って言ったか?』
『俺も聞いた。ゲッター線って……』
「判断は早計だ」
二人して思案してもこの二人の考えの行き着く先は見えている。それよりも推理するのは自分の役目であった。
「ゲッター線、福音……。こいつらにとってゲッターは有害ではない?」
浮かんだ推理に、だとすれば、とハヤトは次の考えに移る。
「この星に棲んでいるのはレプリカントではないのか?」
しかしだとすれば先刻襲ってきたネフィリムが説明のつかない事態になってしまう。ハヤトは、「今分かった事を列挙すると」と書き連ねた。
「相手はゲッターとネフィリムの間のような兵器を使っている。対象がレプリカントかどうかは不明。だが放散爆発の後に何らかの時空の齟齬が起きてこの場所へと放り込まれたのだと思われる。その推測からしてネフィリムの棲み家であるのは確定であるが、それにしては相手がゲッターを追っても来ないのはおかしい」
一つの事実がもう一つを否定する形になっている。ハヤトは顔を拭って、「いたちごっこだな」と呟く。
「オレ達が降りてむざむざ捕まるよりかはこうして衛星軌道に留まっているのが正解だと思うのだが、相手の出方も分からん。もしかすると相手はゲッターだと思っていないのかもしれない」
『思っていないって、そりゃあないだろ。攻撃されたんだし』
「未確認の飛行物体が拠点に向けて真っ直ぐ降りてきたとしよう。それを、お前はどう感じる?」
ハヤトの逆質問にリョウマは言葉を探していた。本能相手にいちいち質問して回るのも面倒なので答えを言ってやる。
「それはいわばアンノウンだ。迎撃するだろう? 明確な敵意がないにせよ、こちらの持つ戦力で対応するのが普通だ」
『じゃあてめぇは、あれが別にゲッターだからだとか、おれ達だから襲ってきたわけじゃないと?』
「一晩頭を冷やすとそういう考えも浮かんできた。連中はもしかするとゲッターを知らないのかもしれない」
『だが、疑問が残るぞ? 何で当の連中はゲッターみたいな兵器を使う? それもネフィリムと合わせたような』
ムサシの疑問には今の状態では答えようがない。相手は偶然ゲッターに似た兵器を使っているのかもしれないし、ネフィリムのような兵器がこの惑星でのスタンダードの可能性がある。
「こっちで言うところのベータが、先のステルス機なのかもしれん」
『じゃああれはベータだってのか?』
「迎撃用の機体というだけで、ベータそのものではない。ゲッターに似ている兵器も、然るべき進化の手順を踏めばどのような種族でも達する基準点だとすれば」
だとすれば、相手はレプリカントであるとは限らない。ハヤトは改めて惑星を視界に入れた。
『分からねぇな。だとすりゃ、何で追ってこない? アンノウンなんだろ? 攻撃するのが筋だぜ』
「専守防衛の精神ならば、わざわざ仕掛けてくる事はしない。むしろ、待っているのかもしれない」
『待っている? 何をだ』
ハヤトは統合した情報を集めつつ一つの憶測を口にした。
「それこそ福音を、だろう」